ようこそ禁止区域出身の男がいる教室へ   作:白崎くろね

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第6話「小テスト」 → 第6話 小テスト
(2018/10/10)


第6話 小テスト

 

 

 Dクラスの担任、茶柱先生が受け持っている日本史の時間。授業開始のチャイムが鳴ってもなお騒がしいのはもはや日常的な光景となっていた。それは先生が教室にやって来ても変わることはない。しかし――

 

「お前ら静かにしろ。今日はいつもよりちょっと真面目に授業を受けてもらうぞ」

 

「どういうことっすかー。佐枝ちゃんセンセー」

 

 完全に舐め腐った態度ではあるが、これもいつも通りのこと。茶柱先生が特に気にする様子もなく話を進める。

 

「月末だからな。今日は小テストを受けてもらうことになった。後ろに配ってくれ」

 

 一番前に座っている生徒に紙ペラが渡され、オレの元にも届く。

 内容は主要教科の国語、社会(地理歴史・公民)、数学、理科、英語の5つだ。それぞれ4問程度で、本格的なテストとは少々異なる。

 そんな風にオレがテスト用紙に目を通していると、誰かが背中をペン先で突付いてきた。それをしばらく無視していると次は肩を叩いてくる。それも無視すると――

 

「テスト用紙を回してくれ」

 

「これにオレの名前で書いて出せば点数の上限突破ができると思わないか?」

 

「……思わないな」

 

 我ながら良いアイデアだと思ったんだが、後ろのこいつは思わないらしい。

 これで普段は点数の悪いオレでも学年主席になれると思ったんだがな……。

 

「今回のテストはあくまでも今後の参考用だ。成績の類には一切反映されない。ノーリスクだから安心して受けろ。ただしカンニングには厳しく処罰させてもらうぞ」

 

 どうやら成績には反映されないようだった。

 これじゃ意味がないな。

 

「だそうだが」

 

「ということは別にテストを受けなくても問題はないってことには」

 

「そういうわけにもいかないだろ……」

 

「……ちっ、しゃあねえな。受け取れよ」

 

「何でオレが怒られてるんだ」

 

 仕方がなく後ろの男にプリントを回してやることにした。

 そういえば聞き覚えのある声だな、と思いながら振り向いて驚きの声を上げる。

 

「うおっ、ってお前清隆じゃねえか。いつオレの後ろに席替えしてたんだ」

 

「そ、そこからか……」

 

 清隆は何故かショックを受けていた。

 

 いきなりの小テストが始まり、オレは改めて問題に目を通す。問題自体はそう難しいものではないように思えたが、ここがDクラスという最底辺ってことを考えれば妥当な問題なのだろう。適当に空欄を埋めていく。

 全ての回答欄を埋めるのに数十秒と掛からなかった。実に楽勝な小テストだ。後は入試テスト同様にテスト用紙に印をつけていき、回答する以上の時間を掛けての紙飛行機制作に取り掛かった。

 

 そうして授業終了のチャイムが鳴り響くと同時に、完成した紙飛行機を茶柱先生の立っている教壇に狙いをつけ、ぴゅーと飛ばした。

 

 ……それに対して、茶柱先生はこちらを一瞥するだけで特に何も言うことはなかった。

 だから生徒に舐め腐った態度を取られるんだと思うんだが、まあオレには関係のないことか。

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

「海斗、お前は正直に答えてくれよ?」

 

「あ? 何だよ藪から棒に」

 

 いつも通りに平田たちとの昼食を終え、教室に戻ろうとした時。

 自販の傍で座り込んでいるDクラスの3バカ+アルファに絡まれてしまった。

 その中の一人、寛治の野郎が真面目な雰囲気で聞いてくる。

 

「俺たち友達だよな? 3年間苦楽を共にする仲間だよな?」

 

「え?」

 

「え」

 

 いきなり何を言い出すかと思えば……そんなことか。

 

「…………」

 

「…………」

 

「あっはっはっは!」

 

「どこかに笑う要素があったか!?」

 

「いや、オレたち友達とかいう冗談を言い始めるから笑えばいいのかと思って」

 

「それこそ冗談だろっ!?」

 

「ああ、冗談だ」

 

「なんだ冗談かよ……驚かせるなよっ!」

 

 友達、か。

 誰かに友達だなんて言われたのは初めてかもしれない。

 いや、薫のヤツが言っていたか。あいつは今何してんのかね……元気にやってるといいが。

 

「それで正直に言えって何だよ」

 

「あ、ああ……お前が変な冗談言うから忘れるとこだったぜ」

 

「さっさと言え。友達やめるぞ」

 

「そこまでのことじゃないよな!? ご、ごほん……お前、彼女が出来たんだろ?」

 

 ……彼女?

 

「彼女って何だ。お前が欲しがっている妄想上の生き物か? あぁん?」

 

「も、もも、妄想じゃねーよ! こっちは既にネタは上がってんだよ! 綾小路ィ!」

 

「あー、こないだカフェに女子と来てたよな?」

 

「なんだひよりのことか」

 

「誰だよそのひよりちゃんってのは!」

 

 気が付けば、先程まであまり興味のなさそうにしていた春樹や健のヤツも興味深そうにこちらを見ていた。

 別にあいつは彼女でも何でもないんだが……こいつらは女子と見ればすぐに反応するようなヤツらだったな。

 適当にはぐらかすか。

 

「それを言うならお前だってカフェに鈴音と来てただろ」

 

「なにィ!?」

 

「お前、やっぱり掘北と付き合ってたんだな!」

 

 オレを巻き込むな、と言わんばかりの視線を向けてくる清隆。

 

「付き合ってないって。全然。いや、ほんと。マジで」

 

「じゃあ何なんだよ。お前ら毎回授業中にコソコソと喋ってるだろ。そこで俺たちには言えないような猥談でもしてたんだろ。デートとか、デートとか、デートの約束とか! ああああっ、うらやま!」

 

 どうやら寛治の中では、デートの約束は猥談の類になるらしい。

 

「ないない。そもそも掘北ってそういうキャラじゃないだろ」

 

「しらねーよ。俺たちは話したこともねぇのによ。名前だって櫛田ちゃんから聞かなきゃ一生知らなかったかもしれねーしさ。影薄いってよりかは接点なさすぎって感じだ」

 

「お前が接点ないのは女子全般だろ」

 

「そんなことねーし! 櫛田ちゃんとか、櫛田ちゃんとか、櫛田ちゃんと絡みあるし!」

 

 言ってて悲しくならないのかね。少なくともオレは聞いてて悲しくなってきた。

 

「で、でも顔が可愛いってのはわかるじゃん? だから注目自体はしてるわけ」

 

「わりーが性格がキツそうだ。俺はああいうの無理だ」

 

 須藤がコーヒーを飲みながらそう言う。

 

「そう。そうなんだよな。やっぱ俺は付き合うならもっと明るくて会話が自然と続くような子がいいな。もちろん可愛くって、櫛田ちゃんみたいな!」

 

 こいつそれしか言わねぇな……。

 まあ、気持ちはわかるけどな。自分に優しくしてくれて、イヤな顔一つとして見せない天使のような女子。そういうのに男が弱いってのはよくある話だ。しかし、なあ……。

 

「あー櫛田ちゃんと付き合いてー。つかエッチしてえ」

「ばっか! お前が櫛田ちゃんと付き合えるかよ! 想像するのも禁止!」

 

 明け透けに言う春樹に対して、寛治が怒ったように反対する。

 

「お前こそ付き合えるとでも思ってんのかよ池。俺の中じゃ、もう櫛田ちゃんは俺の横で寝てるっつの!」

 

「なんだとこの野郎! こっちはコスプレやら下着でとんでもねぇポーズ取ってんだぞ!」

 

 二人して超低レベルな言い争いをしていた。

 こんなことで言い合ってるうちは誰とも付き合うことは出来なさそうだろうな。

 

「須藤は誰狙いよ。バスケ部にも可愛い子はたくさんいるだろ?」

 

「あ? 俺は……別にいやしねぇよ。新入部員が女の品定めしてる余裕なんてないっつの」

 

「本当かよ。とにかく! 彼女が出来たら隠さず報告すること、いいなっ! 絶対だからな!」

 

「お、おう……」

 

 あまりの勢いに清隆が困惑しながらも頷いていた。

 

「そういや平田と軽井沢が付き合ったんだって?」

 

「あーそうなんだよな。先日ショッピングモール辺りで手を繋ぎながら歩いてっとこを本堂が見たんだってよ」

 

「ありゃもう完全出来てるわな。肩を寄せ合って見つめてんだから」

 

「やっぱそうだよなぁ……もうエッチしたんかな」

 

「そりゃもうたくさんしてるだろーなー。あー、羨ましい。羨ましすぎるぜ……!」

 

 桔梗の次は恵であれやこれやを妄想し始める二人。

 相変わらずの煩悩具合だった。

 

「エッチ経験者の話が聞きてぇ」

 

 春樹がそう言った途端、全員の視線がオレに集まる。

 どこか期待に溢れた目だ。尊がたまに向けてくるような視線に似ているような気がした。

 要は尊のヤツが風呂場で向けてくる時のアレだ。

 

「そういえばお前って初体験はいつなんだ?」

 

「初体験」

 

「初めてエッチした時のことだよ! 気持ち良かったか? どんなだった?」

 

「そうだな……」

 

 オレは昔の記憶を思い出そうとする。

 正確には覚えちゃいないが、こいつらの言う初体験はあの時のことだろう。

 

『目の前の少女を犯せ』

 

 そう、親父がオレに言った時のことを思い出す。

 オレにとって、唯一の失敗と言っていい出来事。

 忌々しい記憶。

 あの日、あの時、あの瞬間に失敗さえしなければ……。

 

 オレは完全な強者になれていただろう。

 その甘さを捨てられなかったからこそ、今のオレがいる。

 だからオレは自分で思っているほど完全ではない。

 

 いや、もしかしたら――

 

「……忘れた」

 

「は?」

 

「そもそもオレがいつ経験があるって言ったよ」

 

「ほ、本当だな? お前も俺たちと一緒なんだな?」

 

「ああ」

 

 こいつらが想像しているような甘い経験なんてのはオレにはない。

 そういう意味では未経験と言えるだろう。

 

 もしも、こいつらの考えていることを経験する日が来るとしたら。

 それがオレにとっての初体験になるのかもしれねえな。

 

「はっ、ありえねぇけどな」

 

「何か言ったか? 海斗」

 

「いや、何でもねえ。んじゃオレは戻るぜ」

 

 いつまでも付き合ってる必要性はない。

 教室に戻って、ひよりに借りたミステリー小説でも読むとしよう。

 

「お前デートに行くんじゃないだろうな! だったら許さないからな!」

 

 オレが普通のデートなんてのをする日は、永遠に来ないってことだけはわかる。

 そう思いながら、寛治の言葉を無視して教室へと戻った。




【番外編】大久保ブーデ

あの後(第5話)、海斗とひよりの間であったかもしれない会話

「あ、そういえば……」
「あん?」
「こんな話はご存知でしょうか? この学校の図書室にあると言われている伝説の本のお話です」
「それがどうしたんだ?」
「あのミステリの巨匠とも言われる大久保ブーデ。彼の未発表作品がこの図書室にあるという噂」
「ま、まままま、マジでぇ!?」
「すごい食い付きですね……」
「当たり前だ! オレは大久保ブーデの大ファンだぞ! こうしちゃいられねぇ……! 今すぐ探しに行くぞひより! 早くしろ!」
「あっ、そんなに引っ張らないください」

 それは図書室の閉館時間まで続いたが――
 結局、大久保ブーデの未発表作品のタイトルを知らない彼らは見つけることが出来なかった。しかし、彼らがその本と出会うのはまた別の話。

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