これも読者のみなさまのおかげですね。
「かいとかいと」
「きゃー、えっちぃ! とはお前には言わないがノックくらいしろよ……」
風呂を浴び、全裸で髪を拭いていたらハクが洗面所にドタドタと飛び込んできた。
しかし、オレが言ったように全裸くらいで動揺するような仲でもないので特に気にはならないがノックは大切だろうが。
ちなみにオレはノックしないで入室する派だ。
「で、どうかしたのか?」
「なんか鳴ってる」
「あ?」
頭にバスタオルを被せ、リビングに行くと携帯がピロピロと鳴っていた。
こんな時間に電話がかかってくるとは珍しいな。
ハクに言われ、ディスプレイを確認すると『櫛田桔梗』という名前が表示されていた。
これまた珍しいヤツから連絡が来たもんだ。
……とりあえず出ることにした。
『もしもし、こんな夜遅くに――』
「お電話ありがとうございます。こちら朝霧株式会社でございます。只今、電話に出ることが難しく、対応いたすことが出来ません。またお電話頂くか、後日学校にて直接お話ください。火急の用事がお有りでしたら『赤いボタン』を。それ以外でしたら『赤いボタン』を押してください。お電話ありがとうございました。ピーッ! なお、このメッセージは5秒後に自動的に消滅する。」
どうだ、これが渾身の留守番電話サービスのモノマネだ。
これで桔梗も騙されたに違いない。
「ねえ、これどこから突っ込んだらいいの?」
……騙されちゃいなかった。
おっかしいなあ、渾身のモノマネだったんだがなあ……。
「お電話ありがとうございます。こちら朝霧株式会社でございま――」
「まだやるの!?」
「うるさいな、お前は素直に騙されて『そっか、海斗くん忙しいんだね……』ってなれよ! こちとら遊びじゃねえんだよ! 本気と書いてマジなんだよ!」
『ご、ごめん……あと私の声真似似すぎてて引くんだけど』
「わかればいいんだわかれば。じゃあな」
『う、うん……おやすみ』
「おやすみ」
それだけ話して、桔梗は電話を切った。
「いったい、何だったんだ?」
何の用事もなしに電話してくるなんてお茶目なヤツだよ、桔梗は。
すると数秒もしないうちに再び電話が掛かってきた。
「お電話ありが――」
『だからそれはもういいってば!』
「何だよ、最後まで言わせろよ」
『海斗くんのネタに付き合ってたらいつまで経っても本題入れないでしょ!』
「……まったく自分勝手なヤツだ」
『ご、ごめん……って私何も悪くないっ!』
「うるさいヤツだな。近所迷惑だぞ。あと本性出てる」
何が気に食わないのか、桔梗は荒い息を吐きながら興奮していた。
『うっ……後で私が近所迷惑で怒られたら海斗くんのせいだからね……』
「人のせいにするなって先生に言われなかったか?」
『言われたけど今のは明らかに海斗くんが悪いからね……ってまた話が脱線してる!?』
本当に夜遅くから騒がしいヤツだな。
もう少し落ち着いたらどうなんだろうか。
『はあっ、はあっ……話に入っても、いいかなっ」
「仕方ないな。要件は?」
『あ、ありがとう……』
桔梗が小さな声で『あれ? なんで私が感謝してるんだろ……?』とつぶやいていた。
ようやく本題に入ってくれるみたいだ。
長かったな、ここまで……まあ、完全にオレのせいだけどな。
『佐倉さんの話なんだけど……カメラを落として壊しちゃったの覚えてるよね?』
「……よし、話はここまでだ。じゃあな」
『えっ、ちょ、ちょっと待ってっ! え、何、何で電話切ろうとしているの!?』
オレが速攻で電話を切ろうとしている気配が伝わったのか、わたわたと慌てて引き留めようとしてくる。
「悪いがオレには何も出来ない」
そうだ。オレは悪くないはずだ。
多少のふざけが入っていたとはいえ、カメラが壊れてしまったのは偶然の事故みたいなもんだ。
色々と様々な複数の要因が重なってしまったことで、起きてしまった悲しい事故なんだ。
オレは悪くない。悪くない。そう、自分に言い聞かせていた。
『ち、違うよっ! そうじゃなくって……佐倉さん修理に行きたいんだって。私が話しかけちゃったのも原因の一つだと思うんだ。だからその責任を取ろうと思ったの』
「あ、そう……」
どうやら桔梗はオレが悪いとは思ってはいないらしい。
むしろ壊われてしまった責任を自分に感じているようだった。
だがそれはさすがに考えすぎじゃないか? どう考えてもこいつに過失はないと思うが……。
まあ、本人がそう言うならオレからは何も言うことはないだろう。
「で、お前も一緒に行くって話か?」
『うん。彼女、少し迷ってたみたいだったけど最終的には頷いてくれたよ」
最終的にってところに腹黒さが滲み出てるな。
「腹黒……じゃなくて、えらく親切な話じゃねえか」
『今、腹黒って言いかけなかった? というか言わなかった?』
「言ってない」
本当は言ったが言ってないことにしておく。
そうじゃないとうるさそうだ。
「それでオレとどう関係がある?」
わからないのは、なぜこうしてオレに電話を掛けてきたのかという点だ。
もしかしたら知り合いの中から適当に選んだのかもしれないな。
それにしては必死だったが……。
『私たちと一緒に来てほしいの』
「なんで」
『……佐倉さんって人見知りするタイプじゃない?』
「まあ、そうだな」
『だから一人じゃ行きづらいって話だったんだけど……詳しく聞いてみると店員さんがちょっと怖い人なんだって。だから私だけじゃなくて男の人もいた方が佐倉さんも安心すると思って。どうかな?』
「どうかなって言われてもな……というかAV女優と比較してた男が相手でもいいのか?」
『……うっ、それを言われると途端に不安になってきたよ。え、私、もしかして人選間違えてる?』
「実はドッキリってオチじゃねえよな?」
『うん……実はドッキリなの』
「今度こそ電話を切るぞ」
『本当に冗談だから切らないで!?』
少しだけ考えてみる。
……明日、モールでデジカメを修理しにいく。
それも女子二人とだ。断る理由があるだろうか?
「もちろん断る――って言いたいところだが問題ない。モールにはちょうど用事もあることだしな」
『用事って?』
「……ま、大したことじゃない」
そう、本当に大したことじゃない。
『そうなんだ』
「興味なさそうだな」
『興味ないからね』
「………………」
『………………』
お互いに無言の時間が続く。
「実は服を買おうと思って……」
『せっかく聞かないであげようと配慮してあげたのにさ!』
「そ、そうだったのか……」
それは失礼なことをしてしまったな。
てっきり気になるアピールだとばかり思っちまったぜ。
そして、またしばらく無言の時間が続く。
『――あのさ』
「……あ?」
聞こえてきたのは、どことなくシリアス気味な声。
何か重要なことを告げようとしているような、そんな気配を感じた。
『……………海斗くんは、さ。もし、もしも、私が……私が――』
「私が何だ?」
『――やっぱり何でもない』
「っておいっ!」
さすがにそこで話を切られたら気になるだろっ!
別に内容に興味自体はなくても気になっちまうだろ!
ミステリー小説で伏線を次巻以降に持ち越されるくらい気になる……。
『明後日はよろしくねっ。じゃ、おやすみなさい』
それだけ言って、すぐに電話を切ってしまった。
「てか明後日かよっ!」
思わずツッコんでしまった。
「つか風邪引きそうだ……」
鼻をすすりながら、自分の格好を再確認してそう思った。
服は何も着ておらず、髪からぽたぽたと水が滴り落ちていて身体が冷たくなっている。
これが俗に云う湯冷めってヤツか。
「髪乾かして本でも読むか……」
オレはそれから朝まで本を読み続けた。
本当は土日の間に更新しようと思っていたのですが、なかなか更新できませんでした。
なので実は次回の話とセットだったのですが、更新を早くするために分割させていただきました。
ちょっと短いですが、お楽しみ頂けると幸いです。