この世はどうしようも無いことで満ちている   作:流れ水

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第2話

辺り一面、砂、砂、砂、砂、……。

俺は砂漠に一つ、ポツンと立つ建物の中から外の景色を眺めていた。

 

「お腹減った……」

 

――グゥぅぅ~~

咲夜のお腹の音が廃墟に響く。

 

ジーサードとの戦闘後、眠り、休息をとっていたんだが、黒服の男たちに黒塗りの車の中で叩き起こされたかと思うとヘリに乗せられ、砂漠のど真ん中に一つだけ立つ建物に放り出された。

 

幸いな事に眠って休んでいた事と、着ているコート、白套の治癒力の強化のお陰で身体は重いが動けるという段階まで回復し、数秒しか残って居なかった潜在能力開放時間も49秒まで増えている。

 

『もうすぐ奴らがやって来る。今度こそ仕留めろ』

 

黒服の男たちに変えてもらった耳の無線から指示が来る。今度の無線は相当頑丈な作りで、象が踏んでも壊れない頑強製なんだそう。胡散臭い。

 

「やって来るって、ここは砂漠のど真ん中だ。わざわざこんな場所にのこのことやって来るか?」

『私は、奴らのリーダー、ジーサードが喉から手が出る程欲しい情報を持っている。それで、釣ったのだ。絶対に奴らはここへやって来る。』

 

それを聞いて、表示のジーサードを示す光点が少しこちらに近づいて来ているのに気が付いた。

 

「マジかよ。本当にこっちに来てやがる」

『フフフフ、ハハハハハ‼さあ、こっちに来いジーサード。ここがお前の墓場だ‼』

 

————

 

 

装甲車から一人、降り立ったジーサード。

表示から装甲車にはジーサード一人しか乗っていなかったことは分かっている。

これから始めるのは、前回のような多対一では無い。一対一の勝負。

だが、闘いは前回よりも遥かに厳しいものとなるだろう。

 

こちらに歩いてくるジーサードの存在感、威圧感が以前よりも膨れ上がっているのが、はっきりと分かる。

表示によるとドーピングによるものらしい。それも命を削るような代物。

 

——来る——

気配で分かった。

 

ジーサードは建物の壁のほんの小さな窪みに足をかけて駆け上がるように屋上にまで登りつめた。

 

「さあ、殺り合おうか。今日の俺は、最高にヤバいぜ」

 

建物の屋根まで上って来たジーサードの人を辞めている目を見ながら、俺は黙って妖刕を鞘から引き抜く。

表示の数値がみるみるうちに上昇——20%——60%——98、99%……100%………‼

———ばき、ばきばき、バキバキッッ‼

異音を立てながら一旦圧縮された筋肉は体内で膨張。

身体が一回りも、二回りも、大きくなって行く。

 

———リリッ、リリリッ、リリリッ‼

最初から、鍔が、残り時間が1分を切っている事を示し、鳴る音が響く。

青く、蒼く、輝く右目が、あらゆる斬り方を表示し始め、だらりと妖刕を構える。

 

「あまり、長くこの状態で闘りあいたく無いんでな。最初から切り札を切らせてもらうぜ」

 

ジーサードは身体を横向きにして、腰と頭を落とし、右足を後ろに引き、右拳を大きく振りかぶる、古代オリンピックの短距離走のスターティングフォームのような異様な構えをとる。

それに対し、俺は膝をどっしりと落として右刀で居合いの構えをとり、左の刀をクルリと回し逆手に持つと、右刀の刃を左刀の峰をガッチリ食い合わせ、背骨を限界まで捻じる。

そうして、×(バッテン)の形になるように交叉させた刀に全力で力を込め、力を溜めていく。

 

――緊張感が高まり、場には風の音とギチギチと悲鳴を上げる刀の音だけが聞こえる。

 

先に動いたのはジーサード。

速いッッ‼

全身の骨格、筋肉を全くの同時に連動する事で、超音速の領域にまで達した左拳。

ジーサードのプロテクターが殻の様に割れ、点火、ジェット燃料で推進力を得ることでジーサードの左拳は超音速の領域を超え、更に爆発的に加速。

だが———

 

『SLOW LvMAX』

 

俺は妖刕を使い、知覚を限界まで伸ばす。

そして、ガッチリ右刀の刃に食い合わせていた左刀の峰を緩めた。

瞬間、刀が爆発的な速度で放たれる。

デコピンの原理。それと同様の原理で刀に力を溜めてはなつことで爆発的な加速を得た刀は、居合い切りが鞘を滑り加速を得るように、左刀の峰を滑り、加速。

更に、全身を限界まで捻じった姿勢から放たれた円運動によって、右刀は加速に加速を重ね――

 

ジーサードのプロテクターに包まれた超音速の拳とぶつかった。

 

最初に衝撃でジーサードの左手の拳の肉が一部が弾け飛び、俺の指の骨が折れる。

身体の何処かがプチプチッ!!と切れた音がする。

 

そんなの関係無いと、妖刕に力を込める。

今度は俺の腕の骨が半ばから叩き折れ、ブチブチッッ!!と先程よりヤバい身体の何処かが切れる音がする。

ジーサードの拳が、腕の肉が、弾け――俺の指、腕が、粉砕した。

刀の柄を持つ力が抜ける。

刀の柄が指からすり………抜……け——知覚が元の速度まで戻り———凄まじい速度で何処かに飛んでいった。

 

衝撃波が辺り一面を駆け抜け、砂漠の砂を巻き上げる。

 

多少の時間とは言えSLOW LvMAXを使った事で俺の頭にはこの世のものとは思えない激痛が走る。

俺の腕の部分の白套は破れ、腕の骨や筋肉はグチャグチャに千切れ叩き折れており、身体の骨や筋肉も同様にグチャグチャで白かった白套は赤い血の色で染まっている。

 

ジーサードの方はもっと酷い。

超音速の拳打を放った左腕は俺の妖刕とぶつかりあった衝撃で吹き飛んでいた。

身体の大半はプロテクターも損壊。骨は俺よりも折れている。

これは、俺の身体が魔術的な防護で身体が中からも外からも守られていたのに対し、ジーサードの身体はプロテクターで外からの衝撃からしか守られていなかった。

だから、負傷に明らかな差異が出たのである。

 

「ぐおおおおおおッッ!!」

「うおおおおおおッッ!!」

 

痛みで身体から冷たい脂汗が滝のように吹き出る。

もう無理だ。これ以上闘えない。

そんな思いを押さえつけ、振り払うように俺は叫び、雑極まり無い太刀筋で妖刕を振るう。

同時に、俺の声と重なるようにジーサードも叫び、殴りかかってくる。その拳には先ほどのキレも力強さも無い。

 

俺よりも身体がボロボロなジーサード。

そんな状態で放たれた拳は、俺の刀とほぼ同速。

 

凄まじい。

しかし、それでも、俺の勝ちだ。

俺の方が刀の分、リーチが長い。

そのため、咲夜の刀は、ジーサードの拳よりも先にジーサードのプロテクターの隙間を抜い、身体の肉を裂き、肋骨を――。

 

————『警告』

なッッ‼ジーサードの拳⁉

瞬間、ジーサードの残っていた肘のプロテクターが火を吹き、加速、咲夜の顔面にジーサードの拳が突き刺さり、吹き飛んだ。

 

「ぐがッッ――!!」

 

ゴロゴロと転がる咲夜の左手から刀がこぼれ落ちた。

 

ジーサードは次の攻撃を考え、左腕のプロテクターを、燃料を、わざと残しておいたのだ。

だが、咲夜は次の一刀の事なんて考えて居なかった。

一刀に全ての力を注いだ。

それが、この結果を生んだのである。

 

一体何が!?

咲夜には何が起きたのか一瞬理解出来なかった。

いつの間にか、自分は地に倒れ付し、刀は手から離れ、遠くの地面に転がっている。

 

ただ……咲夜は、立っているジーサードを見て―――自分が負けたことを理解した。

 

「くっ……!!」

 

この依頼は暗殺依頼。

暗殺対象に負ければ死ぬのは必然。

だが、朔夜にはまだ手はある。

奥の手が…………。

 

その時、

 

『私の暗殺者の負けか。まあ、良い。弱っている今がチャンスだ、殺れ‼』

 

、と無線から声が聞こえてくる。

 

「…………………」

 

だが、何も起こらない。

 

『残念ながら貴方の砂漠に伏せていた私兵はみーんな私たちが打ち取ったわよ~』

『貴様の企みなどお見通しだ』

『サード様、敵影を沈黙させることに…………静かに成功しました‼損壊は無し。戦闘を継続可能であります。ハハ、ハハハハ!』

 

ジジ、ジジジジッッ‼という音と共に人影が現れる。

あれはジーサードの部下たち。

ジーサード一人に全意識を向けていたから気が付かなかった。

 

『ふむ、ではプランBだ。三機ののB-2スピリット(爆撃機)で目標地点周辺を跡形も無く破壊しろ』

『お前、ここにはお前の私兵も居るんだぞ』

 

シリアスな雰囲気で話すジーサードと無線機の先に居る米国の誰か。

 

『あの、まだ手はあるんですけど』

『それがどうした。足手纏いなど私には居らんのだよ』

 

…………。

無視された。

 

『この外道が』

『ではな、せいぜい最後まで無様に足搔いていたまえ』

 

そう言って、指示をしていた米国の人の無線が切れた。

え、マジ?

 

『ジーサード様、B-2スピリットの影らしきものを確認しました』

 

尾の無いエイのような形をした飛行物体3機が此方にやって来ている。

あ、マジだ。

あいつ、マジで俺ごと爆破する気だ。

 

『ジーサード様、指示を——』

『指示をと言われてもなぁ。銃を使って誘導爆弾を空中で爆破させるしか思いつかんな』

 

さて、逃げるか。

白套によって立つことが出来るくらいには回復している。

身体に力を込め、立とうとすると、視界が歪み、頭に金槌にでも叩かれたような衝撃が走る。

それら全てを歯を食いしばって我慢し、立ち上がった。

転がっている刀にまだ無事な方な左手を伸ばすと、刀は一人でに動き出し、ふわりと浮いたかと思うと、高速で回転しながら飛行、開いた手に納まる。

瞬間、表示のお陰でジーサードの部下がこちらに銃を向けて来た事が分かる。

 

『ジーサード様ッッ‼』

「言われなくても分かっている」

 

ジーサードも満身創痍の身体でこちらに拳を構えて来る。

 

「こんな状況でまだ闘る気か?」

「いや、もう闘らん。ここからさっさと逃げさせてもらう」

 

俺は、手に持っている刀を鞘に納め、もう一つの何処かに飛んで行った刀も表示で見つけ、手を伸ばし、飛んできた刀を掴むと鞘に納める。

だが、ジーサードの部下の銃はこちらに向いたままだ。

ジーサードに危害を加えようとすれば、即座に鉛弾をぶちまけて来るだろう。

 

「逃げる方法があるのか?」

 

真剣な噓は許さないという眼差しでジーサードが問う。

 

「一応」

「それは、俺たち全員が一緒でも逃げられる方法か?」

「俺がその気になれば」

「なるほど」

 

『総員、銃を下ろせ』

『しかし———』

『下ろせ‼』

『————ッッ‼は、はい』

 

全身の筋骨はボロボロ、左腕は消し飛んでいるという満身創痍のジーサードから凄まじい威圧感が放たれ、部下たちは大人しく銃を下ろす。

 

「今は時間が無い。だから、単刀直入に言う。何が欲しい?」

「国からの干渉をはねのけれる力と米国のエージェントから逃げれる庇護が欲しい」

 

仮に、ここから逃げたとしても米国からエージェントが派遣される。

それに、もう国の圧力に従って、暗殺依頼なんてやりたくない。

 

「なら、俺の仲間にならないか」

「お前の、仲間に?」

 

これまた予想外の提案が来たな。

 

「ああ、俺の仲間になれば、お前の言った二つ両方手に入る」

「それで、今度はお前が命令するのか?」

「命令をするつもりは無い。俺の形式的な仲間になるだけで後は好きなようにすれば良い。悪い事をやれば、俺たちはお前をブチ倒す。それだけだ」

 

好条件だ。

だけど、好条件過ぎる。

だから………

 

「それを確約すると、お前は契約出来るか?」

「お前が俺たちの仲間になるためには重要な事なんだな?」

「そうだ」

「確約は出来ない。だが、俺たちの出来る範囲でお前の2つの要求に応えてやる」

 

ジーサードと咲夜の間の血が蠢き、魔方陣を形成。

咲夜とジーサードの間で魔術的契約が果たされる。

 

「もう後で無効でなどと言っても無駄だからな」

 

表示によると、ジーサードは一言も噓を言っていない。

魔術による契約も行った。

けれど、それでも不安な咲夜は一応念押ししておく。

 

「そんな事言う訳が無いだろ」

「なら良い」

「何をするつもりだ?」

「少し離れたところで見ていればすぐに分かる。部下たちをここに集めて」

「りょーかい」

 

『おい、全員ここに集まれ!』

『こやつを信じるつもりですか⁉ジーサード様の命を狙いに来た暗殺者ですぞ‼』

『九九藻、いや、みんなも言いたいことはあるだろう。だが、俺はこいつを信じることにした。お前たちはどうする?好きにしろ』

『私は死を確約された戦場だろうと、地獄の果てだろうと、ジーサード様についていきます』

『うふふっ、私もよ~。というかみんな一緒じゃないかしら。ね~?』『はい、私もサード様に付いていきます。何処だろうと』『私の命はサード様、貴方と共に』『仕方がないわね。今回はジーサード、貴方を信じるわ』

『私が死んだらサードのこと恨むからね!』

 

文句を言いながらここにやって来るジーサードの部下を、空からやって来る爆撃機を、見ながら、朔夜は一言こう言った。

 

「夢幻召喚(インストール)」

 

朔夜の足元に朔夜を中心とした巨大な魔方陣が出現する。

魔法陣の出現は刹那。

魔法陣は朔夜の足元から頭の先を通って消える。

 

魔方陣が通った後の朔夜の装い、雰囲気は一変していた。

キラキラと太陽の光で7色に輝く空色の瞳。前髪に金色のサークレットを付けた腰まで伸びた淡いピンク髪。ピンと長く伸びたエルフ耳の上に小さな2枚の黒い鳥の羽と白い鳥の羽が左右3対重なるように生えている。

服は古代ローマ人の女性が着ていたような白いトーガ、身体には金であしらわれたネックレス等の装飾品を身に付けている。

そして、背中から生えている、大きな鷹の翼。鷹の翼の内側に刺青のような幾何学的な紋様が浮き出ている。

小さな白い手には少女の身の丈もある巨大な錫杖が握られている。

――キャスター、キルケー。

 

錫杖でコツンと地面を叩くとジーサードの負わされた身体の傷が、時間が逆行するようにみるみる治り、消える。

 

「は?……え?…………だれだ?」

 

顔を死人みたいに蒼白にして今にも死にそうなジーサードは、つい呟く。

目の前でジーサードは見ていたというのに、あまりに変化した雰囲気、重圧に、同一人物だと理解が追いついかなかい。

 

「私だよ、私。さっきまで闘っていただろ」

「いやいやいや………。え、嘘だろ、おい‼」

 

ジーサードがこちらを2度見した後、右手で顔をおおい空に叫ぶ。

 

「まあ、とりあえず、身体の傷を治しておこうか——■■■」

 

ジーサードの身体に手を向けて、今の時代の人には聞き取れない神代の言葉で一言呟くと、ジーサードの身体が緑色の光に包まれ、みるみるうちに傷が塞がっていく。

だが、吹き飛んだ左腕だけは元通りに戻らず、傷口が塞がっただけだった。

 

「おい、すげえな。身体の痛みが一気に消えたぜ」

 

ジーサードは、身体の調子を確かめるようにい残った右腕を回し、その場で軽くジャンプする。

 

「なら良かった。じゃあ後は左腕を直すだけだね」

「いや、これは、別に良い」

「ん?どうしてだい?」

「闘いで残った傷は男の誉れっていうだろ。つまりは、そういうことだ」

 

照れくさそうに言うジーサード。

なるほど、本人のプライドとかの問題か。

いや、普通に治した方が良いと思うんだけど、まあ本人が良いと言っているんだから別に良いか。左手は治療せずに放っておく。

 

「ジーサード様、ご無事ですか!!その、お身体の調子は…………」

 

建物の屋上に付いた狐耳の少女がジーサードの駆け寄る。

 

「大丈夫だ、特に違和感は感じない。むしろ身体の調子が良すぎるくらいだ」

 

左腕は無くなっているけどね。

 

「えーと、そこの———」

「桜井朔夜、朔夜で構いません」

「朔夜に治して貰ったからよ」

 

ジーサードの部下、包帯だらけの黒人、スーツの上からでも分かる程身体の骨が歪んでいる初老の白人、3メートル位の騎士鎧のようにもロボットのようにも見えるパワードスーツを着た男が警戒し、こちらを見ている。

ジーサードは傷を治した時から何やら好意的だ。

銀髪オッドアイの少女は他の連中とは違い、少し怯えたようなを瞳でこちらを見ている。

 

「どうせなら一つ、嫌がらせしてから逃げようか」

 

私は、錫杖に手を翳(かざ)す。

先に付いた装飾の月の輝く光を示す針の様に尖った5つの装飾がポッと光りを灯し、輝き、2又に分かれた槍のような刃を形成する。

 

今日の私は運が良い。

ちょうど、ここら一帯の大気に色金粒子が広がっているのだから。

今日の私は色金から無尽蔵に魔力を引きずり出し、幾らでも魔術を使う事が出来る。

つまりは、今の私は大抵のことが出来る、万能モードということだ。

 

「———■■■■」

 

結構近くまで迫って来ていた爆撃機3機に向かい、錫杖の刃を向け、神代の言葉を呟くと、錫杖の刃の先に朔夜の周囲に何十もの魔法陣が出現。

魔法陣から魔力で出来たピンク色のレーザーが打ち出される。

爆撃機3機に向かってレーザーが凄まじい速度で直進。

レーザーを旋回する事で避けたり、レーザーの隙間を縫うように避けて直進してくる爆撃機、だけど無駄。

レーザーは捻じ曲がり、爆撃機を追尾。エンジンだけを貫き、破壊する。

 

————ドゥウウンンッッ‼

3機の爆撃機のエンジンは連鎖的に爆発。ゆっくりと墜落していく。

 

それを見て、ジーサードやジーサードの部下たちが、

 

『わぁー‼』『凄いわねぇ』『敵影の撃墜を…………盛大に確認しました‼』

 

などと言っている。

 

爆撃機の操縦士は墜落する前に脱出出来たみたいで、パラシュートで降下しているのが見え、私は少し安心した。

 

…………あ、そうだ。ついでにあれをやっておこう。

私は手を前につき上げて手を開く。

すると、手に鞘に納められた短剣が現れた。

私が英霊エミヤに変身した時に、造った魔力貯蓄用の短剣型の宝具である。

この短剣は私の奥の手の一つ。

私はいつも白套の下に身につけている短剣に、私は色金粒子から魔力を引きずり出し、満タンになるまで注ぎ込む。

これでオッケーだね。

短剣をフッと消す。

消えた短剣は何処に行ったのかは、私も把握していない。

原理は分からないが、私は変身した後に、変身する前に身に着けていたものを自由に取り出したり、消したりする事が出来るのである。

 

「よし、逃げるよ。こっちに集まって」

 

ジーサードの部下たちが私に集まる。

色金粒子から術式に必要な莫大な魔力を引きずり出すと、錫杖で地面をコツンと叩く。

 

すると、私を中心にジーサードやジーサードたちがすっぽり納まる位の魔法陣が出現。

 

――パッ――

 

音もなく視界が切り替わった。

 

私達を周りの人々が見ている。

それも当然だろう。

突然、何の音も気配も無く虚空からコスプレ集団みたいな連中が現れたのだから。

 

辺りを見渡すとこの前、テレビで見た街が広がっている。無事に成功したようだ。

 

「ここって……いや、でも……まさかねぇ」

 

ジーサードの部下の黒人の男が有り得ないものでも見たかのうに瞳を見開いて辺りを見渡し、銀髪オッドアイの少女や狐耳の少女は人形みたいにその場でカチコチに固まっている。

 

「ニューヨークのマンハッタンだ」

「いや、でもあり得ないわ⁉」

「ジーサード様、私にはニューヨークのマンハッタンが見えます。とうとう年で私の眼が可笑しくなったようです」

「アンガス君と同じようなものが僕にも見えてるんだけど。あれ、もしかして僕の眼まで可笑しくなった?」

 

ジーサードと同じバイザーをしていた茶髪の少女が興奮した様子で言う言葉を黒人の男は否定し、身体の歪んだ初老の白人と鎧姿の男は自分が可笑しくなったとジーサードに言っている。

 

「お前らの眼が可笑しくなったんなら俺の眼まで可笑しくなった事になるぜ」

「では、この光景は…………」

 

「ねぇねぇ、ここってマンハッタンだよね」

 

ジーサードと初老の白人が話している横を通り、こちらに駆け寄って来たのは、バイザーをしいている茶髪の少女。

 

「そうだよ」

 

私は笑みを浮かべてドヤ顔で肯定する。

 

「「「…………………」」」

「ほらーやっぱり~」

 

ジーサードやジーサードの部下が沈黙する中、茶髪の少女は頬を膨らませて言う。

 

「………瞬間移動(イマジナリジャンプ)」

 

カチコチに固まっていた銀髪オッドアイの少女が一言そう呟くと、下を向いて、『だけど……、そんな………こんな距離を……………』と何かボソボソと言っている。

 

「確かここの近くに拠点があったよね」

「ああ、そうだな…………」

「確かこっちだったけ」

「ええ、たぶんそうだったと思うわよ…………」

「もうっ、行こ、朔夜」

 

バイザーをしている茶髪の少女は気の抜けた返事をするジーサードたちに憮然とした表情をすると、私の手を引き、何処かに引っぱっていく。

 

「あ、自己紹介がまだだったね。私は、ジーフォース。フォースで良いよ」

 

私の名前を読んだ事で自己紹介をしていない事に気が付いたのか、茶髪の少女、フォースはクルリと身体をひるがえし、ニッコリ笑いながら自分の名前を言う。

 

こうして私は、ジーサードリーグに所属することになった。

 

 

 

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