「いっきますよぉ~、全力全開っ!プリンセスストライクッ!!」
コッコロ達と魔物の戦いを遠くから眺めていると、あの腹ペコ少女が持つ剣が強く輝いた。そして大きく振るうと剣からは巨大な斬撃がいくつも放たれ、ゴーレムの体を容易く切断したのである。
「グゴ……オオ……」
ゴーレムはただの岩になったかのように崩れ落ち、近くにいた二人は舞い上がる砂煙から逃れるように飛び退いていった。そしてゴーレムが完全に倒された事を確認し、俺達の元へと戻ってくる。
今の技……あれは一体なんだ?あの腹ペコ少女に何かしらの力があるのか、それとも剣に何か秘密が……?
「いやぁ~、食後の運動というのはやはり良いですよね!でもまたお腹すいてきちゃいますよ~……」
「いや、早すぎるだろ……」
さっき、大量のおにぎりを食べたばかりだろうに……こいつの腹の中は一体どうなっているんだ?
「主さま、お怪我はございませんか?」
「ああ。コッコロも大丈夫か?」
「はい、かすり傷などはございますがその程度です。ご心配には及びません」
それならいいんだが……まぁ、ここから見ていてもコッコロがゴーレムの攻撃をまともに受けている様子はなかった。かすり傷というのも本当に大した事がないんだろう。
「主さま、それよりもこれを」
「ん?って、俺の剣じゃないか。わざわざ取ってきてくれたのか?それも血まで拭いて……」
「勿論です。ですが主さま、あの方を助けるとはいえ、武器を投げるのはどうかと……主さまの武器はこれしかないのです。ですのでもう少し慎重に行動してください」
「……悪い、今度から気を付ける」
おそらくコッコロは怒っているんだろう。頬を膨らませている姿は可愛らしいが、いつまでも眺めているのではなく反省もしないとな。
「あ、あのっ!ありがとうございました!お陰で魔物に殺されず、助かりました……」
「いえ、お礼なら主さまに……主さまが駆けつけなければ貴女を助ける事は出来ませんでしたから」
「えっと……ほ、本当にありがとう。貴方が来てくれなかったら、私どうなってたか……その、すっごくかっこよかったよ……♪」
まぁ、礼を言われるのは嬉しいが……結局最後はコッコロとあの腹ペコ少女に頼むしかなかった。俺に出来た事と言えば、この子と一緒に逃げる事だけだったしな……。
「……そうか。それで何であんたは魔物の大群に追われていたんだ?」
「その子っていうより、私を狙っていたんだと思いますよ。その子はたまたま通りがかって、巻き込んじゃった感じですかね……ごめんなさい、ご迷惑をおかけしました」
「……どういう事だ?」
追いかけられていたのが腹ペコ少女なら、なぜ彼女は魔物に狙われていたんだ?魔物一体でもあの強さだ、あのような大群に狙われる事などそうそうない事だと思うが……。
「えっとですね……休憩していたら、ゴーレムに突然襲われたんですよ。そのゴーレムは倒したんですが、他の仲間が怒ってしまって……」
「……なるほど。経緯は分かりましたが、あなたは何者なのでしょうか……?まだお名前すら不明なのですけど?」
確かに……色々あったせいもあるが、その中で彼女が自分の名前を発した事はない。俺もまだ教えていないものの、コッコロの名前を確認した際にも名乗り出る事はなかったしな。
「あっ、私も名乗ってなかったよね。私、ユイって言います。本当に、助けてくれてありがとう……♪」
「あぁ、はい。わたくしは、コッコロと申します。こちらは主さまの……」
「ブレイクだ。よろしくな、ユイ」
本来は腹ペコ少女に名前を尋ねていたんだが……まぁ、いずれユイにも聞くつもりだったんだ。それが先になろうと問題はない。
「ブレイクくん……でいいかな?」
「ああ、好きなように呼んでいいぞ」
「えっと……その、私達って
『あっ!も■か■て■■た、あ■時の────』
『私もブレ■ク■んを■■て頑■るよ……!ブレイ■くんの■張り■で無■■した■■いから……!』
「っ……?」
「だ、大丈夫……?も、もしかしてさっき頭をぶつけて……っ!?」
「いや……心配すんな、何でもない。ユイとはこれが初めてだと思うぞ?」
「そ、そうだよね……ごめんね、おかしな質問しちゃって……」
……本当に……これが初めてなのか……?アメスと出会う前、見ていたあの戦い……あそこにユイは……?
「お~いっ!みんなっ、こっちに来てください!」
「おや、いつの間にあんな所に……」
「……自由な奴だな」
一体どうしたんだと思いつつ、俺達は腹ペコ少女の元へと歩いていく。茂みの奥を見ている為、おそらく何かを見つけたんだと思うが……。
「何か倒れてる人がいるんですよ~。回復魔法とか使える人、いませんか?」
「なにっ……?」
「私、回復魔法は得意です!倒れてる人……って、えぇっと?」
茂みの向こうを覗き込めば、確かに人が倒れていた。高級そうな服装を身に付けた少女であり、近くには先端に本がある杖が落ちている。だが俺達とは違う部分がいくつかある。白い髪が混じった黒髪には動物のような耳が備わっており、腰の辺りからは同じく動物のものと似た尻尾が生えているのだ。
「どうしたんだろう、この人……?私と同じように、通りすがりで巻き込まれちゃったとか?」
「いや……それはないだろうな」
俺は茂みを乗り越え、少女の状態を確認する。服は綺麗であり、怪我や傷などは一切見当たらない。つまり魔物に襲われてこのようになった、というわけではないようだ。
「気絶はしているが、怪我とかはしていない。……ユイ、回復魔法ってのはどんな効果があるんだ?」
「えっ?えっと……体の傷を治す事はもちろんだけど、疲労回復や病気の治療とかにも使われているみたいだけど……」
「そうか……ならとりあえず回復魔法を使ってみてくれ、もしかしたら起きるかもしれないし」
「うっ、うん!」
俺の言葉に頷き、ユイは少女に近付いて回復魔法をかけ始める。それにしても……何だろうか?この黒髪の少女の顔、どこかで見覚えがあるような気がする。とても大切な人だったと思うんだが……やはり記憶喪失というのは厄介だな。ほとんどの事を忘れてやがる。
「とりあえず治療とか、お任せしますね?まだ魔物がウヨウヨいるので、私蹴散らしちゃいます!みんなは、その気絶してる人を運びつつ避難してください~♪」
「助かるな。そっちは任せるぞ……って、名前をそろそろ教えてくれないか?」
「ええっと……では、お腹ぺこぺこのペコリーヌさま……と仮にお呼びしましょうか」
いや、ペコリーヌって……確かにさっきどころか今もお腹をすかせているんだし、ピッタリな名前だとは思うが……勝手に呼び名を付けていいのか?
「おやっ、ペコリーヌって私ですか?可愛い渾名を付けられちゃいました~やばいですよね☆それじゃあ、魔物達をかる~く殲滅してきますねっ♪」
そう言って辺りを彷徨く魔物をペコリーヌは倒しに向かっていった。先程のゴーレム程の魔物はいないみたいだが、それでも数的に大丈夫なのかと思っていたが……そんな心配はいらなかったらしく、彼女は魔物を次々に葬っていく。あれならばペコリーヌ一人でも大丈夫だろう。
「ペコリーヌがせっかく注意を引き付けてくれているんだ、その間に早くこの場から逃げよう」
「そうですね……あの様子だとわたくしが加勢に入っても、邪魔になってしまうかもしれません」
「うぅっ……私も助けられっぱなしじゃ申し訳ないと思ってるんだけど……あの中には飛び込めないよぅ……」
コッコロは自分とペコリーヌの実力の差を理解し、自ら身を引いたみたいだが……ユイは違うな。恩返しに一緒に戦おうとする気持ちはあるみたいだが、足がすくんでしまっている。おそらくは、魔物が怖いんだろう。
「コッコロ、とにかく安全な場所に行くぞ。この子も気絶してるし、ペコリーヌが戦っているとはいえ囲まれたらまずい」
「安全な場所……ユイさま、この辺りに隠れられる場所などはございませんか?」
「えっ?えーっと……そうだ!ここからならランドソルに近いし、そこに逃げよう!」
ランドソル……?一体どこの事を言ってるんだろうと思ったが、ユイが指差す方向には何やら大小様々な物が遠くの方まで立ち並ぶ場所が見える。
「あれは……?」
「街……いえ、都市ですか。確かに隠れる場所を探すよりもあそこに逃げ込んだ方が安全ですね」
街に都市……どうやらランドソルというのは、あの都市とやらの場所を指す言葉らしい。コッコロにはどのような場所なのか聞きたいが、今はそんな場合ではないだろう。
「なら俺がこの子を連れていくからコッコロ、お前は魔物が来たら相手を頼む」
「はい、主さま」
「ユイも戦ってほしい……が、無理はするな。もしも駄目だったらコッコロが傷ついた時に回復をお願いしたい」
「う、うんっ……!」
俺は黒髪の少女を背負い、背後で魔物と戦うペコリーヌに行き先を伝えた後に二人と共に走り出した。
それにしてもこの子……見た目とは裏腹に軽いな。コッコロは小さい故に軽いと判断できるが、この子は俺より少し小さいだけだというのに……何故だろうか?
まぁ、それはとりあえず……あのランドソルという都市に着いてから考えるとするか。
とりあいずこれにて序章は終わりです。次回からはしばらくオリジナル回が続く予定です。