ようこそ禁止区域出身の男がいる教室へ   作:白崎くろね

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第13話 テーブルマナー講座?

 

 

 休み時間に勉強会という名の堀北鈴音先生によるプチ解説授業が終わり、いつも通りに学食に向かおうとした。

 

「海斗くーん。お昼一緒しよ?」

 

 教室を出ようとするオレを待ち伏せるようにして、桔梗が話しかけてくる。

 あの日、屋上での一件から視界内に入ることが増えたような気がしてならないのは、オレが秘密を漏らさないのかを監視でもしているからだろう。こっちは特に話す気もないんだがな。

 

 オレはそんなに信用できない男か?

 

 そんな目を向けると、無言で『何言ってんの当たり前じゃん』みたいな目を向けてきた。失礼なヤツめ。

 心当たりがあるとすれば、昨日の勉強会でヒマになったオレが寛治のヤツに向かって『なあ、桔梗って実は――』って言って耳元に口を寄せた件だろうか? 

 それとも春樹が『櫛田ちゃんって実は裏があったりしちゃって?』と言っているところに桔梗が『えー、そんなことないよぉ』って言っていたから魔が差して『八方美人に見えるだろ? こう見えて実は男を喰いまくってるぞ』とか何とか言ってしまったからか? 

 その度にドス黒い感情が支配しているような目で睨まれてしまうので、とても気が弱いオレは毎回のように萎縮してしまうのだが……。

 

「もちろん奢ってくれるんだよな?」

 

「うーん、私も今月は厳しいからなぁ……」

 

「大丈夫だ安心しろ。上から順に全部頼んでやるから」

 

「それ絶対払えないから」

 

「そうか? じゃあ払えるギリギリの範囲で……」

 

「もういいから行くよっ」

 

「服を引っ張るなよ千切れちゃうだろ!」

 

 桔梗に「そんなわけないじゃん」と言われながら強引に腕を引かれ、前にひよりと訪れたことのあるカフェに案内される。

 そのほとんどが女子生徒であり、男子生徒は1割程度しかいない。

 しかも純粋な1名様の男性客が誰もいないことから、このカフェが男子生徒にとって行きづらい場所であることがよくわかる。

 

 近くの席に桔梗が座ったので、オレも腰を下ろした。

 

「さーて、何食べよっかなあ! お父さんお腹いっぱい食べちゃうぞぉ!」

「うう……お昼に誘ったのは間違いだったかも……」

 

 メニューを開き、上から順に目を通していく。

 どれも小洒落た物ばかりで学食のメニューとは全く違う。

 

 アボカドのサーモンマリネ……560ポイント。

 ホワイト・クロックマダム……720ポイント。

 チーズバゲット……320ポイント。

 本格カルボナーラ……1230ポイント

 蜂蜜とゴルゴンゾーラのピッツァ……1450ポイント。

 特上カツオのカルパッチョ……780ポイント。

 

 最初はイタリア店かと思ったが、別にそんなことはなかったらしい。

 普通にフランス料理も書いてあるしな。

 だが日本人としてはやっぱり和食が食べたかった。たとえば、ステーキとか。

 

 ……いやそれステーキって洋食じゃね?

 

「お前は何を食べるんだ?」

 

「うーん、いつも友達と来る時は同じものになりがちだから普段は食べないもの、かなぁ。海斗くんは何を食べるか決めた?」

 

「よし、オレはこの本格カルボナーラに蜂蜜とゴルゴンゾーラのピッツァ……それから、これと……これにそれを」

「…………」

「冗談だ。だからそう睨むな」

 

「何を言っているのか海斗くん? 私は睨んでなんかいないよ?」

 

 にこにこっ。

 その笑顔を見た者は一瞬で魅了されてしまうほどの笑顔をしていた。

 気の所為か? めっちゃ睨んでたような気がしたが。

 

「仕方ないな。このカルボナーラとピッツァだな。これならお前も一緒に食べられるだろ」

 

「ほんと遠慮しないなあー……」

 

 渋々と言った感じだったが、オレの注文を受け入れる。

 まあ、それもそうか。これだけで2680ポイントだもんな。

 お昼にこんな出費をするのは、今回が初めての経験だろう。

 

「初体験ってどことなく卑猥な響きだよな」

 

「い、いきなり何なのかなっ!?」

 

「ちょっとお前の初体験に想いを馳せていたんだ」

 

「初体験ってなにっ!? そんなのしてないよっ! あまり変なこと言わないでくれるかな?!」

 

 顔を真っ赤にさせ、ぽこぽことオレを殴ってくる。

 それだけなら可愛いもんだが、テーブルの下で爪先を思いっきり何度も踏みつけてくるのは勘弁してほしいものだった。ってか普通にいてぇ……。

 

 そんなことをしていれば、自然と周囲の視線が集まるというもの。それに気が付いて桔梗がオレ殴るのだけはやめるが、もちろん足は踏んづけられたままだ。なんて足癖の悪い女だ。

 

「お前って足コキとかうまそぉぉぃっ!?」

 

「もうっ! 海斗、くんっ? いい加減にしてね?」

 

「すいまえん」

 

 ガンッ! と、足を思い切っきり蹴られたのだった。

 こいつに足コキなんてされた日には、睾丸を笑顔で踏み潰されかねない。

 あの日、オレの股間は触ったら暫く痛かったのを思い出して、身体がぶるっと震えた。

 

「ねえ、前からずっと思ってたんだけど……どうして海斗くんってふざけずにはいられないのかな? ちょっと勿体ないなって思うんだけど」

 

「オレはいつだって真面目なクールビューティーだろ。イケメンだしな」

 

「冗談……って言いたいけど冗談でもないところが不思議だよね。これ見てみてよ」

 

「なんだ? お前のハメ()……いえ、なんでもないので足の上に足を乗せないでくれ」

 

 端末をオレの方に突き出し、画面を見せてくる。

 そこには『男子ランキング』と表示されたサイトが映っていた。

 

「なんだこりゃ」

 

「これはね、全学年の女子の間で行われてるランキングサイトだよ。全員が参加してるってわけじゃないけど、聞いた話だと半数以上の女子が参加してるって話だよっ」

 

 オレたちDクラスの生徒数は40人だったか?

 それがAクラスまであるわけだから、1年の生徒数は160人。そこから男子の数を引いて……って男子っていったい何人いるんだ? わからないから適当に半分引いたとしても80人か。その半分は40人だから……ってよくわかなくなってきたぞ。

 

 まあ、対して影響力のないランキングってことか。

 

「ランキングの種類はたくさんあってね。まずはイケメンランキングでしょ? お金持ちランキングにー、気持ち悪いランキングー、それから根暗そうランキング?」

 

「女子の闇を垣間見た気がするぜ」

 

「それで海斗くんはイケメンランキングで2位だよ! すごいね! 私は海斗くんには投票してないんだけど、佐藤さんがしたって言ってたかなっ?」

 

「はぁん」

 

 何がどうすごいのかがよくわからなかった。

 

「つかオレが1位じゃねえのか」

 

「1位はAクラスの里中くんって人だよ」

 

「要はそいつを亡き者にすればオレが実質的な1位か……」

 

「聞いた話だけど里中くんは容姿端麗・成績優秀・頭脳明晰・運動神経抜群って話だね」

 

「スルーされた……」

 

 そんな完璧超人みたいなヤツいるのか?

 いや、Dクラスにもいたわ。

 あいつなら里中ってヤツにも対抗できるだろ。

 

「洋介のヤツは何位だ?」

 

「平田くんは3位で、同じくDクラスの綾小路くんが5位みたい」

 

「あいつが3位なのか。くくっ、オレのイケメン力には勝てなかったと見える」

 

「事実が事実だけに言い返せないのが悔しいところだよね。なんで海斗くんが2位なのかな不思議だね」

 

「何か文句でもあんのかよ」

 

「だって海斗くんだよ? あの4バカの朝霧海斗くんが2位だなんて変だなって……」

 

「おい今なんつったよ」

 

 今、オレの聞き間違いじゃなければ4バカって聞こえた気がしたが……?

 

「え? 私何か言った?」

 

「4バカとかいう不穏な言葉が聞こえた気がしたが、気の所為だったみたいだ」

 

「……? 海斗くんは4バカの1人に数えられてるよ? 知らなかったの?」

 

「ばんなそかな!」

 

 う、嘘だと言ってくれ……。

 オレがあいつらと同類だと……? 

 そんなはず、そんなはずは……。

 

「でもほんとに不思議。確かに顔に関しては私も認めるくらいにはイケメンだとは思うけど、他の人みたいに特色するような要素はないって言うか、もっと、こう……何かに秀でてた部分があれば素直に納得できるんだけどなあ」

 

「……失礼なヤツだな」

 

「海斗くんだし遠慮しなくてもいいかなって」

 

 何か言い返してやろうと思ったが、負け犬の遠吠えにしか聞こえないのでやめた。

 注文した料理が運ばれてきて、オレたちは食べ始める。

 

「なあ、パスタの正式な食べ方って知ってるか?」

 

「フォークとスプーンでくるくるするやつのこと?」

 

「ああ。だが本場のイタリアではパスタを食べる際に使うのは、フォークだけだ」

 

「そうなの?」

 

「もちろん場によりけりだが……実際のテーブルマナーに則しているのは、こんな感じの食べ方だな」

 

 そう言って、1回で食べ切れるほどの量をくるくるっと巻いていく。

 なかなか巻くのが難しいパスタだが、手前に持ってきて整えるのがベストだ。

 特にカルボナーラは口の周りが汚れがちだからな。

 

「でも日本じゃスプーンを使って食べることが多いよね?」

 

「まあな。それは本場のイタリアでスプーンの扱いが苦手な子供が使っていたところから来てるって話だ」

 

「へぇ……海斗くんがテーブルマナーに詳しいの意外って感じ」

 

「んあ? じゅるるるるっ……」

 

「…………こういう時ほど台無しって言葉が似合う場面はないって感じだよ」

 

 オレがくるくると巻きつけるのをやめ、豪快にラーメンを啜るようにして食べているのを見ながら言った。

 

「別にテーブルマナーなんかなくたって美味しく食べられりゃ何でもいいんだよ」

 

「それもそうだけど、自分で言ったんだから最後まで実行しようよ!」

 

「で、本題なんだが……当然のようにピザを食べるマナーもあるんだが知ってるか?」

 

「ぴ、ピザ……? 手で取って食べるんだけじゃないの?」

 

「それはアメリカや日本での食べ方だな」

 

 オレはピザを1枚だけ手に取り、ぱりっと折り曲げた。

 

「だけど本場ではナイフとフォークを使って食べる。この場合は既に切り分けられてるから、尖った方の下にナイフを入れて、フォークで捲り上げる。そのまま耳の方まで巻いてから最後にナイフで一口サイズに切り分ける。こんな感じでな」

 

「こ、こうかな……?」

 

 最後まで実演してみせると、辿々しいながらも桔梗が同じようにして食べ始めた。

 

「まっ、ここは日本だからオレはワイルドに手掴みで食べるが」

 

「だから最後まで貫こうよ……というか本当にあってるの、これ」

 

「おいおい。オレが嘘を言うとでも思ってるのか」

 

「全然嘘には聞こえないけど、海斗くんってさらっと嘘を言いそうだし」

 

「……失礼なヤツだな」

 

 否定しようと思ったが、否定できるだけの材料がなかった。

 先日も寛治に嘘を吹き込んだばかりだからな。

 内容は学食の裏メニューがあるって話で、おばちゃんに下ネタを言ったら大盛りにしてくれるっていう嘘をついたのだ。当然ながら怒られる結果に終わった。

 本当のところはおばちゃんを褒め称えると大盛りもしくは付け合せてくれるっていう話なんだが。

 

「つか奢ってもらっておいて今更なんだが、どうしてオレを昼に誘った?」

 

「やだなぁ、ただ海斗くんと一緒に食べたかったからだよ?」

 

「普通のヤツならそこで『く、櫛田ちゃん……!』って言って恋に堕ちるような効果音でも出すんだろうが、生憎とオレは誤魔化されないぜ。大方、もう一度釘を刺すつもりだったんだろ」

 

 いや、もしかしたらオレのことが好きになったのかもしれないない。

 ……ないな。それはない。それで最近も勘違いしたばかりではなかったか朝霧海斗よ。

 

「似たようなもの、かな。たとえばの話になるんだけど、もしも私に何かあったら海斗くんは助けてくれるかな」

 

「オレがお前を?」

 

「うん。あんなことがあった後に言うのも変な話だけど、海斗くんにはある意味では期待してるんだ。今日の勉強会でも見てたけど本当は勉強できるみたいだしさ」

 

「あれは教える側が上手いからだ。一人じゃ解くのにも時間がかかる」

 

「そうかな? 私たちが教えているというよりは最初から答えを知ってるって感じがする」

 

「……さあな」

 

 鋭いヤツだって言いたいが何てことはない。

 鈴音なんかはこの程度は解けて当然って感じだから変に感じていないだろうが、こいつは目線がどちらかといえばオレたち寄りだからこそ気が付くんだろう。

 

「だとしても多少はできるってだけの話だ。別に大したことはない」

 

「大したことはないのは間違いないけど……」

 

「いやそこはもっと追求するべきだろ! 実はあなたって天才なのねっ! って感じで! さあ!」

 

「ほんといい性格してるよね」

 

「お前ほどじゃないけどな」

 

 表向きじゃ八方美人を気取ってるが、裏では恨み言を吐きまくってる人には言われたくなかった。

 

「言っておくがお前は勘違いしてるからな」

 

「勘違いって?」

 

「どうやらお前はオレに期待をしているようだが、それは秘密を知ってしまったことである種の相互作用のようなものが働いている状態なんだろう。だからオレがどうのってのよりかは秘密を知っている相手だから気になってるだけの話ってことで、これが仮に相手がオレじゃなくても同じようなことをしていたはずだ」

 

「そうかなぁ……これが須藤くんや池くんたちだったら期待なんてしてないと思うよ」

 

「それはぶっちゃけすぎだ」

 

 そう思ったオレだったが、悲しいことに何も言えなかった。

 今度から少しだけ優しくしてやるか。

 

「でも私が期待してるってことだけは憶えておいてね。約束だよ!」

 

「まあ、憶えてたらな」

 

「それ絶対憶えてないやつだよぉ……」

 

 そんな日が訪れないことをオレは祈る。

 退屈は嫌いだが、面倒ごとは勘弁してほしいものだ。

 

 カルボナーラとピッツァを食べ終え、オレたちは女子でごった返しているカフェを後にした。

 

 

 




ちなみに私はピザの食べ方なんて割と最近までご存知じゃなかったです。

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