国木さんとヒーローアカデミア   作:康頼

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プールチック

 それは夏の日のこと。

 プールでの水難訓練という名の名目の競泳大会が終了し、男子全員が片づけを終えて服を着替えていた。

 こういう時、峰田や上鳴などが隣の女子更衣室に興味津々で胸ワクワクをしていのだが、生憎女子は片付けがなく既にプールも更衣室も出て行った後だ。

 故に、血涙を流して悔しがる両名を見るのが、お約束というわけだが、今この状況下で誰もそんな甘い考えはなく、いかにこの死地を乗り越えようか、全員が頭をフル回転していた。

 

 「今日の訓練も大変だったな、出久」

 「そ、そうだね、国木さん」

 

 そんな中、一人ゆったりと備え付けのベンチに座る男―――国木の言葉に緑谷は動揺を隠せない様子で返事をする。

 

 「まさか、先生からの無茶ぶりには参るよな、焦凍」

 「あ、ああ」

 

 今日のことを思い出しては、しきりに頷く国木だが、何故か更衣室の横を陣取る形でスタンバっている。

 その隣には脱ぎ捨てられた上着が置かれており、ほんの数秒までは国木が着ていたのだ。

 だが、国木の言葉で事態は刻一刻と破滅へと進んで行く。

 

 「しかし、今日は暑いな……ぶっ壊れているんじゃないか太陽」

 

 そう言って国木はシャツを脱ぎ捨てて、上半身はブラのみとなる。

 その行動に峰田からは、押し殺した悲鳴が上がり、尾白の尻尾は尻の辺りで丸まっていく。

 そう、これが今日の国木ゲームである。

 

 既に1-Aでは常習化している魔のゲームであり、もしも対応をしくじれば、おしおきサウナの刑が待っている。

 現在、おしおきサウナの刑を喰らったのは全部で三人、普段の行動が仇となり、紳士としての調教として刑を喰らった峰田と上鳴のお馴染のコンビ、そして名前がおしりに似ているということで完全な誤爆を喰らった尾白である。

 特に完全に非がなかったのに刑を喰らった尾白の恐怖は尋常ではなく、先程から異常なまでの痙攣が全身を襲っていた。

 ただ三人とも最悪の状態?になったわけではないので、もしかするとおしおきサウナの後に何か待っているかもしれない。

 未知の恐怖に怯える15人に対し、国木の圧力が強まっていく。

 

 「だが、それもヒーローになるための試練、そう考えれば励みになるってものだ。 そうだろ勝己?」

 「……」

 

 何故か妙に良い笑顔で、良いことをいう国木に全員が苛立ちを隠せなかったが、ここで動いた者は負けだ、全員が理性を働かせてその場で踏ん張る。。

 現に煽られ耐性0の爆豪ですら、国木に対しては噛みつくこともせずに無視を続ける。

 これは、初めの訓練の時に国木に組み伏せられたトラウマかわからないが、話しかけると尋常ではない冷や汗を流す幼馴染の姿に、緑谷は同情を覚えるも、口に出すことはしなかった。

 

 「ところでこの後、皆で野球でもしないか? チームスポーツは全員に共通意識を芽生えさせることができる。 クラス一丸になるためにはいい儀式だと思わないか?」

 

 余りに飯田好みの言葉だったため、思わず乗ろうとした飯田を隣にいた切島と砂藤が全力を持って抑え込む。

 ナイスプレーと思わず叫びそうになった緑谷だが、危機はまだ脱していなかった。

 飯田に抱き着く形で止めに入ったのが不味かったのか、眼を輝かせた国木が三人に歩み寄ると全員の肩を抱く。

 

 「ははは、既にこのクラスは一つになっていたな。 しかし、鋭児郎と力道もだが、皆良い体つきになった。 俺好みだ」

 

 そう言って三人の尻を軽く叩いて再びベンチに座る国木を見て、全員が危機を乗り切ったことに安堵の息を吐く。

 

 「しかし、今日は暑いな」

 

 そう言って下を脱ぐ国木、これでブラとパンティーだけになった。

 現時点でも絵面はアウトだが、ここにいるメンバーは知っている猶予はあと二回ということを。

 故に、全員が今できる最大限の力で脳をフル回転してこの危機を脱しようと思考に耽る。

 『暑い』という単語が出ると一枚服を脱ぐのが、今日の国木ゲームで解っていることだ。

 つまり、あと二回『暑い』と言う言葉を国木が発した時点でゲームオーバーである。

 ならば、如何にこの言葉を言わせないことが、このゲームに生き残る条件ということを理解し、緑谷は国木に視線を向けた。

 

 「しかし、本当に今日は暑いな」

 

 ブラを脱ぎ捨てた国木。

 このゲーム、だめかもしれない。

 全員がそう考え、脱出を考える。

 出入口は駄目である、高確率でフィジカルお化けの国木に捕まるだろう。

 ならば、窓はというとそこまで大きな窓ではなく、人が一人通れるくらいの大きさである。

 つまり先着順、逃げ切った者が勝ちである。

 先程まで全員で危機を乗り切ろうと考えていたにも係らず、今は全員がこの場から我先に逃げようとしている。

 

 それでもヒーロー科かっ!!

 

 思わず足を止めた緑谷は気づいた。

 自身の敗北を。

 

 「それにしても、やっぱり今日は……」

 

 そう言って最後の聖域に手をかける国木。

 緑谷はその光景を眺めながら、オールマイトに出会った日から今日までの出来事を思い出す。

 

 オールマイトに認められ、個性を得たこと。

 実技試験で、両足と右腕をへし折っても麗日を助けることができたこと。

 見事入学を果たし、校門前で立ち竦んでいた自分に、国木が尻を叩いて前を進ませてくれたこと。

 最初の授業の時に、組み伏せられた幼馴染を助けようと、国木を殴ったこと。

 そして何故か、その後、一瞬のうちに国木に組み伏せられ、オールマイトに止められなかったら、貫通していたかもしれないこと。

 ヴィラン襲撃の際に、何故か肌を艶艶にさせた国木が、脳無相手に一歩も引かなかったこと。

 体育祭一種目目の際、国木の吐息がスタートからゴールまでずっとついていたこと。

 二種目目の国木が何故か、異常なまでに騎手になりたがっていたこと。

 三種目目の一騎打ちの際、自分に勝った轟の氷を、国木が服を犠牲にして無傷で生還したこと。

 その後、国木さんの国木さんが全国ネットに流れることとなり、校長と相澤が謝罪会見を行ったこと。

 

 「殆ど国木さんじゃないかっ!!!」

 

 思わず叫び声を上げる緑谷。

 彼は知らず知らずの内に、助けたい気持ちより。勝ちたい気持ちが強くなったとき、幼馴染の影響で言葉が悪くなるのだ。

 そして、一手導き出すことに成功した!!

 

 「轟君!!」

 「っああ!!」

 

 それはまさに奇跡の反応だった。

 

 「暑……冷たっ」

 

 それは逆転の発想。

 暑いなら、涼しくすればいいじゃない。

 轟の氷結により、全身が氷に覆われた国木だが、次の瞬間氷像は崩れて、生まれたての国木が現れた。

 

 「おいおい……なんだーい、お気づきだったってわけかーい? 俺が暑いから服を脱いでるわけじゃないってことにさ!」

 

 正解と言わんばかりに、拍手をする国木はゆっくりと立ち上がる。

 

 「ビンゴ! 今日はその洞察力に免じて引いてやろう」

 

 笑いながら国木は緑谷と轟の尻を叩く。

 

 「ケツ拾いしたな」

 

 そして出ていく国木は、もう更衣室に返ってくることはなかった。

 残されたのは静寂と湧き上がる達成感、そして

 

 「「「「 やった!!!! 」」」」

 

 大いなる安堵感である。

 

 「すげぇよ、お前らっ!!」

 「まさに間一髪ってやつだったな!!」

 

 全員が喜びを爆発させ、功労者である緑谷と轟を胴上げし始める。

 その行為に思わず緑谷は涙を流し、轟はクラスに馴染めたことに安堵の笑みを浮かべる。

 

 だが、戦いはまだ始まったばかり!!

 負けるな、雄英高校!!

 負けるな。1-A!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お前ら、いつまでチンタラやってやがる……」

 「「「「 すみませんでしたっ!!!! 」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここで国木クエスション!!

次のうち、国木の好みは誰だ?

1.クールが売りのイケメンボーイ、轟 焦凍。

2.唯我独尊ワンパク爆裂ボーイ、爆豪 勝己。

3.ここ一番の判断力はピカイチ、緑谷 出久。

4.ストライクゾーンは広いぜ、全力スイング!!

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