待ってよ、私のヒーロー!   作:ののみや

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18話 駆け抜けてインフェルノ

 第一種目の障害物競走は、スタジアムの外周約4キロを走り抜ける計11クラスでの総当たりレース。大幅なコースアウトでの失格はないけれど、各場所に用意されているチェックポイントを通過しないとクリア扱いにならないそうだ。そして、コースさえ守れば何をしたって構わないのがこの競技のルール。

 

「さあさあ位置につきまくりなさい……!」

 

 ピシィッと鞭を鳴らして主審のミッドナイトがスタート位置を指す。閉じられていたゲートが開いて三つあるランプが一つずつ点灯していき、私は身構えた。

 二つ目のランプが点く。ごくりと息を飲む。

 そして三つ目――

 

「スターート!!」

 

 合図と同時、その場の全員が一斉に駆けだした。

 

「わっ?!」

 

 200人以上の生徒が入り乱れ、スタート地点の狭いゲートは大渋滞。ここを素直に走って通り抜けるのは得策じゃない。だって、もう競技は始まっているんだから。

 先頭集団はもう既に見えなくなっているけど、私が今いる場所から先頭まではおよそ30メートル程度。急激に冷えていく空気を肌で感じた瞬間、私は個性を使って一気に外に出た。

 

「あ……」

 

 私が瞬間移動した先には、ゲートを更に混乱に陥らせた張本人がいた。一瞬目が合ったのは気のせいではなかったはずだ。コスチュームの着用は禁止されているけど、個性使用に支障をきたすサポートアイテムやブーツなんかは事前に申請しておけば着用可になっている。私も、私の斜め前を走っている焦ちゃんも足元はスニーカーではなくコスチュームのブーツ。そしてどちらも滑り止め付き。条件は同じだけど、普通に走っていては私は引き離されるばかりだ。

 

「甘いわ轟さん!」

 

 後方では焦ちゃんの大氷結を回避したクラスメイトたちが、氷に足を取られて動けない生徒たちの間を縫って追ってくる。一瞬見ただけでもすぐに目に入る爆豪くんからはもう殺気みたいなものを感じる。他にも、もう一人。妙に迫力がある峰田くんが高く飛んで迫ってくる。

 

「くらえ轟!! オイラの必殺……グレー――」

「み、峰田くん?!」

 

 攻撃を仕掛けようとしていた峰田くんが、突然機械に吹っ飛ばされた。

 

「入試の……!」

 

 前方を振り返ると、コースの先の開けた場所にはロボの大群が待っている。入試の時の仮装敵が俊敏な動きで近づいてきて、その奥にはゼロポイントの巨大な仮想敵もいた。

 

「さあいきなり障害物だ! まずは手始め……第一関門ロボ・インフェルノ!!」

 

 プレゼント・マイクの実況が聞こえた。足元を通ろうにも、ほとんど隙間なくゼロポイント敵が密集していて、普通に通り抜けようとするとかなり苦労しそうだ。入試のときのように最大距離の瞬間移動をしても抜けられるか怪しい。

 あまりの数に先頭の焦ちゃんや、その後を走っていた人たちも一旦足を止めている。その間に私はロボよりも更に高く、空中に転移した。

 

「っ……もう、一回……!」

 

 空中での姿勢制御は難しいし、次に発動するまでの一秒間で落下した勢いはそのまま残ってしまうから本当はやりたくないんだけど、壁の向こうを見るならこの方法が一番手っ取り早い。

 

「わっ、とっ!!」

 

 仮想敵のいない場所まで一気に移動し、着地する。もうすでに三回使った。コースはトータルで約4キロ。この後も予選は続くであろうことを考えると、障害のない場所はもう全力で走るしかない。

 

「おおっとぉ!?! 1-A光移、インフェルノをあっさりスルー!! 一抜けだ!! 第一関門チョロイってか!?」

「あ、あっさりじゃない……っ!!?」

「――1-A光移、通過」

 

 再び実況が聞こえて、届くはずもないのにスタジアムにいるプレゼント・マイクに反論していると、突然鳴った機械音と読み上げられた名前に肩が跳ねた。あれがチェックポイントということなのだろうか。設置場所はロボがひしめきあっていた開けた場所を抜けた地点。私や爆豪くんみたいな空中や空間を移動できる人には少し不利なルールだ。

 

「続いて1-A轟! 攻略と妨害を一度に! すげえな! こいつらもうなんかアレだな……ズリィな!!」

 

 焦ちゃんも、もうあそこを突破したんだ。数は多いし、一体一体が大きく破壊力があると言っても動きは遅くて攻撃も当てやすいから当然なのかな。入試の時は焦りと混乱で圧倒的な脅威に思えていたものが、今は全く違って見える。

 ぐんぐんと距離を詰めてくる焦ちゃんに追い抜かれ、後を追いながら第二関門に辿り着く。

 

「さあ、第二はどうする!? 落ちればアウト、それが嫌なら這いずりな!! ザ・フォール!!!」

 

 底が見えないほどの谷に、いくつもの足場と足場の間にロープが渡されている。一足先に着いた焦ちゃんはロープを凍らせてその上を滑って次々に足場を移動していた。

 

「すごいバランス……」

 

 と、思って首を振る。見ている場合じゃない。後ろからは爆破を推進力に空を飛んで進んでいる爆豪くんが追ってきている。私も行かないと。

 

「ここで再び先頭が変わったー!! 光移のヤツ、たったの二回でザ・フォールを攻略しやがったぜ!」

 

 万が一を考えて慎重に移動した結果、私は真ん中付近の大きめな足場と対岸を着地点にして転移した。焦ちゃんはまだ第二関門の中間地点くらいだ。

 

「はあ……はあ……!」

 

 通過人数は公表されていないけど、今の順位なら予選は確実に通過できるはずだ。障害物競走で使ったのは五回だけ。プレゼント・マイクの実況では、今いる一面地雷原が最終関門らしい。

 前方を行く焦ちゃんは足場を凍らせたりはしないで地雷を避けて進んでいる。後続に道を作ってしまうからだろう。私は個性を使って一気に地雷原を抜けようとした。

 

 はずだったのに。

 

「う、嘘でしょおおおお?!」

 

 私はほぼ同時に最終関門に到着した爆豪くんに腕を掴まれ、思いっきり投げられていた。姿勢の制御もできない。個性は使ってないはずなのにどれだけ強肩なんだ。

 

「きゃあああっ?!!」

 

 浮遊感が消え、私の触れた場所からは地雷が爆破する……なんてことはなくて。私の背中に感じたのは硬い氷の感触。

 

「しょ、焦ちゃ――」

「なにやってんだよ!」

「なっ……!」

 

 今日初めての会話がこれって。足を止めてこっちを見た後、焦ちゃんはすぐに地雷原を再び走り出し、追いついてきた爆豪くんと妨害し合いながら先頭をキープしている。怒るべき相手は私じゃなくてそこにいる爆豪くんだ。

 なんだかもう悲しいを通り越して腹が立ってきた。絶対追いついてやるんだから、と。そう思って起き上がろうとして、違和感に気付く。

 

「え……?」

「後続もスパートかけてきた! 先頭は爆豪・轟! 最終関門を今抜けそうだが――」

 

 障害物競走も終わりに近づいてきてプレゼント・マイクの実況にも熱が入る。不自然に途切れたのは、後方から今までの地雷の爆発とは比べ物にならない爆音が響いたからだ。でも、私の場合はそうじゃなくて。

 

「う、嘘でしょ……!!」

 

 本日二度目の嘆き。私を受け止めるように現れた氷が、私の両足をきっちり足首まで凍らせて固定していた。後ろから来た人たちがどんどん私を追い越していく。

 私は固定してあるものを瞬間移動させることはできない。つまり、今のままでは瞬間移動が使えないのだ。素手で氷を砕くなんて策も無謀すぎる。でも、諦めることはしたくなくて、私は深く息を吸って氷に手をかざした。

 

 

 

「――予選通過は上位44名! 残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい! まだ見せ場は用意されているわ!」

 

 ミッドナイトの競技終了宣言を聞いて、閉じていた目を開く。

 息も荒いまま、スタジアム入り口にある最後のチェックポイントを通過してゴールしたとき、スタジアム内では既にゴールしていた人たちが息を整えていて、私も深呼吸しながらゆっくり歩いていた。

 足元の氷を崩して(・・・・)抜け出し、瞬間移動を使いグラウンドまでたどり着いたときには私は11位だった。少し焦りすぎたかもしれない。結局、障害物競走で私が瞬間移動した回数は九回。ただ、それ以外にも個性を使ってしまったから、次の種目が始まるまで少しでも休みたくて座って目を閉じていた。

 

「さーて第二種目よ!」

 

 ミッドナイトが再び示した後方モニターに表示された種目名は騎馬戦。二人から四人までのチームを自由に組んで行う団体戦。基本ルールは普通の騎馬戦と同じく、騎手は頭にハチマキを巻いて他のチームと奪い合い、騎手の足が地面に着いたり、フィールドの外に出ると負けだ。違うのは、予選の結果によって各選手にポイントが振り分けられており、チームを組んだメンバーの合計点が騎馬のポイントとなる。また、ハチマキを取られても騎馬が崩れてもアウトにはならない。最少でも10組の騎馬が常にフィールドにいるということだ。

 振り分けられるポイントは下から5ポイントずつ。11位の私の持ち点は170ポイントだ。

 

「そして、一位に与えられるポイントは1000万ポイント!」

 

 その場の全員が一斉に緑谷くんを見た。緑谷くんは目を大きく見開いて分かりやすく硬直している。

 

「上位の奴ほど狙われちゃう、下克上サバイバルよ!」

 

 喜々としたミッドナイトがそこで説明を切り上げ、15分間のチーム交渉が始まったのだけど、私が組みたい相手はすぐに決まっていて。その相手を探していると、すでに多くの人に囲まれていた。個性の汎用性や、本人の判断力や戦闘のセンス。皆が組みたがるのも納得だ。……性格は、ともかく。

 でも、私も引き下がるわけにはいかなかった。

 

「ばばば、爆豪くん!」

 

 必要以上に大きな声が出た。爆豪くんや、その周りにいるA組の人たちが驚いたように私を見ている。顔が赤くなっているかもしれない。彼らの後ろには手を挙げて固まっている切島くんがいて、声を掛けようとしていたのを遮ってしまったかもしれない。ごめんなさい、後でいっぱい謝るから。

 

「わ、私と組んでください!!」

「ふざけんな。俺は騎馬なんかやらねぇ」

 

 断られることへの不安を抱きながらもお願いすると、返ってきたのは案の定な反応だった。なんとなく予想は出来ていたけど、私も言葉が足りなかった。

 

「私、騎馬やるから! 出来るから!!」

「はぁ?」

 

 即答すると、爆豪くんからもすぐに返事が返ってきた。個性を考えると、私がやるべきポジションは騎手だ。近接して、敵騎の動きを止めた間にハチマキの一部でもちゃんと見えれば奪うことが出来るし、騎馬ごと瞬間移動して逃げたり逆に相手を場外送りにしてもいい。四人分の負担を考えると、連発できる策ではないけれど。

 騎馬をこなしながら行うか、騎手として行うか。負担を考えれば私は騎手を選ぶべきだった。それでも爆豪くんに声をかけたのは――

 

「爆豪くんと組むのが、一番勝てると思うから」

 

 それだけの、とてもシンプルな理由。爆豪くんは無言のまま私を見て、小さく舌打ちをした。

 

「手抜いたらぶっ飛ばすぞ」

「うっ……うん!」

 

 

 

 チーム決め交渉が始まってから十五分後。各チームが騎馬を組み上げてフィールドを囲うように待機している。

 

「さァ上げてけ(とき)の声! 血で血を洗う雄英の合戦が今! 狼煙を上げる!!」

 

 実況がスタジアム中に響く。障害物競走が始まった時よりも遥かに大きな歓声が上がった。

 

「狙いは一つ……!」

 

 前騎馬に切島くん。右翼を芦戸さん、左翼を私、そして騎手には爆豪くん。トータルで685ポイントと、そこそこ高いチームが組みあがった。

 

「獲るぜ! 1000万!!」

「もっちろん! 光移も案外気合入ってんね!」

「うん! が、頑張ろうね、みんな!」

 

 切島くんと芦戸さんが声を掛け合い、私も答える。

 ミッドナイトの振り下ろした鞭を合図に、騎馬戦が始まった。

 

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