ようこそ禁止区域出身の男がいる教室へ   作:白崎くろね

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第15話 中間テスト

 

 

 ――中間テストはいよいよ明日となった。

 

 授業も終わり、放課後となった後は英気を養うか一夜漬けで勉強するぐらいのもんだろう。これから友達と朝までカラオケに出掛けようなんて考えるヤツはいないはずだ。そういうのはテスト後にやるのが鉄板だしな。

 

 勉強するつもりはなかったが、今日は部屋で大人しくしてるか。

 そう思って席を立ち、教室から出ようとして――それを教壇の前に出てきた桔梗によって引き留められてしまった。

 

「みんな、ちょっとごめんね。帰る前に私の話を聞いてほしいんだ」

 

 こっちを見て、にっこりと笑顔を向ける桔梗。それに爽やかな笑みを返して、がらがらっと教室から出ようとするが……

 

「特に朝霧くんは残ってね」

 

 と、釘を刺されてしまう。

 このまま強引に出てもいいんだが、ちょっぴりだけ後が怖かったので大人しく席に戻る。

 Cクラスの生徒に絡まれて以来、オレは勉強会に顔を出していなかったからだ。これといった理由はないが強いて言うなら気が乗らなかったからか。そのせいで桔梗から毎日メールが届いていた。

 

 メール文化どころか携帯でのやり取り自体に慣れていないため、オレは普通にメールを見逃す。次の日に教室で会った時に『何で返事くれないの』的なことを言われてからようやく気が付くのだ。前に寛治に入れてもらったグループチャットだか何だかも滅多に確認していないから、いつの間にかグループに参加していた麻耶に『朝霧くんってチャットしないの?』って言われる始末だった。

 

 別にメールやチャットの類が嫌いというわけじゃないのだが、電話と違ってお互いの声も聞こえずにやり取りするというのは何か変な感じがするのだ。いちいち細々とやり取りするぐらいなら電話で済ませた方が手早くないか? と前々から思っていた。というか電話でいいだろ。そう思わないか。

 

 なんてことを言ってしまえば、何かしら言われることは間違いないので言わない。

 まあ、メールやチャットの良いところだってあるよな。待ち合わせ場所の連絡とかは後で見返すことの出来るメールの方が便利っちゃ便利だ。あとは細かい連絡事項とかだな。

 

 あ、そうそう。この学生証端末を色々とイジってたんだが、フリーのアドレスを取得できることに気が付いた。その他にもチャットアプリのIDも複数取得できるようだった。

 試しに取得してみたフリーアドレスで秀雄にスパムメールのようなものを何通か送り、三年の知らない先輩の写真を適当に加工してからアイコン登録したチャットIDでアダルトなグループに何度か招待してみたが気が付くことはなかった。

 これは使えるな、と思って遊ぼうと思ったのだが……よくよく考えれば、この学校専用のアプリでそんなことを繰り返していたらアイコン元の本人にバレるどころか、学校側に咎められかねないので封印した。いつか有効活用出来るその日まで。

 

「明日はいよいよ中間テストなわけだけど、そのことで少しだけ点数アップするための秘策があるの。それがこのプリント用紙なんだけど……」

 

 そうして配られたのは、問題用紙と解答用紙。

 

「これは、テストの問題……? もしかして櫛田さんが作ったの?」

 

 これまでの勉強会では鈴音が勉強のための問題を用意していたが、今回は桔梗が用意したものらしい。そのことに鈴音が驚いた様子を見せていた。

 

「ううん。この問題は過去問なんだ。昨日の夜に先輩から譲って貰ったの」

 

「か、過去問……? え、えっ、もしかして結構信憑性高いやつ?」

 

「何でも最初の1年生が受ける中間テストは毎年同じ内容らしくて、これをきちんと憶えておけば、テストの点数も上がると思うんだ」

 

「う、うおおおっ! マジか。マジか! 櫛田ちゃんマジ天使だな!」

 

 寛治がこれ以上ないってほどのオーバーリアクションで喜んでいた。それには他のヤツらも同じ様子で、テンションに差こそあれ有り難みを感じているようだった。

 

「何だよぉ、こんなんがあるなら最初から勉強なんてしなきゃよかったよなあ」

 

 そう思わなくもないが、一夜漬けで憶えられる内容なんて高が知れてるんだから勉強の意味はあったと思うぞ。

 

「須藤くんもこれで安心だね」

 

「おう。助かるぜ。さんきゅーな」

 

「これがあれば朝霧くんも0点を取る心配はなさそう」

 

「さあ、どうだろうな。名前の書き忘れで0点かもしれない」

 

「それは絶対やめてねっ」

 

 今までで一番大きな声で言われてしまった。

 流石に名前の書き忘れなんて意図的でもなければ難しい。

 ポンコツであることを予めインプットされたロボットでもなけりゃな。

 

「これは他のクラスには内緒にしよーぜ! そんで全員で高得点を取って驚かせてやろうぜ!」

 

 寛治がそう言うが、そう言われたらやりたくなってしまうのがオレという人間だ。

 後でひよりにでも渡してやろうか。

 

「櫛田さん。今回はお手柄ね」

 

 珍しいことに鈴音が褒める。

 そのことに少しだけ驚く。桔梗が。

 

「え、えへへ。そっかな」

 

「私には過去問を利用するという手はなかったから、素直に感謝するわ。それに有効な過去問のようだしね」

 

「うんっ! 友達のためだからね!」

 

 う、胡散臭ぇ……。

 これっぽっちもそうは思ってなさそうな感じが逆に尊敬するわ。

 

「池くんじゃないけど、これでみんな高得点を取っちゃうかもっ」

「あとはテスト本番までにどのくらい憶えられるかだけね」

 

 それに関しては本人の頑張りように架かっている。

 

「それじゃ、私たちも帰ろっか」

 

「待って。一つ。一つだけあなたに聞きたいことがあるわ」

 

「聞きたいこと?」

 

 テスト内容と同じだとされている過去問が届いたことで、みんなの顔が明るい状態で教室から出ていく中で鈴音だけが真剣な顔で桔梗に向き直っていた。

 教室にいるのがオレと桔梗と鈴音に清隆の4人だけとなった今、こいつは何を聞くというのか。

 

「もし、これからもあなたが私たちDクラスのために協力してくれるのなら、どうしても確認しなければならないことよ。嘘は吐かず、本音で答えてちょうだい」

 

 そんな状況に置かれても、桔梗は笑顔を崩さない。

 それがどれだけの威圧になっているのか、この場にいる人間は正しく理解しているように思えた。

 本性を知っているオレと、何かを感じ取っている鈴音。そして、人を観察しているような清隆の目には、いったいどんな姿が映っているのか。

 

「――あなたは、私のことが嫌いよね?」

 

 そう、はっきりと口にした。

 

「おいおい……」

 

 今にも何かが始まってしまいそうな一発触発な空気の中で、清隆が気怠そうな声を漏らす。

 前々から感じていたことだが、綾小路清隆という人間から感じられる気配はかなり洗練されているが、少なくとも表面上の気配は酷く希薄的なのだ。

 意図的に隠しているにしてはあまりに自然体すぎるため、オレの勘違いという可能性もあるが――そんなことはどうでもいいか。

 

 清隆が内面にどんな怪物を飼っていようが、オレには関係ないな。

 この学校で過ごしていれば、いずれ知るだろう。

 楽しみはその時まで取っておけばいい。デザートは最後まで取っておく派だ

 

「どうして、そう思うの?」

「そう感じたから、という以外の答えはないのだけれど……間違ってる?」

「……はは、あははっ」

 

 帰る準備を済ませてから、笑顔で振り向いて一言。

 

「そうだね。大っ嫌い」

 

 そう、ハッキリと伝えたのだった。

 これ以上ないほどに真っ直ぐに。

 

「わかったわ。これであなたとは気兼ねなく付き合っていくことができそう」

 

 やっぱ女っておっかねぇわ。

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 

「――よし、欠席者はなし。どうやら全員揃っているようだな」

 

 朝になり、茶柱先生が教室へやってきた。

 その言葉は皮肉げだったが。

 

「お前らバカ共にとって、最初の関門と言えるわけだが、今から少しだけは質問を受け付けてやる」

 

「僕たちはこの数週間の間、必死に勉強をしてきました。このクラスで赤点を取る生徒はいないと思いますよ」

 

「随分と自信満々だな」

 

 洋介にしては珍しく挑発的だったが、今月の最初に行った小テストの結果が発表された時に言われたことを考えれば見返してやりたいと思うのも無理ないか。

 

 しかし、ここで赤点を回避できないようなら全てが実力で決められるこの学校を乗り切ることはできないだろうからな。本当なら不意打ちの小テストで退学者が出てたっておかしくないわけだからな。

 真の実力を測りたいというなら、それこそ最初の一ヶ月で半数以上を切り落とせばいい。それをしていないというのは、いくら何でも甘すぎるんじゃないか?

 

「もし、この中間テストともう一つの期末テスト。そのどちらも赤点を取らなければ、お前たちを夏のバカンスに連れて行ってやろう」

 

「バカンス?」

 

「そうだ。青い海に囲まれた絶海の孤島なんてのはどうだ」

 

 つまりは無人島のような場所ってことか……?

 オレは小説の中でしか海というものを知らないので、それは楽しそうだ。

 だがよく考えてみれば、赤点を取れば退学なのだから夏のバカンスは既定路線なんじゃないのか。

 

「皆……俺たちでやってやろうぜええええ!」

 

『うおおおおおおおお!!』

 

 寛治に続いて、オレを除いたクラスメイトたちが咆哮を上げる。

 こいつらも海が楽しみで仕方がないようだな。

 

 茶柱先生がそれを黙らせ、ようやくテスト用紙が配られていく。

 そして、合図と共に中間テストが始まった。

 

 最初のテストは茶柱先生の担当する社会だ。

 5教科の中で最も勉強が楽な科目であり、それこそ過去問を憶えるだけで点数を取ることが出来る。

 

 そして、肝心のテスト用紙は過去問とそのまんまの状態で出題されていた。

 何たる手抜き作業なのかと疑わざる得ないだろ、これ。

 少しは改変されているだろうとは思っていただけに拍子抜けだった。

 

 まあ、これならどんな馬鹿でも赤点回避どころか高得点を取れるだろう。

 少なくともオレなら満点を取ることだって出来る。が、ここは80点くらいに留めておくか。

 暗記してあるとはいえ、全部を憶えているってのも変な話だしな。

 残りの20点分はありがちな間違いでも書いておけばいい。

 

 

 続いて、2時間目は国語だ。

 これも社会と同様に憶えるだけで点数を稼ぐことはできるが、文章問題などは少しばかり考える必要があるだろう。

 確実に点数の取れるであろう漢字の書き取り問題や文法問題は普通に解きつつも間違いを入れておいた。こればっかりは暗記してても間違うことはあるからな。

 ざっと自己採点して見るが、70点ちょっとってところか。

 

 

 そして、次は理科の時間か。

 これは重要な語句を憶えていれば、そこそこ点数が取れるようになっている。

 理由とかを述べる問題に関してはそれっぽいことを書いておけば、大丈夫だろう。

 自己採点、60点くらいだ。

 

 

 午前中最後のテストは最難関である数学だ。

 周りを見てみれば、過去問というネタバレ用紙があったにも拘わらず頭を抱えているヤツらが何人もいた。

 もうこれに関しては応用の連続だから難しいのだ。基盤となる公式を理解さえしていれば、後は当てはめて考えるだけだから社会や国語なんかよりも簡単だとは言えるものの、それを憶えることが何よりも難しい。

 オレは簡単そうな問題だけを解いていき、難しいそうな問題はパスしておいた。

 自己採点にして50点……無難な点数じゃないか?

 

 午前中のテストが終わり、

 勉強会のメンバーが桔梗のところに集まっていた。

 

「いやー、めっちゃ楽勝だな!」

「余裕余裕。俺120点取っちゃうかも」

 

 寛治がはしゃぎ、春樹も笑顔で頷いている。

 それでも最後のテストである英語が心配なのか、過去問を片手に勉強しているようだ。

 

「海斗くんはどうだった?」

 

「朝霧海斗の点数にご期待ください」

 

「何だかとても心配になってきたかも……」

 

「ま、大丈夫だろ。赤点くらいは回避してる。んなことよりも――」

 

 そう言って、オレは1人だけ集まってきていない人物に目を向ける。

 少しだけ離れた席で、健だけが真顔で過去問を睨みつけていた。

 

「なあ、大丈夫か?」

 

「うっせ。今集中してんだから話しかけんな」

 

 とまあ、そんな具合だった。

 大方、英語だけは他の科目のように憶えられなかったのだろう。

 そもそも日本語じゃないわけだしな。

 

「お、おい……大丈夫なのかよ。勉強しなかったとか?」

 

「勉強は、したにはしたけど……寝落ちしたんだよ」

 

「ええっ!?」

 

 その事実に桔梗が驚きの声を上げる。

 事態は思ったよりも深刻のようだ。

 

「くそっ、全然頭に入んねぇ」

 

 苛立ったように言うが、それも仕方のないことかもな。

 残された時間はあと10分足らずといったところ。

 

「こうなったらアレしかないな」

 

「アレ?」

 

「カンニングすればいいんじゃないか?」

 

「ええっ!?」

 

 またもや桔梗が驚きの声を上げた。

 そんなオレの提案に鈴音が苦言を呈する。

 

「馬鹿なことを言うのはやめなさい」

 

「でも時間がないんだろ」

 

「そんなことを学校側は認めるわけないわ」

 

「バレなきゃ犯罪じゃない」

 

「はあ……」

 

 鈴音が頭が痛くなってきたとばかりに溜息を吐いた。

 

「絶対にバレない保証があるとでもいうの?」

 

「まあ、ないわな」

 

「そういうことよ」

 

 ほぼ絶対にバレない方法がないわけでもなかったが、とりあえずは頷いておいた。

 

「とりあえず、須藤くんは点数配分が高めの問題を中心に憶えていきましょう」

 

「お、おう」

 

「言っておくけどカンニングしたら承知しないわよ」」

 

「お、おう」

 

 健の頭はすでにキャパオーバーなのか、カクカクとしていた。

 まるで処理落ちのコンピューターみたいだな。

 

「だ、大丈夫かな?」

 

「さあな」

 

「さあって……」

 

「後はなるようにしかならんだろ」

 

 そうして、短い休み時間は早くも過ぎていく

 最後のテスト、英語は簡単な問題だけを解いて終えた。

 まあ、赤点ではないだろうって無難な点数だ。

 

 

 

 

 

 




次回更新、本日中のつもりが明日になっていました。
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