この世はどうしようも無いことで満ちている   作:流れ水

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第4話

久しぶりに帰ってきた日本。

キャリーバッグを引きながら、男子寮の通路を歩く。

何故か男子寮なのに、女同士の金切り声が聞こえてくる。

修羅場か何か?

まあ、良いや。

 

時差ボケのせいか妙に眠いし、身体もだるい。

今日は早めに寝ようかな。

 

 

「あれ?」

 

玄関の前にまで付いたのだが、玄関のドアが無い。

ドアだったものが床に散らばっている。

鋭く何かで切り裂かれたような跡から、ドアは長物の類いで破壊されたのだろう。

それに、気のせいだろうか。

俺の寮の部屋の中から女の金切り声や銃を撃つ音が聞こえて来るんだが。

 

チラリと部屋の中を覗いて見る。

すると、部屋のリビングで2人の女性が争っているのが見える。

一人は、知っている。

巫女装束に身を包み、日本の大和撫子を体現したような美少女、星伽白雪。

確か、寮で同じ部屋の遠山キンジの幼馴染みで、普段は大人しそうな雰囲気を纏っていたはずだが………

今は鬼の形相で刀を構えいている白雪に、ピンク髪のツインテールの少女が両手の2丁拳銃を弾倉が空になる勢いで連射、盛大にバカスカぶっ放す。

 

———ギギギンッッ‼

白雪は飛んでくる拳銃弾を当然ように刀で弾き飛ばし、避ける。

それを見て銃が効かないと判断したのかピンク髪の少女がセーラー服の背中に手を突っ込み、そこに隠していた刀を2刀流で引き抜く。

 

一体何があった。

二人の少女の間に挟まれるように立っている少し根暗そうな男性、キンジと目が合う。

同じ寮部屋のルームメイトであるキンジは目で助けてくれと言ってくるが、推測するに、この状況は十中八九こいつが原因だろう。

自分で蒔いた種なのだから、自分で処理しろ。

俺を巻き込もうとするな。

 

…………はあ。

深い憂鬱のはらんだため息を付くと、2人の女性の戦いが刀で鍔迫り合いをしている状態で止まり、凍りついたようにこちらを見る。

 

停止ボタンでも押されたかのように身動き一つしない彼らを一目ジト目で見ると、キャリーバッグを片手に、寝室に入る。

静まり返ったリビングに朔夜のドアを閉める音が静かに響いた。

 

その日、銃撃や金切り声の音は、もう聞こえてくる事はなかった。

 

 

「昨日はごめんなさい」

「昨日はご迷惑かけて申し訳ありません」

 

朝の食卓の席でピンク髪の少女と星伽が謝ってくる。

ピンク髪の少女の名前はアリア。

最近、キンジとパートナー契約を結んだ相手らしい。

 

「きっちり謝れるんだな」

 

つい、厳しい本音が漏れる。

案外、常識はあったのか。

 

白雪は縮こみ上がるように小さく座るが、

 

「なっ……どういう意味よ!」

 

アリアはおでこに血管を浮き立たせて怒鳴る。

 

「どういう意味も何も……。知らない人間が寮部屋で銃剣を振り回してたら、そう思っても仕方無いだろう」

「それは白雪が突然――」

「何を言っているの!?元々はアリアが――」

 

二人は此方のジッと見つめる視線に気が付いたのか、言葉を止める。

 

「……はあ」

 

ため息を一つ付いただけなのに、今度はアリアも縮むように座る。

悪い事をしたと自覚はしているのだろう。自覚だけは。

 

別に怒ってはいないんだがな……。

 

もっと非常識な知り合いなんて幾らでもいるし。

そんな連中に一々怒っていたら疲れるだけだ。

 

「まあ、きっちり反省してくれると助かるかな」

「「はい!!」」

 

二人は姿勢をピッチリ正して、言葉が同時に重なるタイミングで言う。

それで、また睨み合うのだから……

もうこの二人についてはもう諦めて、対策を一つしておくか。

 

 

 

「そう言えば、朔夜がいない間にこれが届いていたぞ」

 

キンジから手渡されたのはA4サイズの封筒。

差出人は、『Moody‘s Investore Service.Inc』

確か、投資家向けに国・銀行から企業・個人までを格付けする投資顧問会社だっけ。

そんな会社が俺に何を送って来たんだ?

 

封筒を開けて取り出すと、証明書みたいな良く分からない紙が出てきた。

内容はアメリカの『Skill Desert Active』というランキングで俺が24位であることを証明するというもの。

よく分からんな。

何でこんなものが送られて来たんだか。

 

「一体それは何なんだ?」

「…………」

 

キンジが聞いてくる。

だが、俺にも分からんのだよ。

 

「別に答えられないヤツだったら別に良いんだが」

「いや、そういう訳じゃないんだが」

 

まあ、説明するより見せた方が速いだろう。

 

「はい、これ」

 

良く分からない証明書をキンジに手渡す。

 

「何だこれ、証明書か?」

 

どうやらキンジにも良く分からないようだ。

 

「ちょっと私にも見せなさいよ」

 

アリアがキンジが手に持つ証明書を構えて横から覗き込む。

 

「———ッッ‼」

 

すると何故か目を大きく広げて、息を飲んで、一瞬硬直する。

 

「これって、SDAランク24位の証明書ッ———⁉」

「そのSDAランクって何なんだ」

「ちょっとキンジ、その位の事は知っておきなさいよ、もう。」

 

アリアは知っていて当然のように言う。

 

「SDAランクとはその地域によってどの位強いのかを示したものなの。つまり、これは朔夜がアメリカ圏内で24番目位に強いって事を証明する証明書なわけ」

「あー、つまりはその人間やめちゃったランキングで朔夜は24位な訳か」

 

なるほど。

あー、それって多分アメリカで夢幻召喚した時の英霊の力とかも考慮に入れられているよな。

 

「言い方はちょっとアレだけど、まあそういうことね」

「苦労したんだな」

 

キンジが優しい目でこちらを見て、肩に手を置いてくる。

その仕草に何だか妙にに腹が立ったので、準潜在能力解放による5人力の力でキンジの手をはたくように払いのけてやった。

 

 

 

レインボーブリッジ南方に浮かぶ南北およそ2キロメートル・東西500メートルの人工浮島に位置する特殊な高校、東京武偵高校。

 

武偵とは凶悪化する犯罪に対抗するために新設された国家資格であり、京武偵高校とは武偵を育成するための総合教育機関である。

 

そんな物騒な学校の教師が普通であるはずが無く———

 

朔夜は今年の担任であり、強襲科の教師、蘭豹と対峙していた。

 

久しぶりの学校。

それなのに、どうしてこうなった。

 

今日、教務課に担任の蘭豹に挨拶に行ったのだが、

 

「ちょっと顔貸せや。どのくらいの出来るようになったのか試してやるからよ」

 

と、強襲科の体育館に強制的に連行。

 

強襲科の体育館は体育館とは名ばかりの戦闘訓練場。

闘技場の楕円形のフィールドの中心で、朔夜は2メートルもある大太刀を何本も背負った蘭豹と向かい合っていた。

闘技場の周囲を覆う防弾ガラスの衝立の前には、噂を聞きつけたのか、生徒の人だかりが出来ている。

 

「おら、かかって来いや」

 

ニタリと蘭豹が笑みを浮かべて、鞘から一本、大太刀を引き抜いた。

逃げたい。

今すぐここから逃げ出したい。

一年の頃に度々ボコボコにされたトラウマが蘇ってくる。

 

——スゥッ、ハアー

一度深呼吸して心を落ち着かせ、雑念を払い、切り替える。

 

(——行くか)

 

左右の妖刕に手をかけ、抜刀し、蘭豹に向けて駆け出した。

 

——潜在能力解放———20、25……40………

 

体内で——ばきばき、メキメキッ——という音が鳴り響き、視界内で残り時間のカウントダウンが始まる。

 

『坊性式気力放出……』

妖刕の声が頭の中に響き、白套から陽炎のような青白い力場が放たれる。

 

潜在能力開放による爆発的な加速で距離を詰め、右刀で上段から一閃を放つ。

 

———ギィィィンッッ‼

潜在能力解放によって常人の数十倍の力で放たれた一閃を蘭豹は平然と受け止めた。

旋風と刃がぶつかり合った衝撃が、大気を駆け抜け、防弾ガラスを震わせる。

 

「うおおおおおッッ‼」

 

………100%

 

———ギュリィィイインッッ‼

重ねて左刀による、全力全開の斬撃を蘭豹の刀に振り下ろす。

刀を全体重を刀に乗せて斬撃を押し込もうとする。が、蘭豹の刀はびくとも動かない。

 

蘭豹はまだまだ余裕そうな顔で笑みを浮かべ、斬撃を受け止めている。

相変わらずの化物っぷりに涙が出そうだぜ。

 

「ははははははっ、前よりも大分力が上がっとるやないか」

 

嬉しそうに笑いながら刀に力を込めていく蘭豹。

 

———ピキ、ピキピキッ

鍔迫り合いとなっていた俺の刀がゆっくりと押されていき、闘技場の床が俺と蘭豹の足元を中心に蜘蛛の巣状にひび割れていく。

 

やっぱり力では勝てないか。

なら、技では?——身体の力を一気に脱力、蘭豹の刀のを軸に縦回転して、真上からの奇襲の斬撃を放つ。

 

完璧なタイミングの奇襲。

やったか⁉

———『警告』、このタイミングで回し蹴りが来る!?

反応が間に合わない。

 

瞬間、蘭豹の身体がブレた。

腹から全身に走るショベルカーにでも殴られたような重い衝撃。

地面に何度もはね跳び、眼球が飛び出そうになるのを目を強く閉じて抑える。

 

「ぐぼッッ‼」

 

———ダーーンッッ‼

防弾ガラスに背中からブチ当たる事でようやく勢いが止まった。

赤く染まり、歪む視界。

全身に走る冷たい痛みが全身を支配し、自分の身体が自分のものじゃないような感覚に陥る。

 

「ほら立てや」

 

蘭豹はM500を引き抜き、容赦なく倒れている俺に向かって連射する。

 

(——ちょっッッ‼)

 

陸に上げられた魚が跳ね上がるように地面から起き上がり、弾丸を、避け、刀で弾き飛ばし、無我夢中で突っ込み、斬撃を連続で打ち付ける。

人を一人を斬り殺すのに力は要らない、鋭さがあれば良い。

斬撃の速度に力を回す。

 

だが届かない。

 

蘭豹が一刀に対し、こちらは二刀流。

単純な手数で言えば、倍だというのに、蘭豹は絶え間なく続く斬撃を打ち払い、弾き飛ばしていく。

 

呼吸に生じる一瞬の隙が惜しいと、呼吸を辞めた。

全神経を刀に集中。

ただ、斬るという意識を、一刀一刀に全力で込めて放つ。

 

——それでも、届かない。

一閃を放つ度に、蘭豹の圧倒的な力に、俺の腕の肉が、筋肉が、骨が悲鳴を上げて、軋みを上げる。

時間が経つたびに、連撃を放つ度に、呼吸がどんどん苦しくなる。

意識が乱れる。

手を緩めそうになってしまう。

耐えろ!

耐えろッ!

耐えろッッ!!

まだいける、まだいける……!!

 

幾ら潜在能力を解放しているとは言え、朔夜が人間という事に変わりは無い。

 

ついに、限界が訪れた。

息を吸う。その起こりに生じる一瞬の致命的な隙に腹のど真ん中に拳を捻じ込まれる。

打撃に合わせてバックステップで衝撃を逃がすと共に一旦距離を取ろうとするが、蘭豹の蛇のように伸びた腕に絡みついて、逃がさない。

 

——ドンッッ‼

関節を決められたまま、投げ飛ばされて、地面に叩きつけられ、体重の乗った肘を肺に打ち付けられた。

小さなクレーターが生まれ、砕けた体育館の床の破片が弾け飛ぶ防弾ガラスに当たる。

 

「———ッッ‼」

 

声に鳴らない悲鳴が喉から漏れる。

息が、出来ない。

 

「ハハッ‼」

 

蘭豹笑いながら倒れた俺の腹を蹴り上げ、フッ飛ばす。

 

「ぐっ…………がっ………————ッッ‼」

 

俺は地面を何度もはね跳び、無様に転がり、倒れ伏す。

痛みに呻きながら、必死に呼吸をして、身体に酸素を送り込む。

 

蘭豹の力、速度、技量においては明らかにこちらを上回っている。

何か種がある訳では無い。

純粋に化物みたいに強い。

それが蘭豹だ。

今の俺に勝ち目は無い。

それでも、ぜーはーと息を乱しながらも、刀を支えになんとか立ち上がる。

その足は生まれたての小鹿のように震え、おぼつかない。

 

———リリッ、リリリッッ‼

断続警報———妖刕の鍔が音を立ててなり始める。

もう残り一分。

 

ここまでか。

 

俺は、両手の妖刕をゆっくり鞘に納めた。

 

「ここで辞める気かいな。まだまだこれからやろ。もうちょい根性見せてみろや」

「…実力はもう十分確かめられただろ」

 

俺自身、闘いに熱を上げて忘れかけていて断続警報によって思い出した事だが、この闘いは俺がどのくらい出来るようになったのか確かめるのが目的だったはずだ。

なら、もう十分だろう。

 

「それは、どうやろな。結局、自分、技と言えるもんは一度も使っとらんかったし———まだまだ実力隠しとるやろ」

 

蘭豹は、確信を持った表情で言う。

けれど、武偵には実力を隠している人間も多い。

それなのにどうして俺にそんな事を言う。

まあ、どうせ蘭豹の気分なのだろうが。

この理不尽の権家が。

どうすれば、この場を切り抜けられる……

 

「もっと実力見せてみい。そうせな、叩き潰すで」

 

蘭豹の殺気が膨れ上がり、此方に一歩——ズシンッと踏み出した。

 

(———ッッ‼)

 

俺の足が、一歩後ずさっていた。それも無意識のうちに。

 

本能で理解してしまった。

今の蘭豹が自分を殺す気だと…。

 

理性が、『流石に理不尽の権家を体現する存在、蘭豹でも生徒を殺す訳が無い』と言う。

しかし、頭の何処かで『蘭豹は武偵高の教師だぞ、そんな普通の常識が通じる訳が無いだろ』と叫んでいる。

 

蘭豹の浮かべている笑みには、まだまだいけるだろうという一種の信頼が混じっているように見える。

そんな信頼なんぞ要らんのだが。

 

……もしかして蘭豹はこの程度では、俺は死なないと思っている?

何で?

 

……まさか、朝の――!

SDAか⁉

SDAが原因なのかッ‼

蘭豹は何かの拍子に俺のSDAランクを知って、それを基準に今の俺の実力を考えているのでは無いだろうか。

思い当たるとしたらそれしか無い。

あれは恐らく、夢幻召喚、英霊の力が考査基準に入ったもの。

 

つまり、このまま闘うと——殺される。蘭豹に。

 

だけど、使うのか。

この衆人環視の中で。英霊の力を。

 

いや、そもそも俺に選択肢は無い。

 

『使う』or『Dead』しか選択肢は無いのだ。

何処のクソゲーだよ⁉

神様が居たら中指をおったててやりたい。

 

やってやるさ。

 

———夢幻召喚

足元に魔法陣が浮かび、一瞬で消える。

ほんの0.1秒も無い、人の認識出来ない数舜。

その間に朔夜の姿は、雰囲気は、変貌していた。

 

ポニーテールでまとめられた髪。

胸を隠す一枚の黒い当て布みたいな布。

手首と足首には昔の囚人がしていたような鋼鉄のサークレットとアンクレットが嵌められている。

左右の側面だけを守るように伸びている腰当て。その下には長いパレオみたいな黒い布が足首まで伸びている。

その手には身の丈を超えた、自然界にある石をそのまま切り取って剣にしたようないびつで巨大過ぎる斧剣が握られている。

———バーサーカー、ヘラクレス

 

殺意が……増す…………増していく。

俺の踏んでいる足元の床が、——ズンッッ‼と叩き割れる。

 

何もかも壊してしまいたいという欲求が理性を引っ搔いてゆっくり削っていく。

大丈夫、こういう感覚は妖刕で慣れている。

耐えれる。

 

「やっとその気になったか」

 

蘭豹が回転しながら飛び上がり、大太刀を振り回して加速。

 

———ギャアアアアンッッ‼

とても刀と斧剣がぶつかり合ったとは音を上げる。

蘭豹の刀を受け止めた衝撃で地面が叩き割れ、足が沈む。

だけど、俺の腕は、蘭豹の刀を受け止めたまま微動だにしていない。

 

さっきとは逆だな。

斧剣をぶん回して、羽虫みたいに蘭豹を吹き飛ばす。

 

空中で体勢を整えた蘭豹は地面に着地。

足で地面を削り、後退しながらも、蘭豹は大太刀を構えるが、

 

「オソい」

「くっッ⁉」

 

床を蹴り砕き僅か一足で吹き飛んだ蘭豹との間合いを潰した。

次いで間髪入れずに、4度斧剣を振り抜く。

雷光のように迸る斬撃全てが、一瞬で蘭豹の身体を微塵に砕こうとする。

 

速く、重い。

蘭豹の手先から足先までを駆け抜け、蹂躙する圧倒的な衝撃。

目視で見切るのは不可能な速度の剣閃。

蘭豹は勘に従い、刀を動かして何とか受け流すが、一閃を受け流す度に蘭豹の大太刀は曲がり、捻じれ、3閃目を受け流すと同時にへし折れる。

唸り声を上げて、迫る4閃目を蘭豹はへし折れた刀で真面に受け止め、後ろにぶっ飛んだ。

 

蘭豹は空中で吹き飛びながらも、大太刀だった残骸を此方にぶん投げて、新しい大太刀を腰から引き抜く。

 

——ギャンッ‼

顔面に向かって飛んできた大太刀の残骸を斧剣で打ち払い、微塵に砕く。

 

「死ねや」

 

蘭豹は大太刀を地面に突き刺して勢いを殺すと同時にM500を取り出し、連射した。

 

 

飛んでくる多数の弾丸が見える。

 

弾丸に斧剣を持っていない左手を伸ばし———

 

——あ、出来た。

それも簡単に。

 

弾丸をギュッと掴んでみたら本当に止めれてしまった。

自分でも驚いた。

出来るんじゃないかと思って試しにやってみたら、まさか本当に出来るとは……。

指から零れ落ちた無数の弾丸が音を立てて転がっていく。

 

「…………」

 

何が起きたのか理解したのか、観客が水でも打ったように静まり返る。

 

辺りが静寂で支配される中、

 

——ドンッ‼

俺は弾丸が炸裂するみたいに爆発的な速度で地面を蹴り砕いて加速、20メートル以上あった間合いを潰した。

 

 

「ッ———‼」

 

蘭豹は虚を付かれた。

咄嗟に横に跳ぶ。

しかし、朔夜はそれを見てから、反応。容赦なく追尾。

 

——巨大な斧剣が動いた——

 

蘭豹の肉体に抗いようの無い暴力が襲う。

 

「ぐっ、ふ。がっ………‼」

 

斧剣が蘭豹の大太刀に激突。

刀から伝わる衝撃が脳天を貫き、骨を軋ませ、蘭豹の足を地面から引っこ抜く。

衝撃で意識を半分失った蘭豹は空中で無意識のうちに今にも折れそうな大太刀を投げ捨て、新しい大太刀を手にとり、次の攻撃に備える。

 

———バンッッ‼

俺は床を蹴って、回転しながら飛び上がり、斧剣を振り回して加速。

 

斧剣を振り下ろした。

大太刀と斧剣が火花を散らし、蘭豹がピンボールの球のように地面に吹き飛んでめり込んだ。

 

めり込んだ蘭豹から数メートル離れたところで俺は地面に着地する。

 

「………………‼」

 

動かない?

 

瞬間、蘭豹から先ほどよりも明らかに質が違う、重く、冷たい殺意が放たれる。

 

身体に、足に力を込め――

 

——パンパン

手を叩く音が聞こえて、

 

「はいそこまで~」

 

闘技場の中に、探偵科の教員、高天原 ゆとり先生がふんわりした笑みを浮かべて入ってくる。

蘭豹の殺気が霧散し、消える。

                     、、、 

「それ以上は本当の殺し合いになるでしょ~、駄目だよ」

 

ゆとり先生のゆったりとした口調の中に尋常じゃない圧力が混じる。

おっとりした雰囲気のゆとり先生だが、やっぱり武偵高の教師なだけ合って普通では無い。

 

ゆとりの手を借りて、蘭豹がめり込んだ地面から出て来る。

蘭豹の頭から垂れた一筋の血が頬を伝い、地面に垂れている。

 

「手酷くやられましたね」

「もう全身傷だらけやわ」

 

この雰囲気、終わったのか。

 

———解除

魔法陣が出現、消えると、そこには元の姿、裾の長い白いコートに白い鞘の刀を腰に納めた姿で立っていた。

 

全てを壊してしまいたいという気持ちが霧散する。

 

今日は朝から精神的にも肉体的にも疲れた。

 

「結構やるようになったやんかい」

 

蘭豹が腕を首に回してくる。

力が強く、地味に首が絞まってる。

 

「えーと………」

 

何を話せば良いのか分からない。

蘭豹に嫌みにならず、怒らせない……

 

「ちょっと困ってるわよ」

「えーそうか~?」

「もうっ。少し首も絞めてるし、離してあげなさい」

 

ゆとり先生の指摘に、蘭豹が首を離してくれる。

 

「おう、すまんな。まだ腕が痺れててな、感覚がよー分からんのや」

 

突然、

——グウゥゥううう~~‼

俺のお腹の音が体育館に鳴り響く。

 

「腹減っとんのか」

「はい、けっこう異能を使ったので」

「なら飯でも食いに行くか。今日は奢ってやるよ」

 

俺の腹の音を聞いた蘭豹がニッと笑いながら言った。

 

「ちょっと、授業はどうするの⁉」

 

背後からゆとり先生みたいな声が何か言ってるが、蘭豹と一緒に聞こえないフリをして歩いて行った。

 

 

 

 

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