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第2話「オレがDクラスだと?」 → 第2話 Dクラス
入学式がどこに行っても退屈な時間であることは変わらないらしい。
壇上に乱入して騒ぎまくってやろうかとも考えたが、流石に退学一直線すぎたのでやめた。いくら非日常な光景を望んでいるからといって、非常識になるのは違うだろうからな
テンプレ塗れな挨拶をを欠伸混じりで聞きながら、入学式はつつがなく終わった。
終わった後は特にすることがなく、大半の生徒が寮に戻っていた。
オレも寮に行こうかと思ったんだが、部屋には何もないらしいので先に敷地内を見て回ることにした。
この学校の敷地内には本当に様々な施設が揃っているようだ。
カフェ、レストラン、バー、カラオケ、ブティック、ボーリング場、映画館、プール、ゲームセンター、釣り堀、水族館、美術館――などなど。とある夢の国よりは大きいことはらしい。端から端まで歩いてみるのも面白そうだ。
「イラッシャイヤセー」
やる気の欠片も感じられない店員と入店音に迎えられ、コンビニの中へ。
食べる物でも買おうと思ってのことだった。ついでに日用品でも買っておこう。
カップ麺を片っ端からカゴの中に突っ込み、飲み物などもドンドン入れていく。
レジに向かおうとしたところで、クラスメイトの姿を見つけた。
名前は綾小路清隆と言ったか。
隣には黒髪の女子生徒。残念ながら名前は知らない。
自己紹介には参加していなかったからな。
「……朝霧か」
「お前らも何か買いに来たのか」
「そんな感じだ。それにしても……すごい量のカップ麺だな。好きなのか?」
「興味本位だ」
こんなに豊富な種類のカップ麺を見るのは初めてだからな。
「やっぱり男の子はそういうのが好きなの? 身体に良くないと思うのだけれど」
「普段食べる機会のない物だからな。それに男だからってのは偏見じゃないか?」
案外、桔梗とかいう女もカップ麺を爆食いしてたりするかもしれん。
……あまり具体的な想像は出来なかった。
「で、お前は日用品か」
「……堀北鈴音よ」
「鈴音は日用品か」
「…………」
名前を名乗られたので、呼んでみたがキッと睨みつけられてしまう。
「気安く名前で呼ばないで」
「何もそんなに怒ることないだろ」
「呼ばないで、と言ったでしょう」
どうやら名前で呼ばれるのが気に食わないらしい。
だったら苗字だけ名乗ればいいものを。勝手なやつだ。
「なあ、これってどういうことだろうな?」
ちょっとだけ離れていた清隆が言う。
「無料……?」
そこには無料と書かれた専用のカートが置かれていた。
『お一人様1か月3点に限る』となっていることから、ポイントのない人間であっても最低限の物品を手に入れるためのシステムだろう。
「随分と生徒に甘い学校なのね」
「そうか? 学校側だって生徒が困るのは問題なんだろ」
オレはさっそく歯ブラシにカミソリと安物の石鹸をカゴに放り込む。
「1か月3点なのに躊躇ないのね」
「どうせ使わないで過ぎるくらいなら買っておいて損はないだろ」
石鹸はともかくとして、歯ブラシやカミソリは1か月くらいは余裕で持つだろうからな。
「うるっせえな! ちょっと待てよ!」
人が多く、けれども比較的静かな店内に男の怒声が響き渡る。
「だったら早くしてくれよ。後ろがつかえてんだからよ」
「あ? 何か文句あんのかコラ!」
それは店員と赤髪による揉め事だった。
清隆が近寄っていく。
「何かあったのか?」
「あ? 何だお前」
「同じクラスの綾小路だ。何か困ってそうだったから声を掛けた」
「ああ……そういや見覚えがあんな。実は学生証を忘れたんだよ」
そういえば学生証がなければ買い物一つ出来ないんだったか。
一般人も混じっているところからして、実際のお金も使えるんだろうが……。
持っていないものはどうしようもないだろう。
というか忘れたなら戻れよ。
「良ければ立て替えるぞ?」
「……そうだな。そうしてくれると助かる。ぶっちゃけわざわざ帰るのも面倒だしよ」
赤髪は清隆にカップ麺を渡す。
「俺は須藤だ。ここはお前の世話になるぜ」
「よろしくな、須藤」
そんなやり取りを見て、堀北が口を開く。
「彼、いきなりコキ使われてるわね。あれで友達になったつもりなのかしら」
「さあな。だがお互いに名前を知って、認識し合ったことには間違いないだろ」
そういう積み重ねが友情を育んでいくものだ。
友人つくるのも、恋人をつくるのも大差はない。
ただ、その終着点が違うというだけの話で。
須藤がいなくなったことでレジの流れがスムーズになり、オレは学生証で手早く会計を済ませてからコンビニを後にした。
「さて、端から端まで歩いてみるか」
……それからしばらく時間が経ち、空が闇に覆われた頃。
「ま、迷った……」
完全に迷ってしまった。
§ § §
朝。
昨日は学校の敷地内を端から端まで移動しながら、入れる限りの施設に顔を出していたら迷ってしまったのだが、何とか帰ってくることが出来た。そのうちの一つである本屋で適当に小説を選び購入し、部屋で読んでいたら朝になっていたのだから驚きだ。
備え付けのカラーボックスに読み終えた本を五十音順の作品別に並べ、昨日買っておいた『Gカップ!』とデカデカと書かれたカップ麺にお湯を注いでいく。
Gカップというのはギガサイズのカップ麺って意味らしいが、文字だけでみればいかがわしいお店の景品みたいな感じがするな。2・5倍と書かれているのが余計にそう感じさせる。
「味はまあまあだな」
ゴミは袋に入れて、コンビニで捨てるか。
とても久し振りに一人の空間で何かをしたように思う。憐桜学園では常に同居人がいたからな。
ちょっと寂しいな。
「よし、ヒゲでも剃るか」
あまりヒゲの伸びない体質とはいえ、流石のオレも少しだけ伸びてきていた。
昨日買ったばかりのヒゲ剃り(三枚刃)を取り出す。
「………………」
なんか普通に剃るのは面白くないな。
こう、何というか。すごい感じで剃ってみるか。
イメージするのは、そう……刀を手にしたオレだ。
意識を極限まで集中させ、必殺技を口にする。
「――――秘剣・燕返し!」
そう、気分は朝霧武蔵。
振るうは一太刀。交差するは三刃。
秘奥中の秘奥。これぞ燕返し……!
――ジョリッ、ジョリリッ、ジョリッ!
「ふっ、決まったな」
目を瞑り、必殺技を披露したオレはゆっくりと瞼を開いていく。
そこには血まみれで鏡に映る男の姿がそこにはあった。
「やべえ、肉がごっそり逝った」
ヒゲはなくなっていたが、肉も同様に削がれてしまっていたようだ。
たらたらと血が垂れていく。これは不味いな。
しかし、練習すれば上手くやれるだろうか。
「こんなくだらねえことで出血しまくってたら傷だらけになっちまう」
傷のある男ってのもカッコいいかもしれんが、その傷がヒゲ剃りの失敗ってのはダサすぎる。
いや、理由さえ隠していればカッコいい……か?
そんなことよりも止血しなければ。
洗面台に溜めてあったお湯でばしゃばしゃと洗い流す。
「……うわ、殺人事件でも起きてしまったのかってぐらいの血水だ」
洗面台の中の水が真っ赤に染まっている。
それどころか顎からは血が滴っていて、効果は見られなかった。
仕方ないな……最終手段だ。コンビニで買っておいたウェットティッシュで止血することに。
「学校に行くか」
制服に血が付着しないように腕に袖を通し、忘れずに学生証と端末にルームキーを持って部屋を出た。
§ § §
二日目の授業は特に問題もなく終わり、昼休みの時間。
朝、教室に入ったら血だらけなのを一部の連中に心配されたが、些細なことだ。
次々と食堂へ姿を消していく中、オレは教室に残っていた。
「これから学食に行こうと思うだけど、誰か一緒に行かないかな?」
既にクラスの中心となっている男子生徒、平田洋介が立ち上がりながら言った。
それに続くのは二人の女子。
こういう状況で男が声を上げるのは難しいだろう。
オレは無言で立ち上がり、教室を出る。
洋介に付いていくのも悪くはないが、別に特別仲がいいわけじゃない。
学食か、コンビニか。もしくはカフェかレストランという選択肢はたくさんある。
さて、どうしようか……。
こういう時、選択肢でもあれば迷わずに済むのだが。
→学食に行く
コンビニに行く
オシャレにカフェへ
やはり選択肢は便利だ。
人生には選択肢を!
「あの……朝霧、くんだよね?」
「あ?」
廊下を歩いていると、クラスメイトの少女が話しかけてきた。
高校生活2日目にしてナンパを受けてしまうとは。今日の剃りが良かったに違いない。
その少女には見覚えがあった。肩よりも少しだけ短めの短髪で、さらさらのストレートヘア。白いワイシャツを押し上げている豊満な胸。おまけにスカートも短めで男子ウケが非常に良さそうな少女だ。禁止区域を1人で歩いていれば数十秒と経たずに男の餌食となってしまうだろう。
「桔梗か」
「私の名前憶えてくれてたんだねっ」
「ああ、自己紹介した人のことは憶えてる。オレの後に自己紹介してた袋小路清隆のことも憶えてるぞ」
「それって綾小路くんのことかな?」
「綾小路と袋小路って似てるよな」
「全然似てないよ!?」
女子の名前だけじゃなくて、男子の名前も憶えていることをアピールしようと思ってのことだったんだが……。
どうやら失敗してしまったみたいだ。ちくしょー。
ってか小路の綾小路通も袋小路も似たようなもんじゃね? 一緒だ一緒。
「……で、何の用だ?」
「大したことじゃないんだけど、昨日のバスで席を立ったのってお婆さんに席を譲ってあげるためだったんだよね?」
「いきなり何のことだ? 老婆? オレは漫画を読むのに集中してたから何のことかわからないな」
「朝霧くんって優しい人なんだね」
「だから違うって言ってるだろ」
「ふーん。そういうことにしておくね」
そういうことも何もないだがな。本当にアレは急に尿意を催しただけで、それ以外の意図はまったくない。神に誓ってもいい。
ところで神って本当にいるのかね……
「用はそれだけか?」
「……あ、えっと。自己紹介で言ってたこと憶えてる?」
「みんなと仲良くなりたいってヤツか」
「それで朝霧くんとも仲良くなりたいから連絡先とか交換してくれないかな?」
「わかった」
特に断る理由もなかったので、学生端末を取り出して連絡先を交換する。
「それで進捗はどうなんだ?」
「進捗?」
「クラスの連中とは仲良くなれそうなのかってことだ」
「もうクラスの半分以上の人と連絡先を交換してもらったよ」
それは手が早いことで……。
一週間で全員のアドレスを交換出来ちゃうんじゃないだろうか。
別に羨ましくはないが、その行動力は尊敬に値する。
「じゃあ改めてよろしくね、朝霧くん。それとも名前で呼んだ方がいいかな?」
「別にどっちでもいいぞ」
「……そっか。じゃあ海斗くんって呼ばせてもらうねっ」
どこか照れたような笑み浮かべ、オレの手を握ってきた。
その手口は鮮やかで、世の男子はこうして彼女に見惚れては撃沈していくのだろう。
お、オレは堕ちないんだからねっ……!
……あほくさ。
高度育成高等学校学生データベース(4/時点)
氏名:朝霧海斗
クラス1年D組
学籍番号:S01T000000
部活動:無所属
誕生日:11月21日
-評価-
学力:D-
知性:A
判断力C
身体能力:A++
協調性:未定評価項目
-面接官からのコメント-
未記入
-担任メモ-
経過観察中
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