この世はどうしようも無いことで満ちている   作:流れ水

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第1話

石で出来た四角形の建物が立ち並ぶ中、一つの人影が建物の上に立っている。

 

歳は10代後半位だろうか。

服装は裾の長い白いコートにオープンフィンガーグローブと白いブーツと全身真っ白。

両腰には二尺四寸二分(約73㎝)の刀。刀の柄、鞘も白く、鍔の黒い菊の花がアクセントとなっている。

容姿は美麗端麗。真っ白な雪のような肌に、真っ白な髪。瞳はルビーのように赤く、人を魅了するような妖しい雰囲気が漂っている。完璧外見的には雪の妖精の様な美少女であるが、実は―男だ。残念ながら……男だ。

 

何で中東の紛争地域なんかにいるのだろうか。

 

「はぁ……日本に帰りたい」

 

全身真っ白の男、桜井朔夜はポツリと呟く。

 

———だが、それは出来ない。

 

ある日、謎の屈強な男たちが突然俺の部屋になだれ込み、一つの依頼をして来た。

それはアメリカ合衆国の上層部から匿名での秘匿依頼。

内容は暗殺。

ターゲットの名はジーサード。

報酬は1憶ドル。

俺にその依頼の拒否権など無かった。

 

日本に帰るには依頼を達成するしか無い。

しかし、仮に依頼を達成したとして、無事に返してくれるだろうか。消されるんじゃないだろうか。

だが、依頼を拒否し、逃げ出しでもしていれば、今頃アメリカの化物みたいなエージェントたちに追われていた事は間違いないだろう。

 

『まもなくターゲットが東からポイントを通過する。準備しろ』

 

耳の小さな無線から命令が飛んでくる。

 

現在、俺の姿は衛星によって監視されており、その情報は参謀本部に送られている。

今更逃げることなんて出来ない。

腹を決めろ。

そう自身に言い聞かせ、腰の刀に意識を向けると、視界の右端の数字が現れる。

数字は2%から始まり、3%、4%、と上昇していき…………10%で止まる。

 

朔夜の両腰にある刀は普通の刀では無い。

名は妖刕。

人間は通常時、身体を傷めないために全力の2%しか出せないようにリミッターがかけている。

だが、この刀、妖刕は、その98%を部分的にだが、覚醒させる。

右端にある数値は妖刕がどの位の力を覚醒させているのかを指示しているのである。

妖刕は、鞘に収まっている間は、準潜在能力開放(セミオープンアクト)——10%程度までしか覚醒させない。更に、この能力には時間制限は無い。

妖刕を鞘からほんの少しでも抜刀すれば、3分間限定だが潜在能力開放(オープンアクト)を行い、人間の100%までの力を引き出せるようになる。

しかし、人間はそれだけの力を発揮すれば身体を自身の力で自壊させるだろう。

だが、白套。着ている白いコートが妖刕の負担を軽減してくれるため、3分間限定なら100%で潜在能力開放(オープンアクト)を行い、戦闘を行っても大丈夫なのである。但し、3分間を過ぎても潜在能力開放を行い続ければ、身体は内側から自壊し、最悪死ぬことになる。

そして、妖刕には潜在能力開放以外にも能力が存在する。

その一つが表示(ガイド)。FPSやアクション等の様々なゲーム画面をツギハギにしたような表示を行い、銃器や乗り物の操作方法等を分かりやすく理解させてくれる。

 

この表示(ガイド)は、準潜在能力開放中(セミオープンアクト)は最低限度となるが、それでも十分である。

準潜在能力開放中(セミオープンアクト)により上昇した目が、こちらにやって来る3つの装甲車を捉え、表示(ガイド)がターゲット、ジーサードの居場所、敵の数、配置、武装、ポイントまでの到達時間を表示してくれる。

 

後数秒でポイントを通過。

妖刕の鞘を握り、鯉口を切ると、

右端の数値が上がり――40%——60%——80%……

自身の潜在能力が開放されていく。

身体の中で、ばきばき、バキバキッ………メキメキッ、メキメキメキッッ——ッッ‼‼

右端の数字が大きくなる度に、車のゴムタイヤでも無理矢理圧縮したかのような異音が体の内側から鳴り響き、全身の筋肉が雄牛のように膨れ上がってゆく。

 

『防性式気力場放出…………強度/最大…………』

白套から揺らめく蒼白い炎のような防御の力場(オーラ)が生まれ、身体を伝わり、まるで全身が蒼白い炎で燃えているかのようになる。

 

———90%……

 

膨れ上がっていく筋肉が白套の下に着ていた服を引き千切り、白套の胸元から筋肉質な胸が表になる。

顔の筋肉が引きつり、口が吊り上がり、動物が威嚇しているみたいに犬歯がむき出しとなる。

普段は眠っている獰猛な自分が目を覚まし、感情が荒れ狂ってゆき、

 

———98%………99%……100%

 

ピークに達した瞬間、逆に感情が急激に冷え、冷静になる。熱された刀剣が冷やされることで、より強靭に、研ぎ澄まされるように、感覚が研ぎ澄まされてゆく。

 

ターゲットを殺す、その一点に。

 

最初から全力全開。

 

屋根から跳び降り、

―――ドンッッ!!

咲夜は壁を砕く勢いで蹴り、加速。

走る車の前に、30㎝の小さなクレーターを作り地面に着地する。

装甲車が急ブレーキをかけ、カーブを描いて止まる中、

 

大炸牙(だいさくが)

 

鞘から刀を滑らせ加速、全身の筋肉を連動させて、鳥が翼を広げるように、両腰から同時に抜刀。

50人分の力という馬鹿みたいな力で抜き放たれた刀は、刀身の先端の速度を一瞬、超音速の領域まで到達させ、二つの衝撃波を生み出す。

更に、二つの衝撃波は空中で一つに合わさり、莫大な一つの力となって装甲車を襲う。

 

装甲車が二転、三転と横転する中、ドアとバックドアを蹴破るように出て来る幾つもの人影――ターゲットであるバイザーを顔にしてプロテクターを纏っている男、ターゲットと似たようなバイザーとプロテクターをして刀剣を構える茶髪の少女、チリチリパーマの包帯だらけの黒人、青と赤のオッドアイを持つ銀髪の少女、狐耳と尻尾があるマロンブラウンの髪の少女、手足や脊椎が明らかに捩じれて歪んでいる初老の白人、三メートル程の騎士鎧姿のロボ(表示の説明によると強化外骨格、パワードスーツ)がタワーシールドを両手に持って、飛び出てくる。

骨の一つ位折れる人間が出ると思っていたんだが、誰も戦闘に支障が出るほどのダメージを負っている者は居ない。

初手から大技を使い、精神的に折るという意図もあったのだが、どの人間も戦闘意欲満載である。

 

(強い!!)

「おめえ、一体――」

 

バイザーを着けている男、ターゲットが何か話しかけようとしてくるが、咲夜は地を踏み締め、駆けた。

銀髪少女の青い方の瞳が赤く染まっかと思うと、ターゲットであるバイザーを顔にしている男、包帯だらけの黒人や初老の白人の男が即座に銃を構え、撃ってくる。

弾丸に混ざる様に小さい空気の歪みを潜在能力解放で上昇した眼が捉える。

あれは、念力によって空気を球形に小さく圧縮して打ち出された弾丸。威力は拳銃の弾丸と同程度。

普通の人間なら見えず、当たってもまるで何をされたのか分からないのだろうが、俺には、表示のお陰で丸見えである。

表示(ガイド)が銃弾や空気弾の軌道、着弾点を赤いレーザーポインターの線で表してくれるため、ステップを踏むことで大半は避けられる。

幾つかの銃弾が身体に当たるが、白套のお陰で子供に小突かれた程度の衝撃しか来ない。

丸出しの頭を狙う軌道の銃弾のみを刀で、斬り、打ち払い、更に踏み込み距離を詰める。

 

「おい‼てめえはターミネーターか何かッッ‼」

 

常識を捻じ曲げる存在にターゲットのジーサードは叫ぶが、その手は精密で素早い。

無駄なくカートリッジを交換。唯一刀で守っている頭に、容赦の無く全弾撃ちぬいてくる。

銃弾の軌道、銃弾を見て、避け、打ち払うと銃弾の雨が止むが同時に、騎士鎧(パワードスーツ)の人間が突進、手にあるパワーシールドでぶん殴って来るが、右刀で受け止め、

 

「があああぁぁぁぁぁぁアアアア———ッッ‼」

 

俺は絶叫しながら右手一本でタワーシールドを跳ね返す。

たたら踏みながらも即座に放たれた左手のタワーシールドの突きを、相手の懐に潜り込む事で避け、左手の刀を半回転させて、逆手に持つと、騎士鎧(パワードスーツ)の間接に向かって突き刺す、そして、刀の刀身から雷を放つ。

 

「ぐううううあああああぁぁぁッッ‼」

 

鎧の内部に雷を流し込まれた騎士鎧は、男の声で叫び声を上げ、全身から灰色の煙を噴き出し、倒れ伏そうとする中、俺は右足を軸に回転。回し蹴りを鎧の胸元に叩き込み、

———ヒュガァァアンッッ‼

ターゲットであるジーサード一行に向かって数百キロある鋼鉄の塊を吹き飛ばす。

銀髪オッドアイの少女が、吹き飛んできた騎士鎧に向けて、軽く手を向けたと思うと、騎士鎧は急に軌道を変え、背後のバックドアの空いた装甲車に一直線に突っ込む。

 

なるほど。

空気弾を撃って来た超能力者はこいつか。

 

銀髪オッドアイの少女もバックステップで重力を無視したかのようにふわりと飛び上がり、装甲車に乗る。

それを見て、いつの間にか、初老の白人の男が運転席に乗っていることを表示(ガイド)に教えられ、気が付く。

 

逃げられる‼

 

「ここは通さないわよ‼」

 

ジーサード一味が装甲車に乗り込む中、包帯だらけの黒人の男が銃を片手に女口調で立ちふさがるが、遅い。

すれ違い様に刀を横薙ぎに振るい首を両断する。

だが、黒人の首からは赤い血は噴き出さない。

代わりにポンッとい音を立てて、首が切れている人形をデフォルメしたような紙。形代に変わる。更に、形代は一瞬で燃え上がり、朔夜を囲むように円状の結界を精製。

潜在能力解放によって超人的な視力となった瞳が、装甲車の中で狐耳の少女が拳を握り、嬉しそうに口を吊り上げるのを捉えた。

 

「畜生が———」

 

目の前に出来た壁、結界を前に、地面を踏みしめ急停止。

右手の刀を顔の横まで上げ、刀先真っ直ぐ前に向けて弓でも引き絞るように腕を引く。

 

「———ハァッッ‼」

 

———虎穿。

足、腰、肩、腕、手首、指先に至るまでの全身の関節を回旋させ、捻じ込んで穿つように刀で突き、結界を穿つ。

だが、結界そのものは壊れない。

円形の結界の一部が壊れただけで、即座に壊れた箇所から結界の再生が始まる。

 

「うおおおおおおおおおおッッ‼」

 

俺は、再生しようとする壊れた結界の縁に刀を引掛け、力ずくで引っ張る。

そして、このまま力ずくで結界を引っ張り、引き千切り、結界に人一人通れる穴を作ろうとする。

結界はゆっくりと俺の腕力に負け、綻びを広げていく。

 

「ぬうううううううぅぅぅ‼」

 

それを防ごうと装甲車の中の狐耳の少女が全身から汗を垂れ流しながらも、結界に全力で力を振り絞る。

俺の腕力と狐耳少女の異能力との力比べ。

俺が両手を使い結界を引き裂こうとする中、二つしか無かった推奨斬撃コースが3、5、8…16…32……64通りと増加していき、突然の表示による『警告』。

俺が、バックスピン気味にその場から飛び上がる。

1秒前まで頭のあった場所に幾つもの銃弾が通り過ぎ、結界の中で跳弾して身体ににぶつかる。

俺の両手が塞がっている絶好の機会に、本物の包帯だらけの黒人の男が俺の脳天めがけて撃って来たのだ。

一瞬、俺の瞳が包帯だらけ黒人の瞳を交わる。

チリチリパーマの黒人の男は包帯の隙間から見える大粒のダイヤモンドのピアスを輝かせながら、ウィンクを一つする。その手は素早く腰からサブマシンガンのカートリッジを取り出し、弾切れの銃に銃弾を装填しようとしていた。

 

(あれを撃たれたら、結界内で跳弾した弾が頭に当たる可能性がある)

 

俺は、空中で回転しながら大きく刀を振り回し、装甲車の助手席の窓から身を乗り出して撃って来る銃弾を弾き、受け止めながら、推奨斬撃コースに斬撃を叩き込む。

結界は豆腐でも切っているのかという柔らかさでズタズタになり、壊れる。

どうやら結界の穴に力を注ぎすぎて他の構成が甘くなっていたようだ。

結界で力を使い果たしたのか、狐耳少女が糸の切れた人形のように崩れ落ちる。

その瞬間、またも、表示(ガイド)による『警告』。

『警告』の矢印が指し示す、黒人の男はまだ弾丸を装填を完了していない。

どういうことだ⁉

いや、違う。

『警告』の矢印が指し示していたのは黒人の男の後ろにジーサードと同じようなバイザーやプロテクターをして刀剣を構えていた茶髪の少女‼

茶髪の少女が装甲車の壁から取り出し、構えたのは、フランス陸軍の制式大型狙撃銃、PGM ヘカートⅡ。

 

(おいおいおいおいッッ、それは———ヤバいッ‼)

 

———ドンッッ‼

俺目掛け、火を噴くへカートⅡ。

空中に居るため避けらない俺は、咄嗟に刀を十字にし、刀身で受け止める。

腕から全身に伝わってきた凄まじい衝撃に、俺は、はね跳び、何度を地面を転がる。

あの女、あろうことか大型狙撃銃を立ったまま撃ちやがった。

 

「くぅっ‼」

 

刀で受け止めたというのに、全身が痺れ、腕の感覚は無い。

擦れて皮がズル剥けになった手のひらから血の雫が一つ垂れた。

だが、それだけだ。

戦える。

五体は無事だ。

どこも折れている場所はない。

なら大丈夫だ、問題無い。

立ち上がろうとするとする俺をを見て、老紳士が容赦なくへカートⅡ引き金を引く。

 

『SLOW Lv5』

世界が、景色が、時間がゆっくりと流れ、ゆっくりと此方にやって来る銃弾を居合いで縦に切り裂く。

切り裂かれ二つになった銃弾は顔の頬すれすれを通り過ぎて………ゆ……き、時間が元に戻った。

妖刕によって身体の感覚を操り、知覚を引き延ばしたのだ。

長くは持たない。

無理に長時間使用すれば、脳が情報量に耐え切れず、廃人となるか、血管が切れて死ぬことになる。

 

俺は、まだ痺れる足で駆ける。

もう車は走り始めている。

まだ追いつける。

それは相手も分かっていること。

黒人の男に銀髪オッドアイの少女が加わり、更にばら撒かれる弾丸と、不定期にやって来る茶髪の少女の狙撃を避け、打ち払い、叩き切り、建物の壁に向かって跳躍。

更に、壁を数歩駆け上り、

———ドンッッ‼

蹴る。

 

風で白いコートをはためかせながら装甲車の屋根に着地。

助手席に座っているターゲット、ジーサードに向かって刀を振り下ろした。

 

ジーサードは建物の壁を蹴り、上空からやって来る白い化物を確認するや否や、躊躇なく装甲車から飛び出した。

 

俺は、装甲車の助手席が切り刻み、細切れしながらも、追撃を諦める。

装甲車から飛び出したジーサードは刀の殺傷範囲(レンジ)の外だからである。

 

ジーサードは装甲車の屋根の縁に掴み、右手一本でぶら下がると、右腕を軸に回転。車の屋根に軽々と背後に着地。

 

左足を軸に回転。背後に居るジーサードに向かって横薙ぎで刀を振るう。

だがジーサードは俺の剣閃を手の甲のプロテクターで逸らし、軌道をずらすと、

———『警告(アラート)

表示に従って首を横に振ると、すぐ横を拳が通り過ぎる。

 

こいつ、俺の刀の一撃を捌きながらパンチを撃ちやがった。

 

表示(ガイド)———『警告(アラート)

ジーサードの拳による追撃が来る!

俺は、突きだしてくる左拳に合わせて、刀をバトンのように回転。

ミキサーにかけた肉のように突っ込んできた腕をミンチにしようとするが、ジーサードはそれを見てから反応、後ろに跳躍。

あともう少しのところでギリギリ避けた。

 

「危ねぇッ‼やっぱ化物みたいに強いな。刀剣は懐に潜り込めばこっちのもんだと今まで思っていたんだが、このレベルになると通用しないか」

「…………」

 

朔夜は黙って、ゆっくりと剣を交差させて×(バッテン)の形に刀を構えると、ジーサードも拳を前に構える。

 

――リリ、リリ、リリリッ!!

咲夜の刀の鍔が小刻みに震えて鳴り始める。

潜在能力開放時間が残り一分を切った事を示す合図。

後一分。その間にこの勝負を決めなければならない。

 

装甲車の上で睨み合い、空気が重く淀み、緊迫して行く中、先に動いたのは咲夜。

踏みこみ、ジーサードに反撃のしようも無い程の閃光のような連撃。

ジーサードは手の甲のプロテクターで咲夜の連撃を冷静に捌き、受け流す。

先ほどのように受け流しながら殴るなんて事は出来ない。

表示が先ほどの動きを見て対応。推奨斬撃コースを変更したからである。

表示はジーサードの動きを学習し、予想。

より捌きにくい推奨斬撃コースを提案していく。

ジーサードは咲夜の刀の力をどんどん受け流し切れなくなってゆき———咲夜の刀の一閃は、受け流す度に、ジーサードの腕に少なからぬ衝撃を与えるレベルのものとなる。

 

――咲夜の連撃に耐え初めてから、17秒目

 

ジーサードの左腕の動きが衝撃や疲労の蓄積などにより少し鈍り、咲夜の刀を受け流そうとするも、受け流し切れなかった刀の力で腕が跳ね跳び、ほんの少し体勢を崩す。

そのほんの少しがこの場において致命的だった。

 

終わりだ。

 

苦しく無いよう一思いにジーサードの首を両断して殺そうと刀を横凪ぎに振るった瞬間、突然の背後から足への連続衝撃。

子供に殴られた程度の衝撃だが、走っている最中の装甲車の屋根という不安定な足場のせいもあり、体勢が崩れる。その影響で刀の軌道がズレ、ジーサードの頭の上を通り過ぎてゆく。

 

(クソッ!!)

 

悪態付ながら、体勢が崩れる最中、視線を斜め後ろに向けると、運転席の顔面や首に縫い後のある白髪の男がバックミラーを見ながら窓から片手を出して、こちらに銃を構えていた。

 

――『警告(アラート)

表示から斜め後ろにバックジャンプ避けるか、刀で腹を防御しろ、と指示が来る。

 

咲夜がほんの一瞬視線を逸らした隙に、ジーサードの足のプロテクターがあちこちが開き、点火、ロケット燃料の噴射炎が上がり、ジェットで加速した、音速を超えた蹴りが咲夜の腹のど真ん中に向けて炸裂する。

 

「うおおおおぉぉぉォォォォ!!」

 

表示に従って動き、刀で受け止める――が重い。

叫びながら踏ん張り耐えきろうとするが、またもや背後から来る足への銃撃。そのせいで耐えきれず、装甲車の屋根の上から上空に錐揉みしながら撥ね飛ばされる。

 

「グゥぅぅッ――!!」

 

蹴りを受け止めた左手に激痛が走る。

痛みに歯を食いしばって耐え、咲夜は錐揉みしながらも右手で刀の柄を強く握り締めて全身に力を込め、

 

炸牙(さくが)

 

刀身の先端の速度を超音速まで瞬間的に引き上げた斬撃を背後に放ち、刀から生み出された衝撃波を推進力として加速。

 

再び装甲車の屋根に舞い戻ろうとする。

 

――『警告(アラート)

警告先は装甲車のバックドアからこちらに両手を突きだす銀髪オッドアイの少女。その手から空間を揺らめく陽炎のような見えない何かが高速で発射される。

表示によると少女の手から発車されたのは念力で圧縮された空気の大砲。

 

普通の人から見れば何も見えないのだろうが、朔夜は表示によって空気の大砲の軌道が、位置が、見える。

けれども早すぎて避けられない。

なら、斬るしか無い。

咲夜は迫り来る空気の大砲を叩き斬り両断する。

だが、斬った瞬間、中で圧縮された空気が急激に膨張。

爆発。

全身に衝撃が走り、何度も地面を跳ねるように、撥ね飛ばされ、転がる。

 

痛い。

息が苦しい。

朦朧とする意識の中、何とか指に力を込め、刀を支えにして立ち上がるが、胸から熱いものがこみ上げ、口から何かが飛び出す。

 

血だ。

 

——リリリリリリッッ‼

鞘の鳴る音が耳の中で響き、うるさい。

表示の時間を見ると潜在能力開放の時間が10秒を切っている。

 

ヤバい。

重い身体を動かし、震える手を抑えながら、なんとか時間内に刀を鞘に納めると、一つ息を吐いた。

 

無線に触り、迎えを寄越してもらおうとするが、戦闘の衝撃で壊れたのか繋がらない。

 

「ハァ…………疲れた」

 

心底疲れ切った顔でそう呟くと、咲夜はその場で崩れ落ちるように地面に大の字で転がり、目を瞑った。

 

 

———

 

「あれは何だったのでしょうか……」

「恐らく米国に雇われた俺の命を狙う暗殺者だろう」

 

狐耳の少女、九九藻が呆然と呟きに、ジーサードが応える。

 

「あ、暗殺者ですか⁉それも、国に雇われた!」

「ああ」

「ああってジーサード様、どうしてそんな、平然としているのですか!もっと、こう、あるでしょう‼」

「どうしてって……ああ、九九藻はまだ知らなかったか?ロカ、アンガスやアトラスも元は米国から暗殺者を送り込まれた暗殺者だったんだぜ」

「…………ッッ‼」

 

ジーサードが装甲車に乗っている仲間を見渡して言う。それを聞いた九九藻は狐の尻尾を逆立て、絶句した。

 

「あの、ちょっと良いかしら?」

「いいぜ」

 

銀髪オッドアイの少女、ロカががジーサードに話しかける。

 

「私なりに今回送られてきた刺客を分析してみたんだけれど、たぶん、今回米国は送り込まれた刺客は高度な異能と近接戦闘能力を両立させた存在だと思うの。あの白いコートの怪人、右眼が蒼く光ってたでしょ。あれはヴァーミリオンの瞳。高位情報式と呼ばれ、様々な情報を解析して使用者に分かりやすく表示する魔眼よ」

「魔眼⁉いやように、お前みたいな超能力者や妖怪みたいなビックリ人間も世の中には居るんだし、魔眼があっても可笑しくは無いのか」

「話しを続けるよ」

「すまんな」

「良いわ。私がジーサードの刺客として送られた時、けっこうあなたの事を追い詰めたでしょ?」

「あれはえげつなかった」

 

ジーサードは苦笑しながら答える。

 

「それで米国はジーサードには超能力が有効だと考えたんじゃないかしら。だけど、強力な超能力者。それだけなら私みたいに攻略される可能性がある。だから、強力な超能力者であり、接近戦も馬鹿みたいに強い。そんな超人を刺客として送って来たんでしょ」

「なるほどなぁ……」

「なるほどなぁって、十中八九、あんたがあの化物みたいな刺客に命を狙われているのよ!?どうするつもり」

「どうするつもりかって?そりゃ、俺はお前らみたいな銃弾や武器が全く通用しない超人どもに命を狙われ続けて来たんだぜ。俺はどうやってお前らを倒した?……結局、最後にお前たちとの闘いで役に立ったのは、これだ――」

 

そう言って、ジーサードは拳を掲げる。

 

「あいつは俺が拳で倒す。いつも通りな」

 

九九藻はジーサードの方を見て目元をうるわせ、ジーサードと同じようなバイザーとプロテクターを纏った少女、ジーフォースは、ヒューヒューと口笛を鳴らす。

いつの間にか目が覚めていたアトラスがジーサードを「君らしい」と笑い、歪んだ身体を持つ初老の白人の男、アンガスは運転に集中しながらも少し唇をつり上げ、包帯だらけの黒人の男、コリンズも「んふふ♡」と過去を思い出すように笑っていた。

 

「ハァ……」

 

その様子を見てロカは呆れた表情でため息をついた。

 

ワイワイとした空間の中、

 

――Prrrrrrrrrrrrr!!

 

突然、何処からともなくかかって来た電話に車内は沈黙に包まれる。

電話はアンガスの胸ポケットから鳴っている。

アンガスが携帯を取り出し、出る。

 

「もしもし……はい………はい………はい、ジーサード様、お出になりますか?」

「……ああ、出る」

 

ジーサードがアンガスから手渡された電話には相手は名前、番号ともに表示されていない。

 

電話の主はジーサードに対し、開口一番に一言、こう言った。

 

「——君の初恋の人、サラ博士を生き返らせる(すべ)がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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