戦国†恋姫 ~飛天御剣流の使い手の転生者~   作:リュオネイル

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いやぁ、第二話ですよ第二話!
…………意外と原作見ながら小説書くってかなりハードですよ。ハードもソフトも持ってないから○ouTubeとか見ながら執筆しないとキツいですし……。

とまぁ、こんな愚痴っぽいの書いても仕方ないですね!それでは、張り切って本編、いってみましょう!


第二話 出会ったときは最初が肝心

 あれから俺は、特典として貰った能力、飛天御剣流をモノにするために色々なことをした。え?具体的に何をしたって?……そうさな。まず飛天御剣流の重要な要素の一つである『剣の速さ』を鍛えるため、必死に剣を振った。ただ剣を振り回すだけじゃなく、どうやればもっと速くなるか、どう動けば効率良く剣を振るえるか……等々、できる限り自分なりに研究した。

 次に、『身のこなしの速さ』だ。簡単に言えばどんな状況になっても柔軟に対応できるような身軽さを会得しろってことだな。しかし簡単に言ったは良いものの、これはこれでかなりキツかった。何がキツかったってただ速く動けば良いものじゃなく、例えば空中で体を捻らせたり壁を走り抜けるなどといったかなりアクロバティックな動きも要求するから、何度体を痛めたことか……。

 最後に『相手の動きの先を読む速さ』。こればっかりは自分の想像上の相手でしか出来ない。だからこれは後回しにし、他の二つを最優先に修行をした。

 

「…………」

 

 そして今。俺は周りを巻き藁に囲まれている中心で正座し瞑想していた。……寝てる訳じゃないぞ?これは精神を落ち着かせて、且つ鋭く研ぎ澄ましているのだ。

 

「…………ハッ!」

 

 暫くして俺は瞑想していた状態からカッと目を見開き、正座から立ち上がって瞬時に腰に差してある木刀を抜き、目の前にある巻き藁に左から叩き込む。その勢いのまま向かって右側にある巻き藁に逆袈裟斬りに切り上げ、木刀を振り上げたまま間を開けずに今度は逆の左の巻き藁に上から勢い良く振り下ろす。

 次に正座していたところから見て後ろの正面に設置していた巻き藁に向かって走り、今度は右から木刀を叩き込む。そのままの勢いのまま体を回転させ向かって左側の巻き藁に木刀を叩き込む。すぐに振り返って反対側の右の巻き藁に向かって走って飛び上がり、その勢いのまま木刀を人間で例えるなら頸のある部分めがけて叩き付ける。

 

「…………ふぅ」

 

 そこで動きを止め、動くのに止めていた息を漏らして木刀を腰に差し込む。すると久しぶりに、あの声が聞こえてきた。

 

──やぁ。久しぶりだね、三門亮二君。こうして会うのは一週間ぶりだね。

「あぁ神様か。たしかに久しぶり……って、一週間も経ってたのか?」

 

 神様の言葉に軽く驚く俺。あんまり一週間を過ごしたって感じはしないんだけど……。

 

──君は死んでいるんだし、そもそもこの空間は君の望むように変わるとはいえ、訓練以外は普通真っ白で変わらないからね。そう感じるのも無理はないさ。

 

 そうだ。神様の言う通り、この空間は神様の力によるものなのか、俺が想像したものがそのまま出てくるのだ。さっきの巻き藁も、俺が想像してこの空間に出したものだ(といっても出してくれたのは神様だけどね)。あ、あと壁を走り抜けるために使う壁も同様だ。

 

「ありがとうな、神様。おかげでいい訓練ができたよ」

──なに、転生した先ですぐに死なれては困るからね。次の人生では、君には幸せになってもらいたいんだ。

 

 ……神様、そこまで俺のことを……わざとじゃないとはいえ、多少恨んでしまった自分に申し訳なさを感じる……。

 

──それで、もう転生の方は良いのかな?

「あぁ。……ただ、どうしても奥義が会得できなくてな。これについては転生してから会得するよ」

──……そうか。君がそれで良いのなら、僕は何も言わないよ。それじゃ、転生の扉を開くよ。

 

 声が終わるとほぼ同時に俺から見て左の方に縦向きの長方形の穴が開いた。

 

──その穴に入って出れば、そこはもう転生先の世界だ。君の親友も、そこにいるはずだ。

「……この穴の先に、アイツが……」

 

 いよいよ、会えるんだな……。そう思うと早く行きたくてしょうがないが、俺は振り返って姿の見えない神様に向かって叫んだ。

 

「ありがとうな、神様ぁ!あんたのことは絶対忘れねぇからよぉ!」

 

 俺はそう叫ぶとすぐさま穴に入った。

 

■□■□■□■□■□

 

 彼──亮二君が転生穴に入った後、すぐに穴は閉じられた。それから少しして僕は姿を現す。

 

「……本当は、君に直接謝りたかった」

 

 でも、人間には僕の姿は……神の姿は直視できない。直視すれば、その神々しさに眼をヤられ、光を失ってしまう。だから姿を現すことが出来なかった。

 

「願わくば、来世の君が幸せであらんことを……」

 

 僕はやるせない想いを胸に、上を見上げた。

 

■□■□■□■□■□

 

「申し上げます!」

 

 灰色の雲から雨が降る中、使番の兵士が片腕片膝を立てて叫ぶ。

 

「許す!」

「今川勢は現在、田楽狭間にて小休止! 全軍を分散させて昼弁当を使っております!」

 

 やはりな……我らを小勢と侮って敵地で小休止とは。まぁ、大軍を率いる者ならば油断するのは仕方ないことだが。

 

「デアルカ。 ……大義」

「はっ!」

 

 我が労いの言葉をかけると兵士は返事をしてその場を去る。

 すると赤と紫を混ぜたような色の髪をした女性が静かに呟く。

 

「勝者の余裕…………ということですかな」

「勝者か。あながち間違ってはおらんな」

 

 女性の呟きに我が苦笑すると臼緑色の女性が発言する。

 

「我が方は二千弱。対する義元公は一万五千ほど。軍神摩利支天といえど、この差を覆すのは至難の業でしょう」

「常識的に考えて、あの大軍にこれだけの少数で奇襲を掛けるのは無謀を通り越して自殺行為だからな」

 

 臼緑色の女性の言葉に赤毛の女性が続く。

 

「常識などと、そんなつまらんものに縛られる者に、大業など成しえんぞ」

 

 しかし我は当たり前のことのように言い返す。

 

「しかし殿……」

「おけぃ。今やることは問答ではなく、合戦である。説教は義元を討ち取った後に聞いてやる。持ち場につけ」

「「はっ」」

 

 それでもなにか言いたげな女性に私は先に発言し、命を下す。それに二人は返事をして馬に乗り、それぞれの陣営に戻っていく。

 

「さて……この織田久遠信長。一世一代の大博打、勝ちきってみせようではないか……!」

 

 雨が降り注ぐ下で、我はそう断言すると大きな雷鳴が鳴り響いた。まるで、戦が始まるときの法螺貝を鳴らすが如く……。

 

■□■□■□■□■□

 

 一方、ここは田楽狭間に小休止している今川陣営の近くの林。そこには二人の少女が密かに潜んでいた。

 

「ひぃーっ!」

 

 そのうちの一人、白髪の少女が突然の雷鳴に悲鳴をあげる。

 

「こら小平太、うるさい! 見つかっちゃうでしょ!」

 

 もう一人の黒髪を赤いリボンで纏めた少女が白髪の少女──悲鳴をあげる小平太を咎める。

 

「雷様が怖いんだもん。仕方ないだろ!」

 

 咎められた小平太も黒髪の少女に涙目になりながら反論する。対する黒髪の少女は呆れながら言う。

 

「武士が雷様が怖いとかバカじゃないの。雷様より武功をあげられないことを怖がりなさいよ」

「分かってるけど怖いもんは怖いんだよぉ……」

 

 気丈に振る舞う黒髪の少女に対し、小平太は弱々しく答える。黒髪の少女はそんな小平太に叱咤するように言う。

 

「この戦に勝たなくちゃ、殿様の命だって危ないのよ。今までご恩を受けているんだから、しっかりしなさい」

「わ、分かってるよ。ここが死に場所だって心得てる。……でも雷様がなぁ……」

 

 少女の言葉に弱々しくも頷く小平太だが、やはり雷様が怖いのか、恐る恐る雨雲を見上げる。すると突然、少女が小平太の前に手をかざし人差し指を立てて口に添える。

 

「シッ!」

「……ッ!」

「居た……」

 

 小平太は急なことに驚いたが、少女の視線の先にあるものを見て察し、少女もずっと探していたものを見つけたときのように呟く。

 

「ど、どこどこ……?」

「ほら、あの一際大きな木の根元……雨を避けているんでしょうけど……」

 

 小平太もその姿を見つけるべく視線を巡らす。少女はある場所を指差しながら説明する。

 

「胸白の鎧に金の八龍を打ちたる五枚兜、それに赤地の錦の陣羽織を枝に引っかけてる。 ……間違いないわ」

 

 少女の説明に小平太は眼を凝らしてみると、なるほどたしかに陣羽織を脱いで近くの枝に引っかけている肥満な体をした男が居た。

 

「うへっ、戦場なのに鎧脱いでいるのかよ。……まぁムシムシしてるし、気持ちは分かるけどさー……」

「私たちみたいな小勢を、って侮っているんでしょう。全軍緩みきっているわね。……これは好機かも」

 

 男の格好にありえないものを見る小平太。自分達を小勢だと侮っている態度に若干腹を立てる少女。しかし、少女は今の状況を好機と見ていた。

 

「……行くのか? 後続に連絡した方がよくねぇ?」

 

 このまま突撃することを予想した小平太は安全策を提案する。が、少女にはその提案は受け入れられなかった。

 

「後続を待ってたら時期を逃しちゃうでしょ。それに武功は独占してナンボ。呼子を鳴らして報せたら、二人で突撃するわよ」

「言うねぇ。……新介にノッた」

 

 少女──新介の言葉に面白そうに笑いかけ、新介の提案に乗る小平太。

 

「……っし。 二人だったらなんとでもなるわ。……いくわよ、小平太」

「おうよ」

 呼子を取り出した新介は今川陣営──正確に言えば義元の様子を窺いながら呼子を構える。

 

「…………………………今よ!」

 

 新介は叫ぶと同時に呼子を鳴らす。そして二人は同時に槍を手に今川陣営に突撃しながら名乗りを上げる。

 

「織田上総介久遠信長、馬廻り組組長、毛利新介参候!今川治部大輔とお見受けいたす!」

「今川殿が御首級、この服部小平太が頂戴仕るー!」

「お覚悟!」

 

 突然突撃してきた二人に、当然今川軍は騒然。

 

「と、殿をお助けしろーーーー!」

「おう!」

 

 しかし、今川軍の家老の指示であっという間に二人を取り囲む兵士達。

 

「ちょ、こら小平太!足軽達を何とかしてよ!」

「やってるってば!け、けどキリがねぇんだよ……!」

 

 囲んできた兵士達に苦戦を強いられる新介と小平太。二人は言い争いながらなんとか数多くの兵士達を凌いでいた。

 

「きゃっ!?」

 

 そんな中、新介が敵兵士の一人に押し負かされ、地面に倒されてしまう。

 

「新介!?……くっ!?」

 

 新介の短い悲鳴が届いた小平太はすぐにでも新介を助けに向かいたいが、次から次へとやって来る兵士達が邪魔をして向かうことが出来なかった。

 

「くっ……!?」

 

 倒れた新介はすぐに起き上がろうとするが、他の兵士に手足を取り押さえられ、身動きがとれなくなった。そこに刀を抜く兵士が視界に入った。

 

「(ここまで、なの……!?)」

 

 新介は迫る命の危機に、悔しさと諦めが脳裏によぎる。兵士の刀が振り上げられ、新介に振り下ろされようとしていた。その時だった。

 

「ぎゃっ!?」

「な、なんだこいつ……ぐぁあっ!?」

「ひ、ひぃっ!?ば、バケもぐぼぁ!?」

 

 新介は眼に力を込めて閉じたが、痛みはいっこうにせず、代わりに兵士達の悲鳴と血飛沫が舞う音が聞こえてきた。恐る恐る眼を開けてみると、そこは想像の斜め上をいく光景が広がっていた。自分の手足を取り押さえていた兵士や刀で斬ろうとしていた兵士は頭を潰されたり胴を貫かれたりと無惨な姿で殺されており、自分とその周りの地面は血の海と化していた。

 

「ぁ…………え?」

「おいおい、一番槍を買っておいてその様はねぇだろ?もちっと腕前を上げてからこういう無茶をするんだな」

 

 いったい何が起きた?目の前に広がる光景を眼を見開いて呆然と見る新介に、呆れるような男の声が聞こえる。新介は声のする方を見ると、そこには黒い忍者服に赤銅色の首まで伸ばした癖っ毛の強い長髪をした男だった。男の手には手甲が着けてあり、その手甲は赤黒く染まっていた。

 

「なっ……う、うるさいわね!余計なお世話よ!」

「新介!大丈夫!?」

 

 新介は男に悪態をつき、やっとのことで兵士達を蹴散らした小平太が駆け寄る。そして男の方を見て何かを思い出したかのように言った。

 

「……あっ!あ、貴方は……紫苑さん!?」

「え?な、なに?小平太、あんた何か知ってるの?」

「なに言ってるのさ!?最近殿様が雇った傭兵の人だよ!」

「え?こ、この人が……?」

 

 小平太から知らされた真実に驚く新介。そんな二人に気を留めずに男──紫苑はある方向を見ていた。

 

「まぁ、俺のことは良いんだが……そろそろ、本命が来る頃だな」

「「え……?」」

 

 紫苑が呟いた言葉に不思議そうな顔を浮かべていると、突然鬨の声が聞こえてきたかと思うと、今川の陣営に織田木瓜の紋が描かれた鎧を着た兵士達がなだれ込んできた。その後ろから馬に乗った赤紫色の髪の女性が名乗りを上げる。

 

「織田上総介久遠信長が家中、柴田権六勝家参候!」

「壬月さま!」

 

 予想外の出来事と人物に驚く小平太。そんな小平太と新介に赤紫色の髪の女性──勝家は叫ぶ。

 

「邪魔物は柴田隊と紫苑に任せておけ!新介、小平太、抜かるなよ!」

「おいおい、俺まで巻き込む気かよ……ま、いいけどな」

 

 そう言って勝家と紫苑は敵兵士に突撃していった。残った二人は二人の背を見ながら大きな声で返す。

 

「「はいっ!」」

 

 そして、邪魔者がいなくなった二人は義元のところへ走り、小平太は槍を構え突進しながら叫ぶ。

 

「今川殿、お覚悟!」

 

 シュッ!ドスッ!ブシャァッ!

 小平太は槍を繰り出し、槍は義元の豊満な腹部へと突き刺さり、そこから血が吹き出る。

 

「ぐふっ……!?」

「小平太、頸!頸!」

「ちょ、槍が抜けねぇ!」

 

 義元は口から血を流し、新介は頸をとるように言うが、小平太の刺した槍は本人が思ったり深く突き刺さり、なかなか抜けなかった。

 

「もう、何やってんのよ!」

 

 そんな小平太に苛立った新介は刀を抜き、横に一閃して義元の頸を飛ばす。動かなくなった義元の体を見て、小平太は大きく息をしながら新介に問う。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……や、やったか新介?」

「な、なんとか……」

 

 小平太の問いに、新介も大きく息をしながら答える。そこに、凛とした少女の声が響く。

 

「新介、小平太、大義なり!名乗れぃ!」

 

 彼女らの主、信長だ。檄を飛ばされた二人は名乗りを始める。

 

「はいっ!…………織田上総介久遠信長馬廻り組組長、毛利新介!」

「同じく服部小平太!」

「東海一の弓取り、今川殿、討ち取ったりーーーー!」

 

 この名乗りに動揺としたのは今川軍。最初に二人だったのがいきなり多く増え、さらには自軍の大将が討たれたのだ。動揺するなというのが無理な話だ。

 

「なんだと……っ!?」

「殿がお討ち死に……っ!?」

「ひぃ!?も、もう今川家も終わりだ……!?」

「命あっての物種だ!オラぁ逃げるぜ!」

「俺も!」

「俺も逃げる!」

「ひ、ヒーーーーッ! に、逃げろぉぉぉ!」

 

 今川軍の兵士の誰かが叫び、それに続いて今川軍が総崩れとなった。その今川軍の中に、鹿の角のついたフードを被り、身の丈くらいの巨大な数珠を肩にかけた少女が逃げ出す今川軍に叱咤する少女がいた。

 

「ああー!こらー!逃げるなです!取って返して戦うのですよ!」

「彩那!ここはもうダメよ!後退しましょう!」

 

 少女──彩那に青髪をリボンで纏めた少女が諫めるように言う。だが彩那はそれを良しとしなかった。

 

「やです!彩那、まだまだ戦えるですよ!」

「義元公が討たれた以上、この戦はこれで終わりよ!それに、これで私たちの殿様の未来が開けるの!だから後退して殿様と合流するわよ!」

「むーっ、分かったです……」

 

 少女の説得に、彩那は渋々ながらも了承し、撤退した。

 一方、義元を討った織田軍。その主である信長は逃げ出す今川軍に追討命令を下す。

 

「今こそ好機なり! 織田の勇士よ!これより敵を追討──」

 

 が、その時雨が降る戦場に奇妙な音が響く。それと同時に勝家が空を見上げて叫ぶ。

 

「な、なんだあれはっ!?殿、空を!」

 

 信長は勝家が指差す空を見上げると、そこにはこれまた奇妙なものが映りこんだ。

 

「光の玉が、天から落ちてきているだと……!?」

「これはもしや、紫苑が現れた時と同じものでは……!?」

「まさか……!?」

 

 突如として現れた光の玉だが、彼女らから少し離れたところの地点に落ちたかと思うとその光は消えた。

 

「消えた……」

「……おい権六、あやつは誰だ?」

「は?……っ!?」

 

 信長が訝しげに見ている先にあるものを見た勝家は驚きに眼を見開いた。

 そこには、地面に頭から突き刺さった人間が腰に木刀を差し、足だけを地上に残して突き立てられていた光景だった。さながら犬○家のワンシーンを見ているかのようだった。

 

「あれは……生きている、のか?」

「さ、さぁ……というか、なぜあんな状態に?」

「わ、分からぬが……とりあえず、抜いてみるか。紫苑、抜いてこい」

「えぇー、俺か?壬月でいいだろう?」

「紫苑なら何かあっても問題ないと思うからな」

「酷い信頼だな、全く……」

 

 そう言いながら紫苑は足だけに近づき、両足のうちの一本を持つ。そして力の限りを込めて引き抜くと、それは紫苑にとって予想外な人物だった。

 

「ん?……なっ!?こ、こいつは!?」

「なんだ?男か?歳は我と同じくらいに見えるが」

「久遠さま!崩れたとはいえ、彼我の戦力差は未だ変わらず!今はすぐにでも、後退すべきかと!」

 

 信長が紫苑が引き抜いた男の顔をまじまじと見つめていると、臼緑色の女性が進言する。その言葉に信長は思考を切り替える。

 

「…………デアルカ。おい、猿!」

「は、はひっ!?」

「紫苑と共にそやつを持って帰れ。あとで検分する」

「検分て……御首級じゃねぇんだから……ってか、俺もかよ」

 

 信長の発言に呆れながらツッコむ紫苑。そして猿と呼ばれた少女は信長の発言にとても驚いていた。

 

「あ、あの死体をですか!?」

「いやいや、死体でもないからな?」

「そうだぞ。死体かどうかはまだ分からん。やっておけ」

「は、はひぃ~……」

「権六、五郎左! 疾く退くぞ!」

 

 猿に命令を下した信長はすぐに拠点である清洲に戻る命を下す。

 

「はっ!皆の者、追い頸は諦めぃ!今はすぐに清洲に戻る!」

「全軍退却!速やかに清洲に戻ります!急いで!」

「おう!」

 

 信長の命を受けた勝家と女性──五郎左は兵士達に撤退命令を下し、織田軍は撤退の準備に取り掛かる。そんな中、信長は雨雲を見上げながら一人呟く。

 

「義元は討った。当面の危機は去ったが……。天から降ってきたあやつは何かの兆しなのか……乱れ乱れたこの世の地獄で、何かが始まろうとしている……そんな予感がする」

 

 信長から少し離れたところで、紫苑は運び込もうとしている男を見て難しい顔をしていた。

 

「……まさか、お前までここに来ていたとはな。……亮二」




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