待ってよ、私のヒーロー!   作:ののみや

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1話 幼馴染

「お前、進路どうすんだよ」

「き、決めたよ……。まだ先生には言ってないけど」

 

 凝山(こるさん)中学校三年、十四歳。光移(みつい)道瑠(みちる)は隣を歩く少年をちらりと見上げ、すぐに視線を前に向けた。

 希望する進路については今まで一度も話したことがなかった。本当はずっと前から決めていたけど、反対されるのが怖くてはぐらかしていた。でも、もう私も中三だ。いい加減まだ悩んでますでは通せなくなっていた。あと、不機嫌な幼馴染はちょっと怖い。

 今も無言のまま私のつむじあたりに視線を向けているのが分かる。早く話せよ、の意だ。

 

「雄英受けようかなって……思ってて」

「いいんじゃねえか」

「えっ」

 

 意外。あまりにあっさりと返されて、私の方が驚いてしまった。

 白と赤の髪の間から覗くオッドアイはいつもよりも少し見開かれているから、驚いていないわけではないんだろうけど。むしろ、雄英で当然とも思っていたのかもしれない。雄英ヒーロー科から推薦が来ているという話は私も本人から聞いていたし。雄英受けないのか、と言われて考え中と逃げていたのも私だ。

 スタスタと歩く隣を早足で追いかけながら、その心情を探る。

 

「お前の成績なら普通科の推薦くらい余裕で通るだろ」

「そっちかぁ」

 

 そんな気はしたけど。普通科だと疑ってもいない口調にズキリと胸が痛んだ。

 雄英高校の普通科はヒーロー科との併願が可能で、ヒーロー科の入試に落ちた生徒が多いため推薦を希望する人はほとんどいないという噂だ。おまけに苦手な面接もない。経営科やサポート科もあるけど、ヒーロー科に入ると決めている彼とは一度も他学科の話をしたことがないから、そう結び付けられても不思議ではないのかもしれない。でも――

 

「ち、違くて」

 

 制服のスカートを握りしめる。立ち止まってしまった私を振り返ったのが分かったけど、顔を見られない。

 

「だから、えっと、その……」

 

 俯いたまま本題を切り出せずにいた。何を言おうとしているのかを察したらしく、空気が険しくなっていく。

 まさか、と言う低い声に肩が跳ねた。だって、変声期真っ最中の声は少し擦れていて、余計に威圧的に感じる。正直めちゃくちゃ怖い。靴がアスファルトを擦る音がして、さらにスカートを強く握りしめた。

 

「ゆ、雄英のヒーロー科受けようと思ってて!」

 

 言った。ちょっと噛んだけど。言ってしまった。心臓がバクバクと煩く脈打っている。

 沈黙が辛い。一秒が十分にも三十分にも感じられて、手の平から汗がドバドバ出ている気がした。気のせいじゃないな。手汗が凄いことになってる。

 体感二時間。実際には、多分十秒くらいだったであろう沈黙が破られて、下を向いたままだった顔を全力で上げた。

 

「…………は?」

「ひぃっ!」

 

 不愉快そうに眉を顰め、やっと発せられた一言は、それ聞いたら鬼だって涙目で逃げ出すんじゃないかな。いかんせん顔立ちが整っているから、不機嫌そうな顔をするとかなり怖いことになるんだ、とは一度も面と向かって言えたことがない本音だ。

 

 世界総人口の約八割が何らかの特異体質である超人社会となった現代、私達二人も例に漏れず個性が宿っている。私の個性はヒーローとして最前線で戦うには向いていないが、シンプルで、ヒーローとしても活かすことは出来ると思っているし、彼も認めてくれていた。だから、言いたいのは能力的なことではなくて。

 

(ヴィラン)見て真っ先に泣き出すヒーローなんて聞いたことねぇよ」

「ううぅ……」

 

 痛いところを思いっきり抉られてしまった。眼が熱くなって、開こうとした口が震える。

 物心ついた私が一番最初に大泣きした原因は焦ちゃんじゃん、とたまらず言い返そうとした。でも、赤髪の下に見える火傷痕を見たらやっぱり何も言えなくて、逆に当時の気持ちが込み上げてきて余計に泣きそうになった。

 

「でも、やってみなきゃ分かんないし……」

「一般でも実技試験があるだろ。一人でビビらずに動けるのか? 他の受験者見て焦らずに考えられるのか?」

 

 次から次へと上げられる懸案事項はどれも耳が痛いものばかりだった。お化けも苦手でGも苦手。困ったらすぐに隣の幼馴染に泣きついていたのは自分だ。舎弟、金魚のフンなんて言われていたことも知っている。

 

「――俺はいないんだぞ」

「分かってる、よ……」

 

 極めつけは彼の存在だ。それでも受けると主張を続けていると、右手で白い髪をかき上げてため息をついた。

 

「……普通科も受けとけよ」

「うううぅぅ…………」

「泣くなよ」

「泣いてない!!」

 

 絶対に落ちると思ってる。泣くななんて言われたって涙は出そうになるし、言い返す言葉も自信も持ってないことが悔しい。

 焦ちゃんの言うことはいつも正しい。私はいつだって焦ちゃんに手を引っ張ってもらってきた。ただ、いつまでも傍にいてくれるわけじゃないことは分かっていた。焦ちゃんは絶対にヒーローになる。イケメンヒーロー誕生って新聞の一面を飾ったり、女の子にキャーキャー言われちゃったりなんかして。きっと手の届かない存在になる。

 

 それでも、近づく努力をしたっていいじゃないか。誰もを救えるヒーローにはなれなくても、たった一人を守れるヒーローになりたいって、ずっと思ってるんだ。

 

「帰るぞ」

「わっ! 待ってよ焦ちゃん!」

 

 誕生日は一月十一日。同じ日に同じ病院で生まれた轟焦凍こと焦ちゃんとは、幼馴染の関係です。

 




はじめまして、ののみやと申します。

涙腺はブチ切れてないけどヘタレな女の子が主人公です。

アニメ四期が決定して突発的に書いてしまったものですが、お楽しみいただけると幸いです。

どうぞよろしくお願いします。
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