ようこそ禁止区域出身の男がいる教室へ   作:白崎くろね

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今回はちょっと長めです。
そして、海斗にギアが掛かってきたような気がします。


第4話 初めての水泳

 

 

 あれから一週間が経った。

 特に何もなく平和で、それでいて退屈な日々の連続。

 本を愛して止まない平和主義であるオレには、何の問題の起こしようもない。

 

 ……まあ、何かがあったとすれば。

 

 それは備え付けのカラーボックスが本で埋まってしまったということくらいか。

 そりゃあ毎日買ってれば仕方がないことだけどな。

 今度から立ち読みの時間を増やすとしよう。

 

 そういえば、この学校には図書館があったな。

 まだ行ったことはないが、今度行ってみるか……。

 

「おはよう海斗!」

 

「海斗おはよう!」

 

「おう」

 

 朝、登校するとDクラスの3バカこと春樹と寛治のヤツが朝の挨拶をしてきたので、適当に返事を返す。

 こいつらがどこか満面の笑みなのは、今日の授業内容が関係しているんだろうな。

 というか興味もないのにわざわざチャットで教えてくれたから知っている。

 

「いやあ、今日は楽しみだなあ! ほんっとあんまり眠れなくってさ!」

 

「マジでこの学校は最高だよな! まさかこんな時期から水泳の授業があるなんてよー。水泳と言ったら水着! 水着と言ったらスク水だよな!」

 

「興味ねぇな……」

 

「女の子のスク水に興味がない野郎なんているか? いるわけがない! 海斗はムッツリだからなー! それも仕方がないかー!」

 

 などと勝手にオレのことをムッツリ認定しながら、肩をバシバシと叩いてくる。

 テンションたけぇ……。

 

 憐桜学園の時は水泳の授業はなかったし、男しかいないんだから男女混合もクソもないが、この学校では違う。普通に男女混合で水泳の授業を行うのだ。それでこいつらはヤクでも決めたかのように興奮してるってわけだ。若いねぇ……。

 そんな様子を遠目で見ている女子連中は当然ながらドン引きだ。何ならオレもドン引きだ。ついで言えば遠くで影を薄くしてる清隆も引いてるまであるな。

 

「おーい博士ー。こっちこっちー」

 

「ふふっ、呼んだかね?」

 

 ぬっ、影のようにと現れたのは『博士』というあだ名が定着している男子生徒。

 メガネを掛けていて、知的っぽさがある感じの男で、口調にも特徴のある男だ。

 本名は外村(そとむら)秀雄(ひでお)。博士と呼ばれるに至った経緯はオタクで機械系に詳しいからだった気がするな。たしか8万ポイントもするノートパソコンを購入していたのが直接の原因だったか。あんま詳しく覚えてるわけじゃないが。

 

 ちょっと雷太のヤツに似てるかもな。

 だがあの独特の体臭はないから臭くない雷太ってところか。

 

 ちなみにオレは普通に秀雄と名前で呼んでいる。

 

「博士、準備は万端だろうな?」

 

「お任せあれ。体調不良だと偽って見学するでござるよ」

 

「いったい、何をさせる気だよ……」

 

「ふっ、よくぞ聞いてくれた! それは博士に女子のおっぱい大きい子ランキングを作ってもらうんだよ! あわよくば携帯で撮影だなっ」

 

「……おいおい」

 

 意外や意外に須藤……健は常識はあるようで、難色を示していた。

 こういうのにはノッていきそうなもんだが……もしかしたら、本物のムッツリだったりしてな。

 ヤンキーっぽい健がムッツリ、か。……ふむ、ありえるな。

 

「で、お前らは見ただけでわかるのか?」

 

「おおよそは、でござるが……」

 

「はぁん……」

 

 今時はソフトでスリーサイズだって計算できちまう時代か……。

 それとも秀雄が目測で測るんだろうか。

 

「それで、だな……」

 

「あ?」

 

「我々はそれで賭けをしようと思うンゴ」

 

「…………」

 

「既にオッズ表は完成済み……」

 

 恐ろしく手が早いヤツだ……。

 

「それで海斗殿は誰に投票するでござるか?」

 

「……さあな」

 

 と、言いつつもオレは誰に投票するかを既に決めていた。

 決めていたのはムッツリだからとかではなく、こういうのは適当にノッておくのが一番だと本に書いてあったのだから本当だろう。

 本は裏切らない。これは絶対だ。

 

「おーい綾小路ー」

 

「な、なんだよ」

 

 オレたちの姿を傍観していた男、清隆にも声がかかる。

 

「実はな。今俺たちは女子の胸の大きさで賭けをしようって話になってんだ」

「オッズ表もあるでな」

 

 秀雄はノートパソコンの上部分、タブレットになっている部分を清隆に見せる。

 そこには表計算ソフトで作成されたオッズ表があった。

 もちろん、女子全員の名前が正確に載っている。

 

「えーっと、やろうかな……」

 

 あまり興味なさげな感じだが、清隆も賭けに参加するようだ。

 まさかこいつもオレと同じ本を……?

 

「おお、やろうぜやろうぜ」

 

 女子の胸のサイズ自体に興味はないが、賭けにはちょっとだけ興味がある。

 

 ちなみに現在の最有力候補は長谷部(秀雄調べ)という女子生徒だ。

 長谷部。長谷部波瑠加か……。悪くはないが、そいつはどうだろうな。

 

「これ、想像以上の出来だよな……」

 

「やるからには正確に記さなければ詐欺だし」

 

「で、どうする? 一口1000ポイントだ」

 

「なるほどな……」

 

 学生には重いようにも思えるポイントだが、入学時に10万ポイントも貰ったのだから大したこともないように思えるのだから不思議なもんだ。入学する前なら1000円ですら大金だったというのにも関わらず。

 

「どうせ遊びなんだし悩むなよ。それに人数少ねえとつまんねえしさ」

 

 それは確かに一理ある。

 賭けをするなら人数が多ければ多いほど賞金に期待できるってもんだ。

 

 清隆の参加を皮切りにして、他の男子連中も近寄ってきては参加を表明していく。

 それに比例して、女子たちの男子を見る目がドン引きから汚物を見るような目に変わっていることに気が付いていないのだから、こいつらの青春は程遠そうだ。

 

「俺も賭けるぜ。ちなみに佐倉だ」

 

 春樹がそう言って、佐倉に賭けた。

 佐倉というのは鈴音以上にクラスでまったく目立っていない生徒だが、ブレザーの上からでも起伏が目立つほどに胸の大きな女子だったはず。名前は…………何だったか。

 

 そもそも話したことがないからわからなかった……。

 

「ここだけの話だけど、俺……実は佐倉に告白されたんだよ」

 

「は、はっ!? ま、マジで!?」

 

 その言葉に寛治が驚きの声を上げる。

 それもそうだろう。こいつは学校で一番最初に彼女を作るって息巻いてたからな。

 

「マジマジ。でも秘密だぜ? もちろんあんな地味な女フッてやったけどな。そん時に私服を見てよー、ありゃあかなりデカいぜ」

「ばっか。お前可愛くなくても巨乳なら価値があるんじゃねーの?」

「俺は櫛田や長谷部クラスじゃなきゃ付き合わないんだよ。ただ胸だけがデカい女とか興味ないね」

「それは勿体ないことをしたな。後で後悔しなきゃいいが……」

「海斗、お前佐倉に興味あるのか?」

「いや、興味どころか会話すらしたことないな」

「興味あるんだったら紹介してやろうと思ったんだけどなー」

 

 ただ、あの胸はあいつにも劣るとも勝らないサイズがあるな、と思っただけのこと。

 そもそもの話それって本当の話か怪しいもんだ。こいつの場合は女に告られたってだけで興奮してグループチャットで自慢しまくるタイプに見えるんだがなぁ……よっぽどタイプじゃなかったのかね。

 

「とりあえず適当に投票しておくか」

 

 そう言いつつ、オレは佐倉という女に30口ほどベットしてやった。

 

「……お、おいおい。か、海斗……?」

 

「海斗くんは豪胆でござるなぁ……」

 

「そんなに佐倉のことが……」

 

 …………やるからには勝つ。

 それだけの話だ。

 あとは本を買えるだけのポイントが欲しいってのが一番の目的だった。

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

「よっしゃああぁぁ! プールだプール!」

 

 いつも通り山菜定食を食べ、昼休み終わりに教室へ戻ってくると寛治のヤツが大声ではしゃいでいた。

 そんなに水泳の授業が楽しみか。

 

 そいつらに付いていくようにして、オレも更衣室へ。

 健や他の生徒たちはもはや制服を脱ぎ始めている。

 それに倣ってオレも着替えることにした。

 

「それにしても須藤と朝霧は堂々としているな」

「いちいち裸一つで慌てることかよ。むしろコソコソしてる方が目立つだろ」

「それもそうだな……」

 

 健がそう言うと、清隆のヤツが神妙な顔で頷いていた。

 

「ところでよー、海斗って思ってたよりも筋肉あんな。それに至るところに傷も……これ何の傷だ?」

 

 隣で服を脱ぎ、今まさに海パンへと着替えようとしてた健が聞いてくる。

 

「あー、これそんなに目立つか?」

 

「ま、目立つか目立たないかで言われれば目立つな」

 

「はぁん……」

 

 憐桜学園では気にされたことがなかったからわからなかったぜ。

 

「ただの怪我だよ、怪我。大層なもんでもねぇ」

 

「お前も色々ヤンチャしてたんだな」

 

「そういうこった」

 

 特に怪しまれずにすんだな。

 ってオレの身体は怪しくねーよ!

 

「んじゃお先するぜ」

 

 手早く着替えを済ませ、オレと健は更衣室を後にする。

 屋内プールは空調管理がしっかりしているのか、春にも関わらず夏のような暑さだった。

 こういう場所に来るのは初めてだからだろうか。オレは少しばかり興奮している。

 未知の体験というのは、心がくすぐられるものだ。

 

「なあ、女子は? 女子はまだなのかっ!?」

 

 寛治は興奮した様子であっちこっちを見渡しながら、女子の姿を探す。

 

「女子は着替えに時間がかかるからだろ」

 

「もし、もしも……俺が血迷って女子更衣室に突っ込んだらどうなるかな?」

 

「女子に一生軽蔑される上、刑務所直行のルートだな。ついでに退学だ。やってみるか?」

 

「む、無理無理! 冗談だから先生にチクるなよ!?」

 

「そんなことはしねぇよ」

 

「こえぇ……」

 

 怖がるぐらいなら最初から言わなきゃいいのに。

 

「はあ……変に意識してると女子は気付くって言うぞ? そしたら女子に嫌われるな」

「意識しない男がいるかよ! ……う、ううっ……勃起しそう……」

「大丈夫だ」

「何が大丈夫だってんだよ海斗……」

 

 オレは寛治の競泳パンツを見ながら、自信満々に言う。

 サムズアップも忘れない。

 

「どうせ勃起しても大したことないだろ?」

 

「ば、ばば、ばかっ!?」

 

「正論というか事実と思われることを適当に口にしただけだったんだが……本当だったとは」

 

「哀れみの目を向けるな!」

 

「安心しろよ、世の中には最大膨張時に3センチって男もいるからな」

 

 尊、お前の伝説は新しい学校でも語ってやる。

 

「3センチっておま……それ以上はあるわ!」

 

「じゃあ何センチなんだよ」

 

「そ、それは――って言わねぇよ!?」

 

 寛治がナニのサイズで興奮していると、女子がプールにやってくる。

 

「寛治、自分の股間で興奮してる場合じゃないぞ」

「へ、変なこと言うな! 女子に嫌われるだろ!」

 

 どちらかと言えば、最初から女子連中の好感度は最悪に近い……と、事実を言うのはあまりにも可哀想だったので黙っておいてやるか。

 

「なっ!? 長谷部がいない! ど、どど、どういうことだっ!? 博士!?」

 

 見学席で全体を見渡している博士に確認を取る。

 だが、その博士も長谷部の姿を確認できずに慌てながら周囲を見渡している。

 

「……なあ、まさかとは思うが後ろにいるヤツじゃないだろうな」

 

「ンンンンッ!?」

 

 博士よりも後方の席で頬杖を付いている女、長谷部をオレは指をさしてやる。

 そこに女子の姿が続々と見え始める。どうやら見学する予定の女子はかなり多いらしい。

 寛治と春樹が下卑た笑みで水着がどうのこうのとクラスで騒いでいたのが原因だろうな。

 いや、単に泳げない女子が多いだけという可能性もあるが。

 

「な、何でなんだ……いったい、俺が何をしたって言うんだ……くっ」

 

 目の前の光景が信じられないといった様子で、その場に崩折れる。

 

「何ってナニしてたからだろ」

 

「ナニもしてないわ!」

 

「冗談はともかく残念だったな」

 

「巨乳が……俺のっ……俺の巨乳が……っ!」

 

「お前のじゃねえよ」

 

 遠くで長谷部が『キモ……』と声を呟いていた。

 これは女子だけじゃなくて、男子の一部も引いているのだからよっぽどのことなのだろう。

 オレは少しばかり距離を取ることにした。

 

「まあ、落ち着けよ。観客席を見る限りは全員が見学ってわけじゃないだろ?」

「そ、そうだな。落ち込んでいる場合じゃない、よなっ……!」

 

 ふらふらとだが、ゆっくりと立ち上がる。

 

「何やってるの? 大丈夫っ?」

「く、くくっ……!?」

「悪役みたいな笑い声になってんぞ」

「櫛田ちゃん!?」

 

 目の前にスクール水着の桔梗が現れた……!

 さあ、どうする寛治! とりあえず押し倒すか?

 

 オレは耳元でぼそっと呟く。

 

「ここで押し倒してみるのも一興だと思わないか……?」

 

「で、でで、できるかよっ……!」

 

「……残念だ。入学して一週間でクラスメイトの脱童貞という奇跡的瞬間が見れると期待してたんだがな」

 

「それこそ綾小路の言うとおり刑務所だよっ」

 

「……?」

 

 そんなオレたちのやり取りに対して、桔梗は首を傾げていた。

 これで寛治が童貞を卒業できる機会は永遠に失われたと見える。

 実に残念だな。

 

 肝心のスクール水着を着た桔梗は、ブレザーの時よりも強調された豊満なボディでもって男子の視線を釘付けにしている。まさに男子の理想が具現化した姿だと言えるだろう。小柄で胸が大きく、全体的に程よい肉付きがエロスを醸し出していた。そのせいでオレを除いた男子は一斉に視線を逸らす。

 

 寛治の危惧していたことが現実となった形だった。

 

「みんなどうしたの?」

 

「男の尊厳と戦ってんだ。そっとしておいてやろうぜ」

 

「……?」

 

 本当はナニかわかってんだろこのビッチが!

 と叫んでみたかったが、ぐっと堪える。

 

「それにしてもすごい筋肉だねっ、海斗くん」

 

「そうか? これぐらいだろ普通だ普通」

 

「そうかなぁ……それに何だか傷もあるし、中学校では何をやってたの?」

 

「自慢じゃないが本の虫とはオレのことだ」

 

「全然自慢になってないし、真っ赤なウソだよねそれ」

 

「真っ赤な嘘も貫き通せば立派な嘘だ」

 

「結局それって嘘だね!」

 

 人を一人殺せば人殺しであるが、数千人殺せば英雄である、とはよく言ったものだ。

 嘘も吐き続ければ時に真実となる。

 

「い、い、いまっ、お前! 名前で呼ばれてなかったか!?」

 

「ああ? それがどうした?」

 

「ど、どど、どうしたじゃねえよ! いつの間に櫛田ちゃんと仲良くなってんだよお前!」

 

「別に仲良くなったつもりはないぞ。喋ったのだってこれで二回目だしな」

 

「じゃあ何でだよぉ!」

 

「あいつは誰にでもああだろ」

 

「でも誰も名前で呼ばれてないぜ! お前以外はな!」

 

 そりゃ意外っちゃ意外だが……

 そこまで目くじら立てるほどのことかよ。

 

「別に何だっていいだろ。桔梗が誰のことを名前で呼んでたって」

 

「櫛田ちゃんを名前で!?」

 

 しまった……。

 

「じゃあお前も名前で呼べばいいだろ」

 

「そんなことできるわけないだろ!!」

 

「だからお前は童貞なんだよ」

 

「ど、どど、童貞じゃねえし! そういうお前はどうなんだよ!?」

 

「……はっ」

 

「!?」

 

 寛治はその場で項垂れてしまった。

 心なしか涙を流しているようにも見える。

 こんなところにいたらオレも童貞になっちまう。

 

「よーし、お前ら集合しろやー」

 

 ボディビルダーでも目指してんのかってぐらいにムキムキな男が飛び込み台の前で、生徒たちに呼びかける。

 

「見学者は17人か。随分と多いようだが、まあいいだろう」

 

 まあいいだろうで済ませるにしては多すぎるけどな。

 Dクラスは全員で何人だったか。オレを含めて40人だったかね。

 ということは半分近くの生徒が見学してるってことになるな。見学しすぎだろ。

 

「じゃ早速だが準備運動をしたら泳いでもらうぞ」

 

「あの先生……」

 

「なんだ」

 

「俺あんまり泳げないんですけど……」

 

 一人の男子生徒が手を上げ、そう申告する。

 

「安心しろ。俺が担当するからには夏までに立派な水泳選手になれるくらいまでには育ててやる」

「そんなに泳げるようになる必要なくないですか……?」

「そうはいかん。泳げて困ることはないが、泳げないことで今後困ることがあるかもしれん。そうだろう?」

 

 確かに泳げて損はないだろうな。

 オレも泳いだことはないし、少しばかり楽しみだった。

 

「準備体操なんてかったりぃよなー」

 

「全身の血行が促進されて、血が巡ることによって勃起しづらくなるらしいぞ」」

 

「ま、マジでぇ!?」

 

 あからさまな嘘だったのだが、寛治は慌てて準備運動をしているのを見ながらオレも準備運動をした。

 

「まずは端まで泳いでみろ。泳げないヤツは底に足をつけてもいいぞ」

 

 とのことなので、人生で初めてプールの中に入った。

 水は適温に保たれているのか、冷たいと感じることはなく、むしろ心地よく身体に馴染む。水に包まれるという新鮮な感覚に感動を覚えながら、地に足をつけたまま全力で走ってみた。

 思ったよりも水の抵抗が激しく、前に進む速度は遅いが大きな飛沫を上げながら、50m地点に到達する。

 

 普通に泳いでいた生徒を見て、見よう見まねで真似をしてみたが……残念なことに歩いた方が早いように感じられた。これはやはり誰かに教えてもらうしかないな。

 

「……ふむ。とりあえず大体の生徒が泳げるようだな」

 

「こんなの余裕っすよ先生! 中学の時はトビウオマンって呼ばれてましたから!」

 

「そうか。それはよかった。ではこれから競争をしてもらう。男女別で50m自由形だ」

 

「きょ、競争っ……!? マジっすか」

 

「1位になった生徒には、俺から特別ボーナスを進呈しよう。5000ポイントだ。ただし、一番遅かった者には特別補習を受けさせるからな。覚悟して競い合え」

 

 その言葉に悲鳴の声が上がる。

 ってか自由形ってなんだよ。水の中で走ってもいいってことか?

 

「ああ、これも男女別で行うからな。女子は5人で1組に分けて、一番タイムの早い生徒の優勝だ。男子はタイムの早い上位5人で決勝を行う」

 

 最下位じゃなければ何でもいいか。

 

「櫛田ちゃん櫛田ちゃん櫛田ちゃん櫛田ちゃん櫛田ちゃん櫛田ちゃん櫛田ちゃん……はぁはぁっ……」

 

「気持ち悪っ!」

 

「ぶべっ!?」

 

 あまりの気持ち悪さに思わず手が出てしまった。

 オレに殴られた寛治が勢いよくプールに落ちていく。

 

「ぷふぁっ。おいっ! なにすんだよ!」

 

「いや……つい手が出ただけだ気にするな」

 

「男子が泳ぐのはまだだ。早く上がれ」

 

「す、すいません……ってお前のせいで怒られたんだけど!?」

 

「気持ち悪いお前が悪い」

 

 寛治がプールサイドに上がってから、女子1組目がスタートラインに立つ。そこで最も注目を集めていたのは、無愛想代表の鈴音。愛想の悪さだけが目立ちがちだが、あいつもまた美少女と言えるほどに顔立ちが整っている。

 あれで愛想が良ければ櫛田と並び立つほどの人気美少女だったに違いないのだが、無理な話だろう。

 

 先生が笛を鳴らし、女子5人が一斉に水の中へと飛び込んでいった。

 もちろん、鈴音は28秒というタイムで圧倒的トップ。才色兼備とはこのことだろう。

 

 続いてのメンバーはクラスの美少女代表である桔梗たち2組目。その登場に男子たちは歓喜の声を上げる。それに対して桔梗は微笑みを返しているもんだから、更に声が大きくなっていく。正直うるさすぎる。全員水の中に叩き込めば少しはマシになるだろうな、と考えている間に先生の笛が鳴りスタート。

 

 もちろん、ここでも代表の桔梗が圧倒的一位でゴール……とはならず、違う女子が26秒というタイムで一位になっていた。名前は聞いてなかったから知らん。

 注目を浴びていた4位の桔梗だったが何故だか歓喜の声がまたもや響き渡っていた。

 

 なんか1位になったのにあまり注目されない無名の女子にオレは少しばかり同情する。

 

「さて、いよいよ俺らの番だぜ!」

 

「オレは泳げないけどな……」

 

「お前泳げないのか? うっそだろ?」

 

「嘘じゃねえよ。お前をビート板にするぞこら」

 

「こええよ!」

 

 さて、どうやって泳ぐかだが……

 ひとまずは見よう見まねで泳いでみるのがいいだろう。

 健辺りを参考にすればいいのか? いや、寛治か清隆か……?

 

 んなことを考えている間にも時間は進み、オレはスタートラインに立たされる。

 まず、基本中の基本だが人間の身体は浮くように設計されている。だから溺れる心配はない。次に泳ぎ方だが女子のを見ていて何となく理解できたが、身体は真っ直ぐ伸ばして足先だけを動かす。そしてそれに合わせて腕を回すのが基本形のように感じた。呼吸に関しては泳ぎ切るまでずっと止めてればいいだろう。

 もしかしたら間違えているかもしれないが、泳ぐのは初めてなのだから仕方がない。

 

 笛がなり、周りに合わせて水の中へと飛び込む。勢いが良すぎて顔面で水を受けてしまったが、まあ多少の痛みは問題ないだろう。

 足を全力でバタバタさせ、腕で水を掻きながら前進していく。

 ようやく泳ぎ切り、水面から顔を出す。

 

「須藤やるじゃないか。25秒切ってるぞ」

 

 ちなみにオレのタイムは30秒ジャストだった。

 それでもどうやら7位らしい。

 

「朝霧、お前……泳ぎ方がわからないのか?」

 

「7位だぞ泳げてるだろ」

 

「……いや。そうじゃなくてな。何というか泳ぎ方がぎこちない気がしてな」

 

「まあ、泳ぐのは初めてだったからな」

 

「………そうか」

 

 先生は何やら変な顔で納得した様子で去っていった。

 いったい何だったんだ。

 

「よー、海斗。お前やっぱり泳げるんじゃねえか」

 

「はあ……」

 

 泳げてたのか泳げてないのかどっちだよ。

 

「だけど残念だったな7位ってことは決勝には出られないぜ!」

 

「別に興味ねえよ。ってかお前もじゃねえかよトビウオマン」

 

「トビウオマンって呼ぶなよ……」

 

 今日からこいつのあだ名はトビウオマンだな。

 

「あれを見ろ。さっきまで一位だった須藤をぶち抜いて一位だぞ」

 

 オレの視線の先では、六助のヤツが23秒という数字を叩き出していた。

 すごいのかどうかは不明だが、陸上の50mで考えれば遅すぎるから遅い方なのかもしれないな。

 

「やだやだ。これだから運動の出来るやつは」

 

 そんなことを言いながら、7位なのだから運動の出来るヤツに分類されてる気がするが……

 決勝に出られなかったのが気に食わないのかもしれない。

 

「さっきのすごかったねっ」

 

「23秒ってすごいのか」

 

 寛治が健の応援に行き、代わるようにして桔梗が隣に座り込んで話掛けてきた。

 

「それもすごいけど、海斗くんが泳いでた時の水飛沫のことだよ!」

 

「あ? ああ、アレか」

 

 そういえば他のヤツらはあまり水飛沫を上げてなかったな……

 と、今更ながらに思った。

 

「もしかして、泳ぐのは得意なの?」

 

「アレが初めてだ」

 

「ええっ!? ほ、ほんとに?」

 

「嘘を吐く理由がないだろ」

 

 さっきから驚かれるが、何がおかしいのか。

 ちょっと人より水飛沫が上がってただけで驚かれる意味がわからねぇ……。

 

「ふーん。そっか……じゃあ今度私が泳ぐのを教えてあげるよ!」

 

「機会があればな」

 

「約束だよっ」

 

 適当に約束を交わし、またしてもいなくなったタイミングで寛治が戻ってきた。

 なんなんだこいつらは。もしかして同一人物だったりするのか。

 そんなはずはなく、オレが桔梗と何を話してたのかとしつこく聞いてくるのでプールに突き落としてやった。

 

 




寛治=尊
みたいな感じの配役ですね。
三馬鹿ならぬ海斗の愉快な仲間たちを結成してほしいものです。

【裏設定】
※女子の胸の大きさでの掛け金は後日、全額キャッシュバックされました。
理由は女子全員のバストサイズを博士が把握できなかっため。

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