ようこそ禁止区域出身の男がいる教室へ   作:白崎くろね

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今回は長いです。




第7話 ようこそ実力至上主義の世界へ

 

 

 5月――。

 

 今月最初の授業開始を告げる鐘の音が鳴った。それから程なくして、いつものように茶柱先生が教室へと入ってくる。その雰囲気はいつもの適当な雰囲気ではなく、どこか剣呑な気配をまとっていた。まるで抜き身の刀のような。軽い冗談でも言おうものなら、アイアンクローでもしてきそうなもんだ。

 

「せんせー、ひょっとして生理でも止まったんすかー?」

 

 そんな雰囲気に構うこともなく、寛治が最低最悪の冗談を飛ばす。ほんの少しだけ教室内の室温が低下したような錯覚を感じた。

 

「これより朝のホームルームを始める。が、その前に質問がある者は手を挙げてから発言しろ。気になることがあるのならば、今、この場で聞いておくことをオススメするぞ?」

 

 しかし、そこは立派な大人の女性。寛治の戯言には一切付き合わず、話を進めた。

 まるで質問されることが確定事項のような言い方だ。だがそれも当然だろう。

 一人の男子生徒が挙手し、茶柱先生がそいつを指す。

 

「今朝確認したんすけど、ポイントが振り込まれてないのはバグっすか? 確か毎月1日に10万ポイントが支給されるんじゃ? 今朝はジュース一つ買えなくて焦りました」

 

「本堂。お前たちに以前説明した通り、毎月1日になればポイントが振り込まれる。その通りだ。今月も間違いなく振り込まれているし、バグではない」

 

「でも実際に振り込まれてませんよ? ほら、見て下さいよ先生」

 

 そう言って本堂と呼ばれた男子生徒は、茶柱先生に端末を見せていた。

 ジュースを買えなかったという発言から考えれば、既にポイントは3桁を下回っているであろうことは容易に想像がついた。振り込まれたという言葉を信じるのは無理があると言えた。

 それでもなお態度を買えない茶柱先生の様子を見て、本堂は困惑しながら周囲を見渡す。他の生徒も心当たりがあるのか、怪訝そうな顔をしていた。

 

 そこで、ようやく――茶柱先生は表情を変化させた。

 

「――お前らは本当に愚かだな」

 

 そこにあるのは、人を見ているようで見ていないような瞳。

 有り体に言ってしまえば、オレたちを見下していた。

 

「俺たちが、愚かっすか」

 

 その変化に気が付いていないのか、本堂が間の抜けた声を漏らす。

 それもそうだろう。今日という日までDクラスの好き勝手を見逃してきたのだから。それ故に目の前で何が起きているのかを察することができないのだ。

 

 今まで下手に出ていた人間がある日、急に強気になったからといって誰も怖くも何ともないだろう。それと同じような状況にアイツは置かれているというわけだ。

 

「座れ、本堂。二度は言わん」

 

「佐枝ちゃん先生……?」

 

 だから困惑することでしか、ヤツは反応することが出来ない。

 そのまま力を失うようにして、ずるずるっと椅子に落ちていく。

 

「先ほど、バグではないと言った。その通りだ。このクラスだけ特別扱いされたということもなければ、私が嫌がらせをしているというわけでもない。事実として、この学校の()()()()()()()()()()()()()()()()。それは間違いようのない事実だ」

 

「そ、そう言われてもなあ? こうして振り込まれてないわけだしさ」

 

 オレは端末を内ポケットから取り出し、ポイント履歴の画面を呼び出す。

 何度見てもポイントが振り込まれている様子はなかった。

 つまりは、そういうことだ。《ポイントは確かに振り込まれたが、問題はいったい何ポイントと振り込まれた》のかが重要だ。

 

 何も変動していないのならば、それがもう答えだ。

 それにオレが気付けたのだから、当然――

 

「はははっ、なるほどなるほど。つまりはそういうことだね、ティーチャー」

 

 他に気付くヤツがいても何ら不思議じゃない。

 このクラスで一番と言っていいほど目立っている男、六助が爽やかに笑った。

 

「説明してあげようじゃないか、本堂ボーイ。私たちDクラスに支給されたのは0ポイント、ということだよ」

 

「はあ? それじゃ何も振り込まれてないだろ……」

 

 それでもなお理解できないでいる本堂を見て、六助はやれやれといった感じで額に手を当てた。

 

「態度こそは問題ありだが、高円寺の言う通りだ。これだけ言われても理解できないとはな。自力で気付けた数人を除いて、お前たちは本当に愚かだな。愚かを通り過ぎていっそ哀れだな」

 

 茶柱先生による答え合わせ、それを聞くことで他のヤツらも状況を理解出来たのだろう。いつものDクラス同様に教室中が沸き立った。それを見ている茶柱先生は『だから愚かなんだ』とでも言いたげだ。

 

「先生。質問よろしいでしょうか? 腑に落ちないことがあります」

 

 六助とは違った意味でクラスの連中に注目されている洋介が手を上げる。

 

「なんだ言ってみろ」

 

「振り込まれなかった具体的な理由を教えてください。でなければ僕たちは納得できません」

 

 それに関してはおおよその検討がついていた。

 予め、ある程度の予備知識があったからな――

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 オレがこの学校に入学する前の話だ。

 憐桜学園を去り、暁東市からも出ていこうとした時、スーツを着た男に声を掛けられた。

 その男の周囲には、くたびれたシャツを着た男が三人。距離は離れており、いかにも一般人風の男たちだったが、先日までボディーガードの卵として訓練していた身だったからすぐにわかった。こいつらがスーツの男を警護するボディーガードだってことにな。

 

 男はオレの方を軽く観察するような素振りを見せてから、こう言った。

 

「やあ、私の名前は坂柳。ある学校の理事長をしている者でね。君にちょっと話があるんだ。そう、警戒しないでほしい」

「それで学校の理事長がオレに何の用だ? 自慢じゃねえが今しがた学校を自主退学してきたところなんだ」

 

 理事長という言葉を聞いて、憐桜学園の校長である佐竹の顔が頭に浮ぶ。がしかし、オレは退学届を誰にも告げずに置いてきたのだった。しかも佐竹のヤツが学園から出るタイミングを狙ってのこと。話が広がるには早すぎる。

 だとすれば考えられるのは、佐竹以外による差金だが……まるで心当たりがなかった。しかし、オレを恨むような人間はごまんといる。だから誰に狙われても不思議じゃない。不思議じゃないが……

 

 話を聞いてみるのも悪くないと思った。

 

「まず、君の名前を聞いてもいいかな?」

 

「……朝霧海斗だ」

 

「朝霧くんは実力で全てが決まる世界には興味はないかい?」

 

「実力で全てが決まる世界だ?」

 

「うん。詳しく説明することは残念ながら出来ないんだけど、私の運営する高校『高度育成高等学校』はそういう場所なんだ。普通の高校の入学条件とは異なり、こちら側が事前調査を行った上で『当校に所属するに相応しい』と判断された生徒だけが入学が認められる。そんな場所なんだ」

 

「……はぁん」

 

 どうにも胡散臭い話だった。

 そもそもの問題からして、その理事長がどうしてオレなんかに声を掛けてくるんだ?

 どう考えてもおかしいだろ。油断や動揺を誘う罠にしか思えない。だがしかし、目の前のこいつは嘘を言っているような気配は微塵も感じられない。

 

 まあ、そんなことはどうでもいいが……。

 

「で、それがオレにどう関係するんだ? まさかとは思うがオレに入学しろとか言わないよな?」

 

「……察しが早いね」

 

「おいおい。おいおいおいおい。冗談だろ?」

 

 冗談だと言ってくれ。

 

「冗談ではないよ。先程も言った様に『相応しい』者であれば問題はないよ」

 

 ……残念ながら冗談ではないらしい。

 こいつ本気で言っている。それも既に確定事項のようなニュアンスで、だ。

 

「だとしたら目が節穴どころの話じゃないだろ」

 

「そうかな? 朝霧くんからは相対しているだけで並々ならぬ才能を感じるよ」

 

「どこがだよ。そもそも会ったばかりでんなもんわかるわけねぇだろ」

 

「知り合いや友人に似たようなことを言われたことはないかい?」

 

「これっぽっちもないな」

 

「だとしたらその人たちが節穴だったと言わざるを得ないね」

 

 いや、マジで記憶にないんだが……。

 尊のヤツにはいつも馬鹿にされていたし、同居人の薫には失望されてばっかりの毎日を送ってきたからな。侑祈はロボットなのにオレ以上のバカだから省いておく。

 むしろ面倒ごとばかり起こすと評判だ。

 なーんか悲しくなってきたんだが……。それもこいつのせいだ。

 

「一発殴ってもいいか?」

 

 その一言にボディーガードの男たちが睨みつけてくる。

 

「き、君に殴られたら死んでしまいそうだ。それに君の友人をバカにしたことは謝ろう」

 

「大丈夫だ。オレの身体能力は学年でも最下位だからな。蚊に刺されたようなもんだろ。ってか別にそこは気にしちゃいねーよ」

 

 あいつらがどんな風にバカにされてようが、オレは気にしない。

 それがたとえボコボコにされてたとしても。ただ、少しくらいは仇討ちしてやってもいいかなーってぐらいには思うかも知れないが。まあ、あいつらをボコれるヤツなんて早々いるわけないけどな。そんなヤツがいたらオレは勝てないし。

 

「だとしても殴られるような趣味はないよ」

 

「ま、そりゃそうか」

 

 仕方ないヤツめ。

 殴るのは勘弁しておいてやろう。慈悲深いオレに感謝するんだな。

 

「それで話を元に戻すけど、君には是非とも入学してほしいんだ。君の年齢に関してなら問題はないよ」

「断る、って言ってもアンタは潔く諦めるような人間には見えないな……」

 

「そうだね。私に出来ることなら何でもしてあげよう。もちろん法律やこれから入学する学校の規則に反しない限りでだよ? そう言っておかないと朝霧くんは本当に何でも要求してきそうだからね」

 

「そう言われてもな……」

 

 少しだけ考えてみる。

 

「あー、じゃあアレだ。そこにいるボディーガード。そいつらの警護を今すぐやめさせろ」

 

 そう言って、オレは離れているで3人を指して言う。

 要はオレとサシで話し合おうということだ。

 んなことできるわけがない。出来るなら最初からボディーガードなんて連れてないからな。

 

「…………」

 

「出来ないだろ? それじゃあな」

 

 そう言ってオレは踵を返そうとする。

 それを坂柳という男が慌てて引き止めた。

 

「待った待った! 本当にそれだけでいいんだね?」

 

「もちろんだ」

 

「どんな要求をされるかと内心ヒヤヒヤしたよ」

 

 坂柳がちょいちょいと手招きし、私服で紛れていたボディーガードが近寄ってくる。

 

「なんでしょうか坂柳様」

 

「悪いけど今日の護衛はこれで終了ね」

 

「な、何故ですか!? もしやこの男に何かされて……」

 

「あ?」

 

 何故か睨まれたのでオレもガンを飛ばしてやった。

 が、相手は立派なボディーガード。オレのような凄みに欠ける男に睨まれても怯むわけがなかった。

 

「彼がね、ボディーガードがいると落ち着かないと言うんだ。頼まれてくれるね?」

 

「しかし……」

 

「これからの給料を全額カットしてもいい、というのなら続けてくれても構わないよ」

 

「……失礼しました。ではお気を付けて」

 

 オレを睨みつけながらも撤退していく。

 

「これでいいかい?」

 

「マジでやるとは思わなかったぜ。命が惜しくないのか?」

 

「元々彼らは然程必要と言うわけでもなくてね。先生ほどの御方ならともかく」

 

「先生?」

 

「それはこちらの話だから気にしないでくれ。それで入学してくれる気にはなったかな?」

 

「なんか余計にやる気が失せてきたな」

 

 こいつはオレに何を求めているんだ?

 それがちっともわからねぇ……。

 

「とりあえず話だけでも聞いてほしい」

 

「……はあ。ったくわーったよ。話だけ聞いてやる。だが退屈だと感じたらそれでお開きだ」

 

「うん。一先ずはそれでいいよ。じゃあ――」

 

 坂柳はタクシーを止め、運転手に目的地まで走らせた。

 その間、オレのことを色々と聞いてきた。

 禁止区域出身であることをはぐらかしつつ、それに答えていく。

 

 それが、オレと坂柳との出会い。

 この高度育成高等学校に入学するキッカケとなった最初の出来事。

 

 そして、目的地に着いた時に坂柳が言った言葉が決め手となった。

 

「退屈だけはさせないと約束するよ」

 

 その言葉さえあれば。その事実さえあればいい。

 退屈さえしないのであれば、オレは構わないと思ったんだ。

 それだけがオレを殺し得る唯一の概念だからだ。

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 と、言うわけで……。

 

「お前たちは遅刻欠席、合わせて109回。授業中に携帯を触った回数は412回。その他にも授業中の私語や逸脱した授業態度の数々。よくもまあこれだけのことが出来るもんだと逆に感心する。この学校では、《クラスの成績がポイントに反映される》。その結果としてお前たちは見事に全ポイントを吐き出したというわけだ。入学式の際にも説明したはずだ。この学校では実力で学生を測る、とな。そして、今回は0ポイントという判定が下された。まさに自業自得と言わざるを得ない結果というわけだな」

 

 無感情のままにそう告げる茶柱先生。

 一方でオレはと言えば、実に面白い展開になってきたな、と感じていた。

 

 今日までは憐桜学園にはなかった新鮮な毎日で退屈こそしていなかったが、こんな日がずっと続いていれば遠からずオレは退屈を感じ始めていただろう。そして、同じように退学届を出していたかもしれない。

 だが、ここに来て状況が変わってきた。生徒を実力で測るという言葉が本当だとするならば、近いうちにオレたちの実力を発揮するための場が用意されるはずだ。その形式がどのようなものかはわからないがな。

 

 しかし、わからないことが一つだけあるにはあるが……

 

 どうして実力を測る行為がクラス全体で評価されるのか、という点だ。これもある程度の推察は立てられる。そのうちの一つは組織単位での統率力といった要素。

 複数の人間で構成される組織には、必ずリーダー的な存在が必要不可欠とされている。それは世の中の社会という仕組みが証明しているだろう。部隊であればそれを統率する部隊長。軍事行動をするのであれば司令官といった存在がそれに当たる。

 

 時には誰かに従い、力を発揮することもまた真の実力。

 このクラスで言えば、洋介や桔梗がリーダー的素質を持っている人間だ。目立った行動をしている人物はそれくらいだな。男と女で実にバランスがいい

 

「茶柱先生。僕らはそんな話、説明を受けた記憶はありません……」

 

「お前らは1から10まで説明されないと理解できないのか?」

 

「当たり前です。振り込まれたポイントが減るなんて話は聞いてませんでしたので。もし、説明さえ受けていれば僕たちは減点なんてしなかったはずです」

 

「私は振り込まれるポイントがどのような仕組みで振り込まれるかを説明した覚えはないな。そもそもだな、お前たちは小中学校で何を教えてもらった? 授業はサボってもいいと教えられたのか? 私語をしても怒られなかったとでもいうのかお前は」

 

「それは……」

 

「お前たちの文句は甘えた子供の言い訳でしかない。普通のルールさえ守れずに『そんな話は聞いていません』が通用するとでも思っているのか。違うだろう。全ては自業自得だ」

 

 憐桜学園では訓練をサボろうものなら、ケツをバットで叩かれてでも訓練させられたもんだ。

 もちろん佐竹に反撃したり、何度も誤魔化してきたがな。

 

 洋介は完全に言い負かされていたが、それでもなお言葉を続けた。自分が言葉を続けなければ、同じような過ちを繰り返していくことになるからだろう。

 

「では……せめてポイント増減の詳細を教えてください」

 

「それはできない相談だな。というのはお前たちが可哀想、か。仕方がないから一つだけ教えてやろう」

 

 茶柱先生はニヤりと口角を上げる。

 何か良からぬことを企んでいる者の目だ。

 

「今後、態度を改めて欠席や私語をやめたとしても、ポイントが減ることはないが増えることもないとだけ言っておこうか。つまり来月のポイントも0のまま、というわけだな。逆説的にいくらサボろうが負担は何もないってわけだが嬉しいだろう?」

 

 あまりに残酷な言葉が茶柱先生の口から飛びだし、洋介は絶句していた。

 そういえば、春樹のヤツは0ポイントだったか? ご愁傷様だな。

 

 ちなみにオレが所有している現ポイントは42,880ポイント。

 そのほとんどが本による出費と考えれば、あと一ヶ月程度は余裕で乗り切れるだろうな。

 

 ホームルーム終了を告げるチャイムが鳴った。

 

「どうやら無駄話に時間を費やしすぎたな。そろそろ本題に入ろう」

 

 教壇から茶色の封筒を取り出し、中に入っていた紙を広げた。それを黒板に貼り付け、全員が見れるような状態で紙の内容が公開される。

 

 その内容は、各クラスの成績表。

 AからDクラスまでの数字が書かれている。

 オレたちのクラスが0であることから、それがクラスの支給ポイントであることがわかった。

 

 Aクラス:940

 Bクラス:650

 Cクラス:490

 Dクラス:0

 

 単純に考えれば1000クラスポイントで初期の10万ポイントということか。

 

「こ、こんなのあんまりっすよ! これじゃ生活できません!」

 

 今まで黙っていた寛治が不満を言うが、そんなもので茶柱先生がポイントを増やしてくれるわけもない。

 

「よく見ろバカ共。Dクラス以外のクラスは普通にポイントが支払われているだろう。それも生活するのに問題のないポイントがな」

 

「ふ、不正ですよ不正! 他のクラスのヤツらが……」

「それはないと断言してやる。どのクラスも同じ条件の元で採点されているのだからな。お前たちのように無闇矢鱈とルールを反してはいないってことだ」

 

「どうして……こんなに差があるんですか……」

 

 教室の中は阿鼻叫喚と言った言葉が似合う様相になっていた。

 

「ようやく理解してきたな。お前たちが何故Dクラスであるのかを」

 

「お、俺たちがDクラスに選ばれた理由……?」

 

「そんなの適当だよね?」

 

 これは本に載っていたことだが、学校のクラス分けは生徒の性格などを十分に考慮した上で、クラスを分けるのが基本らしい。それに一般的な学校は1組、2組と数字が多いと聞く。

 以上の情報を合わせて考えれば、それがクラスの優劣を測るランクのようなものだとわかる。

 

「この学校では、優秀な生徒たちの順にクラス分けされるようになっている。この紙を見ていればわかると思うが、このDクラスは最底辺だ。それも全ポイントを吐き出したのはお前たちが初だ。よくやった。立派立派」

 

 皮肉りながら、茶柱先生がぱちぱちと手を叩いた。

 

「これから俺たちは周りにバカにされるってことかよ……」

 

「須藤、お前にも気にするような体面があったんだな。なら頑張って上を目指せばいい」

 

「あ?」

 

「何もクラスポイントはお金だけじゃない。このポイントがクラスのランクに連結している。バカにでもわかるように言えば、DクラスはAクラスにもなれるということだ」

 

 洋介が言っていたように、オレたちが予め知っていてなおかつ態度が良ければAクラスだった可能性があるってことだな。まあ、それでも無理だろうけど。

 

「さて、もう一つだけお前たちに残念なお知らせがある」

 

 黒板に貼られたのは、もう一枚の紙。

 今度は各クラスごとではなく、クラスメイトの名前が記載されていた。

 名前の横には何やら点数が書かれている。

 

「この数字が何かはバカでもわかるだろう」

 

 生徒たちを一瞥し、続ける。

 

「先日やった小テストの結果だ。揃いも揃って粒ぞろいで嬉しいぞ。中学ではいったい何を勉強してきたんだ? お前らは」

 

 他のヤツの点数には興味はないので、名前を探す。

 確かテストは全問回答したから上から数えた方が早いだろう。

 朝霧、朝霧……朝霧? おいどこだよオレの名前は。

 もしかしてオレは朝霧じゃなかった?

 

 今日からオレの名前は高円寺六助だ。

 みんなもそういうことでよろしく頼む。

 明日からはパツキンにしなきゃなー。

 

 ……って現実逃避は置いておくとして、オレの名前は一番下にあった。

 点数は0点。全問不正解というオチだった。なんてこったいぱんなこった。

 

「特にお前だ」

 

 茶柱先生がオレの方を向いた。

 ああ、なるほど。

 

「言われてるぞ清隆」

「お、オレか?」

 

 オレが後ろを向いて、清隆に声を掛けた。

 先生に名指しされるなんてお前もやるなー。

 

「……朝霧。お前だバカ者」

 

 ………………。

 

「オレの何が不満なんだ!?」

「不満どころの話じゃないぞ。逆にお前という人間に興味が出るぐらいだ」

「いやあ、それほどでもないですなあー」

「…………」

「あははっ、てへぺろっ」

 

 こつーん、と頭を叩いてから舌を出した。

 なんて可愛らしい反応だろうか。これには茶柱先生も思わずにっこり――――とは、ならなかった。

 今にも人を殺しそうな目でオレを見ている。これにはオレもチビリそうだった……。

 

「し、しぃましぇん……」

 

 へこへこと頭を下げ、全力で謝った。

 その甲斐があったのか、茶柱先生は少しだけ殺気を和らげる。

 いったい、何が不満だと言うのか。オレの脳内イメージは桔梗並の可愛さだと言うのに。寛治なら鼻血を出しながら貧血でぶっ倒れてたところだぞ。

 

「…………良かったな。これが本番なら即刻退学だったぞ」

 

「た、退学……? 朝霧くんは確かに0点ですが……」

 

「ああ、あいつは0点という類まれな才能を見せてくれたが……」

 

 お前ら0点、0点ってうるさいぞ……。

 何だよ。0点くらい誰でも取るよなあ?

 

『ははっ、もちろんさあ!』

 

 ほら、オレの中の尊もそう言ってる。

 そんな心の声が聞こえるはずもなく、茶柱先生は話を続けていく。

 

「この学校では、中間テスト・期末テストで1科目でも赤点を取ったら退学になることが決まっている」

 

「は、はああああっ!?」

 

 その事実に点数が低かった者たちが絶叫を上げる。

 

「ふっざけんなよ佐枝ちゃん先生! 退学とか冗談じゃねえ!」

 

「それを私に言われても困る。全ては学校側の決まりだ。腹をくくれ」

 

「Hmm。ティーチャーが言うように、このクラスは実に愚か者が多いようだねぇ」

 

「んだと高円寺! てめぇも同類だろうが!」

 

「はははっ、そのジョークセンスは悪くないけど見給えよ」

 

 上から眺めたからオレは知っている。

 高円寺がこのクラスで最も点数が高いことを。

 言うなればオレの反対側にヤツはいるのだ。

 

 つまり天と地の差というヤツだ。

 だが地上があっての民草と言える。地上側のオレは最強ということだ(意味不明)

 

「それからもう一つ付け加えよう。政府の管理下であるこの学校は高い進学率と就職率を誇っている。それは周知の事実だ」

 

 パンフレットや坂柳が言っていた。

 この学校は進学や就職をする上で大きなアドバンテージになる、と。

 

「が、世の中はそんなに甘くはない。お前らのような低レベルな人間がどこにでも行けるほど甘く出来ているわけがないだろう」

 

 まあ、そうだろうな。

 事実として、誰にでも入ることの出来る憐桜学園だって訓練の成績次第では普通に退学させられ、成績が悪ければ護衛対象の格も下がるというものだ。実際、オレのプリンシパルもは決まってなかったしな。

 

「つまり希望の就職、進学先に行くには、Cクラス以上のクラスに上がるしかないんですね」

 

「それも違うな平田。この学校で将来を確約してもらいたければ、Aクラスに上がるしか方法はない。それ以外の生徒には、何一つ保証してやることはできないな」

 

「そ、そんな……そんなのは、滅茶苦茶だ!」

 

 それに反発の声を上げたのは、洋介ではなくメガネを掛けた男。

 

「みっともないねぇ……先程もティーチャー言ってたではないかね? それは言い訳でしかない、とね」

 

「お前は、Dクラスだと言うことに不満はないのかよ」

 

「不満? 何を不満に思うのか、私にはわからないねぇ」

 

「オレたちは学校側から落ちこぼれのレッテルを貼られたんだ! その上、将来の保証がないとまで言われたんだぞ、当たり前だろ!」

 

「ふっ、それこそ実にナンセンス! はっはっはっ」

 

 爪を研ぎながら、高笑いする六助。

 

「それは学校側が私のポテンシャルを測れなかっただけのこと。何も不満に思うことはいねぇ。私は誰よりも自分を評価し、尊敬し、尊重し、全てにおいて最高の人間だと考えている。学校側がどのような判定を下そうとも勝手にするといいさ」

 

 これほど唯我独尊という言葉が似合う男がいただろうか。

 

「それに私は学校側にどうこうしてもらおうとは微塵も思ってはいないのでね。高円寺コンツェルンの後を継ぐことは決まっている。DでもAだったとしても些細なことなのだよ」

 

 生まれながらにしての勝ち組は言うことが違うな。

 宮川家というボディーガードの家系に生まれてきた尊でもここまでは言わないだろう。

 この場にあいつがいたとしたら、間違いなく反論していたに違いない。

 

「どうやら入学時の浮かれていた気分は完全に払拭されたようだな。中間テストまでは後3週間、まあじっくりと勉強でもして退学を回避してくれ。お前らが無事に乗り切れる方法はあると確信している。それが実力に相応しい手段でもって挑んでくれることを祈っている」

 

 その言葉を残して、茶柱先生は教室を後にした。

 

 

 

 

 




さて、ここまでがプロローグのようなもの。
ここから本格的に物語は動いていくことになります。

今後はもっと海斗らしさが見えてくると思いますので、楽しみにしていてください。

※海斗が賭けに使用したポイントは全額キャッシュバックされています。
詳しくは『第4話 初めての水泳』の後書きをご確認下さい。
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