この世はどうしようも無いことで満ちている   作:流れ水

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第5話

最近悩み事が出来た。

気のせいかなと最初は思っていた。

だけど今は確信を持って言える。

俺は明らかに人に避けられている、と。

 

「なぜ、俺は避けられているのだろうか」

 

装備科塔、地下一階—B201作業室

部屋には大小様々な工具、古今東西の銃の部品——グリップ、ネジ、コイルなど——がプラスチックのケースに納められ、積み重ねられており、天井にまで昇る幾つもの塔が形成されている。

朔夜は一年から付き合いのある装備科の友達であり、この部屋の主である平賀さんに相談する。

 

「みんな、さくやくんの事をとても恐い人と勘違いしているのだー!ほんとは優しいのに、だ‼」

 

一通り話しを聞いた平賀さんが頬を小さな手で目の前の作業台をバンバンと叩いて、怒ってくれる。

平賀さんの外見が小学生低学年にしか見えない為、可愛い、という感想しか湧かない。

でも、俺が、恐い?

 

「あー……そっか………」

 

異能世界の常識と言ってもいい事を今更思い出した。

異能者は、その超自然的な力から、人の恐れを買いやすい。

西洋で昔横行した異能者狩り、魔女狩りが証明している。

現代でも、異能者が恐れられやすいというのは、変わらない。

それは、分かっていたはずなんだが……米国で超人、ヒーロー、凄腕の暗殺者、改造人間、魔法少女などと色々化物みたいな連中と関わり過ぎて感覚が麻痺していたようだ。

 

更に、自分は神話や伝説、歴史に名を遺した英雄、怪物たちの力、英霊の力を使う者。

英雄や怪物とはただそこに存在するだけで恐れを振りまく存在。

ましてや、俺はギリシャ神話の頂天の一角、大英雄ヘラクレスの力を手加減したとはいえ使用したのだから、人から恐れられるのは当然の結果だろう。

 

「何を納得しているのだ!さくやくんはもっと周りの人に怒って良いのだ‼」

 

平賀さんの言葉は嬉しい。

けれど、それは例えるなら、村の集落に居座るドラゴンを怖がる村人たちに怖がるな、と言っているようなもの。

村人からすれば無茶苦茶である。

俺も村人だったらドラゴンに出来る限り近寄らないし、避ける。

 

「ありがとう、平賀さん。相談したお陰か大分楽になった。もう大丈夫だ」

 

平賀さんの言葉は俺を等身大の一人の人として見ていくれているからこその言葉。

それが堪らなく嬉しい。

だからこそ、平賀さんには迷惑をかけたく無い。

 

「ほんとなのかー?ですのだー?あややはさくやくんの事を避けてる人の発注依頼を受けないようにしても良いと思っているのだ」

「ああ、本当にもう大丈夫だから、そんな事をしなくて良い。自分の事は自分の手で解決する」

 

仮に、そんな事になれば、平賀さんに迷惑がかかる上に、元凶である俺も恨みを買う事になるだろう。

誰も得しない結果になりかねない。

だから、本当に止めてくれ。

そう念を込めて平賀さんの眼をジッと見つめる。

すると、平賀さんは顔を横にプイッと逸らした。

 

「そうなのかー、ですのだ。そう言うなら辞めて置くのだ。でも困ったらすぐに言うのだ。友達としてあややが助けてあげるのだ」

 

ふぅー。

平賀さんの予想外の行動力に少し焦った。

 

「あー、もうお昼過ぎなのだ」

 

ちょっと棒読みの声で平賀さんが言う。

腕時計を見ると、確かにもう昼過ぎだ。

 

「そうだな」

「さくやくんはもうご飯を食べたのだ?」

「まだ食べていない。これからだ」

「なら一緒に最近新しく出来た店に行くというのはどうなのだ?」

「別に良いよ」

「なら早速準備してくるのだ」

 

奥に入っていく。

暫くすると、小さな黄色い肩掛けカバンに帽子を被った平賀さんがホルスターに入ったリボルバー銃を片手に出てきた。

 

「はい、これなのだ」

 

あ⁉

渡されたの大口径のリボルバーS&W M500。

元々ここには、アメリカに行く前に整備に出していたS&W M500を受け取る為に来たんだ。

久しぶりに会った友達、平賀さんとアメリカであった事とかじゃべったり、相談に乗って貰っていたら、すっかり忘れていた。

 

「ありがとう。すっかりリボルバーの事を忘れていた」

「さくやくんは忘れんぼさんなのだー」

「かもな」

 

平賀さんの言う通り俺は、本当に忘れんぼだ。

つい、自嘲するように少し苦笑いしてしまう。

 

「しゅっぱーつなのだー」

 

腕を元気に突き上げて、平賀さんが言う。

 

さてさて、どこのどんな店に行くのやら。

まさか昨日蘭豹に連れて行かれた焼肉屋じゃないよな。

まあ別に、二日連続同じ店でも良いが。

最悪なのは平賀さんが変な人に騙されて明らかに怪しげな店に着くパターン。

今回はどうなることやら。

コートに隠れるようにホルスターを太股に付けると、平賀さんと店に向けて歩き始めた。

 

 

 

アリアと白雪が暴れ回ったせいで、食卓を並べるテーブル一つ、ポツンとあるだけのボロボロになった部屋に帰ると、アリアとキンジ、白雪の3人が赤外線探知機や盗聴器を設置したり、壁に空いた弾痕をパテで埋めたり、ゴミというか破壊された文具の残骸を片づけていた。

 

「あ、ちょうど良かったわ」

 

玄関の開いた音にくるりと振り向いたアリア。

アリアは手に持っていた盗聴器を設置すると、とてとてと此方に駆け寄って来た。

 

……………………。

アリアの話しによると、アリアとキンジは白雪の護衛依頼を受けたらしい。

白雪を狙っている敵の名は『魔剣』。超能力を使う武偵、超偵ばかりを狙う誘拐魔。

魔剣の姿は全く分からない。

というのも、目撃情報が一つも無いのだ。

だから、存在そのものがデマではないかと言われている存在である、

誘拐された超偵も誘拐とはまた違う、別件の失踪では無いかという意見も多い。

そんな存在から護衛するって、これまたとんでもない依頼を受けたな⁉

アリアは俺にもこの護衛を協力して欲しいみたいなんだが……どうしようか。

『魔剣』は存在そのものが眉唾物。都市伝説の類い。

そもそも本当に存在するのだろうか。

勿論依頼の協力はアリアからの依頼として多額の報酬が出る。

悩んでいる俺をアリアの赤紫色の瞳が真剣に見ている。

よし、決めた。

 

「分かった。その依頼、受けて良い」

「良かったわ。この依頼、断られると思っていたから」

 

安心した表情でアリアが言う。

 

「なら早速取り掛かるか」

 

玄関からリビングまで続く通路。

寝室の部屋の入口である木製のドア。その横の白い壁に手を置くと、身体がずぶりと壁の中に沈んで通りぬける。

 

壁の先にあったのは異界と化している魔術師の工房。

例え、朔夜の入っていった壁を破壊しても、常人にこの場所は辿り着けない。

ここは現実では無く、異界に設置された、そこにはあるけど現実には存在しない特殊な空間なのだから。

朔夜本人か、許可した人物以外には見えず、入れない。

仮に、異能で無理に入ろうとしても迎撃機能が発動する。

 

工房で用意するのは人型のただの紙。

 

——夢幻召喚

魔方陣が一瞬現れ、服装が金で縁取られた紫色のローブに変わる。

耳の先が尖り、紅い瞳と白い髪が薄い紫色に染めあげられる。

——キャスター、メディア。

 

人型の紙に幾つか魔術を込める。

 

メディアは神話の時代でも指折りの魔術師。

この程度、片手間に出来る。

 

——解除‼

また一瞬魔方陣が出現すると、服装が元に戻る。

 

後はこの紙をアリアたちに渡すだけ。

 

 

 

寝室のドアの横の壁が水のように揺らめくと、壁の中から朔夜が出て来た。

どうなっているんだか。

アリアは朔夜の沈んで行った壁を叩き、本当にそこに壁があるのか、壁の中は空洞でその先に部屋があるのか調べてみた。

その結果分かったのは、まるで分からないということ。

つまりは、考えるだけ無駄。

 

白雪が絶界――異界――みたいなものがあるとかなんとか言ってたけど、さっぱり分からなかった。

私にとって異能関係は専門外ね。

 

「はい」

 

朔夜から手渡されたのは人型の紙?

朔夜は白雪やキンジにも一枚ずつ人型の紙を渡していく。

 

「何だ、これ」

「この紙は白雪に危機が迫った時に、一人手に浮かび上がって、白雪の居る方向まで案内してくれる。肌身離さずに持ち歩いておいてくれ」

「ちょっと待て。この紙が飛ぶのか⁉」

「ああ、飛ぶ」

「なんだそりゃ……」

 

白雪は普段通りの顔をしているけど、キンジは不思議そうな顔で人型の紙を見ている。

まあ、不思議よね。

 

「この紙は防水性で水に濡れない。更に、多少の力では破けないように魔術で強化しておいた」

「どのくらいの強度なんだよ」

「銃弾で撃ち抜いても2、3発は耐えれるかな」

「へぇ~。紙にしてはけっこうな強度だな」

「これって朔夜が作ったものなの?」

 

アリアは少し気になった事を朔夜に聞く。

 

「そうだが」

「なら超能力者用の手錠って作れる?それも強力なのを」

「それ位なら作れるが、アリアは魔剣を超能力者だと思っているのか?」

「分からない。けど、念のためにね」

 

武偵は最悪の状況を先に想定しておくもの。

相手は正体不明の魔剣。

念には念を置いておいて損する事は無い。

 

「分かった、後で作っておこう」

「よろしくね」

 

 

 

巫女服に長い黒髪、正に日本の大和撫子というイメージを体現した少女が男子寮のとある部屋の前に立っていた。

しかし、その少女は星伽白雪では———無い‼

外見上は完璧に星伽白雪にしか見えないだろうが、それは変装。それも本物の星伽白雪と瓜二つなレベルの。

星伽白雪に変装している人物の名はジャンヌ。

世間的には『魔剣』という名で呼ばれているジャンヌはその名が嫌いだ。

 

ジャンヌはオレルアンの聖女、ジャンヌダルクの30代目の子孫に当たる。

実は歴史に語られるオレルアンの聖女、始祖ジャンヌダルクのは本物の魔女であった。

その正体を見破られ、火刑に処されそうになったが、始祖ジャンヌは何とかその場から逃げ出した。

ジャンヌは、先祖から技を、知略を、名を、誇りを受け継いでいる本物の魔女である。

 

今回の目的は、ジュンヌの所属している組織、伊・Uに星伽白雪を招待すること。

 

だが、その為の障害が二つある。

遠山キンジと神崎・H・アリア。

神崎・H・アリアは強襲科のSランク武偵であり、「双剣双銃(カドラ)のアリア」の二つ名を持つ凄腕の武偵。

対する遠山キンジは現在、探偵科のEランク武偵であるが、一年の頃は強襲科のSランク武偵であり、入試で教官を倒したという計り知れない戦闘力を持つ。

 

だが、所詮は彼らとて、ただの人間。

二人同時に相手してもジャンヌには勝てる自身がある。

 

しかし、ここにAランクの超偵——超能力者を使う武偵———である星伽白雪が加われば別だ。

この3人を同時に相手するとなると、ジャンヌにも負ける可能性が極僅かだが出てくる。

 

ならその3人を仲間割れさせて分断すれば良い。

 

アリアと白雪は犬猿の仲。

ほんの少しきっかけを作れば、簡単に仲間割れを起こすだろう。

 

そのきっかけを作る下地処理の為に、遠山キンジの部屋に潜入し、盗聴、透視の魔術を仕掛けに来たのだが——入れない。

 

今、部屋には誰も居ない。鍵なんてピッキングで簡単に開けれる。

それでも、ジャンヌが部屋に入る事は出来なかった。

 

なぜなら、結界が張られているから。

その術式はジャンヌには全く理解が及ばず、異次元、異世界レベルの代物。

解除する事も出来ず、触れることすらままならない。

恐らく、ジャンヌよりも遥かに高位の魔術師の仕業。

 

脳裏に浮かぶのは、遠山キンジの同室の部屋人、桜井朔夜。

SSR科のSランク武偵だという情報は得ていたが、まさかこれ程までの高位の異能者だとはジャンヌも想定していなかった。

 

朔夜がキンジとアリアに協力する可能性は十分あり得る。

それでも、ジャンヌは自身の策略で十分対処可能な範囲だと考えていた。

だが、ジャンヌはこの結界を見て考えを改める。

 

真面に相対すれば負ける。

結界に残った魔力の残滓だけでそう悟ってしまったから。

 

仮に、この人物が、アリアたちに協力すれば——ッッ‼

いや、もう協力しているかもしれない。

 

これは、もう自身だけで対処出来る案件を越えている。

 

気は進まないが、『教授』に相談するしか無い……か。

 

 

 

 

『教授』は無法者の組織、伊・Uを束ねる者であり、組織の創始者である。

 

元々伊・Uは『教授』がある目的を達成するために作り上げた。

世界中の才能ある者達を集め、お互いから学び、切磋琢磨し、何処までも高め合うというのが伊・Uという【組織】の目的。

 

だが、伊・Uという【組織】の目的と『教授』の目的は全く違う。

 

『教授』は人智を超えたと言っても良いほどの推理力を持つ。

 卓越した推理はやがて予知に繋がっていく。

『教授』の極限とも言える推理力は、もはや未来予知と言っても過言ではない。

 

『教授』は一世紀間もの長い間ずっと、とある少女が生まれるのを待っていた。

そして、17年前、遂に彼の求める少女が生まれた。

ようやく自身の目的を叶えるために一世紀間も練り続けた計画が、ゆっくり動き始めた。

 

『教授』はとある少年に少女を巡り合わせ、少年と少女にとって丁度良い障害を与えた。

 

少年と少女を成長させる為に。

 

少年と少女の未来をより良いものとする為に。

 

自身の目的を、計画を遂行する為に。

 

だが『教授』の計画が、ジャンヌからの報告という形でほんの少しレールから外れた。

『教授』の推理がほんの少し外れたのだ。

 

『教授』推理を外した原因である少年の過去を全て洗い出した。

 

少年の幼少期はどこにでも居る凡俗な少年。

むしろ、その妹の方が才能の輝る天才そのもの。

 

けれど、その凡俗そのものの少年のデータが突然変化する。

それは、踏み潰しても気が付かない蟻が、自身よりも遥かに大きな象にでもなったかのような大きな、あり得ない変化。

凡俗極まる少年は、突然、強大な存在になっていた。

『教授』にもその原因は推理出来ず、分からない。

そんな存在、一世紀生きた『教授』でも片手に数える程度しか知らない。

下手をすれば計画を全て破壊しかねない異常因子。

『教授』はそう判断した。

 

まだ間に合う。

計画は修正範囲内だ。

少年を排除さえすれば良い。

 

 

 

時刻は夕方。

『教授』は少年の目の前に立っていた。桜井朔夜の前に。

 

少年は『教授』の事を認識すらして居ない。

 

『教授』の鋭敏な感覚が、勘が、告げる少年はちょっとした異能を持つだけで、それ以外は普通そのものと告げている。

 

どれだけ推理しても殺せてしまう。

簡単に。

銃の引き金を引くだけで。

 

やはり少年の何が自身の推理を外したのか分からない。

データのような強大な存在でも無い。

 

だが、殺す。

計画の為に。

 

銃を居合い抜きの様に引き抜き、引き金を引く。

例え、少年が『教授』の事を認識していたとしても、『教授』の一連の動きを見る事が出来なかっただろう。

 

咄嗟に少年は刀を抜いて、銃弾を弾こうとする。

銃弾は『教授』の異能の風で軌道を変え、刀をギリギリで通り過ぎ——少年の頭を撃ち抜いた。

少年は訳が分からないという啞然とした表情で地に伏した。

 

全て『教授』の推理通りに。

 

『教授』はジッと暫く少年を見つめていたが、動かない。

心臓の鼓動が止まった。

死んだか。

 

『教授』が背を向けて、その場から立ち去ろうとした瞬間、

———ッッ‼

濁流の如き凄まじい魔力の奔流が迸った。

 

 

 

 

 

訳が分からない。

護衛依頼を受けていただけなのに。

ビルの屋上から護衛対象を見ていたら……何故?

どうして、頭を撃ち抜かれているのだろうか。

 

どうしてこんな状況に至ったのだろうか。

 

訳が分からないまま、意識が薄れていく。

俺が、消えていく。

 

何故こうなったのだろうか?

 

    知りたい。原因を。

      知りたい。過程を。

 知りたい。真実を。

 

こんな終わりなんて御免だ。

そう思いながらも無情に心臓は停止し、意識は消え————ッッ‼

朔夜の心臓の『聖杯』がゴウンと唸り声を上げて莫大な魔力を生み出す。

朔夜の白いコートの下に身に付けていた鞘の術式が魔力を喰らい、発動。

時間が巻き戻るように、朔夜の頭の傷が癒え——夢幻召喚——緊急術式が発動した。

術式は主人の最後の想いと、状況に最適の英霊を選択した。

 

服が変わる。

燕尾服の上に黒いコートを羽織った姿に。

コートの下から6つも伸びるのは2つ球体関節のある昆虫の足の様な金属棒に虫眼鏡が付いたみたいな物。

右手にはパイプの煙管が、左手にはJ字のステッキが現れる。

雰囲気が変化する。

超全的なものに。

——ルーラー、シャーロックホームズ

 

目の前に居る20台程の男がまた銃弾を撃ち放つ。

だけど、今度は分かる。

どういう軌道で銃弾が来るのか。

銃弾をステッキで弾くと、火薬が爆発するように起き上がる。

 

広がっていく世界。

身体に力が籠っていく。

脳を言葉では言い表せない万能感が支配し……

 

  分かる。

 未来が。  過去が。

    原因が。過程が。

  人の想いが。

   『推理』出来てしまう。

 

「こんにちは。シャーロックホームズ」

「どう……なっている?確かに君の力は推理していた。だけどこれは……この状況は推理していなかった。まさかこんな事になるとは……その力は、僕のだね」

 

目の前の虚空からステッキを片手に持ち、パイプを口に咥え、燕尾服を着ている20台の男、シャーロックホームズが現れる。

 

「勿論。これは君の力だよ。でも同一の力であって君と同質じゃない。それは君が推理出来ていただろう」

「ああ、推理していたさ。それでも…それでも、信じられなくてね」

 

シャーロックホームズの声音、表情には本当に信じられないという念が込められている。

そんなシャーロックの姿は絶好の隙に見える。だけど、隙では無い。

仮に、攻撃しても冷静に最善手で対処するだろう。

私は右手のパイプを口に咥える。

 

「サクヤ君、君は何だい?」

「何とは君にしてはえらく抽象的じゃないか。君のお得意の推理で私を推理してみてはどうかね」

 

シャーロックの言葉に少し自分に付いて考えてみる。

しかし、自分は自分としか言いようがない。

 

「うむ……やはり考えてみたんだが、自分は自分としか言いようがないね。君は何と聞かれて答えれるかい?」

「それは、僕にも出来ない。僕は僕としか言いようがないからね。…なるほど」

 

シャーロックは納得がいったようにパイプを咥えながら頷く。

 

「で……どうする?」

「どうするとは闘うか、ということか」

 

シャーロックが、もう既に分かりきっていることを言う。

 

「それ位君には推理出来ていることだろう」

「確かに推理は出来ていた。だけど、この実に興味深い時間をもっと堪能していたくてね。先のサクヤ君の質問だが、私もこう返そう。答えは——分かっているだろう」

 

S&W M500を取り出し、引き金を引くのと同時にシャーロックが銃の引き金を引くのが分かる。

お互いの銃弾が鏡合わせのようにぶつかり合い融合、私の銃弾が軌道を少し曲げてシャーロックの手に当たろうとするが、弾丸は風に吹かれて少し曲がり、何処ともない虚空を穿つ。

私とシャーロックが弾丸を連射する。

互いの放って行く弾丸は時に床に弾け、時に逸れ、時に弾丸同士でぶつかり合い空中で火花を上げながらZ字たM字V字等様々な軌道を描き、互いの身に迫ろうとする。

手数は互角。

私は本来の姿の俺が持つ弾丸を直接、S&W M500の弾倉に装填する事で、サブマシンガンの如き連射を可能にしていた。

銃での手数なら私の方が上。

だが、シャーロックには多彩な異能がある。

風で、砂で、氷で、雷で、簡単に対処し、反撃してくる。

その異能の一撃を虫眼鏡からレーザーを放つ事で対処し、反撃する。

 

お互いが銃弾と異能の力の嵐の中で動き回りながら、相手の一手先を行こうとと推理していく。

 

お互いが相手の動きを推理し、どちらが効率良く相手を消耗させ、どちらが先に速く必殺の一撃を相手に撃ち込もうと、読み合う事で生まれた千日手。

手を読み取り、次の、次の、次の………何処までも手を読んでゆき、効率的に対処法を考え、判断し、動いていく。

ほんの一手間違えれば勝負に負けてしまう、一歩でも下がれば何処までも崖の下の地面にぶつかって死ぬようなお互いが崖っぷちギリギリに立って闘う勝負。

 

「はははははは、僕の人生の中でこれ程まで愉快な気持ちになった事は無い。全力を出すことが、全力で闘う事が、これ程まで楽しいとはね」

「ふむ、私も今の気持ちを言い表すなら——面白い。それが一番適切だろうね」

「ふふっ、つまりは僕の推理していた通り、僕たちは今同じ気持ちという訳か———ッッ‼」

 

言葉を喋っているシャーロックの頭を背後から一発の銃弾が撃ち貫く。

力無く倒れ伏すシャーロック。

即座に背後を振り向き、ステッキで背後からの見えない一撃を弾く。

すると、何も無かった5メートル先の空間が歪みシャーロックが出てくる。

倒れ伏したシャーロックは偽物。倒れ伏したシャーロックがサラサラと崩れ、砂金の人形と化した。

 

「いやあ、サクヤ君。さっきの銃弾は危なかった。本当にギリギリ推理が間に合ったよ」

「そう言いながらもシャーロック、君にはまだ余裕があっただろう」

「まあね」

 

いたずらっ子の様な笑みを浮かべてシャーロックがニッコリ笑う。

これで銃弾は使い切った。

シャーロックも同じく弾切れであることは分かっている。

 

「さてシャーロック君、お互い銃の弾は切れてしまったことだし——近接戦と行こうかッ‼」

 

私が言葉を言い切ると同時に、バッとお互いが弾ける様に駆け出し、激突した‼

ステッキとステッキがぶつかり合い、シャーロックのステッキがひび割れ、砕け散る。

だが、壊れた訳じゃ無い。

粉々になったシャーロックのステッキの中から、仕込まれていた鋭い一振りの刀が現れる。

怪しくもギラリと眩く輝く名刀。推理するに名はラグナロクか。

 

「これまた凄まじい剣が出て来たね」

 

そう言いながらステッキでシャーロックの刀を受け流し、何の予備動作も無しに出現した雷球を後ろに跳ぶことで避け、更に飛んできた見えない鎌鼬をシャーロックごと、虫眼鏡みたいな物からレーザーを放ち撃ち貫こうとする。

だが、シャーロックは、レーザーが放たれる前にはもう当たらない位置に一歩踏み出して避け、レーザーが放たれている時にはステップを踏んで距離を詰めている。

 

お互いが行動を移した時にはもうすでにはお互いが対処している。

推理と推理のぶつかり合い。

濃霧の中、お互いの推理が、ステッキと刀が、異能の力が、ぶつかり合っていく。

勝利条件は推理していてもどうしようもない、チェスで言うチェックメイトを作り上げること。

 

一歩後ろに下がると、霧を切り開くように振り下ろされた直刀が鼻をほんの少し、掠りながら通り――振り下ろされていた直刀の軌道が変化、頭を突き刺す突きに変わる瞬間、私の手のステッキが直刀と火花を散らしてぶつかり、直刀が頬の薄皮一枚を切り裂いて通っていく。

シャーロックが直刀に高圧の電流通す、その前にステッキを手放して、一歩踏み出し、顔面に拳を叩きこもうと右拳を放つ。

放たれた私の拳は、空中で何かにぶつかり――シャーロックの異能、空気のクッション――勢いが落ち、シャーロックの手のひらに柔らかく受け止め、拳の衝撃に乗りながら後ろに下がりながら直刀を振るおうとするのを、拳を広げてシャーロックが手を捕まえて防ぎ、掴んだ手から全身の骨の間接を極めようとする。が、シャーロックに防がれ、逆に間接を極めてこようとするのを防ぐ。

掴みあった掌からどちらも相手の身体を掌握しようと、膠着し、一瞬お互いの動きが止まる。

 

シャーロックの直刀による横凪ぎ。

身体を切り裂こう迫る直刀を片手の真剣白羽取り――人さし指と中指がハサミのように直刀の刃を噛んで止める。

 

「ここまで……か。僕の負けだ。後164手目でサクヤ君の勝ち……だが君に僕を倒せない。まだ、ね」

「確かに私は君をまだ倒せない。倒した結果がどうなるのか推理しているからね。そして、この勝負だが、私の負けだ。シャーロック、君が奥の手を使えば私に勝つ可能性など幾らでもあるだろう?」

「僕は奥の手を使わざる得ない時点で僕の負けだと思っている。だけど、君も奥の手を限定的にしか使っていないだろう?その心臓のものを」

「私は君に奥の手がバレている。更に限定的とはいえ奥の手を使用している時点で私の負けだと思っているのだが」

「僕も奥の手は限定的に使用しているさ。それは君も推理しているだろう。そうだね、こうしようか。今回の勝負、引き分けと」

「ならこの勝負は次までお預けよしようか。君が計画を完遂するまで。それまで私は君の計画を崩すような事はしないというのはどうだね」

「君から僕にその提案をするとはね。その提案、受けよう。次には僕もこの鈍った身体を鍛え直しておこう。楽しみにして待ってくれていると助かるよ。――僕の宿敵よ」

「宿敵、か。なら私も一つ、本当に君の宿敵になってあげるのも良いかもしれないね」

「はははははっっ!!それは楽しみだ!」

 

その言葉を最後に目の前のシャーロックが崩れ、砂金に変化する。

傍で聞こえていた声はシャーロックの異能の風が運んできていたもの。

私は話している途中にシャーロックが退避することや、今何処に居るのかも既に推理していた。

だが、シャーロックの方も退避しても私が追わない事は推理していた。

 

今回の闘い、お互いに本気ではあっても全力では無かった。

 

今、私がシャーロックと全力で闘い合った場合、私にも倒せる可能性があると推理はしている。

 

そして、次に相対した時、私の勝率は今よりも遥かに低くなっているだろう。

 

それでも、今は駄目だ。

仮に今、倒せたとしても、未来の世界が最悪になると推理出来ている。

 

再戦の時まで待つしか——無い。

 

シャーロックが計画を完遂する時まで……。

 

シャーロックは倒せない。

 

———聖杯停止

幾らでも魔力を生み出す聖杯の魔力炉心を停止させる。

 

———解除

魔法陣が出現。白い髪に紅い瞳、白いコートに刀を携えた元の姿に戻る。

 

アリアに一度受けた今回の依頼は協力出来ないと伝えないと。

ちょっと気が重いな。

 

 

家に帰ると、アリア、キンジの2人がソファーに座ってテレビを見ている。

白雪は、料理中か。

 

「アリア」

「うん、なに?」

「今日受けた白雪の護衛協力依頼だが……無理になった」

「え、何で⁉」

「理由は言えない」

「理由すら言えないって‼まさか国から————」

「いや、そういう訳じゃ無い」

 

別に国から干渉を受けた訳では無い。

 

「なら———ッッ‼…………いや、ごめん。言えないものは言えないもんね」

 

アリアがしょんぼりした様子で肩を落とす。

その姿を見て、申し訳無い気持ちになる。

 

「本当にすまんな。突然、依頼をドタキャンする事になって………」

「しょうがないわよ。そっちにだって事情があるんでしょ」

「珍しくアリアが素直に納得したな」

 

キンジが横からいらん茶々を入れる。

 

「キンジ、それはどういう意味よ……⁉」

 

はあ。

また痴話げんかが始まる。

 

夕食まで工房で魔道具でも作っているか。

 

「夕食になったら呼んでくれ。喧嘩するにも、物はあまり壊さないようにしてくれよ」

 

パタリとリビングのドアを閉める。

 

「ちょっ…………Agkjtjl‼」

「khgdylあk‼」

「uhlk*かkjh⁉」

 

予想通り白雪も参戦したようで、怒声が聞こえてくる。

その声を尻目に、寝室の入口のドア。その横の何も無い白い壁に、水の中に沈む様に入って行った。

 

 

 

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