ようこそ禁止区域出身の男がいる教室へ   作:白崎くろね

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令和になってしまいましたが更新です。



第19話 濡れ衣

 

 

「頼む! 俺たちを助けてくれ綾小路!」

 

 その言葉には、焦りの色が含まれていた。

 事情を考えれば当然のことではあるが、それを知らない清隆にとっては困惑以外の何物でもないだろう。

 

「いきなり何だよお前たち……というかどうやって入ってきた?」

 

「どうやってって鍵に決まってるだろ」

 

「もしかして鍵を落としたのか、オレは」

 

 そう言って、ポケットを弄る清隆だがポケットにはきちんとカードキー入っていたようだった。

 そりゃそうだろうな。外ならともかくとして部屋の中にいるんだから自分はどうやって入ったって話だ。

 

「ここはオレたちグループの部屋だろ? だから池や他のヤツらとも相談して合鍵を作ったんだぜ。まさか知らなかったのか? オレたちグループは大体みんな持ってるぜ。ま、海斗は持ってないけどな」

 

 そりゃこいつの部屋のカードキーなんていらねぇからな。

 

「……物凄く重大かつ恐ろしい事実を事後に知ってしまったぞ」

 

 清隆の顔には平坦な言葉以上に恐怖の感情が浮かんでいた。

 ……それもそうか。

 

「……わかってる。オレはよくわかってるぞ。そりゃ重大だよな」

 

「あ、ああ……わかってくれるか。だったらカードキーを返却するように言ってくれないか?」

 

「は? 何で返すんだよ。俺がポイントを払って買ったんだから俺のだ」

 

「……健。察してやれ、オレたちは男だろ?」

 

 神妙な顔で、オレが言う。

 オレには清隆の気持ちがわかるからな。

 あの尊だってプライドを捨てて泣きついてきたほどだ。

 

「オレたち男同士なら理解出来るはずだ。高校生が一人部屋で、たった一人で没頭する行為って言えばもうわかるだろ?」

 

 その言葉で一気に察したのか、健は気まずそうに目を逸した。

 

「わ、わりぃ……配慮がなかったかもしんねぇ」

 

「待て待て待てっ」

 

「というわけで、オレたちはここらへんでお暇させてもらうか」

 

 そのまま引き返そうとするオレたちを見て、清隆が全力で引き止める。

 

「相談って何だっ? 何か話があったんだよなっ」

 

「何だよ、せっかく気を利かせてやったってのに」

 

「冗談でも変なことを言うのはやめてくれ」

 

「仕方ねぇな」

 

 解散の流れを作ったつもりだったが、逆効果だったらしい。

 

「……それで話ってなんだ」

 

「ああ、その話なんだがもうちょっと待ってくれ。もう一人呼んでるんだ」

 

 須藤は目的を思い出したのか、神妙な面でどかっと床に腰を下ろした。

 オレもそれに倣って、遠慮なくベッドの上に座る。

 清隆が微妙な顔をしているが、気にすることはない。

 

「なあ、カーペットぐらい買おうぜ。ケツが痛くてかなわねぇ」

 

 オレたちが好き勝手する様を見て、何かを諦めたのかため息を吐いていた。

 どうやら何か飲む物でも出してくれるようだ。

 

「オレはコーヒー牛乳でいいぞ」

 

「んじゃ俺はコーラだな」

 

「何なんだこいつら……」

 

 コーヒー牛乳があるかどうかは知らないが、もう文句を言うつもりはないらしい。

 程なくしてチャイムが鳴り、玄関から桔梗が顔を覗かせていた。

 もうひとりの協力者ってあいつだったのか。まったく知らなかったが、間違いなく問題解決する上で役に立つ人材だということは間違いないな。

 

「あれ? もう二人とも来てたんだ?」

 

「……ひょっとして、櫛田も合鍵所有者なのか?」

 

「そうだよ? みんなで集まる場所が綾小路くんの部屋だって聞いたから……もしかして知らなかった?」

 

 部屋に入るために持ち歩いているのか、鞄からキーを取り出して見せてくる。

 

「あの、これ……返すね?」

 

「別にいいよ。一人だけから返してもらっても意味ないしな。どうも須藤は返す気がないらしくて」

 

 妙に寛大な対応だな。

 オレだったらこうはいかない。

 

「櫛田も来たことだし、本題に移ろうぜ」

 

「まあ、いいか……それで相談ってのは?」

 

 櫛田に飲み物を用意しながら、清隆はようやくといった感じで聞いてくる。

 

「俺たちが今日の昼に呼び出されたのは知ってるよな?」

 

「うん、知ってるよ」

 

「ああ……それで、その……アレで、さ……俺たち、もしかしたら退学になるかもしれない」

 

「え……退学!?」

 

「いや退学じゃなくて停学だからな」

 

「そう、停学」

 

「なんだ停学かぁ……って停学でも大問題だよっ!?」

 

 かなり意味が違わい。

 まあ、どっちにしろ衝撃的な話だったのか、桔梗が安心してから再度驚きなおすという器用なことをしていた。

 

「もしかして、先生と揉めちゃったとか……? 悪く言って暴言、とか……?」

 

「いやそうじゃねぇよ」

 

「ということはアレか? 胸ぐらを掴んで『おい殺すぞ』とか?」

 

「それは俺じゃねえよ、やるなら海斗の方だろ」

 

「ええっ!? さすがにヤバいよ!?」

 

 おいおい……。

 

「テメェっ! 何バラしてんじゃボケェ! ぶち殺すぞゴラァ――ってな風にか? 失礼だなお前ら」

 

 オレは健の胸ぐらを乱暴に掴み上げ、至近距離でガン飛ばしながら暴言を吐き立てるという演技をした。

 

「怖っ!!」

 

「おいおい……それはシャレにならないだろ」

 

「てか汚ねぇ……唾飛んでるっつの」

 

「うわっ、汚ねっ!」

 

 顔に飛んだ? 唾を手で拭いてオレの制服にこすりつけてくる。

 オレのイカした制服が台無しだ。

 

「ってのは冗談で――」

 

「ま、まさか……その上、殴る蹴るの暴力まで加えちゃったとか……ヤバいヤバすぎるよ」

 

「…………」

 

 どうも迫真の演技すぎて、すっかり信じ込んでしまったみたいだ。

 冗談のつもりだったんだが、失敗したな。

 

「いや、それはさすがにねぇけど……まあ、似たようなもんかもな。もしかしたら考え方によってはもっと悪いかもしれねぇけど」

 

 いったい何をやらかしたんだろうか、オレは。

 

「実はこないだ部活の帰り道にCクラスの連中を殴っちまって。それでさっき停学にするかもって脅されてたんだ」

 

「立派な暴力行為じゃねえか。それを脅されたって悪いヤツだな」

 

「なに他人のフリしてんだよ……お前も当事者だろ」

 

 オレが当事者という事実はどうあがいても消せないらしい。

 っていってもオレはあいつらに指一本たりとも触れちゃいないんだがなぁ。

 と思ったんだが思わずカウンターで気絶させちまったんだった……。

 

「殴ったってどうして? 正当防衛?」

「そうだぜ。本当はあいつらが先に殴ってきたんだけど、何故か俺たちだけが殴ったことになっててよ。捏造だ捏造」

「つか、オレから殴り掛かるとかありえんだろ。この三ヶ月ちょっとでオレの何を見てきたんだかなって話だ」

 

 超が付くほどのイイ子ちゃんだしな、オレ。

 

「…………えっと、海斗くんが本当に正当防衛だったかどうかは置いておくとして。もう少し具体的に話してもらえるかな?」

 

「おいおい……オレが嘘を吐いてると言いたいのか?」

 

「それを確かめるためにも話を聞きたいんだよ。それで?」

 

「……完全に嘘を吐いてると思ってやがる」

 

「あー、あのときは海斗とバスケをする約束をしててな。それで一緒に部活してたんだけど、部外者が入ることが気に入らなかったのかイチャモンを付けてきてよ。そん時は先輩がいたから何とかなったんだが、帰り際に顧問の先生から、夏の大会でレギュラーとして迎え入れるっつー話をされたんだ。あと海斗は部活に誘われてたな、即断ってたけど」

 

「そりゃあ面倒だしな。それにオレは遊び感覚だが、お前らは真面目に大会だとかを狙ってるところには入れねぇよ」

 

 オレが真面目にスポーツをしている姿がまったく想像できなかったから、もっともらしい理由を付けただけだけどな。

 

「レギュラーって凄いじゃん須藤くん! それに海斗くんも部活に誘われるなんて凄いね。やっぱりうまいの?」

 

「別に大したことな――」

 

「まるで初心者とは思えなかったな。だから部活に入れば俺と同じくレギュラーになれる人材だぜ」

 

「それってなんか勿体なくない?」

 

「今はオレのことはどうでもいいだろ」 

 

 楽しかったことは認めるが、それを毎日のように繰り返してやるのは正直面倒だ。

 それに本格的に部活動を始めれば、オレの嫌いな基礎練習ってのに参加させられちまうだろうしな。

 

「んでよ、レギュラー候補に選ばれたのは一年の中じゃ俺だけだったんだわ。それが気に入らなかったのか、我慢の限界が来ちまったのかは知らねぇけど……あいつら――小宮と近藤の野郎が特別棟に呼び出しやがってよ。無視して帰ろうかとも思ったんだが、そのまま引き去るのは負けた気がしたからケリを付けようと思ってさ。いや、もちろん暴力とかじゃなくて言葉での話し合いでだからな?」

 

「うんうん。わかってるよ。でもどうして海斗くんも付いていったの?」

 

「特に理由はないが、しいて言えば面白そうだったからか? 野次馬根性ってヤツかもな」

 

「あー、なるほどー!」

 

 なんか清々しいほどの笑顔で頷く桔梗。

 

「話を続けるが、特別棟に行ったら小宮と近藤のヤツ以外にも石崎ってヤツがいてだな。痛い目を見たくなけりゃレギュラーを辞退しろって脅してきたんだ。もちろん俺は断った。そしたら、そいつらが海斗を殴ったもんだから、仕方がなく対応したってわけだ」

 

「ま、そんな感じだな」

 

 話せたことでスッキリしたのか、健の顔はどこか誇らしげだった。

 

「つまり、一方的に悪者扱いされたってこと?」

 

「そうなるな」

 

 あの現場は誰がどう見ても、オレたちは悪くないはずだ。

 一人だけ気絶させちまったが、あれはラッキーパンチのようなもんだからノーカンだろう。

 

「うーん、本当にCクラスの方から起こした問題なら悪くないよね」

 

 疑ってるぞ、と言わんばかりの目をオレにだけ向けてくる桔梗。いったいオレが何をしたというのか。

 しかし、そのことに気が付くことなく須藤が返事を返した。

 

「ああ、もちろんだぜ。なのに教師連中はちっとも信じてくんねーし」

 

「まあ、実際ダメージは向こうが上っぽいしな」

 

「じゃあ明日のHRで茶柱先生に報告しよう。私も一緒に言うから」

 

「それは助かるな。是非ともオレたちの潔白っぷりを証明してくれ」

 

「なんか偉そうだなぁ……」

 

 ……実際問題として、櫛田がオレたちからは手を出していないと主張したところでCクラスの連中が訴えを撤回するようには思えない。それは桔梗とて理解しているだろう。が、ここは健を落ち着かせることを最優先として望む言葉を言ってみせたってところか。

 現に桔梗が発言してくれると聞いて、健のヤツは安心している。

 

「ちなみに学校側は須藤の発言をどう対応したんだ?」

 

「来週の火曜日までに証拠を提示しろとさ。それが無理なら俺たちが悪いってことで夏休みまでの停学処分らしい。ついでにクラス全体のポイントも大幅にダウンだってよ。んな証拠がどこにもないってのに……いったいどうしたらいいんだ?」

 

「やっぱり正直に自分は何もしていないって地道に訴えていくしかないんじゃないかな? 何も悪くないんだったら信じてくれるはずだよ」

 

 やはり、どこか楽観的な考えに聞こえる。

 あまり事態を深刻に捉えていないのか、もしくは――

 

「それはどうなんだろうな……事態は思ったよりも深刻だと思うぞ」

 

「そりゃどういうことだよ。まさかとは思うが、俺たちを疑ってんのかよ」

 

「そうじゃないが、少なくとも学校側は信用していないはずだ。そうじゃなきゃ証拠を提示するように求めたりはしないだろうからな。だったらたとえ櫛田が矢面に立ったとしても、事態が治まるとは到底思えない」

 

「それは……」

 

 これまで黙って話を聞いていた清隆が言う。

 理想を語るのが桔梗だとすれば、現実を語るのが清隆と言ったところか。

 

「だから向こうが悪かったとしても、殴り返したという事実が残る以上はこちら側が一定の罰則を受ける可能性は高いだろうな」

 

「は? そりゃおかしいだろうが! 殴らてんのに何も抵抗せずに受け止めるのが正しいって言うのかよ! ふざけてんだろうが!!」

 

 須藤がドンッッ、とテーブルを力強く叩きつけ、コップの中身が飛び跳ねる。

 その大きな音に驚いたのか、桔梗の肩がビクっと震えた。

 急なことだったにも関わらず、清隆は大して驚いていないように見えるのは予想可能な行動だったからだろうか。

 

「わ、悪ィ……驚かせちまったな」

 

 オレには演技にも見える桔梗の怯えた表情を見て、我に返った様子の健が申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「……証拠を見つけても二人は罰則を受けちゃうってこと? 何か回避する方法はないのかな……」

 

「難しいな。この場合は喧嘩両成敗が成立するかもしれないけど、オレたちDクラスとCクラスではクラスポイント自体に明確な差が存在するからな。完全な痛み分けとはいかない。ようやく今月からポイントが付与されるってタイミングではかなりの痛手と言ってもいい」

 

「で、でもよぉ……! 相手は三人だぜ三人! こっちは二人で人数的にも不利じゃねえかよ……! 下手したら怪我してたのはこっちだぜ?」

 

 といっても、オレを殴ってきたヤツはカウンターで気絶したから実質2対2だけどな……。

 それを学校側がどう見るかは未知数だ。

 

「あまり楽観的なことを言うのもアレだが、一週間の猶予があるしな。今はそれを有効活用するしかないだろう」

 

「くそっ、どうしてこんなことになっちまうんだよ……」

 

「ほんと災難だよね。ここからって時にそんな事件が起きちゃうなんて」

 

「どこか非難するような言葉に聞こえるのは、オレが当事者だからだろうか」

 

「うっ、マジですまねぇ……」

 

「あっ、ち、違うよ! 別に須藤くんのことを責めたわけじゃないからねっ!?」

 

「本当は思ってるんだろ? 須藤のせいで今月の0ポイント生活を強いられて『マジ最悪だわ』的なことを。なあ? 素直になってもいいんだぞ」

 

「そんなひどいこと思ってないよ!?」

 

「……もちろん冗談だ」

 

 桔梗なら思ってても不思議じゃない気がするが、猛烈に睨まれているのでこれ以上の発言はやめておこう。

 呪い殺されるかもしれない。今夜は眠れなさそうだ。

 

「でも、ありえるかもしれないな」

 

「えっ、綾小路くんもそんなこと思ってるの!?」

 

「いや、そうじゃなくてだな……Dクラスの誰かしらは似たようなことを考えるんじゃないか?」

 

「それはアレか? どう頑張っても無理っつー話かよ」

 

「可能性としてはありえそうだ」

 

「それが本当だったら、まずいね……」

 

 正直なところ、オレや健に対する女子の風当たりは強い方だ。

 事実として、4月分のマイナスはオレたちのせいだと思っている生徒は少なくないだろうからな。そこで7月の0ポイントもオレらのせいで差し引かれたとなれば、もう収集がつかないかもしれない。

 

 まあ、そうなったとしてもオレはどうでもいいっちゃどうでもいいが……健のヤツはそうはいかないだろう。

 

「そうなる前に明確な証拠が必要だな」

 

「何か証拠となりそうなものに心当たりとかないのかな?」

 

 証拠、証拠か。

 オレの勘違いじゃなければ、あの場にはもう一人いたはずだ。

 しかも一部始終だけじゃなく、最初から最後まで見ていたヤツが、な。

 

 しかし、それが誰なのかまではわからない。

 見たことはあるような気がするのだが、生憎と気配と後ろ姿しか覚えちゃいなかった。

 さすがのオレも気配だけでは誰かを特定するのは、難しい。それにそいつがDクラスを助けてくれるとも限らない。もしも、それがCクラスの生徒であれば意味もないことだ。

 

「無実を証明する他の方法は、Cクラスの子たちに嘘の発言を認めさせることだけど……」

 

「それは望めねぇよ。あいつらが素直に嘘を認めるわけねーしな」

 

「だよね。じゃあやっぱり地道に潔白を訴えるしかないみたいな感じだね……」

 

「――仮にだが、目撃者がいたとしたらどうなる?」

 

 だが、このままでは話が進展しない。

 砂粒のような可能性にしか過ぎないが、ここはその線を辿るしかないだろうな。

 

「もしかして心当たりがあるの?」

 

「さあな。だだ可能性はあるんじゃないか? 限りなく薄い可能性だが、いないとも限らないだろ」

 

 その人物がいた、という事実は隠しながら言う。

 

「……そうだな。もしも目撃者がいるとすれば、話は大きく変わってくるな」

 

「じゃあ目撃者探しをしようよ!」

 

「目撃者を探すってどうすんだ?」

 

「やっぱり地道な聞き込みじゃない? 結構時間はかかると思うけど、私なら色々と友達もいるし心配しなくても大丈夫だよ!」

 

「名乗り出てくれればいいんだけどな……」

 

 清隆が言うように簡単にいくとは思えないが、何もしないよりはいいだろうな

 空っぽのコップをチラつかせ、オレは暗に飲み物のおかわりを催促する。

 それに気が付いた清隆がはあ……っとため息を付きながら、オレのおかわりついでに全員のコップに飲み物を注ぐ。

 オレにはコーヒー牛乳。桔梗にはインスタントコーヒー。健にはお茶を。

 

「……図々しいこと言ってんな、ってのは俺にもわかるんだけどよ、今回の件……内密にお願いできねーか?」

 

 須藤は猫舌なのか、ふぅふぅとお茶を冷ましながらそんなことを言う。

 

「内密に……?」

 

「ああ、特にバスケ部の人たちの耳には入れたくねぇんだ。理由はわかんだろ?」

 

「……須藤」

 

「なあ、頼むよ。これまでの付き合いでわかってっと思うけどよ、俺からバスケを取り上げたら何も残らねーんだよ」

 

 自分のことを誰よりも自覚しているのだろう。

 健にしては珍しいほどの神妙な顔で頼み込んでいる。

 しかし、それは難しい相談だ。

 

「そんなの無理だろ」

 

「は? 何でだよ」

 

「噂ってのは遅かれ早かれ広まるもんだ。今すぐには広まらなくても、そのうち勝手に広まっていくんじゃねえか?」

 

「それは確かにあるかも……」

 

「マジかよ……」

 

 もしかしたら、Cクラスのヤツらがすでに言いふらしているかもしれないしな。

 

「むしろ逆に考えてみろ」

 

「逆って?」

 

「向こう側がこっち側に不利な噂をバラまかれる前に、こっちから先に真実を口にする。そうすりゃ正直者ってことである程度の信憑性も生まれるってもんだ」

 

 真実を隠せば隠すほど周囲の人間は勝手に勘違いしていく生き物だからな。

 

「海斗くんってば頭いいね」

 

「だろ?」

 

「そういうのがなければもっといいのに」

 

「これがオレだ」

 

 謙虚なオレとかむしろ誰だよって感じだ。

 

「じゃあ当面の目的は目撃者探しだね。でもこの件には須藤くんや海斗くんが直接絡むのはよくないと思うんだけど、どうかな綾小路くん」

 

「そうだな。当事者が動くとよくないだろうな」

 

「けど、お前らに全部任せっぱなしってのは……」

 

「やってくれるって言うんだから任せておこうぜ」

 

 楽ができるならとことん楽をしたいタイプだからな、オレは。

 

「なんか海斗くんが妙に偉そうなのはいいとして、私たちはただクラスメイトの力になりたいだけだよ。どこまで出来るかはわからないけど、精一杯頑張ってみるから。ねっ?」

 

「わかった。お前らには迷惑な話だろうけど任せることにするわ」

 

「よし、これで問題は解決だな。オレはさっさと帰って本を読むことにするぜ」

 

「なーんか海斗くんからは当事者らしさが感じられないなぁ……」

 

「気の所為だ」

 

 実際のところ、当事者という感覚や問題を解決しなきゃならないという責任感も感じてない。

 コーヒー牛乳を飲み干し、席を立つ。

 

「んじゃ俺も帰るわ。悪かったな、急に押しかけちまって」

 

「合鍵がいつの間にか作られてたこと以外は気にしなくていい」

 

 オレたちは適当に別れの挨拶を済ませ、オレと健は自分の部屋へと戻っていく。

 桔梗は聞き込みの件で話があるのか、清隆の部屋に残っていた。

 どんな話をするのか、大いに気になるところだがオレには関係のないことであることは間違いない。

 

 さて、今日発売の新刊を朝まで読むとするか……。

 




今回(あるいは前回)から会話文同士の間を開けてみたので、試験的にアンケート機能を追加してみました。
気軽に答えられるはずなので、よかったら答えてみてください。

ハーメルンでは規約上アンケートは感想欄を避けることとなっているのでご協力ください。

会話文との間に余白を追加してみましたがいかがでしょうか?

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