ようこそ禁止区域出身の男がいる教室へ   作:白崎くろね

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第16話 結果

 

 

 今日はテストの結果が発表される日。

 オレがいつものように遅れて教室に入ると、すでに全員が揃っていた。

 どうやら、テストの点数が気になって仕方がないようだ。 

 

 そんな重苦しい空気に構わず、席に腰を下ろす。

 

「先生。今日のいつ頃に結果が告知されるのでしょうか?」

「お前はそこまで気にするような生徒じゃないだろ平田。勝手にテストの点数を教えるのは問題だが、少なくとも赤点じゃないはずだ」

「……いったい、いつですか」

 

 こいつは点数が知りたいってよりは、この空気を早く何とかしたいって感じだな。

 

「喜べ、平田。急かさずとも今から発表してやる。放課後では色々と不都合だからな」

 

「それはどういう意味でしょうか?」

 

「そう慌てるな。じきに分かる」

 

 手続きと言われ、まず想像するのは退学の手続きだろう。

 教師がテストの点数を知らないとは思えないし、もしかしたら退学者がいるのかもしれない。そういった想像から教室内の緊張感が高まっていくのを感じた。

 

 小テストの時と同様に中間テストの結果が黒板に張り出される。

 

「正直なところ、お前たちがこんなにも高得点を取るとは思わなかったぞ。数学と国語に社会は同率の1位、つまり満点が10人以上もいたということだな」

 

 過去のテスト用紙が配られたのは昨日のことだが、それでも同じ問題を予め知っていたというアドバンテージは大きいのだろう。

 しかし、それで顔色が明るくなるのは一部に生徒だけで、健が寝落ちしたという英語の点数はまだ発表されていなかった。

 手続きというのは、やはり健の点数が悪かったからなのか、それとも茶柱先生がただ脅し文句を口にしただけなのか――

 

「さて、最後のテスト結果だが……」

 

 勿体付けたようにして、茶柱先生が最後の紙を張り出した。

 健のテスト結果は五科目中四科目は60点前後と半分以上の点数を出しており、理科と数学に至ってはオレよりも高かった。

 

 そして、肝心の英語は最下位の39点。

 

 ざっと計算してみたが、本当にギリギリのところで赤点を回避している。

 だが先の言葉の裏を読み取った上で再計算してみると、40点が今回の赤点ラインという可能性もあるが……。

 

「っしゃぁ!」

 

 がたっと椅子を鳴らし、健が立ち上がりガッツポーズを取っていた。

 

「見ただろ先生! これで俺たちもやる時はやるってことが証明されたな!」

 

 ふふん、と鼻を鳴らし腕を組みながらドヤ顔をキメる。

 俺が先生の立場だったら一発は殴ってるかもしれないほどにキマっていた。

 流石は寛治だ。

 

「ああ、認める。認めざるを得ない結果だからな。それは間違いないが――」

 

 茶柱先生は不敵な笑みを浮かべ、教壇から取り出した赤ペンで線を引いた。

 

「あ?」

 

 健が素っ頓狂な声を出すのは、その線が自分の名前の上に引かれたからだ。

 真っ赤なラインは色のごとく赤点を示しているのだろう。

 

「な、何だよそれ」

 

「もうわかっているんだろう? お前は赤点だ須藤」

 

「は、は……? なに吹かしたこと言ってんだ! 俺が、赤点だって!?」

 

 その言葉に健が顔を怒りで真っ赤にさせ、反論した。

 

「須藤。吠えたところで結果は覆らん。お前は英語で赤点を取ってしまったんだ」

 

「ふざけんなよ! 赤点は30点って言ってたじゃねえか!!」

 

「30点? いったい、いつ誰がそんなことを言った?」

 

「いやいやいやっ! 先生は言ってたって! なあ!?」

 

 フォローするようにして寛治が言うが、それに答える声はない。

 30点というのは、前回の平均点÷2の30点ってヤツだな。

 こいつらは気付いていないが、普通はテスト毎に赤点ラインは変わる。

 

「どんなことを言っても無駄だ。お前の退学はすでに決定事項。今回の中間テストでは、赤点ラインは40点未満となっている。だからつまり1点足りないということだ。実に惜しいな」

 

「よ、40点!? んなばかなこと聞いてねえよ!」

 

「ふー。ならお前にもわかるように赤点の判定基準を教えておいてやろう」

 

 黒板に書き出されたのは、79.6÷2=39.8という計算式。

 

「これでお前が赤点であることは明白だな。では以上だ」

 

「う、ウソだろ……俺が、退学って……」

 

「実に2か月間ご苦労だったな。退学届けは放課後に受け付けてるから必ず提出するように。その際には保護者も同伴する義務があるからな。その連絡は私がしておこう」

 

 そこには何の慈悲もなければ、雑務をこなす軽さで健の退学が進んでいく。

 こういう場合、普通であれば赤点保持者には追試という形での救済措置があるはずだが、この学校に追試というものは存在していないのだろう。

 

 まさに全てが実力で決まる学校に相応しい対応ということか。

 

「さて、残りの生徒は本当によくやった。文句なしの合格だ。次の期末テストで赤点を取らないようにするだけだ。頑張ってくれ。では次の話に移るが――」

 

「ま、待ってください! 本当に須藤くんは退学なんでしょうか? 何かしらの救済措置は本当にないんですか?」

 

 それでも何かしらの措置を期待し、真っ先に声を上げたのはクラスリーダー的な立場に身を置く洋介。

 

「事実と言ったら事実だ。前々から宣告していたように赤点を取ればそれまでのこと」

 

「……須藤くんの答案用紙を、見せてはもらえないでしょうか?」

 

「見ても結果は覆らんぞ?」

 

 その言葉を予想していたのか、茶柱先生は懐から一枚の答案用紙を洋介に手渡した。

 

「……ない。採点ミスは、ない……」

 

 穴が開くほどにガン見してもなお、答案用紙にミスのようなものは見当たらなかったらしい。

 洋介は暗い顔で力なく席に座る。

 よくもまあ、そこまで一人の生徒の退学で一喜一憂できるよな。これが親友とかならば理解できるが、相手は仲良くもないクラスの不良だ。

 

「納得がいったなら、今度こそ次の話に移るぞ」

 

 もしも、この場で出来ることがあるとすれば、それはこの学校にあるルールに基いた邪道に走る他ないように思えてくる。それが果たして通用するのかは不明だが……最早それしかないな。

 だからってオレがそれをやる理由もなければ、その方法を実行するには懐が心許なかった。

 

 あいつには悪いが、このまま退学を見送るしかない。

 

「……茶柱先生。少しだけよろしいでしょうか?」

 

 意外なことに鈴音が手を挙げ、ゆっくりと口を開いた。

 これまで鈴音から何かを言い出したことは少ない。ほぼないと言ってもいいだろう。それなのに口を出したというのは、これまでの勉強会で健に情が移ったということか?

 

「なんだ堀北。お前からの質問なんて珍しいな」

 

「今しがた先生は前回のテストは32点未満が赤点だと仰りました。それは今回と同じような計算式によって求められたものと思っても構わないですか?」

 

「ああ、それがどうした」

 

「それでは一つの疑問が生じます。前回の平均点を私が計算したところ、60.4でした。それを2で割ると30.2になります。なのに30点未満が赤点だった。つまり少数点以下を切り捨てている。でも今回の計算では切り捨てられていません」

 

 確かにそうかもしれない。

 そう納得させてしまうような勢いの良さはあった。

 だがそれだけだ。前回の少数点は4で今回の少数点は8なのだ。

 その決定的な違いが点数の差異を表していた。

 

「なるほど。それでお前は自分の点数を極端に落としていたのか」

 

「堀北、お前……」

 

 言われて見てみれば、確かに点数が低かった。

 最も本気で平均点を下げたいのなら、クラス全員の平均点を下げる必要があったのだろうが……。

 

 健もそのことに気が付いたのだろう。

 ハッとした視線を鈴音に向けていた。

 

「そんなことはいいですから、前回の計算方法と違う理由を教えてください」

 

 それが最後の悪足掻きだとわかっているからか、鈴音の顔色は言葉ほどに明るくはない。

 

「そうか。ではお前を完全に納得させてやろう。最も薄々察しているいるだろうが……今回と前回で違うのは、四捨五入の差だ」

「っ……」

 

 然しもの鈴音と言えどもこれ以上の追撃はできないのか、押し黙るしかなかったようだ。

 

「本当に今度こそ話は終わりだ。あと須藤は放課後にきちんと職員室に来い。では私は行くぞ」

 

 そう言って、今度こそ茶柱先生は教室を出ていった。

 これで本当に須藤の退学は決まってしまったことになる。

 

「ごめんなさい。私がもう少し、ギリギリまで点数を落としておけば、こんなことにはならなかったわ」

「なんで……お前、俺のこと、嫌いだって……」

 

「私は私のために行動したまでよ。勘違いしないで。それも無駄な努力で終わってしまったけれどね」

 

 こういうのをツンデレ乙とでも言うんだろうか?

 そんな時、清隆が無言で席を立った。

 

「ど、どこ行くんだよ綾小路!」

 

「トイレ」

 

 それだけ言ってから、教室を出てトイレとは反対の方向――茶柱先生の向かった方へと歩いていった。

 オレには何をしに行ったのかはわからなかったが、鈴音は何かに気付いたような感じで後をついていったのだった。

 

「な、何なんだ……?」

 

 自分の退学と不審な様子の二人に対して、困惑している様子の健。

 いったい、あいつらが何をやるつもりなのか。

 興味はあったが、オレが関わる必要はないだろう。

 

 ――そんなことよりも、オレはポケットの中で震えていた端末の方が気になっていた。

 

 差出人:椎名ひより

 件名:テストの件でお話があります

 

 本文:放課後に少しだけお会いできませんか?

 

 用事の内容はわかっている。

 ()()()()()()()()()のことだろう。

 オレはわかったとだけメールを返信した。

 

 

 

 

 




今回も短めですが、次回で第1章の入学編は終わりになると思います。
そして、次回の更新はちょっと遅くなるかもしれません。


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