それはある日の放課後のこと。
いつものように、緑谷出久は、麗日お茶子と飯田天哉と共に帰路についていた。
「いやー、今日の訓練は大変だったね飯田くん」
「ああ、まさか相澤先生からあんな言葉を聞けるなんてな」
「そうやね。 その後の轟君の反応もびっくりやけどね」
「確かにそうだ」と普段通りの他愛のない会話をしながら歩道橋を歩いていると、
「む、あそこにいるのは、上鳴くんと峰田くんじゃないか?」
「あ、ほんとや」
歩道橋を降りた路地先に立つ二人の姿を確認した。
二人は、アロハシャツを着た二人組の男達に囲まれていた。
異形型の個性のせいか、上鳴よりも遥かに大きな体を持ち、二人に向かって怒鳴りつけている。
「てめぇらよ、人にぶつかっておいて謝って済むと思ってんのか? オラ!!」
「誠意見せろや、出すもんあるだろうが! オラ!!」
明らかに因縁をつけられていた二人は、目の前の男達に完全に圧倒されていた。
峰田も上鳴も、共に日本最高峰であり、全国トップクラスのヒーロー科に所属するほどの逸材であったが、あくまで見習いですらなく、公共の場での個性の利用は禁じられている。
身体面のフィジカルも、二人ともそれほどまで高くなく、明らかにアロハシャツの男達の方が上と言っていい。
「出すもんってなんだよ……」
「涙じゃねぇ……」
蒼い顔をして現実逃避している二人に対し、男達は苛立った様子で声を荒げる。
「てめぇ、ちょっと雄英に入ったからって調子こいてんじゃねぇぞ! オラ!!」
「ちょっと面貸せや! オラ!!」
男達によって路地の中へと連れていかれる上鳴達を見て、緑谷が慌てて行動を起こす。
「大変だ、助けに行かないとっ!!」
「ああ、そうだな!!」
1-Aが誇る正義感の塊である緑谷と飯田が慌てて、階段を下りようとする。
しかし、その二人に待ったをかけたのは一緒にいた麗日である。
「ちょ、二人とも、一回冷静にならんと」
そう言って止めた麗日の意見はこうである。
個性が使えないのは、緑谷達も一緒であり、止めに入ることができても、抑えることができないだろう。
先程の男達の風貌や態度からしてヴィランの可能性があり、そうなればまだまだ学生の身である緑谷達では手が余る。
反撃をしてしまえば、個性を無許可で使ってしまったことにより、処罰されるかもしれない。
故にまずは警察、そしてヒーローへの連絡が先ではないか?
という麗日の提案に、二人は頷くしかない。
だが、それでも三人ともが目の前の状況に黙っていられるほどの人間ではなかった。
「くそ、どうすれば……」
「飯田君、もしも二人に何かあったら問題だ、まずはここから移動して様子を窺おう」
麗日が警察に電話している間、自分自身が何もできないことに怒り震える飯田に対し、緑谷も同様に冷静に努めようと提案する。
そんな二人の肩を叩くものが現れた。
「状況は理解したよ、ここは俺に任せてくれないか?」
「国木さん!!」
現れたのは、緑谷達のクラスメートである国木という男であった。
清潔感のある黒髪で、爽やかな笑顔、そして中学時代に野球で全国制覇を成し遂げた身体能力を持ち、入試試験において、爆豪勝己すら上回り成績一位を誇る稀代の秀才。
クラス一のイケメンボーイと称される轟焦凍と双翼とされるイケメン、それが国木という男である。
それらの理由を含め、クラスの男子から同学年なのに国木さんと呼ばれている。
「出久、悪いが荷物を預かってくれるかい?」
「え、でも……」
緑谷に荷物を預けた国木は、そのまま歩道橋の上から飛び降りると、そのまま俊敏な動きでシュタシュタと駆けて路地と消えてしまった。
「ど、どうしょう?」
「とにかく、俺達も急ごう」
突然、現れた国木に圧倒されていた三人も我に返り、そのまま国木に続くように階段を下りていく。
そしてその頃、路地裏では。
「オラオラオラオラッ!! てめーらいい加減に、オラッ!!」
「オラァァァァ!!」
圧倒的なまでの男達――ヴィランの勢いに上鳴達は震えるしかない。
それは仕方ないことだ。
右側に立つトラ顔の男、というよりもトラ人間である男の名は『虎司走司』というヴィランであり、犯罪歴は世界最強のピンポンダッシュの名手とされるほどのピンポン達者であり、彼による被害は優に百を超えると言われている。
そして左側に立つゴリラ顔の男、というよりもゴリラ人間の名は『五里夢中』という名のヴィランであり、犯罪歴は業界屈指のストーカーであり、余りのしつこさから被害女性からのブレインバスターを百回ほど喰らった程の傑物である。
そんな男達の前にヒーロー候補生の二人と言えど、恐怖を感じてもおかしくないだろう。
「こ、怖ぇぇぇぇ」
「オラって言われるのスゲェ怖ぇぇぇ」
目の前のヴィランにオラ突かれる二人には、救いの手はないのか?
しかし、そんな二人に救世主、ヒーローが現れた!!
「待てぇー!!」
突然、路地に響く声に四人は示し合わせたかのように同時に視線を向けた。
そこにいたのは、威風堂々とした立ち姿で鋭い眼光を飛ばす男がいた。
「そいつらを離してもらおうか」
「「国木さん!!」」
現れたクラスメートに、二人は思わず声を揃えて名前を叫ぶ。
そんな態度を見て、苛立ったように二人組のヴィランは、国木の前に立つ。
「あぁ? 何だてめぇは?」
「関係ねぇだろ」
「二人は、俺の大切なクラスメートなんでね」
先程の上鳴達同様に脅しにかかるヴィランに対し、国木は一歩も引くこともなく、毅然とした態度で迎え撃つ。
そんな国木を見て、ヴィラン達は面白なさそうな顔をしていたが、ふと何か思いついたか、突然笑い声を上げる。
「まさか、お友達のピンチを助けに来るとは、まさしく雄英の生徒っていうわけか、オラッ!!」
「で、俺達二人を相手にしてただで済むと思ってるのか、オラッ!!」
ヴィラン達と違い、ヒーローではない国木に個性を使うことはできない。
もしも使ってしまえば、国木の輝かしい経歴に傷が入ってしまうだろう。
そこを突いたヴィラン達は汚い、本当に汚い。
「それとも何か? お前が出すもの出してくれんのか?」
「そうしたらこの二人共ども無傷で返してやんよ……あ、オラッ!!」
脅しにかかる二人に対し、国木は眉をピクリとさせ、鋭い視線を二人にぶつけた。
「出すものだと?」
そう言って国木は両手を徐に広げて、そして掌を合わせた。
ボッという破裂音と共に、国木の制服の上着が弾け飛ぶ。
そして現れたのは、鍛えに鍛えた国木の金剛の肉体と―――
「さぁ、出したぜ?」
黒色のブラジャーであった。
突然、目の前に起こった国木の奇行行動に、先程までオラついてたヴィラン達も、恐怖に震えていた上鳴達も動きを止める。
まさしく思考停止、時は完全に止まっていた。
そんな中いち早く行動を移したのは国木である。
「? ……なんだ? 物足りないのか、欲張りめ!」
今度は両腕を下から上へと振り上げる。
そうするとブラの肩紐が千切れ、ホックが外されるとそのまま虎司の顔へと飛来する。
微かな音を立て、虎司の顔に引っかかったブラを見て、国木は不敵な笑みでこう告げる。
「やるよ。 この欲張りめ!」
そうしてようやく状況が把握できたのか、未だに固まっている虎司の肩を五里が叩く。
「は、はっはっはっ……なんだコイツ。 おい、こいつも一緒にやっちまうか?」
平常心から程遠い明らかな動揺に揺れる五里の言葉に、虎司が唾を呑みこむ。
「いや、待て……奴の身体をよく見てみろ」
そして二人は国木の身体を改めて見る。
一片の緩みもなく、鍛えに鍛えた肉体は、微かな輝きを見せる。
それでいて全身をよりシャープに鍛えた国木の肉体の前に、微かなリーチしか勝つことができないヴィラン達の足は、知らず知らずの内に一歩後退していた。
明らかに怯むヴィラン達を前に、国木はゆっくりと歩みを進める。
「俺は知っている。 お前達のようなヴィランの心を正すのは、暴力や正義ではない。 ……無償の愛だ」
そして国木は動き出す。
「イヤホー!!!! 抱きしめてやるぞ!!!!」
両手の掌を後頭部に当て、両足を蟹股にすると腰を前後に振り始める。
前後のピストン運動により、推進力を得た国木はヴィランに接近する。
「こんなチャンスは、めったにないんだ!!!!」
突然の奇行に、ヴィラン達は思わず、背を向けて逃走を開始した。
そして上鳴と峰田の間をすり抜けて、そして国木が現れた。
ヴィラン二人を追い払った国木は二人を安心させるかのように、両手を二人の肩に置く。
「逃がさんぞ」
それは絶望の宣告だった。
「ひっ!!?」
「俺らも!!?」
国木が突入して程なくして、路地の入口に辿り着いた緑谷達だったが、突然走ってきたヴィラン達に道を譲るように避ける。
先頭を走るのは恐怖で顔を歪めたゴリラ顔の男と何故か上鳴であり、それから少し遅れるようにトラ顔の男と峰田が現れた。
途中、峰田が緑谷達の前でこけてしまったが、傍にいたトラ顔の男が手を差し伸べて起こすと、そのまま手を繋いで走り去ってしまった。
「……どういうことなんだ?」
「さぁ?」
状況を把握しきれない緑谷達は首を傾げるしかなかったが、程なくして上半身裸の国木が現れた。
腰を振りながらヤホウーと叫ぶ国木に、緑谷と飯田は、状況を確認しようと近づく。
その瞬間、笑顔の国木に肩を叩かれた。
「今度こそ、逃がさんぞ」
それだけで十分だった。
飯田は自身の個性を使って走り去り、緑谷もまるで初めて麗日を助けた入試の日のような大ジャンプを見せ、国木の拘束から逃れる。
残されたのは、呆然と立ち尽くす麗日と、腰を振りながら上鳴達が去った方向に歩み始めた国木だけである。
程なくして、通報により現れたパトカーに乗った警察官が現場に到着する。
そしてそのまま、国木に上着を被せると、職務質問を開始する。
「んー君の話は矛盾しているなぁ、じゃあそのヴィラン達はどこに行っちゃったの?」
「あーそうか、そうか」
結果は言うまでもないだろう。
「いいから、乗りなさい」
そのまま国木を乗せたパトカーは走り出し、その場には麗日だけ残された。
そして一人残された麗日は、パトカーの走り去ってしまった方に視線を向け、国木が最後まで叫んでいた言葉を口にする。
「いやほー」
こうして人知れず平和は守られた。
完。
最近、三男坊が書けないので、はやりのヒロアカ小説を書いてみました。
たった二時間でかけたので、国木さんとヒロアカの力は偉大。