ようこそ禁止区域出身の男がいる教室へ   作:白崎くろね

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どうやら、昨日今日とでランキング入りしていたみたいです。
どうもありがとうございます。


第23話 目撃者

 

 

 朝の教室はいつも以上に会話で賑わっていた。

 その話の大半が先の暴力事件のことだ。

 昨日に行われた目撃者探しは本を読むのに忙しく、参加していないが話によればクラスのイケメン代表こと洋介とコミュニケーションの女王こと桔梗の2チームに分かれて調査を行っていたらしい。しかし、その調査ではこれといった情報は得られなかったようだった。

 まあ、それも当然だろう。一度や二度の調査で目撃者を見つけられるなら誰も苦労はしない。それにもしかしたら既にCクラスが手を打っていて、目撃者を隠している可能性だってあるのだ。そうであるなら目撃者探しは時間の無駄でしかないかもしれないな。

 

「はーっ、本当にCクラスが悪いって証明出来るのかなあ……ほんとは須藤たちが悪いんじゃね?」

 

 とあるグループの会話に耳を傾けてみれば、すでに心が折れかけているヤツがいた。

 

「目撃者を見つけるしかないよ。それに須藤くんのためにも海斗くんのためにも頑張ろうよ、池くん」

 

 それを宥めるのは、やはりクラスの人気者の桔梗だ。

 

「そうは言ってもさー、目撃者がいるとは限らないよな。それに目撃者を見つけてもCクラスを味方したら終わりなわけだろ……? だったら探したって無駄だと思うんだよねー」

 

「僕らが最初から疑ってちゃ何も進展しないよ。違うかい?」

 

 それに加えて、洋介も寛治にやる気を出すように訴えかけている。

 まさに人気ツートップの二人がケアしている形だ。

 

「そりゃそうだけさぁ……いくら頑張っても俺らが悪いってことになったらまたクラスポイントが0になるんだぜ? もうやるにやりきれないぜ」

 

「その時はまたみんなで協力して1から頑張ろう。まだ入学して3ヶ月さ」

 

 実にリーダーらしい言葉を言う。近くにいる女子なんかは洋介の言葉に顔を赤らめながら何度も頷いていた。

 

「でもさ、されど3ヶ月だぜ? その間に頑張ってきて小さいながらもポイントを手に入れたのが失われるってなったらモチベーションが維持できないぜ」

 

「その気持ちはよくわかるよ。僕だってポイントが失われるのは心が痛い。でもポイントが全てじゃないと思うんだ。僕はDクラスの仲間のことを大事にするのが最も大切なことだと思っている」

 

「それがたとえ須藤や海斗が悪かったとしてもかよ」

 

 その言葉にも洋介は迷わずに首を縦に振った。

 まさに善人の鑑みたいな男だ。オレには正直眩しすぎる。

 人間としては実に好感が持てる言葉だが、言っていることは消えることない戦争撤廃を訴えている人たちと何ら変わらないように思える。つまり彼の言葉を聞いた誰もが等しく同じように行動に移せるわけじゃないってことだ。

 たしかに共感するヤツらはいるかもしれない。現に周りにいる女たちがそうだ。しかし、目の前にいる寛治みたいな人間には正しい言葉だけがすべてではないだろう。そういう人たちを納得させたければ、時には正しさから外れることも必要になってくる。

 

「まあ、平田くんの言うことは最もだけどさ、やっぱあたしもポイントは欲しいかなって。Aクラスの連中なんかは月に10万ポイント近くは貰ってるわけじゃん? 正直超羨ましいよね。それに比べて私たちのクラスはドン底中のドン底なわけだしね?」

 

 そんな風に言ったのは、洋介の彼女である軽井沢恵だった。

 てっきり洋介の意見に同調するとばかり思っていたが、反論こそしないものの寛治側の意見を含んだ感じの言葉を口にしたのだ。どちらの意見も捨てることなく、まるでバランスを取るかのような発言にオレは内心で感心する。

 

「それな。なんで俺ってAクラスじゃないんだろうな。Aだったら今頃すげぇ楽しい生活を送ってたと思うぜ。彼女とかも出来てたりしてさ」

 

 ……いや、無理だろ。

 普通に最初のテストで赤点ラインが高すぎて退学コースが関の山だと思うが。

 そう考えたら絶妙なクラス配分な気がしてきたな。

 

「あたしもなあ……Aだったら友達と遊び放題だったのに」

 

「うんうん。それで毎月終わりにお疲れ様会をやるのよねー」

 

「それいいね!」

 

 気がつけば話の趣旨は変わり、自分たちの妄想を語り始める場となっていた。

 先程の微妙に空気が重いよりかはマシなのかもしれない。

 

「一瞬でAクラスに駆け上がれるような裏技でもあったらいいのにな」

 

「そんな方法あるわけ――」

 

「喜べ、池。一瞬でAクラスに行く方法は確かに存在するぞ。」

 

 いつの間にか教室の入り口に立っていた茶柱先生がそんなことを言う。

 それが本当だとしたら大スクープなのではないだろうか。

 

「今、何て言いました……?」

 

「クラスポイントがなくても一瞬でDクラスからAクラスに行く方法があると言ったんだ」

 

 その言葉にフョードル・ドストエフスキーの長編小説である『悪霊』を読んでいた鈴音が顔を上げた。

 ……余談ではあるが、ドストエフスキーと言えば『罪と罰』を真っ先に重い浮かべがちだ。しかし、ミステリー好きのオレとしては『カラマーゾフの兄弟』も捨てがたい。アレは濃密な人間ドラマで構成されていて最も読みやすい作品だと思っている。

 ちなみに『世の中には2種類の人間がいる。『カラマーゾフの兄弟』を読破したことのある人と、読破したことのない人だ』とも言われるほどに日本でも有名だったりもする。

 

 とまあ、少しばかり脱線したが……茶柱先生の発言に教室中の視線が一気に集まった。

 

「またまた~、ご冗談を佐枝ちゃん先生~」

 

 こんなことで冗談を言うとは思えないが、少なくとも寛治は冗談として受け取ったようだった。

 

「本当の話だ。言うのは忘れていたがこの学校にはそういった裏技めいた手段が存在する」

 

「混乱を目的とした嘘言では……なさそうですね」

 

「当たり前だ。お前たちは私をなんだと思っているんだ」

 

 ……いつも報告が遅すぎる先生だと思っているな。

 

「……朝霧、何か言いたげだな?」

 

「……心を読むな、心を」

 

 ギロリとした視線が向けられる。

 おっかねぇ……。

 

「まあ、いいだろう……その方法を今から説明してやる」

 

 そう言って教室の中に入ってきて、説明を始めた。

 

「お前たちには入学式の時に通達したはずだ。この学校にはポイントで買えないものはないとな。つまり個人のポイント――つまりプライベートポイントを使ってAクラスに所属する権利を買うことが出来る……そう、捉えることは出来ないか?」

 

 実際、それでCクラスはテストをカンニングする方法を買ったとの話だ。どんな手段でカンニングが許されたかは興味がなくて聞いてないが……問題はそういった風なことにもポイントが使えるということだ。

 だったらAクラスに入る権利をポイントで買えてもおかしくはない……はずだが……。

 

「ま、マジすか!? で、で……! それはいったい何ポイントで買えるんスか!?」

 

「2000万ポイントだ。頑張って貯めるんだな……そうすればAクラスで夢のような生活が送れるぞ?」

 

 茶柱先生の挑発するような口ぶりで告げられたのは、2000万という途方もない数字だった。

 

「に、に……にしぇんまんぽいんと……そ、そんなの無理にきまっているじゃないっすか!?」

 

「そうだな。確かに通常の手段で集めようと思ったらまず無理だな」

 

 上げて、落とすような先生の発言にブーイングの嵐が巻き起こる。

 そりゃそうだろう。プライベートポイントを得るためのクラスポイントがないから困っているのにプライベートポイントが要求されるという話なのだから。

 逆に考えてみれば、そのクラスポイントを得ずにポイントを得る方法が存在しているということに他ならないのではないだろうか。

 まず、真っ先に思い浮かぶのは他の生徒との取引とかだろう。例えばだが……相手の欲しい物を安く仕入れ、それを買値よりも高く売りつけるというような行為が思い浮かぶ。これは禁止区域では良くやっていたことで、一方のAさんは入手困難だがBさんは入手が容易だった場合、それを吹っ掛けたような値段で売りつける。そういう風に入手が難しい高級品は状況次第では高値で売れるのだ。

 それを行えば時間はかかるが難しいことではない。クラスポイントを稼がずとも2000万を稼ぐのは不可能じゃないってわけだ。

 

「じゃあ……聞くっすけど、過去にその2000万ポイントを達成した生徒はいたんですか?」

 

 当然の疑問、当然の質問だ。

 この学校には色々な人たちが通っており、その中にはオレに似た考えの生徒もいたはずだからな。

 

「残念ながら過去にはいないな。理由は明らかだろう? 入学時のポイントを維持し続けたとしても3年間で360万。それを効率よく増やしていったとしても400万、500万に届くかどうかってところだ。足りないどころじゃないな」

 

「そんなの、無理ってことじゃないですか……」

 

「無理ではない。不可能に近いが不可能ではない……この違いは大きいぞ」

 

 少なくとも全員が2000万を貯めるのは不可能に近いだろう。

 それこそ他クラスから搾り取れるだけ搾り取る必要がある。が、そんなのはプライベートポイントに悩んでいるようなオレたちじゃまず無理な話だ。

 

「私からも一つ質問させていただいてもよろしいでしょうか」

 

 すっ、と手を挙げたのは本の趣味がとにかく素晴らしい鈴音だ。

 

「何だ?」

 

「過去最高どれだけのポイントを得た生徒がいるのかを教えてください。もし、可能であれば得るのに使った手段などもお願いします」

 

「なかなか良い質問だな堀北。今から3年ほど前の話になるが、1人の生徒が約1200万ほど貯めていたということが先生たちの間で話題になったな。あれは卒業を間近に控えたBクラスの生徒だったか」

 

「せ、1200万も!? それもBクラスの生徒が……?」

 

「だが残念なことにその生徒は2000万ポイントに届くことなく卒業前に退学処分となった。退学の理由は当生徒による大規模な詐欺行為が発覚したからだ」

 

「詐欺、ですか……」

 

「ああ、入学直後の状況を理解していない1年生を次から次へと騙し、ポイントをかき集めていたのだ。それで2000万まで貯めてAクラスに移動するつもりだったんだろうが、学校側がそんな不正な手段を見逃すわけもない。よって退学処分となったわけだな。着眼点こそ悪くはなかったと思うが、ルールはルールだからな」

 

 あれ……? オレが考えてた手段って詐欺みたいなもんか……?

 ……ふう、危なかったぜ。このことを聞いてなかったらオレも似たような感じで退学になるところだった。

 

「強引な方法で集めても精々が1200万ってところか……やっぱ無理じゃね?」

 

「どうやら諦めて通常の手段で上を目指すしかないようね」

 

 世の中、ゲームみたいに簡単な裏技があるわけじゃないってことだ。

 

「……そうか。お前たちはまだ部活でポイントを貰っている生徒はいなかったな」

 

 ふと、思い出したかのように茶柱先生がそんなことを口にした。

 

「なんすかそれ?」

 

「部活で活躍したり、貢献度に応じて個別にポイントが支給されるパターンがある。たとえば須藤がバスケ部で大会に出るなどして活躍すればポイントが与えられたりする。さらに優勝などでトロフィーが授与されれば追加でポイントが付与されるといった感じのシステムだ」

 

 知らなかった事実を知らされ、大半の生徒が驚きを隠せずにいた。

 

「ぶ、部活で活躍したらポイントが貰えるんすか!?」

 

「そうだ。他のクラスではすでに伝達されていたはずだ」

 

 はずって……あんた適当すぎるな。

 本当に担任の教師なんだろうか。海斗は訝しく思った。

 

「ちょ、酷いっすよ!? そういうのはもっと早く教えてくれないと!!」

 

「忘れていたものは仕方がないだろう。それに部活はポイント目当てでやるようなものじゃない。この事実は後で知ろうが先に知ろうが影響のないことだ」

 

 まったく反省の色がないな。

 

「いやいやいやっ、そんなことないっスよ!! 先に知ってたら俺は――」

 

「部活に入っていたとでも言うつもりか? そんな軽い気持ちで入部しても活躍したり賞を取ったり出来るとでも?」

 

「そ、それは……で、でも可能性はあるっしょ! 無限の可能性が!」

 

 確かに人はお金のためとなれば、何かに精を出せる生き物だ。全員がそうと言うわけじゃないが何人かはポイント目的で入部を決める生徒だっていたとしても不思議じゃない。それに中学では何かしらの部活に所属していて活躍していたかもしれない生徒だっているだろう。そう考えるとこの情報は意外と重要なんじゃないだろうか。

 

 もしかして、生徒会も入ることで何かしらのメリットでもあったりするんだろうか。生徒会長手当的なヤツが。

 まあ、だとしてもオレは部活にも生徒会にも入るつもりはないけどな。

 

「……そうだな。私も伝え忘れたのは悪かったと思う。だから今から何かしらの部活に入りたいと願うヤツは言ってくれれば推薦という形で担当の先生に話を通しておいてやろう。さて、どうする池」

 

「うっ……」

 

 元から文句だけ言いたかったのか、寛治は特にこれといって部活に入りたいということはなかったみたいだが……何人かの生徒が手を挙げていた。

 

 ……そういえば、健のヤツが大会のスタメンに選ばれるとか何とか言っていたな。

 それが本当だったらクラスにとって大きなアドバンテージになる可能性は高い。

 だから敢えてこのタイミングでこのことを告げたのか……?

 

 いや、ないな。それだけはねぇな。

 

 放課後になったら『カラマーゾフの兄弟』を借りようと思いながら、オレは机に突伏して朝の時間を過ごした。

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 ――と、思っていたのだが……放課後になった瞬間を狙って教室を出ていこうとしたところを桔梗に捕まってしまった。

 

『今日こそは手伝ってもらうからね?』

 

 とのことだ。

 いや、オレがいても特にすることはないんだが……と言っても逃してくれそうにはなかった。

 オー、ジーザス! オレが何をしたというのか。平和で落ち着いた神聖な読書時間を返してくれ。

 

 仕方がない。こうなったらひよりにでも頼んで借りておいてもらおう。

 誰かに借りられて読めないのは困るからな。

 

 タタタ、っと文字を入力してその旨を伝える。

 

『突然だがお前に使命を与えよう』

 

『……? 何ですか?』

 

『カラマーゾフの兄弟を借りておいてくれ。全巻セットでだ』

 

『ふふっ、わかりました』

 

『あ? どうかしたか?』

 

『いえ、ちょうど私も読んでいたところだったので偶然だなと思いまして』

 

『じゃあ読み終わったら教えてくれ』

 

『はい。よかったら私のオススメもお貸ししますので今度感想を聞かせてください』

 

『オッケ-★⌒c( ̄▽ ̄)マカシトキィ!』

 

 よし、これで他の人に借りられていて読めないで悶々とした時間を過ごす必要はなくなった。

 メールなんて憐桜学園では使わなかったから入力に難儀したが今では都会のJKギャル並に早くなったもんだ。

 

「ふっ……」

 

「海斗くんも変な顔してないで話を聞いてね?」

 

「へ、変な顔ちゃうわ! イケメンの笑みと言え」

 

「今のはどう見ても変な顔だったよ、海斗くん……ごめんね?」

 

 そこで謝られると本気で落ち込むんだが……。

 泣くぞコラ! オレが泣いたらどうなるかわかってんのか! 

 

「…………オレ、帰ってもいいか?」

 

「じ、冗談だから帰らないで!?」

 

 まったく冗談には聞こえなかったけどな!

 何なら裏の顔がちょびっと顔を出していたまである。

 

「つか歩きスマホ良くないぞー」

 

「で、目撃者の話だったか?」

 

「無視!?」

 

 歩きスマホ云々と言ってくる寛治はスルーだ。

 人に当たらなければどうということはない。

 

「……うん。中々見つからないから目撃者を探すのはやめて、目撃者の目撃者を探そうと思って」

 

「は?」

 

 何いってんのこいつ。

 

「事件当日に事件現場である特別棟に入っていく人を見てないか探すってことだな」

 

「だったら最初からそう言えよ」

 

「言ったよ!?」

 

「説明下手クソめっ」

 

「ひどい!?」

 

 本を読みな本を。

 読めば説明力も付くはずだ。

 

「そ、それで……どうかな?」

 

「ま、いいんじゃねえの?」

 

「よし、それで頼むわ」

 

「お前は偉そうだな」

 

 何だか当事者のクセに偉そうな健にオレが言う。

 

「誰も海斗くんには言われたくないと思うけどなっ!?」

 

 そして、こいつはツッコミが忙しいヤツだ……。

 いったい何がそうさせるのか。オレにはわからないぜ。

 

 ……これから特別棟に向かおうとした時、1人の生徒がこっちに向かって歩いてきた。

 

「目撃者に関して進展はあったのかしら綾小路くん」

 

「いや、ないけど」

 

 やってきたのは、兄妹仲が一見悪そうな堀北鈴音だった。

 

「そのことで話があるのだけれど」

 

「堀北さんっ! やっぱり協力してくれるんだね!」

 

 鈴音が来たのが嬉しそうな感じで、桔梗は両手を上げて喜び表現する。

 そうして騒いでいるとスマホゲーム? とやらで忙しくしていた健も同じように反応する。

 というかこいつも歩きスマホじゃねーか! 

 

「お、おぉ! 堀北が来れば百人力だぜ! な!」

 

「ああ! まさか協力してくれる気になったのかよー! マジ歓迎するぜ!」

 

「別にそんなつもりはないわ。ただ、無為に時間を消費するあなたたちが愚かに思えたからよ。他意はないわ」

 

「話ってそれを言うためかよ」

 

 やはり協力する気はなさそうな様子の鈴音に寛治が敵意をむき出しにする。

 

「私から言えるのは一つだけよ。あなたたちの探している目撃者はかなり身近にいる。それも同じクラスにね」

 

「マジで言ってんのか? だとしたら誰なんだよ」

 

 ここにきて驚くべき新事実が明かされる。

 いったい、オレたちは何のために放課後を無駄にしていたのか。そう思わずにいられなかった。

 

「佐倉さんよ」

 

 鈴音の口によって告げられた生徒の名前をオレは知っていた。

 

「佐倉さんって……あの佐倉さんだよね?」

 

「あの佐倉さんが誰かは知らないけど、目撃者は同じクラスの佐倉さんよ」

 

 話したことはないが、特にこれといって特徴のある生徒ではない。

 廊下で何度かすれ違ったことがある程度の印象でしかない。

 

「それでよ、どうしてその佐倉っていうヤツが目撃者ってわかったんだ?」

 

「前に目撃者の話を教室でした時、彼女だけが顔を伏せていたわ。それも怯えるようにね。無関係ならそんな顔はしないだろうから間違いなく彼女が目撃者だわ」

 

 確かにそんな顔していたら怪しいわな。

 

「あと朝霧くんも同じく気が付いていたはずよ」

 

「おいおい……」

 

「そうなの?」

 

「なわけないだろ。それに気が付いてたらさっさと言ってる」

 

「どうかしらね。少なくともあなたはあの時彼女を見ていたわ。それは何故かしら」

 

 急にそんなこと言われてもな……

 見てないって言っても信じてくれるような女じゃない。

 

「…………まあ、確かに見てたな」

 

「だったら何故言わないのかしら」

 

「見てたのはそういう理由じゃないからだ」

 

「別に責めているわけじゃないわ。ただ、あなたからはやる気を感じられないのよ」

 

 実際やる気は大してないからな。

 

「あいつを見てたのはこないだ見たAV女優に似てたからだ」

 

「…………は?」

 

 その瞬間、女子の視線が絶対零度のようなものに変わる。

 

「……海斗くん最低だね」

 

「ええ、本当に最低だわ」

 

 適当にはぐらかしたら状況が悪くなっている件について。

 本当に帰りたくなってきたぞ。ちくしょう。

 つか高校生だぜ、オレたち。AVなんて見れるのか……?

 

 後で確認してみるか。

 

「でもやったじゃん須藤。同じクラスの生徒なら絶対証言してくれるって!」

 

「お、おう……そうだな! でも佐倉って誰だ? お前は知ってるか?」

 

 やはり佐倉は影が薄いのか、近くの席に座っているはずの須藤は知らないみたいだった。

 

「マジで言ってんの? お前の後ろの席じゃん」

 

「ちげーし! 隣の席だろ!」

 

「健の右斜め前だけどな?」

 

「へえ、さすがだね……海斗くん」

 

「ええ、そうね。さすがは佐倉さんを視姦していただけはあるようね」

 

 オレがそう言うと、桔梗が死んだ目でオレに言ってきた。

 それに同調するのは鈴音だ。

 今までにないほどの仲の良さを発揮していた。

 

「なあ、オレ帰っていいか?」

 

「ダメに決まってるでしょ」

 

「あ、はい」

 

 オレは逃げ出そうとした!

 しかし、回り込まれてしまった!

 

「他に特徴はないのかよ」

 

「朝霧くんがよく知っているはずよ」

 

「……小柄でメガネをしていて、髪を後ろで結んでる生徒だな」

 

「イヤに具体的ね……」

 

 何をしても裏目に出る気がするんだが……。

 

「ああっ、あの巨乳眼鏡おっぱいちゃんか!」

 

 今度は突き刺さるような視線が春樹に突き刺さる。

 

「ダメだよ山内くんそんな風に言っちゃ。可哀想だよ」

 

「えっ、あ……ち、ちがう! 俺は別にそういうつもりじゃない! 海斗とは違うんだああああっ!」

 

 男って愚かな生き物だ……。

 

「……後は佐倉さんがどこまで知っているかだよね」

 

「それを本人に確かめるために探していたのでしょう?」

 

「だったらさ、今から会いに行けばいいんじゃねえの」

 

 そう須藤が提案する。

 無難にも思えるが、急に押しかけるというのは逆効果な気がするな。

 もともと自分から目撃者として発言が出来ていなかったのだ。余計にこじれる可能性もある。

 

「うーん、まずは電話してみよっか」

 

 そういえば、こいつはクラスメイト全員の連絡先を持っているんだったか。

 1分近くも電話をかけていたが、出なかったのか携帯の仕舞った。

 

「ダメ、出ないね……後でまた掛けてみようと思うけど可能性は低そう」

 

「なんでだ?」

 

「連絡先は教えて貰えたんだけど、佐倉さんって人見知りするタイプみたいだから急に電話されても出てくれないと思うの。実際に話しかけても相手にされてないみたいだから」

 

 まあ、そんな感じの雰囲気だわな。

 

「要は堀北みたいなヤツってこと?」

 

 本人の前でそんな言い方したら……。

 

「さよなら」

 

「あっ、堀北さん!」

 

 気を悪くしたのか、言うことを終えたからかさっさと去ってしまう。

 その後はオレたちも解散することにし、後日改めて話かけることとなった。

 




今回の話は説明回なので、ちょっと退屈かもしれませんがご容赦ください。
ちなみに海斗は割とひよりとメールでやり取りしています。
今後ともメール部分はちょくちょく出していくかもしれません。
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