待ってよ、私のヒーロー!   作:ののみや

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15話 見出した可能性

「確認するぞ。光移があの敵の出現先を見抜いたのは、俺がお前たちから離れた直後と、その後に13号が個性を使ったときの二回で間違いないな?」

「あ……いえ……」

 

 すぐに頷こうとして思いとどまる。あの日、敵の姿を見てからはワープゲートの出口を感じとっていたけれど、敵を知る前にも覚えていた違和感を、少し迷って口にすることにした。

 

「最初に広場に現れた時、も……」

「あの時か……」

 

 相澤先生はソファに深く座り直すと小さく呟く。

 

「で、でも本当になんとなく、そこかもって思っただけで……見抜けたって言う程のものではないと思ってるんですけど……」

 

 何故分かったかと言っても私自身、あの感覚を説明することができない。全員の視線が私に集まるのを感じながら、誰かが口を開くのを待った。

 

「私が思うに、光移少女は空間の歪みのようなものを感じ取ったのではないだろうか」

「空間の……歪み……?」

 

 沈黙を破ったのはドアの近くに立ったままのオールマイトだ。しかし、彼の口から出たのはあまり耳に馴染みのない言葉で。同じ瞬間移動の個性を持っていたお母さんからも、そのような話は聞いたことがない。大体、私の能力は感知系でもないし。

 オールマイトの話では、過去にいた瞬間移動の個性を持つヒーロープリムラ――私のお母さんは空間把握能力が非常に高かった。それこそ目隠しをしていても普段と同じように歩けるくらいに。その能力自体は私と似ているけれど、大きく違っているのは瞬間移動が可能な距離や転移対象だ。私は自分や、目で見たものを最大で55メートル程度の場所までしか転移できないのに対して、お母さんは自分や触れたものを一回で最大1キロメートル近く飛ばすことが出来た。

 

「つまり、光移さんの個性は離れた空間を点と点で結ぶというよりも、自分の周囲を球のように把握し、その範囲内の空間や物体を自由に操っているのではないかということですね」

「瞬間移動そのものが個性ではなく、その個性の応用の結果が瞬間移動……ということでしょうか?」

「その通りだ!」

 

 13号先生の言葉を受けて考えをまとめるように口に出した飯田くんを、オールマイトが指で差す。

 私を置いてけぼりにしないでほしい。飯田くんがまとめてくれたおかげで少し分かりやすくなったものの、今までずっと瞬間移動と思っていたこの個性が、実は違うと言われても頭が混乱する。

 

「前にやった戦闘訓練のVTRも見せてもらったが、お前は轟の氷が五階に到達するより前に逃げろと叫んでいただろ。これも似たような原理じゃねえのか?」

「はぁ……」

 

 焦ちゃんの氷結の感知こそ慣れによるものだと考えていた。それが、違う。集中が乱れたり、空間の把握が曖昧だと発動できなかったり、転移先を間違えたりもした。空間把握の大切さはお母さんからもよく言われていたっけ。どんなに頑張ってもお母さんみたいに距離も回数も伸びなくて落ち込んだこともあったけど。

 

「距離を伸ばすこと自体は難しくても、その範囲内でならより大きいものや重いものも自由に動かせる可能性があると思っていいんでしょうか……」

 

 お母さんとは違う、私の戦い方がある。オールマイトたちが見出してくれた私の可能性。

 

「光移、我が校の校訓を言ってみろ」

 

 相澤先生はそう言って笑った。入学初日、唐突に行われた個性把握テストを思い出す。先生はあの日と同じような挑発的な表情を浮かべていて、私も口角が上がる。

 

プルスウルトラ(更に向こうへ)……!」

 

 ゆっくりと噛み締めるように口にすると、オールマイトに背中を叩かれた。ちょっと痛くて前のめりになっていると、上からオールマイトの「やべっ」という声がして、少し笑ってしまった。

 

「何やってんですかあんたは……」

 

 相澤先生がじろりとオールマイトを見ていた。相澤先生のオールマイトの扱い方って独特だ。オールマイトは「す、すまない」と謝った後に私に目線を合わせるようにその場にしゃがむ。

 

「一緒に鍛えていこうぜ、光移少女!」

「はいっ!」

 

 私にもできることがあると思えて胸がいっぱいになった。オールマイト達にお礼を言って、弾みそうになる足で私は飯田くんと一緒に仮眠室を後にした。

 

 

 

「しかし驚いたな。実は自分の思っている個性が違っていたという事例があることは聞いていたが……空間に干渉する能力は奥が深い」

「あはは、まだ私も半信半疑だけどね」

 

 仮眠室を出て教室に戻る途中、飯田くんがそう言った。

 

「と言うか、俺が聞いていても良かったのか?」

 

 クラス内でならいずれはバレることだろうけど、個性を正確に知られていないということはそれだけでアドバンテージになる。それを気にしてのことだろう。

 

「気にしないで。むしろいてくれて助かったよ、飯田くん頭いいもん」

「む……それならいいが」

 

 まだ微妙に納得しきっていないような顔をしている。本当に真面目で、誠実な人だ。

 

「と言うか、今一番言いたくないのは焦ちゃんかもしれなくて」

「何故だ? 君たちは仲がいいんじゃないのか?」

 

 飯田くんは首を傾げた。当然と言えば当然なのだろうが。

 私の頭に浮かぶのは、泣いてばかりの私を見つめる焦ちゃん。意識して明るく振舞うことは私にはできなかった。泣かないように強くなろうとしていても、上手くいかない。どうすれば焦ちゃんに笑ってもらえるのだろうと考えて、一つだけ見つけた方法。

 

「なんて言うのかな……。騙しておきたいとかじゃないんだけど、今のふわふわした状態で伝えたくないっていうか……もっと鍛えてびっくりさせたい?」

「見返したいということか?」

「うーん、そうなのかも」

 

 正しいのかは分からない。他にも方法はきっとある。ただ、それでも。

 

「私も、もっと堂々と隣に立っていたいなって……思って」

 

 私はいつも幼馴染の背中を追いかけていたけれど、もっとその先へ。心配させないような、背中を預けてもらえる存在になりたい。

 雄英体育祭は毎年形式が変わるって言っても、最終種目は毎年一対一での個人戦だ。

 

「前はこてんぱんにされちゃったけど……私も強くなったぞって思ってほしいの」

 

 それが、私の憧れたお母さんと、焦ちゃんの憧れたオールマイト。そんなスーパーヒーローたちが立ったことのあるあの舞台だったらなって。

 

「な、ななななんてね! ごめんね飯田くん、変な話しちゃって」

 

 誤魔化すように両手を振る。首元が熱くなった。本人には絶対言えないのに、どうして他の人にだとこんなにすんなり言えちゃうんだろう。恥ずかしさで顔が熱くなっていく。

 

「よきライバルということか! なんだ、光移くんも燃えているじゃないか!」

「うん……うん?」

 

 飯田くんは独特な手の動きに、私は呆気にとられた。これは多分彼なりの昂りを表現している……のだろう。

 目を丸くしたまま教室へ戻るとお茶子ちゃんが気づいて手を振った。

 

「おかえり飯田くん、道瑠ちゃん!」

「ふ、二人ともお疲れ様」

 

 お茶子ちゃんの正面に座っていた緑谷も振り返って声をかけてくれる。焦ちゃんは自分の席でぱらぱらと教科書を捲っているようだった。

 

「待たせてすまない。」

「いいよ気にしないで。それより、相澤先生の話って何だったの?」

「む? それは……」

 

 私は片付けの途中だった荷物をとるために自分の席に向かう。後ろからはそんな話し声が聞こえてきて、内心ドキドキしていると視線を感じた。飯田くんは私と焦ちゃんを交互に見ると少し口ごもった後に拳を高く突き上げる。

 

「とても有意義だったぞ! 皆! 体育祭、頑張ろうじゃないか!!」

「お、おおー?」

「おー!!」

 

 なんだそれは。私が言ったことを気にしてくれていることは分かっていても、あまりに雑な誤魔化し方につい小さな笑いがもれた。緑谷くんは困惑したようにしていて、お茶子ちゃんは元気な声で気合を入れている。お茶子ちゃんもノリが良いなあ。

 

「お待たせ、焦ちゃん。待っててくれてありがとう」

「ああ……。終わったんなら帰るぞ」

「ん。そうだね」

 

 すたすたと歩いていく焦ちゃんの後を追い、気合を入れている三人に挨拶をして教室を出ようとすると、三人からは勢いそのままに怒涛の挨拶が返ってきた。勢いに気圧されるものの、なんだか元気を貰っちゃったみたいだ。

 いつになく軽い足取りで駅に向かいながら、白い髪の隙間から覗くライトグレーの瞳を見上げる。

 

「焦ちゃん」

 

 私の半歩前を歩く彼の名前を呼ぶ。反応はない。けど、視線は確かに私に向いていた。

 

「私、体育祭がんばるから」

 

 たった三回しかない雄英体育祭のうちの、一回目。だけど、私にとってはきっと特別な意味を持つ一回になるのだろう。

 いつもより更に会話が少ないまま歩き続けると、焦ちゃんの家の大きな門の前に着いた。

 

「じゃあ、また明日ね。焦ちゃ――」

 

 腕を捕まれた。驚いて顔を見上げると、焦ちゃんは私本人よりも驚いた顔をしていて。簡単に振り払えるくらいの力なのに、体が動かなくなった。

 

「な、なに……?」

「あ……いや……」

 

 軽く振っていた私の右腕を、焦ちゃんは掴んだまま。視線をさ迷わせ何かを言いかけて、ぐっと口をつぐんだ。

 ゆっくりと離されていく手を眺める。

 

「なんでもねぇ。じゃあな」

「う、ん……また明日」

 

 そのまま背を向けて門の中に入っていく背中を見送る。

 焦ちゃんの姿が見えなくなってから掴まれた右腕を自分で握り、小さく息をついた。

 

「大丈夫。私が強くなったら、きっと――」

 

 きっと、前みたいに笑ってくれる。そうであってほしいという願望だったのかもしれない。

 もう一度息を吐き、気合を入れた。体育祭まではたったの二週間。その間で、少しでも自分に出来ることを増やさないと。

 想いを胸に、私は歩き出した。

 




こんばんは、ののみやです。

改めて個性名をつけるとするなら、空間掌握でしょうか。
瞬間移動だけでも割とチートな個性なので話を進める関係上制限を設けていくとどんどん制限を盛りすぎたので、その分ちょっと強くしました。本末転倒ですが、割と面白い能力の子になったのではないかな、と思っています。

次回は道瑠と轟くんが話をします。お楽しみいただけると幸いです。
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