ようこそ禁止区域出身の男がいる教室へ   作:白崎くろね

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思ってたよりも早く仕上がったので更新です。


第21話 やはり変わらぬ日々

 

 

 人には、誰しも弱点と呼べるものが一つや二つくらいある。もしかしたら、三つや四つ……もっとあるかもしれない。それが普通。弱点のない人間なんてのは極稀だ。ロボットのような精神構造でもしてなければ、な。少なくともオレの知る限りでは殺した親父くらいのもんだ。

 

 そして、オレには弱点が一つだけある。

 未だに克服できず、変わらない唯一つの弱点が。

 

 それは不変という名の毒だ。代わり映えしない日常、毎日の繰り返し、慣れから生じる飽きがそれに当たる。

 最初はどんなことだって楽しめる自信がある。本当に些細なことだっていい。それが未知の体験であるのならば、オレはそれで満足できる。しかし、それが普通の物となった瞬間、オレという人間はそれを純粋に楽しめなくなっちまう。それが唯一の弱点らしい弱点

 

 ――それが今だ。

 

 最初は楽しかった。訓練校時代と比べれば、何の変哲もない普通の学校生活。尊や薫がよく言う貧民の暮らしってヤツ。むしろ退屈そうにも思える生活だが、その中に色んな未知の体験が詰まっていた。知識では知っていたが、実際にはやったことのないことがたくさんあった。誰かと群れて行動することが少ないオレという存在が、まるで善良な一般市民みたいなことをしているのも存外に楽しめた。

 

 ……だが、それも長くは続かなかった。

 完全にではないが、確実にそれはやってきている。

 飽きという名の毒が、オレを刻一刻と蝕んでいくのがわかる。

 

 早くて一ヶ月、遅くても二ヶ月か三ヶ月後にはこの場所から立ち去っている自分の姿を容易に想像することが出来たのだから、何ら不思議なことじゃない。

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 朝、というよりはギリギリ早朝といった感じの時間に目が覚めてしまった。

 というのも何かイヤな夢を見ていたような気がする。服が汗でびっしょりだし、パンツも濡れたタオルみたいにぴっちりと張り付いている。まるで局所的な台風にでも見舞われたみたいだ。

 

「へっくしょい!」

 

 もう夏なのにも拘わらず、何だか妙に肌寒いのは汗で濡れているからか。

 

「……つか、前にもこんなことあったな」

 

 あの時は、確か……禁止区域でのことを夢に見ていたんだったか。

 だったら今回も似たようなもん……か?

 何を夢で見ていたのかわからないのは妙に気持ち悪かった。

 しかし、思い出せないものは思い出せない。

 

「さて、寝よ寝よ……」

 

 汗の染み付いた服を脱ぎ捨て、全裸ですっぽんぽんのまま布団に包まる。

 身体がべたべたとしていて気持ち悪かったが、そんなことで寝れなくなるオレじゃない。

 

 ………………。

 

 …………。

 

 ………。

 

「ね、寝れねぇ……」

 

 やっぱり身体を拭いてから服を着よう。

 適当に買った安物のシャツを袋から開封し、新品のパンツも同じように取り出す。

 これで全身新品だ。新鮮な気持ちで寝られること間違いなしだぜ。

 

 ………………。

 

 …………。

 

 ………。

 

「だーっ! 寝れねぇ!」

 

 まるで寝られる気がしなかった。

 このどこでも寝られるオレが……。

 何かよくないことが起きているのかもしれない。

 シャワーでも浴びよ……。

 

「何なんだいったい……」

 

 シャワーを浴びてから、身体を眠くさせるために1分間腕立て100回チャレンジを行ったり、仮想敵を前にして中国拳法の技を一通り試して見たり、柿ピーを袋からバラ撒いて空中で何個食べれるかの記録取ったり、反復横跳びで分身が出来るかの謎に迫ったりと色々やってみたがやっぱり眠れなかった。

 

 どこぞの神がオレに向かって今するべきことは寝ることではないとでも言っているに違いない。

 まったく、傍迷惑な神だ。滅びてしまえ、そんな神。

 

「神で思い出したけど、アルゼンチンの国旗って威圧感あるよな」

 

 誰もいない天井に向かって、オレは一人呟く。

 

「その国旗の太陽な? あれってインカ帝国におけるインティっていう太陽神のことらしいな」

 

 国旗がわからないだって?

 上下が青色で、真ん中が白。その中央に顔のある太陽が浮かんでるのがアルゼンチンの国旗だ。

 覚えておきな。

 

「んで、息子の名前はマンコ・カパックって言ってな。そいつがクスコ王国における初代王様だっつー話だぜ?」

 

 何だ変な名前って思ったか?

 でも嘘は言ってないぜ。全部本当だ。

 変に感じるのは、オレたちが日本人だからだ。向こうから見れば、日本人の名前だって相当変な名前だって存在するはずだからな。

 

「たしか某有名アニメのキャラにいるカツオをイタリア人が発音すれば、男性器のことを指すらしいってのを本で見た気がするな。だったらカツオくんとマンコさんは仲良くなれるかもしれない」

 

 こう、アダムとイブ的な感じで。

 ちなみに王様のマンコ・カパックは男だっていう注釈を心の中で入れておくぜ。

 だが女版のマンコさんだって世界のどこかにはいるはずだ。 

 

「…………ってオレはいったい誰に向かって話しかけているんだろうな?」

 

 まだ見ぬ上の階層の住民は答えてはくれないのだ(そりゃそうだ)

 何だか非常に虚しい気持ちになった。

 

「さて、ちょっと早いが家を出るか」

 

 もちろんジョギングをするためだ。

 

 訓練校では常に何かしらの運動行為をさせられていたが、この学校ではそんなことをさせられることはなかった。だが自堕落に過ごしていれば、人はすぐにでも堕落してしまう生き物だ。

 努力、友情、勝利などは到底似合わないオレだが、ローマは一日にして成らずという言葉もある。何事も何かしらの積み重ねがなければ立ち行かないという意味だ。

 

 それにジョギングは思っているよりも良い気晴らしになる。

 走りすぎなければ、そんなに疲れるものでもないしな。

 しかし、さすがに長袖のジャージは暑いだろうか。

 そう思って、オレは結構前に買っておいたランニング用の半袖シャツを引っ張り出した。

 

 今日は全身が新品の新品デーだな。

 

「清々しい日になるに違いない(根拠なし)」

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 一定のリズムを保ちながら、いつものジョギングコースをゆっくりと走り続ける。

 朝の潮風を浴びながら、島(?)の外周をぐるりと三週して、徐々に中心部へと寄るように走るのがいつものコース。今日はそこに追加で二週ほど足していた。時間が有り余っているというのもあるが、代わり映えしない光景ってのは飽きちまうからな。 

 

 よく利用しているコンビニが見えてきたところで、オレは歩調を緩めていく。

 体内時計ではだいたい午前六時くらいを指している。ジョギングを終えるにはちょうどいい時間だろう。

 

「珍しい人物がいたものだな」

 

 コンビニで紙パックのコーヒー牛乳を購入し、駐車場で寄りかかりながら休憩していたタイミングで声を掛けられる。

 いったい誰だ……? そう思い、顔を向けるとそこには鈴音兄――堀北学が立っていた。

 実に二ヶ月ぶりに見たぜ。

 

「それはこっちのセリフだ」

 

 オレとは違って、鈴音兄は本格的な白のジョギングウェアに身を包んでいた。

 三年生のそれも生徒会長ともなれば、プライベートポイントも随分と潤ってるんだろうな。

 少しばかり羨ましく思う。

 

「で、何の用だ?」

 

「生徒会長である俺としては事件の渦中にある生徒を見て見ぬふりはできない、といったところだ」

 

「……はぁん」

 

 オレが悪事を働いていないか監視してたってところか。

 

「俺にはお前が率先して何か問題を起こすような生徒には見えないがな」

 

「そんなことはないぜ。オレは昔から面倒ごとばかり起こすって周りに言われて来たぜ? 現にこうして人を殴って事件まで起こしてる」

 

 誰かに迷惑をかけてきた回数は数えきれないのがオレだ。

 それはオレを知る人間なら誰もが認めるところだろう。

 

「しかし、それにしては冷静のようだな」

 

「よく言われるぜ。だが表向きは、だ。男がみっともなく言い訳するのはカッコよくないだろ? 内心じゃクラスの連中に申し訳なさすぎて心はボロボロだ。今すぐ泣きてぇよ……」

 

 何だか胡散臭い人を見るような目で見てくる生徒会長様。何だよオレが嘘を吐いてるってか。あぁん?

 泣き寝入りするのは性に合わないが、何もまるっきりデタラメってわけでもないんだ。

 オレが殴っちまったのは事実だし、それで人が怪我をしたのも事実。だったらこれ以上何をすればいいんだ?

 

 と、思いつつも停学処分で自宅謹慎になるのは面倒だからな。証拠集めはしっかりするつもりだ。

 もちろん表立ってするつもりはない。

 理想はいつの間にか事件が解決していることだ。

 

「ふっ、まあいいだろう。お前は面白いヤツのようだからな、今回の事件でお前という人間を見極めさせてもらうとしよう」

 

「はっ、見極めるも何もそれ以外には何もねぇよ。いちいち深読みするのがアンタの悪いクセだな」

 

「それが単なる深読みだったのならそれはそれでいい。だが俺は俺の直感を信じている」

 

「……おまけに超頑固ってところだな。ほんと妹と似てるな」

 

「一つ言っておくが、アレは兄である俺に似ているのでなく鈴音自身が俺に似せているにすぎん。だからこそ俺は――」

 

「はいはい。シスコン乙ってな」

 

 あまり深く関わっても得をすることはなさそうだ。

 いちいち絡まれそうだし、適当にあしらっておくか……

 

「あれから生徒会に興味は出たか?」

 

「……は? 急に何の話をしてるんだ?」

 

 そう思ってたら、いきなり話を変えられてしまった。

 

「前に聞いた時は興味はないと言っていたが、今はどうかと思ってのことだ」

 

「あのなあ……本当にわからねぇヤツだな。オレはついこないだ暴力事件を起こした人間だぞ? それがどうしたらそんな話になる」

 

 何言ってんだこいつ状態だ。

 

「今回の事件を覆せるとしても、か?」

 

「何が言いたい」

 

「お前がもしも生徒会に入ると言うのであれば、俺が自ら手を打ってもいい」

 

「勘弁してくれよ、本当に何が狙いなんだ?」

 

「言っただろ、お前という人間に興味があると」

 

「……まさかと思うがホの付く感じのことじゃないよな」

 

 ぞわわわっ、と背筋に鳥肌が立つ。

 ホモにはいい思い出がない。ホモにいい思い出があるヤツはそれこそホモだろうが……。

 少なくともオレはホモじゃない。男もイケるがホモでないのだ。

 

「安心しろ、そうじゃない」

 

「その言葉信じるからな!」

 

 自慢じゃないがオレはろくな人間じゃない。

 本当に自慢じゃねえが……オレみたいな人間に興味を持つヤツもまたろくな人間じゃないだろう。

 

「……お前と最初に会った後、俺はお前という人間を調べられる範囲で調べてみた」

 

「…………」

 

 最初っていうと鈴音と揉めてた日のことか……。

 

「まず、お前は最初から入学を決められていた生徒ではないということがわかった」

 

「それがどうした。単に後から申し込んだかもしれないだろ?」

 

「それはないな。お前も既に気が付いているだろうが、この学校は普通の学校のそれとは大きく異なる。入学を希望したからといって、それが叶うような場所じゃない。何かしらの選ばれるべき要因を持った者だけが選ばれているのだからな。詳しいことは部外者であるお前には告げられないが、入学に申し込むも申し込まないもない」

 

「へー、そうだったのか。知らなかったな」

 

 本当は入学する前に聞いたから知ってたけどな。

 

「それでもオレが有能とは限らないだろ」

 

「ああ、そうだな。だがそんなお前を坂柳理事長は高く評価していたぞ」

 

 坂柳という名前を出され、内心で悪態を吐く。

 何勝手に人の話をしてくれてんだあのおっさん……。

 

「だったら何なんだよ」

 

「理事長は無闇に人を評価するような人ではないからな。そんな人が強く評価する人間に興味を持ったというだけの話にすぎん。であれば、生徒会に勧誘するのは当然のことだろう」

 

「そんな当然は捨てちまえ」

 

 それで絡まれる方の身にもなれって話だ。

 そう、思うだろオレ。

 

「とにかくオレは生徒会に興味はねぇよ」

 

「そうか」

 

「だがどうしてもオレが欲しいって言うなら――」

 

 ……どうしてだろうな。

 オレという人間は、なぜ自ら面倒事に突っ込んでしまうんだろうな。

 それがオレという人間のサガか。

 

「――お前がオレよりも有能だってことを証明してみな。オレは自分よりも弱いヤツの下に付くつもりはないからな」

 

「……ほう」

 

 オレの発言に面食らった様子の堀北兄。

 それもそうだろう。興味を持っているとはいえ何の実績のない男が強気なセリフを吐いたんだからな。

 それにさっきまで有能じゃないアピールをしてたんだ。オレだって面食らう。というか何言ってんだろうな、オレ。

 

 脳裏に過るのは、暇つぶしという言葉。

 オレはこいつに何かを期待しているのかもしれないな。

 何か面白いことが起きるかもしれないという予感が……

 

 もしかしたら、その時は生徒会に入ってみるのも悪くはないかもしれないが、

 オレよりも優れた人間はもうこの世には存在しない。

 

「んじゃ、オレはもう帰るぜ」

 

 しかし、少なくとも今は興味の一欠片もなかった。

 返事も待たずにオレはその場から踵を返し、寮へ向かった。 

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 自分の部屋のドアを開けようとして、カードキーの存在を思い出す。

 この学校に来るまで、カードキーというものを持ったことがなかったので未だに慣れないのだ。

 オレは普通の鍵であればお手製のピッキングツールで3秒と掛からずに開けられる。そうじゃなくても針金やら細い棒でもあれば5秒もかからない。

 

 という理由でオレには特定の鍵を持ち歩くという習慣がなかったのだ。

 

 最初の頃は何度もカードキーを忘れてしまい、よく管理人にお世話になっていた。

 そのおかげもあって、管理人のおっちゃんとはマブ中のマブである。今日も帰ってきたオレを見て話しかけてくれたほどだった。

 

『またカードキーを忘れたのかい』

 

 と、言ってくるほどだ。

 そして、オレはこう返すのだ。

 

『オレがそう何度も忘れると思うか?』

 

『きみねぇ……昨日もコンビニに行くとか言って忘れてたよね』

 

『おいおい……たまたまかもしれないだろ

 

『じゃあ一昨日のこともたまたまかい?』

 

『……ふんっ、嘘を吐こうとしても無駄だぜ。証拠を出せよ証拠をよ!』

 

 どうせ証拠なんて出てきやしない。

 

『……発効記録を見れば一発だよ。見るかい?』

 

『…………結構だ』

 

 どうやら、ばっちりと証拠は残っていたようだ。

 

『ま、忘れたらまた頼むぜ』

 

『……まあ、いいけどね』

 

 これでオレのコミュニケーション能力がバッチリだってことがわかってくれただろう。

 

「さて、もう1回シャワー浴びて飯でも食ったら学校に行くか」

 

 カードキーをスキャンさせ、玄関でシャツやズボンを素早く脱ぎ捨てて部屋に入る。

 

「…………あ」

 

「…………あ?」

 

 オレがリビングに足を踏み入れると、何故か中にいた少女と目が合う。

 深く濁った青い瞳、長い真っ白なぼさぼさの髪。小さい体躯が猫背で余計に低く見え、服装はボロ布同然の姿で少しだけ胸が露出している。それにしばらく風呂に入っていないのか身体から脂っぽく生臭い。どう見ても不審者同然の女がオレの部屋に突っ立っていた。

 しかも気配がかなり希薄で、一瞬でも気を抜けば見失ってしまいそうなほどだ。これだけで目の前の少女がただものじゃないことがわかる。

 

 というか……こいつは……。

 こいつには、見覚えがある。

 

「お前、ここで何してんだ?」

「…………」

 

 間違いない。

 こいつはオレの知り合いだ。

 それだけは間違いようがなかった。

 

 




原作の「暁の護衛」に禁止区域ルートがあるので、もしかしたら生徒会ルートもあるかもしれませんね。たぶん、敵は彼でしょうけどね。

さて、ラストの子は誰でしょうね
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