この世はどうしようも無いことで満ちている   作:流れ水

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第3話

——奇怪な形をした魔道具やホルマリン漬けの良く分からない肉塊、怪しい色の液体が入った試験管等が立ち並んでいる部屋。

そんな部屋で、キルケーに夢幻召喚している朔夜は、ぼんやりと考えごとをしながら、毒々しい紫色の液体で満たされた大釜を魔力を込めながらかき混ぜていた。

朔夜はジーサードから取り寄せて貰った世界中の希少な材料を使い、飲めばみるみるうちに身体の傷や病気、毒などを治療するゲームに出てくるポーション等のような効能を持つ魔法薬を作っているのだ。

 

私が、ジーサードリーグに所属してからもう一ヶ月経つ。

 

私を命令していたアメリカの上層部の人間は、今回の一件の失敗を必死で隠蔽しようとしていたらしいが、ジーサードが密告したことで、その職を追われたらしい。

ジーサードが密告しなくてもB-2スピリットを3機も勝手に運用した挙句、消失させたのだから、いずれは勝手に露見し、追われる身になった事だろうとも言っていた。

 

ジーサードは私を命令していた男に会いに行ってから何か良く分からない組織について調べている。

確か、イー・ウーとか言った組織についてだったか。

何か知っているかと聞かれたが、残念ながらそんな組織は聞いたことが無い。

 

私は、ジーサード暗殺でキルケ―に夢幻召喚した際、衛星に幻術をかけ、偽の情報を流していた。しかし、ジーサードによると、アメリカは大魔女キルケ―の幻術は2日前に破られたそうだ。

どう破ったのか分からないが、流石はアメリカと言うべきだろうか。

アメリカに下手すればキルケー以上の化物みたいな異能者は、居るようだ。

 

こうして俺の力をアメリカに知られてしまった訳だが、今のところ特に不自由なく普通の日常をジーサードの拠点で過ごしている。

どうやら契約通り、ジーサードが色々と政治的な事を行い守ってくれているようだ。

ジーサードリーグには本当に助けられている。

 

ここ数日で、ジーサードには俺の妖刕による異能、表示(ガイド)潜在能力解放(オープンアクト)については詳しく教えた。俺が夢幻召喚して変身した能力については、過去の偉人や神話の登場人物にランダムで変身出来る能力であり、この前見せた魔術師の姿のみ自由に変身出来ると伝えたが、ほんの少し違う。

 

俺の変身の異能は、クラスカードという魔道具を通して、前世のFateという作品に登場する英霊という存在の能力の一部を自分の身体に体現する力である。

 

こんな力を持った訳には咲夜の前世が関係している。

元々咲哉は自身、前世をもつだけの存在であり、特に目立ったところが無い雑魚魔術師だった。

前世では少しオタクなだけの普通の日本人。

今世では、両親共に魔術師であったため、当然のように魔術を教えられたが、残念ながらあんまり才能が無かった。

それに比べ、妹はどうやら本物の天才であったようで、俺が一つの魔術を必死で学んで修得している横で、十も二十もの魔術を修得し、更には改良して新しい魔術を産み出していた。

その光景を目の前で見せつけられた俺は心が折れた。もうそれはポッキリと…。努力して必死で魔術を修得するのが馬鹿らしくなったと言っていい。

それから、俺はひたすら趣味に走った。前世のアニメやや漫画の魔法を再現しようとした。勿論、魔術師としても中途半端である見習い魔術師程度の咲哉には失敗付くめだった。

それでも、楽しかった。

―やがて、その試みは一つの偶然の成功を生んだ。

 

Fate/kaleid linerプリズマ☆イリヤに出てくる魔術礼装、クラスカード。鷹位の魔術礼装を媒介とすることで英霊の座にアクセスし、「自身の肉体を媒介とし、その本質を座に居る英霊と置換する」、アイテム。簡単に言えば、「英霊になる」事が出来るアイテム。

普通はへっぽこ魔術師な俺が作ることなど天地が逆さまになってもできないだろう。

―置換魔術とは、錬金術から派生した魔術。あるものを別のものに置き換える魔術であり、等価交換かそれ以下の性能しか発揮できない。

置換魔術の性質上、「新たな何か」を生み出すことが出来ない。

しかし、逆に言えば、知っているものであれば大抵のモノは生み出せる可能性がある。

咲哉は前世のお陰でエインズワース家のクラスカードを知っている。

だから、カードにエインズワース家のクラスカードそのものを置換すれば良いではないかと考え、クラスカードの製造に成功した。

そこからは初めて製造に成功したクラスカード、世界最高峰クラスの魔術師であるメディアの力を使って『知っている英霊達』のクラスカードを製造。更に、英霊達の力を使い、改良した。

そうして出来上がったのが咲哉以外は使え無い専用のクラスカード。

カードは咲哉の身体の中に厳重に収納され、咲哉の意思一つでいつでも「英霊になる」事が可能なのである。

 

クラスカードを作った、この事実だけで咲哉は満足していた。

だが、偶然、超人同士の戦いに巻き込まれた時、生き残るためにクラスカードを使わざる得なかった。…使ってしまったのだ。

それからは、超人同士の争いに巻き込まれたり、国から暗殺依頼を出されたりと、人生滅茶苦茶。。

 

英霊の力なんて、使う機会が訪れない方が良い。

私は英霊とまともに渡り合う化物となんて一生出会いたく無い。

それなのにアメリカに居る一ヶ月だけでそんな化物と二度も遭遇するはめになった。

はあ、本当に嫌になる。

 

 

「あ、こんなところに居た!」

 

部屋のドアを勢いよく開けて入ってきたフォース。

フォースが着ているのはV字に胸が大きく開いたネックドレス。

ネックドレスの肩は丸出しのノースリーブで、背中はお尻のすぐ上まで丸見えだ。

 

「ほらほら速く。もう時間ギリギリだよ」

 

フォースに手を引いて連れて来られたのは赤と青のオッドアイに銀髪の少女、ロカの部屋。

ロカの部屋の前で、ジーサードたちが立っている。

ジーサードはベスト付きの黒スーツに黒の革コートを着て、頭には黒い中折れ帽子被り、アンガスはタケシード、アトラスは白の、アンガスは紫のスーツでキメて立っている。

 

「みんなしてそんな格好をして、何処かに行くのかい?」

「サードもしかして朔夜に言っていなかったの?」

「あー……」

「はあ」

 

曖昧な笑みを浮かべるジーサードにフォースが責める視線を向ける。

 

「みんな今夜のヒーロー組合のパーティーに行く準備をしているんだ」

「えーと、もしかして、私も行く予定なのか?」

「うん。ヒーロー組合のパーティーに参加出来るのは実力、実績、活動内容が基準を満たした武装職のエキスパートだけ。Sランク武偵なんてゴロゴロ居るパーティーだから、実力のある人間とコネが作りやすいし、それにジーサードリーグの一員として知らしめるための絶好の機会だから」

 

突然、ドアが開き、化粧道具を片手に持ったロカが出てくる。

 

「時間がないのになにドアの前で油を売っているのよ。さっさとドレスを選んじゃうわよ」

 

え、ちょっと待って、ドレス!

今、ドレスを選ぶと言わなかった!?

ロカは朔夜の腕をがっしりと掴んで、引っ張り、女性のドレスが並んでいる部屋の中に連れて行こうとする。

 

「いやいや、私は遠慮するよ」

 

逃げなくては。

腕を振りかぶり、ロカの手を振りほどくと――え?ロカの細い手が振りほどけない。

掴んでいるロカの腕の力が尋常じゃない。まるで万力にでも挟まれているかのような力。

これは、念力で筋力の補助をしているな。

ロカの口が———ニィ、と吊り上がる。

 

「フフフ、逃がさないわよ。あなたいつも同じトーガばかり着ているじゃない。ちょっと前からあなたを色々と着飾せてみたかったのよね」

 

肉体に強化の魔術をかけ、ロカの腕を振り払う。

そして、駆け出そうと一歩踏み出そうとした瞬間————ビシィィィッッ!

 

「痛ぁぁぁぁぁッッ‼」

 

足に衝撃が走り、ずっこける。

恐らく足に当たったのはロカの空気弾。

床に倒れた私を容赦なく、コリンズが捕まえる。

 

「さあ行くわよ~。私もこの姿の朔夜のドレスを着た姿を一度見たかったのよね」

「ならコリンズも一緒に朔夜に何を着せるのか考える?」

「あら、良いかしら」

 

魔術を使えば、逃げられる。

…………逃げられる、が加減を誤って物を壊したり、怪我をさせかねない。

ここ一ヶ月、彼らとは何度も闘いに巻き込まれ、共に闘った。

命を助けられた事もあった。

彼らに湧いた少なからぬ情が、魔術を使い、逃げるという選択肢を躊躇わせた。

 

だが、それでも、

 

「いやだ、いやだ、いやだ、イヤだーーーーーーー!」

 

朔夜はコリンズに引きずられながも、駄々こねる子供のように叫んだ。

 

 

 

ニューヨークのミッドタウン。

摩天楼のように伸びた白い壁が聳えているビルの前に黒塗りの高級車が立ち並んでいる。

 

朔夜は元の男の姿、いつも通りの裾の長い白いコートの白套に白い鞘に納められた2刀を左右の腰に吊るした姿で車に乗っていた。

キルケーの姿から元の男の姿に戻り、潜在能力解放を使ってコリンズとロカから時間ぎりぎりまで逃げ出したのだ。

結局、ヒーロー組合のパーティーにはコスチューム姿で来ている連中も居るから、もうそのままで良いだろうとジーサードに言われ、いつも通りの格好でここまで来たのである。

 

車から降り、壁に開いた入口かエスカレーターを上がる。

各国の様々なカクテル、ビール、ワインといった美酒が振る舞われている。

壁に設置された特設のキッチンにはシェフたちがテーブルいっぱいに料理を並べられている。

このホテルは現在、ヒーロー組合に貸し切りにされ、テーブルの飲み物も食べ物、飲み食い放題である。

 

フォースがパーティーにはSランク武偵なんてゴロゴロ居ると言っていたが、この連中、精悍な顔つき、ガタイと言い、パッと見で分かるほどヤバい。戦闘力も化物みたいに高そうだ。

 

ジーサードたちは、バラけ、パーティーに参加している連中と挨拶したり、談笑している。

しかし、何なんだろう、この疎外感は。

俺は、パーティーの端っこで一人、ポツンと立っている。

コネを作るいい機会と言われたが、どうすれば良いのか全く分からない。

適当な誰かに話しかければ良いのか?

 

悩んでいると、テーブルの料理から肉の焼けた、いい香りが漂ってくる。

なんか異様に腹が減って来たな。

ロカとコリンズから逃げるために妖刕の潜在能力解放を使ったせいだろう。

俺は、壁際のキッチンに近付き、シェフたちに、本能の思うがままに注文していき、料理の乗った皿を貰っていく。

ケバブ、Tボーンステーキ、ウィンナー。ラムチョップ……———気が付けば、純白のクロスが敷かれた丸テーブルの上には世界の肉という肉が乗った皿で溢れている。

なんだか、肉を食べたい。それも、脂がタップリと乗ったものを。

せっかく食べ放題なんだから、腹いっぱい食おう。

Tボーンステーキの骨を素手で摘まむと、一気に口いっぱいに貪る。

牛脂の甘い香りが口の中に広がる。

肉も凄く柔らかく、噛まずに飲めてしまいそうだ。

うん、美味い。

視界に4/1程減ったスタミナゲージが表示され、食べる度にゲージが少しずつ回復していく。

 

「はい、これ」

 

肉を飲み込むようにガツガツと食べていると、顔に包帯をした黒人、コリンズが目の前に飲み物の入ったグラスを一つ置いてくれる。

 

「そんなにお肉ばかり食べて大丈夫?私たち武装職にとって食事の体調管理も大切な事の一つよ」

「問題無い」

 

異能者は、異能が力を使うのに必要な、魔力や気といった類の力の回復を、異能にもよるが食事(特定の成分を含む物の摂取)や睡眠で行える。

俺の場合、肉類。恐らくは、タンパク質や油分。

食べた肉類は、コリンズとロカから逃げるために消費した分の魔力を補充するため、体内で魔力に変換される。

つまり、肉類は食べても片っ端から魔力に変換されていくため、ゲージが満タンになるまで、食べても特に問題無いのだ。

 

グラスを掴むと一気に流し込む。

ブドウの甘味と酸味が調和し、後味にサッパリとした印象を与える。

肉の脂の甘味を引き立て、良く合う。

美味い。

 

「あら、けっこう一気に飲むわね。気に入った?」

「ああ、美味かった」

「なら、良かったわ~。もう一杯いる?」

「いる!」

「じゃあ、入れてくるわね」

 

 

暫く食べながら、何杯も飲んでいるとだんだん身体が暑くなる。

何でだろ?

特に理由もないのに、不思議と楽しくなって来た。

思考がぼんやりとして定まらない。

まあ、良いや。

 

コリンズは少し話した後、また誰かと談笑しに行って居ない。

食べている途中にコリンズの持って来てくれたブドウジュースのガラス便をグラスに注ごうとする。

 

「あれ?……空だ」

 

もう一本ガラス瓶を取りに、立ち上がって歩こうとすると、何故か思う様に足が動かない。

歩く度に足がふらついて千鳥足になる。

 

「うおっと」

 

足がもつれ、ついには頭から倒れそうになる。

 

「大丈夫かい」

 

横から伸びた太い腕が転倒した身体を支えられている。

 

「……うん?…………ああ、誰だか知らないが、ありがとう」

 

礼を言って、ゆっくりと立たせてもらい、顔を上げる。

すると、レンジャー戦隊みたいな赤いスーツを着た人が立っていた。

 

まるで——

 

「変身ヒーローみたいな格好だな」

 

、ポツリと心の声が漏れる。

 

「おお、分かるか」

「…………?」

 

レンジャー戦隊みたいな男が嬉しそうな声音で言う。

 

「いや、アメリカじゃあ分かってくれる奴が少なくてな。この前なんか悪党と勘違いされて警官に発砲されたんだぜ」

「それは酷いな。確認とかとられなかったのか?」

「アメリカの警官は日本よりも引き金が軽いんだぜ。あいつらが確認なんか取るかよ。まあ、俺も悪党どもの返り血とかで血塗れだったからな。状況が状況だったから仕方のない面もあったんだろうが…………はあ、世の中ままならねえよなあ」

 

アメリカのヒーローも苦労しているんだな。

確かに、俺も普通に日本で武偵してただけだったというのに、国に暗殺依頼されるは、化物みたいな戦闘力を持つ超人どもと闘うはめになるとは…………はあ。

 

「確かに、世の中本当にままならねえよなあ」

 

俺までどんよりした気持ちになって来た。

なんかこのどんよりした空気を変えれる話題ないかな。

 

「あ、俺もヒーローみたいにとはいかないが、変身出来るんだぜ」

「変、身⁉」

「そうそう。こんな感じで、変身ってね」

 

————カッッ‼———

朔夜の足元が幾何学的な模様に光ったかと思うと、朔夜の装い、雰囲気は一変していた。

淡い紫色の入った銀髪。アメジスト色の瞳。

黒のベレー帽、黒を強調としたフリフリの付いたゴシックドレス。

頭の左右に結ったリボンから伸びた長い三つ編みツインテール。

———キャスター、ナーサリーライム。

周囲のヒーロー組合の人がこちらに厳しい目で注目している。中には銃や武器の類いを何時でも取り出せるようにしているものも居る。

だけど、特に気にならない。

 

「ピース、なんちゃって」

「…………」

「おーい」

 

龍を模した赤いヘルメットの前で手を振るけど、反応が無い。

それを見て、こちらに注視していた周囲のヒーローたちも談笑等の交流に戻り始める。

何人かは今も興味深そうに咲夜を観察しているが。

 

「……マジかよ」

「ジーサードみたいな反応ね。うっふふふふっ。何だかよく分からないけどおもしろーい」

 

何となく笑いながらクルクルと回っていると、カャビアの乗ったサーモンや大きなパフェが目に入る。

 

「あれ?そう言えば何で私はここに居るんだろ。ん~~、そうだ、ジュース!」

 

朔夜は幼い純粋な笑みを浮かべて、レンジャー戦隊みたいな男の横を通り過ぎ、色とりどりの液体の入ったガラス瓶の方に駆け寄り、コリンズの持ってきてくれたガラス瓶を手に取る。

 

「いや、ちょっと待て、それはジュースじゃない酒だ」

 

レンジャー戦隊みたいな男が後ろから声をかけてくる。

 

「さけ?サケ?ああ、お酒とういうことね」

 

そう言えば表示にそんなことが書いてあったような……。

 

「まあ別に良いかしら」

 

クルリとひるがえると、レンジャー戦隊みたいな男が立っている。

 

「ねえ、一緒に飲む?」

「うーん……子供に酒を飲ませて良いのか?……いや、見た目通りの歳じゃないかもしれないし……」

 

レンジャー戦隊みたいな男が何か悩んでいる。

 

「飲まないの?」

「いや、まあ良いか。一緒に飲むか」

 

こうして咲夜はレンジャー戦隊みたいな男と職場の愚痴を話し合った。

 

 

 

 

 

 

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