ようこそ禁止区域出身の男がいる教室へ   作:白崎くろね

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第3話 タダより美味いものはない

 

 桔梗と廊下で別れてから、オレは食堂に訪れていたが既にほとんどの席が埋まっている状況だった。空いているのは洋介たちが座っている席と上級生が集まっているグループら辺ってところか。

 ほんの一瞬だけ悩んでから、オレは声をかけることにした。

 

「席、いいか?」

 

 オレが選んだのは、クラスメイトである洋介の方だ。

 実際はどっちでも良かったので、最も近い方を選ばせてもらった。

 

「朝霧くん? もちろん構わないよ」

 

 オレの相席に僅かばかり驚いた顔を見せる洋介。

 

「じゃあ邪魔するぜ」

「どうせなら教室で呼び掛けた時に言ってくれればよかったのに」

「その時は学食にするかどうかを決めかねててな」

「それは無料の山菜定食かい?」

「ああ」

 

 記念すべき最初の学食メニューで選んだのは無料の山菜定食。

 他に頼んでたヤツは誰もいなかったが、無料ってのがいい。コンビニにも置いてあった無料の物と一緒で学園側が用意した最低限の救済措置なのだろう。ある意味で挑戦的なメニューだった。

 

無料(タダ)より美味いもんはないって言うだろ?」

「はは、無料(タダ)より高いものはないとも言うけどね」

 

 味噌汁を啜って、味付けの薄い山菜を食べる。

 別に不味くはない。人によっては味付けに不満はあるだろうが、オレには素材の味が楽しめる素晴らしいメニューに感じた。

 

 そんな無料のメニューを頼んだからか、正面の席に座っている佐藤麻耶が話しかけてきた。

 

「あ、ひょっとしてもうポイントを全部使っちゃったとか?」

「ポイントにはまだまだ余裕があるな」

「ならなんでそんなの食べてんの?」

「興味本位だ。無料で定食メニューが食べられるってんだから気になってな」

 

 そもそも定食なのだからご飯と味噌汁は付いてくる。

 仮に山菜が不味かったとしても、ご飯と味噌汁が無料だと考えれば十分にお得だと思わないか?

 まあ、食べ物で不味いとか思ったことは少ないから大丈夫だと思っていたが。

 

「えー、チャレンジャーだね。私だったら怖くて頼めないかなぁ……」

「美味しかったら安上がりだろ」

「もしも不味かったら?」

「もう食べないだけだ」

「そういうものかな?」

「それ以外に何かあるのか?」

 

 口に運びながら、適当に相槌を打つ。

 

「でも食べれないほど不味いってこともあるんじゃない?」

「そしたら諦めて捨てるしかないな」

「えー、それは勿体ないよー」

「だったら食べるしかないな」

 

 残してはいけませんって注意書きはどこにもなかったからな。

 オレが麻耶と話していると、もう一人のギャルである軽井沢恵が話しかけてくる。

 

「そういえばアンタの名前って何だっけ?」

「朝霧海斗だ。そういうお前は軽井沢恵だったな」

 

 どうやら、オレの完璧な自己紹介を憶えていなかったようだ。

 オレはきちんと憶えているというのに。

 

「もしかして、自己紹介した全員の名前憶えてる感じ?」

「自己紹介してたヤツくらいはな」

「あっ、私の名前も憶えてたんだ」

「佐藤麻耶」

「お~、朝霧くんって物覚えがいいんだね。私なんて半分くらいは忘れちゃったよ」

「まあ、人並みだ」

 

 半分くらい忘れたってほとんど憶えてないってことじゃないのか?

 自己紹介してた人数的に考えて。

 

「朝霧くんって平田くんとはタイプが違う感じだけど、イケメンって感じだよね」

「まあな」

「そこは謙遜しようよ!」

「謙遜なんてのは自分に自信のないヤツがするもんだ」

 

 平田たちと話しているうちに山菜定食を食べ終えるのだった。

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 時は放課後になり、オレは体育館に顔を出していた。

 理由は昼食を終えた辺りで、校内放送が流れたからだ。

『午後5時より第一体育館にて部活動の説明会を開催します』とのこと。

 学校自体に通うのは初ではないが、部活動の経験自体は残念ながら未経験だったので興味があった。

 

 廊下で配られていた部活動のパンフレットに目を通す。

 聞いたことのある部活から、珍しい類の部活から本当に様々だ。

 野球部、陸上部、バレー部、卓球部、バスケ部、サッカー部、テニス部、柔道部、剣道部、弓道部、水泳部、古武術部、美術部、吹奏楽部、文化部、書道部、演劇部、茶道部、料理部……まだまだあるがメジャーなところはそんなものか。

 どれに入ったとしても、それなりにやっていける自信はあるが……逆に選択肢が多すぎて決めかねるのが難点だ。洋介のヤツはサッカー部に入るって言っていたか。

 

 オレが考えている間にも部活の説明は進んでいく。

 説明自体はありきたりなことばかりで、興味を惹かれるような内容でないのが残念でならない。

 

 たった今、壇上に上がっている上級生の説明が終わり、下にあるテーブル席に向かっていく。そこには部活の代表者である部長が並んでいる。全部の部活紹介が終わったら入部手続きをそこで行うのだろう。そうして最後の一人となった。

 

 最後ゆえに体育館にいる全員の視線が集まっていくのがわかる。

 壇上に立っているだけなのにも関わらず、その人物は他の部長に比べると存在感が段違いな男だ。身長は約174センチといったところで、それほど高くはない。見た感じも細身なタイプで、どちらかと言えば優等生タイプの人間。

 しかし、そいつは外見から伺える知的さのみならず、肉体的にも優れていることはある程度の観察眼を持つ者ならば気が付くだろう。

 

 そんな男がいったい何を話すのか。先の部活紹介に比べて何倍もの興味がある。

 マイクの前で男は一年生であるオレたちをただ静かに見下ろしていた。何も喋ろうとはせず、ただ見ているだけだが緊張などによるものではないことは明白だ。

 

「ははっ、緊張で口が固まったのか?」

「カンペが足りないんじゃないんですかー?」

「さっさと喋ってくれよー!」

「ぎゃははははははっ!」

 

 一年生の集団が野次を飛ばすが、男は黙したままだ。

 その様子に生徒たちはざわめき始め、こそこそと話し始める。

 大方、白けてきたのだろう。だが教師陣が口を挟まないところを見るにこれもパフォーマンスの一つなのだろう。

 

 そして、一瞬だけ目が合ったような気がした時、空気が一変する。

 言葉もないのに白けだしていた生徒たちの言葉が止まり、体育館全体が静寂に包まれた。

 そんな時間が数十秒と続き、ようやく男は声を発するのだった。

 

「私は生徒会長を務めている堀北学と言います」

 

 その名前には、聞き覚えがあった。

 

「……生徒会も同様に、上級生の卒業で空いた席を埋めるため、1年生から立候補者を募ることになっています。立候補にこれといった要素はありませんが、もしも生徒会への立候補を考えている者がいるのならば、部活への所属は控えて頂けるようお願いします。生徒会と部活の掛け持ちは原則受け付けておりません」

 

 口調が特別力強かったわけでもないが、その声色には力強さがあった。

 強者ゆえの発言力とでも言うのだろうか。そんな感じのもが堀北学という男にはある。

 何か不用意な発言でもしようものなら、その場で名指しされて晒し上げられても不思議はないといった感じだ。

 

「――それから。私たち生徒会では、甘い考えを持つ者の立候補者を望んではいない。そのような人間は当選することはおろか、この学校で生活していくことさえままならないだろう。我が校の生徒会には、規律を変更し得るほどの権利と力があることを理解し、その上で立候補を望むというのなら歓迎しよう」

 

 短いけれど濃厚な演説は終わる。

 生徒会長はステージを降り、体育館から姿を消した。

 緊迫した空気が徐々に薄れていく。

 

「皆さんお疲れ様でした。これにて説明会を終わりとさせて頂きます。入部届けは4月いっぱいまでは受け付けておりますので、廊下にて配っている申込用紙に記入し、各部活まで持参して頂きますようお願いします」

 

 その言葉を最後に張り詰めていた空気が完全に消えていった。

 

「退屈な高校生活なら自主退学でもしてやろうと思っていたが……」

 

 今ので完全に気が変わった。

 この学校には一癖も二癖もあるようなヤツらがわんさかいるみたいだ。

 退屈はしないで済みそうだ。

 

「面白くなってきたじゃねぇか」

 

 そう呟き、体育館から出ようとしたところで……。

 

「綾小路だけじゃなくてお前も来てたんだな」

 

 声を掛けられてしまった。

 

「あ? お前は……」

「須藤だ」

 

 ……そう、須藤だ。それに寛治に春樹が一緒に立っていた。

 そして、清隆に鈴音のヤツもいる。

 何だか大所帯だな……。

 

「何か用か?」

「別に用ってほどのことはねーよ。ただ見かけたから話しかけただけだ」

「はぁん……」

「それでお前は部活入んのかよ?」

「さあな。4月中には適当に決めておくって感じだ」

 

 残念なことに入りたいって思う部活は見つからなかったからな。

 そもそも縛られるのは好きじゃない。やりたけりゃ勝手にやればいい話だからな。

 

「でもお前ならスポーツ系の部活に入るって思ってたけどな」

「あん?」

「その身体付きは何かやってんだろ?」

「あー、どうだろうな。筋トレならしてたかもな」

「何だそれ」

「自分ではよくわからないな」

 

 憐桜学園では、このぐらいは普通の範疇のことだったが……。

 流石に一般校では少しばかり身体付きがいいように見えるらしい。

 

「……何か勿体ないぜ、お前。興味があったらバスケ部に来いよ」

「考えとく」

 

 バスケってのは球技の一つだったな。

 須藤が言うなら少しだけ考えてみるか。

 

「で、お前らは?」

「俺は昔っからバスケ一筋だからよ。バスケ部に入るぜ」

「オレはただの見学」

「俺たち二人は見学っつーか、賑やかそうだから来ただけ? みたいな? あとはまあ、運命的な出会いを感じに来たってのもある」

「何だ? 運命的な出会いって」

 

 清隆が寛治に聞き返すが、オレには何となく理由がわかった。

 

「ナンパか何かだろ」

「おっ、何だよお前話がわかるヤツだな~」

 

 こういうヤツが考えることなんて、それくらいなもんだ。

 

「俺はDクラスで一番最初に彼女を作るぞ!」

「適当に頑張れよ」

「ああ!」

 

 ……彼女、ねぇ……。

 そんなにいいものかね、彼女って存在は。

 

「あ、そうそう。今思い出したんだけど、昨日の夜に男子専用のグループチャットを作ったんだわ」

 

 寛治がそう言って、ポケットから学生証端末を取り出した。

 

「折角だからお前らも入れよ。これ結構便利なんだぜ」

「え、オレもいいのか?」

「当たり前だろ! 俺たちは同じDクラスなんだからよ!」

 

 何だかよくわからないが、連絡先を交換し合った。

 そして、男子専用のグループチャットとやらに招待される。

 まだ学生証端末の扱いに覚束ないところはあるが、承諾するだけの簡単な操作だったので参加することに。

 前の学校では、アドレス帳なんて意味のない機能と化していたが……この学校では使える機能のようだ。

 

 まったく、退屈しなさそうな高校生活になりそうだ。

 




スポーツで汗を流す海斗……
悪くないと思います。実際に尊とスポーツしてましたしね


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