待ってよ、私のヒーロー!   作:ののみや

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19話 守って奪ってサバイバル

「はっはっはー! 緑谷くん! いっただくよー!!」

 

 開幕直後、1000万ポイントを所持している緑谷くんチームに狙いを定め、真っ先に突っ込んでいったのは透ちゃんたちのチームとB組の鉄哲って人のチーム。手に入れれば一位通過は確実になるハチマキは、当然その二組以外のチームも狙っているんだけど。私が最初に狙いを定めたのは透ちゃんたちのチームだった。

 ごめんね、透ちゃん。声には出さず謝って、爆豪くんの左足を支えている左手を少しだけ動かした瞬間、透ちゃんが頭に巻いていたハチマキは爆豪くんの目の前に現れた。

 

「爆豪くん! 透ちゃんたちの405ポイント!」

「余計なことすんな豆粒オンナ!」

「ええっ?!」

 

 ハチマキを勢いよく掴み取りながら怒鳴られた。

 

「てめーの能力は制限あんだろうが。序盤からポンポン使ってんじゃねえ」

「う、ん……」

「おおおおお?! 爆豪チーム、近づかずにハチマキを奪いやがったーー!」

 

 爆豪くんはそれでもハチマキを首に巻いてくれて、私たちの所持ポイントが1090ポイントになる。チーム交渉のとき、A組の人たちの個性ですら"知らない"と言い切っていた爆豪くんに、私と芦戸さんは簡単に個性を説明した。その時には制限を気にしないでという意図でそのことを伝えなかったのに。なんだ、意外と周りを見ていたんだ。

 

「――っ後ろ来てるよ! B組の人!」

「黒目! 酸で牽制!」

「芦戸三奈だってば!」

「わっ、と!」

 

 芦戸さんの右手を使わせるために爆豪くんが右足を上げた。一気に体重がかかって体勢が崩れそうになったけど、なんとか踏ん張る。

 私たちの周囲に扇状に撒かれた溶解液を踏まないように相手チームが踏みとどまり、騎手が体を前方に傾けながらもなんとかこらえていた。あの人は確か、B組の鎌切くんだ。角取さんと二人のチームで、すぐに移動して回り込んでくる。

 

「離すぞ爆豪!」

「うぅっ……!」

 

 刃を出し振りかぶった左腕を、切島くんが硬化した腕で受け止める。また体勢が傾いて、私の左手が離れそうになる。際どいところで持ちこたえたけど、このままでは切島くんも踏ん張りがきかない。

 

「このまま騎馬を崩してみせマース!」

「な、なんだぁっ?!」

 

 前騎馬の切島くんが驚いたのは、角取さんの頭に生えていた角が飛び出したから。それも、二本生えていたものが両方とも。ヒュンヒュンと空中を自在に動きながら、二手に分かれて挟み込むように真っすぐ飛んでくる。その先にいるのは――私。

 それなら。

 

「えっ?! つ、ツノが……!!」

 

 ツノが私に触れそうになった瞬間、先端から数センチ部分が歪んでいき、私から逸れて地面に追突した。

 

「いつまでも俺の前に立ってんじゃねぇぞ!!」

「っ……?!」

 

 そして、動揺している鎌切くんを切島くんが腕を払うように押しだし、上体が大きく逸れた鎌切くんに爆豪くんが素早く腕を伸ばした。

 

「行くぞ!」

「はいっ!」

「おっけー!」

 

 切島くんの掛け声で騎馬を組み直し、私たちはその横を通り過ぎて一旦フィールドの様子を確認する。

 開始から約五分。制限時間の三分の一を過ぎたところでスクリーンにそれぞれの所持ポイントが表示された。私たちは1160ポイントで二位。このままなら通過は確実だ。

 

「も、もしかしなくても私狙われてた……?」

 

 ただ、さっき対峙した時の違和感。明らかに騎馬を私のところから崩そうとしている動きに思えたのだ。

 

「そりゃこのメンツなら狙うのはおめぇだろ」

「ぐううぅっ……!」

「お、おい爆豪……」

 

 周囲を警戒しながら呟いてみると、爆豪くんはあっさりと言ってのけた。A組の女子の中ではトップの運動神経を誇る芦戸さんと、爆豪くんの爆破を物ともしない安定した前騎馬の切島くんと、比較的小柄な私。崩しやすいのが誰かなんて明白だった。

 

「な、なんか、ごめんね」

「謝んなうぜぇ」

「うわヒドッ!」

「うぅっ……っ後ろ! なにか来てる!」

 

 爆豪くんにぴしゃりと遮られ、さらに視線が下に下がるけど、それでも近づいて来る気配はしっかりと感じていて。振り返ると爆豪くんに向かって一直線に伸びているものはテープ。

 

「邪魔だ!!!」

「わっ?!」

 

 振り返りざま、爆豪くんが牽制する。私の頭上に腕が伸びて少し焦ってしまった。

 

「な、なんかアイツら変じゃない……?」

 

 芦戸さんが見ているのは、テープを向けてきた瀬呂くん。彼は見たことのない人とチームを組んでいた。他のメンバーは尾白くんと青山くんなんだけど、三人とも虚ろな顔をしているように見えて。近づいてくるかと思って警戒していると、騎手の人が何か言ったあとに私たちから距離を取って離れて行った。

 

「な、なんだぁ? 来ねぇのかよ」

「どうせ不意打ちで奪うとか、他のチームとぶつかって消耗したところを狙おうとかそんなこと考えてたんだろ」

 

 安心したような、拍子抜けしたような。私がそんな気持ちでいると、フィールドを見渡しながら、爆豪くんは興味なさげにそう言った。

 

「おお……おめーは嫌いそうだな」

「ったりめーだ! 俺がとるのは完膚なきまでの一位なんだよ! んなせこい真似してられっか!!」

「う゛っ……」

 

 全身の毛を逆立てるように爆豪くんは反応した。ごめんなさい。私は1000万を狙いつつ、このままキープしての通過もありかもなんて、ちょっとだけ考えてたよ。本当、ちょっとだけ。

 

「……やっぱり、行くしかないよね」

 

 私の視線の先では、1000万をキープしたままの緑谷くんたちが、焦ちゃんたちと対峙している。

 

「このまま逃げるなんて舐めたこと考えてんなら、デクの前にてめーから潰してやるところだ」

「ひいっ……?!」

 

 爆豪くんを見なくても睨まれていることが伝わってくる。

 

「さァ残り時間半分を切ったぞ!!」

 

 残りは約七分。私たちは依然として二位のまま。徐々に走る速度を上げながら、私たちも緑谷くんたちに仕掛けていく。前方では四組の騎馬が既に迫っていた。不意打ちを警戒しながら進んでいると、八百万さんが出した布のようなものを焦ちゃんが受け取った直後、前方にいたチームがそろって動きを止めた。

 

「なにぃっ……?!」

「上鳴だな……っ!!」

 

 上鳴くんの放電だ。無差別に、周囲に向けて電気を放出している。芦戸さんと切島くんも、完全に動きが止まっていて、爆豪くんもしゃべらないけど苦しそうにしていた。

 

「だ、大丈夫?!」

「なんっでお前は平気なんだよ……!!」

 

 平気じゃない。だって、芦戸さんや切島くんに触れている部分から、私にも電気が伝わってきているから。でも、私はみんなに比べると影響は少なかった。

 

「飛ぶよ! 気を付けて!」

 

 瞬間移動でいったん後方に下がる。放電で動きを止めていた人たちは、続けて焦ちゃんが地面を凍らせたせいで完全に捕まってしまった。

 

「あっぶねー……」

「上鳴め……! 助かったよ光移! あれが最初に言ってたやつ?!」

 

 息が上がる。爆豪くんの忠告の通り、瞬間移動自体は最初と今の二回しか使わなかったけど、個性は何度も使ったせいだ。

 

「う、ん……。く……空間を、歪めたの……」

 

 簡潔にそれだけを答えた。瞬間移動と言っても、実際していることは空間を歪めて、別の場所と繋げている。角取さんに攻撃されたときにしたのも同じだ。空間を歪めて攻撃を逸らした。ただ、今はまだ私に触れている部分しか操作できないから、冷気や熱といったものは伝わってくるし、完全には回避できない。綱渡りのような使い方だ。

 

「すげー……何でもアリかよ!」

 

 私もそう思ったよ、切島くん。でも、結構使いづらくって。

 その全てを今ここで説明するわけにもいかず、曖昧にして私は笑った。

 

「轟チーム、群がる騎馬を一蹴! ここで三位に躍り出たー!!」

 

 放電で動きを止め、氷で完全に足を固めて焦ちゃんは迫っていたチームのハチマキを奪った。それでもハチマキを既に奪われていたチームもいたから、まだ私たちの方が上位にいるみたいだ。

 

「芦戸さん! あの氷、酸で破れる?!」

 

 疲弊は隠せないけど、足を止めることも出来ない。焦ちゃんチームと緑谷くんチームを閉じ込めるように設置された氷壁を超えるために、この人数を移動させる瞬間移動はもう使えそうにない。

 

「モッチロン! 任せといて!」

「よっしゃ行くぜ!」

 

 1000万ポイントはまだ緑谷くんたちが保持している。残り時間は約五分。制限時間の三分の二を切り、実況もより熱くなる。一層熱を帯びてきた歓声を聞きながら、私たちは再び1000万ポイントを奪いにいく。

 

「デクも半分野郎もぶっ殺して、俺が一位だ……!」

「ぶ、物騒すぎる!」

 

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