ようこそ禁止区域出身の男がいる教室へ   作:白崎くろね

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第11話 初めての銭湯

 

 

 初日に訪れてはいるものの、こうして銭湯に入りに来たのは今日が初めてだ。

 というか銭湯自体が初めてだった。

 

 憐桜学園では風呂の時間はあったが、そこまで大きい浴槽ではなかった。それに加えて薫のヤツと隅っこで隠れるようにして入っていたからはしゃぐにはしゃげなかったのだ。

 あいつふざけるとすぐ怒るからな……。いったい誰のおかげで風呂に入れてると思ってんだか。おかげでオレはホモ野郎と言われるようになるのに時間はかからなかった。

 

 フロントでタオル類を購入し、ふらふらと歩き回りながら本が読めるコーナーがないかを探した。

 読書スペースはなかったが、過去の新聞が保管されている場所を見つける。

 この際、読めれば何でもいいか。

 

 それだけ確認してから、オレはいよいよ風呂に向かった。

 ぱぱっと服を脱ぎ、すっぽんぽんの全裸になる。

 実に開放的な気分だった。

 

「おー、ここが銭湯か」

 

 予想の3倍くらいは広かった。

 おまけに人っ子一人もいないから余計に広く見える。

 貸し切り状態ってヤツだな。

 

 入ってすぐのところに書かれている注意書きに目が行く。

 

「なになに……? 入浴する前にきちんとかけ湯をしてください?」

 

 かけ湯ってのはこのバケツで身体を流せってことか?

 そういう決まりらしいが、オレは素直に言うことを聞くようなタイプではない。

 押さないでくださいと書かれたボタンだって平気で押しちゃえる男だ。

 

「ひゃっはー!」

 

 だから思いっきり跳躍し、浴槽にダイブした。

 ざっぷーんっ!

 

「あつ、あつつっ!」

 

 耐えられないほどじゃなかったが、夜風で冷えていた身体にはめっちゃ熱かった。

 それもそのはず。お湯の温度は46度と表示されていた。

 普通は42度以下ぐらいだろうから、熱湯風呂ってヤツだな。

 

 ばしゃばしゃと手を動かし、プールの時のように泳いだ。

 あの後、本で泳ぎ方を調べたのだが……クラスメイトのヤツらがやっていた泳ぎ方はクロールと言うらしい。

 

 まず、あの時と同じように全身と真っ直ぐと伸ばす。両手を真っ直ぐと重ね合わせ、これもまたピンと張る。バタバタと進むための足はしならせるような形で水を蹴るのだ。この時に注意しなければいけないのは、あまり水から上に出さないようにしないと推進力が失われると本に書いてあった。

 重要なのは膝から上の太腿だ。ここだけはしっかりと力を入れる必要がある。ばたばたっと太腿を動かし、連動させるように膝、足首、足先へと力を連動させていくのがコツらしい。

 

 次は泳ぐ際に大事な腕の動き。これは肩の力を使って腕を回していく。肩を力いっぱい引き、腕を大きく回す時は手のひらを返さないように注意しながら、一回転させる。そして、もう一方の腕を同じように回す。それを繰り返していくだけだ。

 

 最後に息継ぎの方法だが、腕を回転させている間に行う。どちらか片方を息継ぎする方の腕、もう一方を息継ぎしない方の腕と決めておくのがリズムとタイミングを掴みやすいらしい。

 顔を上げている際、真っ直ぐ伸ばしている方の腕を枕のようにしてやると呼吸しやすいとのことだった。

 腕を引いて回し、胸の辺りで顔を水中から上げて呼吸。それの繰り返しだな。

 

 他にも詳しく書いてあったが、大事なのはこんなところだろうか。

 後は泳いでいる間に自然と慣れてくるに違いない。

 まずは実践だ。

 

「うおおおおおおー!」

 

 ばしゃばしゃ。ばたばた。

 ばしゃばしゃ。ばたばた。

 

「ふんっ、ふんっ、ふんっ!」

 

 って泳ぎながら声を上げてどうすんだよ、オレ。

 案の定、呼吸が苦しくなっただけだった。

 

 じゃばじゃば。ばたばた。

 じゃばじゃば。ばたばた。

 

「すっー、ふぅ……すーっ……」

 

 すいっー、すいっー。

 ばしゃばしゃ。

 じゃばじゃば。

 

「お、おおおおっ……!」

 

 複数回往復することでオレは完全にクロールを物にしたのだった。

 しかし、プールとは違って端から端までの距離が短すぎるのが残念でならない。

 これではせっかくの泳ぎもあまり意味はない。

 

 しかし、まさか泳ぐのがこんなにも楽しいとは。

 もしかして、オレは泳ぎの才能があったりして?

 こりゃあプロの水泳選手も夢じゃねえな。

 

 オレは満足して熱湯風呂から上がる。

 そういやサウナってのがあるんだったな。

 試しに入ってみるか……。

 

 ギ、ギギィ――

 

 木製の扉を開けると、そこには――先客がいた。

 それも見覚えのある男の顔だ。

 ……見覚えがあるなんてレベルの話じゃない。

 

 ――オレの顔面に裏拳を叩き込んだ男がサウナ室にいた。

 

 目がしっかりと合うが、見なかったことにしよう。

 そっと扉を閉め、さよならバイバイ。

 

「……朝霧、何をしている。入ってきたらどうだ」

 

 残念! 引き止められてしまった!

 さあ、どうする朝霧海斗!

 

「あ、ああ……」

 

 ……普通にサウナ室に入ることにした。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 …………ぽた、ぽた、と汗の滴る音だけがサウナ室の中に響いていた。

 オレは元から率先して喋るようなタイプでもなければ、人に対して物怖じするタイプでもない。それは相手も同じのようで、つい先程のことがあった後でもまるで気にした様子はない。

 

 このままサウナを堪能し、黙っていてもよかったんだが……。

 せっかくなので、気になっていることを聞いてみることにした。

 

「あんたは鈴音の兄貴でいいんだよな?」

 

「……そうだが。それがどうした」

 

「にしては鈴音のことを見る目が厳しい気がしてな」

 

「…………」

 

 男、鈴音兄はオレの方を軽く一瞥してから。

 

「――あいつ、鈴音には致命的な欠点がある」

「欠点? あいつは何でも卒なくこなすことが出来ると思うが……」

「愚かではあるが無能ではないというだけの話だ」

「なぞなぞか?」

 

 オレにはこいつが何を言おうとしているのか、よくわからなかった。

 

「だったら兄貴のお前が言ってやればいいだろ」

 

「欠点を自覚したところで簡単に直せるようなものではない。現に鈴音は今まで改善の兆しすら見せていないのだからな。お前にも欠点が何かくらいはわかっているだろう」

 

「欠点ねぇ……」

 

 そんな欠点があるとすれば、あのことだろうか。

 オレは勉強会のことを思い出していた。

 

「たしかお前は鈴音とは友達ではないと言っていたな。何故気にする。朝霧、お前はそういうタイプの人間ではないだろう」

 

「お前にオレの何がわかるんだよ。友達じゃないが彼氏志望の男って線は考えないのか?」

 

「そうなのか?」

 

「いや、全然違うが……」

 

「だろうな」

 

 ちっとも動揺しないな。

 さっきは友達がどうので割と驚いていた気がしたが。

 

「でもな。これを聞いたら流石のあんたも驚くと思うぜ」

 

「ほう」

 

「――お前の妹、鈴音だが……実は最近な彼氏が出来てたぞ」

 

「――――――」

 

 

 ギ、ギギギギ、ギィ――。

 鈴音兄がまるで壊れたロボットのようなぎこちなさでオレの方に顔を向ける。

 

「流石のあんたでも驚いたか」

 

「あ、ああ……よもや友達を通り過ぎて彼氏とはな……」

 

「最近じゃあ二人で勉強してたり昼を一緒に食べてたりしてたな」

 

「…………」

 

 驚きすぎたのか、遂には言葉すら発しなくなった。

 壊れたか……? そう思っていたら急に立ち上がり、サウナ室から出ていこうとする。

 

「……露天風呂にはもう入ったか?」

 

「露天風呂?」

 

「ああ」

 

「いや、まだだな」

 

「是非入ってみるといい。今日はよく晴れているからな、星が見えるだろう」

 

「んじゃ折角だし入ってみるか」

 

 オレも鈴音兄に続き、サウナ室から出て露天風呂へ。

 今まで蒸し暑い場所にいたからか、外はとても肌寒く感じられた。

 というか少しだけくらっともしてきたな。

 

「おー、ここが露天風呂か。すげえな……」

 

 さっきから新鮮な光景の連続に感動しっぱなしだが、文字の上での知識と生の体験とでは大きく異なる。露天風呂も知ってこそいたが、来るのは初めてだ。

 今度はゆっくりと湯に浸かり、ふはーっと息を吐きながら空を見上げる。

 遥か上空には満天の星空が広がっていた。

 

 前に本で読んだ程度の知識でしかないが、この時期に見える星座は大きく分けて4つに分類される。

 北の空に浮かぶ7つの星が目印の『北斗七星』

 その反対側にあるのは、南の白い一等星『レグルス』を中心とした『しし座』

 んでもって、東側にあるのは『アークトゥルス』と呼ばれる星が目立つ『うしかい座』

 そして、最後に西の空には、北斗七星の『アークトゥルス』の先へと伸びているスピカを中心とした『おとめ座』

 

 これら北斗七星から伸びる『アークトゥルス』、『スピカ』の曲線は春の大曲線と呼ばれる目印的なやつなのだったが、残念なことに実際の空のどこに何があるのかはよくわからなかった。

 

 昔、オレたちが済んでいた禁止区域から見た星空よりも綺麗だったため、しばらく星を眺めていた。

 

 ……10分か、20分くらいで露天風呂から上がり、脱衣所に戻った。

 真っ赤になった身体をバスタオルで拭いていると――

 

「受け取れ」

「おっと……」

 

 先に上がっていた鈴音兄が何やら投げて寄越した。

 それをぱしっと受け取るオレ。

 オレの手にはフルーツ牛乳のラベルが貼られたビン。

 

「お前には迷惑をかけたからな。奢りだ」

「ありがたく貰っとくぜ」

 

 別に殴られた件はこれっぽっちも気にしちゃいなかったんだが、こうして奢ってもらったことを考えると逆にラッキーだったかもな。

 

 腰に手を当てながら、ぐびぐびとフルーツ牛乳を飲み干す。

 アイスじゃないのにキーンと頭に響いた気がした。

 いや、響いたのは心臓かもしれない。

 

「お前は面白い男だな」

「あ?」

「どうだ生徒会には興味はないか?」

「生徒会だぁ……?」

 

 生徒会の詳しい内容は知らないが、堅苦しい作業を淡々とこなす役職みたいな組織だってことはわかる。

 

「そういう面倒くさそうなのは勘弁だな」

「そうか。興味が出たらいつでも生徒会室に来い」

「へいへい」

 

 それだけ言って、鈴音兄は脱衣所を後にした。

 オレも少しだけ涼んだら出ることにしよう……。

 

「っつーか、普通にのぼせた……」

 

 熱湯風呂で泳いで、サウナに小一時間ほど入って、露天風呂にも浸かったからな……。

 我ながらはしゃぎすぎたぜ。どうも未知の体験ってのは歯止めが効かなくなっちまう。

 

 結局、喉が乾いたオレはもう一本だけフルーツ牛乳を飲んでから脱衣所を後にした。

 

 




※銭湯や温泉に入る場合は必ずマナーを守ってください。
 決して、彼のようなことをしてはいけません。


というわけで、今回は裸の付き合いでした。
そして、海斗の口から伝わる嘘(誤解)の情報。
清隆と堀北の関係はどちらかと言えば√堀北に近い感じです。

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