ようこそ禁止区域出身の男がいる教室へ   作:白崎くろね

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第14話 テスト範囲の変更

 

 

 昼休みに勉強会の続きがあるということで、オレたちは10分くらい遅れてから図書館に顔を出した。

 

「遅いわよ。あなたこれで何回目の遅刻かわかっているの?」

 

「待たされるのは嫌いだが、待たせるのは好きだ」

 

「……呆れた。本当に自分勝手な人間ね」

 

 毎度のことながらも鈴音が苦言を呈する。

 

「あなたもよ櫛田さん。一緒に来たということは行動を共にしていたのだから同罪よ」

 

「ご、ごめん……海斗くんが本屋寄っていくって言うから待ってたんだけど、長引いちゃって」

 

「言い訳は結構よ。それなら引っ張ってでも連れてくればよかっただけのことよ」

 

「そうだぞ桔梗。お前が悪い。わかってるのか?」

 

「海斗くんに言われるのだけは絶対違うからね」

 

 ここぞとばかりに責任を転嫁させるが、みんなの目があるからか強気で責めてくることはなかった。それでもしっかりとオレにだけ見えるような形で睨みつけてくるのはお約束か。

 

 それがイヤならふざけるのはやめればいいだけのはずなのだが……どうもオレは反撃が喰らうとわかっているものには触れられずにはいられない質のようなのだ。

 映画などで爆弾処理するために赤か青の線で誰かが『青の線だ』と言っているのにあえて赤を切りたくなるような心情とでも言おうか。

 

「そんなことよりもよ~、まさか二人ででで、デートしてたんじゃないだろうな!?」

 

 オレと桔梗が二人で図書館に来たことを寛治が訝しむような目で言う。

 

「そう見えたか?」

 

「ま、まさか本当にデートをしてきたのかよ!!」

 

「つまりはそういうことだ」

 

「何抜け駆けしてるんだよ! テストで勝ったやつがデートするって約束だろっっ!」

 

「なにしれっと嘘を吐いてるのかな海斗くんは。別に私たちはデートしてきたわけじゃないから安心してね? それはちゃんと一番点数を取った人のために取っておくからっ」

 

 そんなやり取りをしていると、案の定というか鈴音のヤツがイラっとした顔でピシャリと言い放つ。

 

「――いい加減に早く座って」

 

 そう言われ、仕方なく座ってから本屋で買ったばかりの本を袋から取り出す。今日はオレの好きなシリーズ『なにわ探偵』の発売日だった。本当ならじっくりと読み込みたかったのだが、後で文句言われても面倒だったので勉強会には顔を出すことにしたのだ。

 

「朝霧くん。あなたには勉強するっていう気がないのかしら」

「あ? 勉強なんて本を読みながらでも出来るだろ」

「はぁ……本当にあなたは自己中心的な人間だわ」

 

 人間誰しもそういう側面を持っている。

 オレが本を読んでいるのもそうだが、Aクラスを目指すために勉強を教えている鈴音と清隆。

 桔梗とデートをするために勉強会に顔を出している健や寛治に春樹。

 みんなに対していい顔をしていたい桔梗。

 

 そう、誰も本当の意味で勉強を望んでいるヤツなんていない。

 

「まあいいわ。勉強を始めましょう」

 

 ようやく勉強会が始まった。

 

「なあなあ。地理ってやってみりゃ案外と簡単だよな」

 

「化学もそう思ったほど難しくないよな」

 

「基本的には暗記するだけで解けるからじゃないかな? 国語や英語に数学とかは基礎が出来てないと答えがわからないことが多いし」

 

「油断は禁物よ。時事問題が出ることも十分に考えられるわ」

 

「なんだそれ」

 

「時事問題、よ。最近の政治関連のことが問題として出題されるのよ。だから教科書には載っていない問題が出ることも大いに考えられるわね」

 

「げっ、そんなの反則じゃん! ズルだろ!」

 

「いつだってテンプレ通りには事が進まないってことね」

 

「急に勉強する気がなくなってきた……」

 

 本を読みながらそんな会話に耳を傾けていると、桔梗が時計を確認して慌てたように問題出題し始めた。

 ほうほう。この展開は予想出来たがこういう風に演出するのか……。

 

「私から出題するよ。帰納法を考えた人は誰でしょうか?」

 

「まず帰納法ってなんだっけ」

 

「いや、さっきやった問題に出てただろ」

 

「あー、なんかやたらと腹の減る名前のヤツか」

 

「なんとかベーコンだったよな?

 

「ああ! フランスコ・ベーコンだ!」

 

「ぶっぶー!」

 

「違うだろ。フランシス・ベーコン、だろ?」

 

「ぴんぽんぴんぽーん!」

 

「ちくしょう……!」

 

 声だけだと何を言っているのかさっぱりだな。

 ベーコンの話をしているようにしか聞こえない。

 そういえばベーコンって背中って意味の言葉らしいな。

 

「おい、ちょっと静かにしろよ。ここは幼稚園じゃねえんだぞ」

 

 隣の席で勉強していた男が不満の声を漏らす。

 

「悪ぃ悪ぃ。ちょっと興奮しすぎた。問題が解けるってのは嬉しいよな~。お前らにも教えてやるけどさ、帰納法を考えたヤツはベーコン。フランシス・ベーコンなんだぜ!」

 

 うるさいと言われたばかりにも拘わらず、へらへらと笑いながら大きな声で言う。

 

「あ? 舐めてんのか……はっ、お前らDクラスの生徒だろ」

 

 1人の言葉に隣の席に座っているヤツら全員が反応し、ざざっと立ち上がった。その様子が気に障ったのか、短気な須藤はイラっとしたように口調を強張らせる。

 

「なんだお前ら。俺らがDクラスだと不都合でもあるってのかよ。……あぁ?」

 

「いやいやっ、文句なんてねぇさ。俺はCクラスの山脇って言うんだ、よろしくな」

 

 ニヤニヤと笑いながらではあるが、先程よりも軟化させた態度で山脇と名乗った男が手を差し出した。

 しかし須藤は舌打ちをしてそれを拒否。

 それに対しても気分を害した様子はなく、言葉を続ける。

 

「ただ、なんつーか……哀れだよなって」

 

「なんだとっ!」

 

 その一言に堪忍の尾が切れたのか、がたっと机を鳴らしながら思いっきり立ち上がった。 

 

「おお、怖い怖い。事実を言われたからって怒んなよ。もしも? ここで暴力沙汰なんて起こしたらどうなるかくらいは不良品のお前らでもわかるよなぁ? あっ、そういえばポイントもないんだったか。すまんすまん」

 

「上等だ、かかってこいや!」

 

 煽り耐性のない人間が煽られればこうなるだろうな、という見本だった。

 このままでは乱闘騒ぎになるかもしれない。普通なら止めるべき場面なのだろうが、オレはそれよりも本の続きが気になっていた。

 やっぱりミステリー小説は一気に読むに限るからな。

 

 それに場を収めるなんてのは、そもそもオレに向いていない。

 

「彼の言うとおりよ、須藤くん。ここで揉め事を起こせば、中間テストどころの話じゃないわ。せっかく勉強して赤点以外の理由で退学にはなりたくないわよね? それからあなたは大口を叩いているようだけれど、所詮はCクラスでしょう? 何の自慢にもならないと思うわ」

 

「所詮はCクラスぅ? A~Cクラスは誤差みてぇなもんだが、お前らのDは論外だ論外」

 

「随分と自分を高く買っているのね。私から見ればAクラス以外は大した差のない団子状態よ」

 

 それまでへらへらと笑っていた山脇だったが、僅かに顔を引き攣らせる。

 

「お前たちのような1ポイントもない存在と一緒にしてんじゃねえよ。顔が可愛けりゃ何でも許されるとでも思っているのか?」

 

「何の脈略もないけど、ありがとうと言っておくわ。私は自分の容姿を然程気にしたことはなかったけど、あなたに褒められたことだけはかなり不愉快ね」

 

「っ……!」

 

 さすがは鈴音だ。その口撃力たるやAクラス並と見える。

 真正面から口論になれば、人格すら否定されかねない。

 

「お、おい……よせって。俺らから喧嘩仕掛けたってなったらあの人に怒られるぜ」

 

「ちっ……」

 

 後ろで控えていた男が、山脇の肩に手を乗せ落ち着かせていた。 

 

「はっ、さすがのお前らでも今度のテストで赤点を取ったら退学ってのは知ってんだろ? お前らが退学するのを楽しみにしてるぜ」

 

「残念だけど、Dクラスから退学者は出ないわ。むしろあなたたちが退学するんじゃないかしら?」

「く、くくっ……こりゃお笑い様だぜ」

 

「俺たちは赤点を取らないために勉強してんじゃねえよ。より良い点数を取るために勉強してんだ。お前らと一緒にすんな。大体、なんだよ。フランシス・ベーコンだとか言ってるがテスト範囲外の部分を勉強して何になる? んな余裕があるようには見えねえけどな」

 

「え?」

 

 鈴音にしては珍しいほどに素っ頓狂な声が出たな。

 テスト範囲じゃない、ねぇ……。

 それが本当のことだとすれば、オレたちは無駄なことをしていることになる。

 

 勉強が無駄かどうかは別の話として、だが。

 

「自分たちのテスト範囲もろくに理解してねぇってか? こりゃあ不良品のレッテルも間違ってないわな」

 

「いい加減にしろよ、覚悟は出来てんだろうな!」

 

 もう我慢ならなくなった健が腕を伸ばし、山脇の胸倉を掴み上げた。

 そのままもう片方の腕を振り絞り、顔面にパンチを入れようとした時――

 

「はい、ストップストップっ!」

 

 その間に割り込んできたのは、赤みがかったブロンドヘアの女子生徒だった。

 呆気に取られ、健の拳が硬直する。

 

「んだテメェはっ! 部外者が口出すなよ」

「部外者ー? この図書館を利用させてもらっている生徒として言わせてもらうけど、暴力沙汰を見逃すわけにはいかないの。それでもやるって言うなら外でやってもらえるかな?」

 

 声を荒げるでもなく、淡々とした口調で二人を諌める。

 それに気を削がれたのか、健が山脇の胸倉から手を離した。

 

「それから君たちも口が過ぎるんじゃないかな? これ以上続けるのは勝手だけど、学校側に報告しなきゃだから落ち着いてほしいよ」

 

「わ、悪い。そんなつもりは、なくてだな……悪かったよ一之瀬」

 

 山脇という生徒は一之瀬と呼ばれた少女のことを知っているらしく、ばつの悪そうにして謝っていた。

 男の性格からして、一之瀬は同じCクラスの人間だろうか。それにしては介入が遅かったから、上のクラスってのが妥当な線か? 

 どちらにしてもオレには関係のない話だな。

 

「さて、Dクラスのみんなも勉強を続けるなら静かにお願いね。以上っ」

 

 言うだけ言ってから元の場所へ去っていく。

 オレは何となくだが、一之瀬という人間からはお人好しのような何かを感じていた。

 少なくとも、堀北のようなトゲはまるで感じられない。

 

「くっくっくっ……」

 

「ど、どうしたの海斗くん? 悪代官みたいな笑い方して……」

 

「誰が悪代官だっ。そうじゃなくてあいつの顔見たか?」

 

「脇山くんのこと?」

 

「誰だよそいつ。脇田だぞ」

 

「あれ? そんな名前だったっけ……?」

 

「そうに決まってる」

 

 本当は違ったような気がするが大したことじゃないだろう。

 

「いやあの一之瀬ってやつが来た時の態度と顔を見たら笑えてきてな……ぷっ、くっ……あっはっはは」

 

「ちょ、ちょ、ちょっと聞こえちゃうよ!」

 

「それは困るな」

 

 スッと笑いを収めるオレ。

 

「堀北と違って、きちんと場を収めていったな」

 

「別に私は場を収めようとしたわけじゃないわ。ただ本当のことを口にしただけ」

 

「その方が質悪いだろ……」

 

 似たようなことを考えていたのか、清隆がぼやいた。

 

「ねえ……そんなことよりもさ、テスト範囲外って言って、たよね?」

 

 オレは以前に茶柱先生が告知したテスト範囲を聞いていなかったから知らないが、勉強会を開いた鈴音が言うには現在やっている部分らしいが、Cクラスの生徒が言うには範囲が違うらしい。

 それこそそいつらの情報を鵜呑みにするならの話だが、雰囲気からしてオレたちのクラスを貶めるために言ったようには感じられなかった。

 

 ひよりに会った時にでも軽く聞いてみるか。

 

 昼休みが終わるまでの間、オレは鈴音の用意した問題用紙に手を付けることもなく買った本を読み耽っていたのだった。

 

「はー、面白ぇな。もう一回読むか」

 

 気が付けばオレは教室に戻っていた。

 鈴音たちの姿はない。

 オレを置いてどこかに行ったらしい。

 

「なんてヤツらだ」

 

 何だかとてつもないブーメランを投げてしまった気がするが、気の所為だろう。

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

「今度は何を読んでいるんですか?」

 

 オレが珍しくブックカバーを掛けた本を読んでいたからか、ひよりがそう言ってきた。

 

「なにわ探偵シリーズの1作品目だ」

 

「以前に朝霧くんが推していた作品ですね。実際に読んでいるところを初めて見ました」

 

「ついこないだ最新巻が発売されてな。それで読み返してたんだ」

 

「私もシリーズ物を読む時はよく読み返しますのでよくわかります」

 

 ちらっとひよりの読んでいる本の背表紙に目を向ける。

 恋愛小説マイブームがまだ続いているらしい。その本は本屋にPOPがでかでかと貼られていたので、オレも前に軽く読んだことがあった。

 

 内容は血の繋がっていない男女だが実の姉弟のような関係の二人がメインのお話だったはずだ。男の方はダメダメだが女の方はそんな男を溺愛というか甘やかしているといった感じの。

 

 そんな二人の関係にヒビが入ったのは、男の方に好きな人が出来たことがキッカケだった。女はそんな男を応援しながらも無自覚な恋慕の情を募らせていくが、男が気付くといった気配はなく恋人となった2人は3人で暮らそうという話になる。当然のように恋人の女は男の姉を自称する女に対して家を出ていくように言うが、弟のように思っている男から離れるのを嫌った女は拒否する。

 その理由は――恋人の女の目から見れば、姉の女は明らかに男のことが好きなように見えていたからだった。男にそのことを伝え、本人の口から言ってもらうことで遠ざけようと考もしたが、逆効果になる可能性を考えて女は渋々ながら諦めることにしたのだった。

 

 その一方で姉の女は働き先にいる上司の男に口説かれているうちに想いが惹かれていき、結婚を前提とした付き合いをすることになる。以前に弟の恋人から家から出ていくように言われていたことをキッカケに弟から離れ、上司の男と二人暮らしを始めてしまう。それが影響で大きく変わっていく。

 

 姉の方は円満な生活を続けていたが、弟の方は姉に支えられていたことで生活していた面が強く、恋人との生活はとてもじゃないがいいものではなかったのだ。そして、そのことで男は姉がいなくなったことで姉の存在を強く意識し始めるようになり、恋人との関係も上手く行かなくなる。

 

 遂には欠けてしまった存在を求めるようにして、男は姉の所へ行ってしまうのだ。そこからはお互いの気持ちを再確認し合い、ハッピーエンド(?)な感じで物語は終わる。

 

 賛否両論ではあったが、かなりの部数が売れたらしく映画化もされていた。

 ちなみに残された恋人と上司のスピンオフ作品が最近発売されたとか何とか。

 

「脇本だか門脇って生徒知ってるか?」

 

「いったい誰ですか?」

 

「このあいだ図書館の方で会ったんだが、Cクラスの生徒らしいから知ってるかと思ったんだが……」

 

 休みの日があれば日がな一日読書しているエリートぼっちのひよりには難しい話だったか。

 オレはひどく悲しくなった。

 

「……な、何ですか。憐れみの視線を向けてくるのはやめてください」

 

「ぼっちだとか思って悪かったな」

 

「ぼっちではありませんからっ。そ、それよりも……名前をもう一度言ってくれませんか?」

 

 心の中だけに留めておくはずの言葉がつい口から溢れてしまった。 

 

「だから門倉だか倉本って生徒を知らないか?」

 

「さっきと全然違いますね。脇本さんか門脇さんではありませんでしたか?」

 

「大体似たようなもんだろ」

 

「私に聞く気があるのかが怪しいですよね……」

 

 あの時は読書の方に集中してたからモブの名前なんて憶えちゃいない。

 ひよりは本に栞を挟み込み、少しだけこっちに顔を向ける。

 

「で、いるのかいないのかどっちだよ」

 

「……そう、ですね。朝霧くんはその生徒と図書館で会ったんですよね?」

 

「そうだが」

 

「それはいつのことですか?」

 

 急に真面目な顔になり、顎に手を当てながら言う。

 

「うーむ。どこだったかなぁ……昨日だったような、明日だったような気がするぞ」

 

「明日というのは斬新ですね。流石の名探偵ひよりちゃんでも未来は予知できませんので現実的な情報をお願いしていいですか?」

 

「おい、今自分で名探偵つったか?」

 

「情報をお願いします」

 

 自分から言い出したのに恥ずかしいのか、ちょっとだけ早口で催促してくる。

 ふっ、まあいいだろう。名探偵ひよりちゃんの実力をこのオレが確かめてやるぜ!

 

「その日のことはよく憶えてるぜ。オレの好きなシリーズの最新巻が発売された日だった。買ってすぐに雨音を聞きながら優雅に読書をしようと思ったんだが不幸なことにDクラスの勉強会があった……そのことを残念に思いながらも読書を楽しんだ」

 

「勉強会の方はどうなったんですか」

 

「いつの間にか終わってた」

 

「勉強しないと退学になってしまいますよ。そのために勉強会を開いているんですよね?」

 

「テストくらい余裕だな」

 

 実際のところ、テスト範囲外の問題が出てきたとしても余程のことがなければ満点が取れる自信があった。もっともそんなに高得点を狙う理由がないから取らないけどな。

 

「そうなんですか? ちなみに小テストの点数を聞いても?」

「100点だ」

「朝霧くんは勉強も出来るんですね。私は80点でした」

 

「ってのは冗談で100引く100点だったな」

 

「……えっ」

 

 ひよりがオレの点数を聞いて、目を点にさせる。

 0点だけに点……。

 

「それも冗談なんですよね」

 

「あははははっ」

 

「それは笑いごとじゃないです……」

 

 目を伏せ、悲しそうな顔に見せる。

 

「よかったら私が勉強を教えてあげますよ」

 

「だが断る」

 

「でもそれでは朝霧くんが退学になって……」

 

「なるようになるだろ。んなことよりもCクラスの生徒の話をしてくれ」

 

「あ、はい……山脇くんの話でしたね」

 

「そうそう。そんな感じの名前だったな」

 

 オレはようやく山脇という名前の男のことを思い出した。

 何やら納得はしていなさそうだったが、ようやく本題へと入る。

 

「確かに山脇くんはCクラスの生徒ですが、彼がどうかしたんですか?」

 

「その脇がつっかかって来たんだが、その時に妙なことを言っててな」

 

「妙なこと、ですか」

 

「どうにもオレたちのクラスが知っているテストの範囲と違うとか何とか」

 

 別にだからどうしたって話ではあるんだが、せっかく事情を知っている人間と知り合いなのだから聞いてみようと思ってのことだった。

 

「そういえば……そんなことを山脇くんが教室で言っていたのを聞いた気がしますね」

 

 ひよりは少しだけ考えるような仕草をして、言葉を続ける。

 

「たぶんですけど……先週の金曜日に中間テストの範囲変更が告知されましたので、そのことではないでしょうか」

 

「オレだけが聞いてなかったってならありえる話だが、他全員が聞いてなかったってのは考えにくいな」

「聞いた話によれば、AクラスやBクラス共に告知されているようですし、伝達ミスかあるいはDクラスだけ意図的に省かれたのか……」

 

「はぁん」

 

 どちらにせよ、テスト範囲が変更されたというのは間違いようのない事実らしい。

 

「テスト範囲は憶えているので教えましょうか?」

 

「いや、いいわ」

 

「そう、ですか……」

 

 残念そうだったが、勉強しないのに教えてもらってもな。

 ぱたりと本を閉じる。

 まだ昼休みが終わるには少しばかり早かったが、教室に戻るか。

 

「じゃ教室に戻るわ」

 

「せっかくの友達がいなくなるのは悲しいので退学しないでくださいね」

 

「おう」

 

 まだこの学校がどんなモノなのかすら知らないのに退学をするのは、推理小説の犯人を知らずに読むをのをやめる程度には面白くないからな。

 




いったい、何脇くんなんだ……。
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