ポケットモンスター虹 ― Where is Justice ―   作:入江末吉

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第三話:新米ドジっ娘刑事エイミー

 

 夏の日差し照りつけるラフエル地方で、今日もまたアストン・ハーレィの所属する捜査一課は職務に励んでいた。ただし、通常の職務とは大きくかけ離れたものであったが。

 燦々と降りしきる陽光の下、アストンとその同僚のアシュリーはペガスシティ内にある一番のアミューズメントエリアに来ていた。

 

「あ、暑いわねあなた……」

「そうだね……」

 

 らしくない会話、アシュリーが麦わら帽子を深く被りながら呟いた。その時、陽の光を受けてキラリと指の根本でリングが光る。二人が薬指にハメている指輪は偽物だ。しかし彼らは二人一組でこの灼熱の中夫婦ごっこに興じる必要があった。少し離れたところで、キャーキャー騒いでいる若い女性と隣で暑さにやられている中年男性が視界に入る。

 

『コールソン……お前、どこからそんな元気が湧いてくるんだ』

『ダメですよおやっさん、私達は今「遊園地に遊びに来た歳離れた親子」として警護任務に就いてるんですから!』

 

 そう、アストンとアシュリーが陽光の下夫婦のフリをしているのは凡そ捜査一課の仕事とは思えない要人警護(セキュリティ・ポリス)の任務だったのだ。しかも、今視界に入ってる人間の八割はPGの構成員だ。視界の端でピカチュウとプリンの着ぐるみを着て風船を子供に配っているキャストもそうだった、いざ対象に何かあれば動けるようにしている。

 

 アストンが帽子のツバを触って視線を隠しながら周囲を観察する。着ぐるみのキャストに扮するPGスタッフ。親子のフリで警戒しながらも本気で楽しんでいるエイミーと、半ば死にかけのギリアム。さらにデートしているカップルに見せかけたPGスタッフ。周囲を気にしながらもゴミ箱からゴミを回収している清掃員。

 

 さらにはポケモンも解放可能なこの遊園地の中で、脚に自慢のあるポケモンの散歩に見せかけているPGスタッフもいる。完全監視の状況が出来上がっていると言えた。

 

「まぁこの状況下で動くとは思えないが」

「用心に越しておくことはないよアシュリー」

 

 事の始まりは数日前に遡る。PGに多大な出資を行っているスポンサー、"パチル家"に脅迫状が届いたのだ。相手はそれなりの情報通で、パチル家が資産スポンサーとして活動していることを知っていたようだ。

 

『ポケット・ガーディアンズなどという偽りの正義に加担するあなた方は断罪されねばならない。PGへの出資をやめなければあらゆる不幸が降り注ぐだろう』

 

 脅迫文書自体に要求等は書かれていなかった。悪戯とも思えたが、相手がわざわざパチル家を標的に選んだことから冗談の線は薄いと言うことになったのだ。

 そして、その脅迫文が届いたわずか一週間もしないうちに一人娘の"ライラ"が遠足で出かけるというイベントがあったのだ。犯人グループはこのライラが出かけるというイベントの情報すら掴んでいるだろうと逆算し、こうして捜査一課すら出張る警護状況を作り出した。

 

『対象、アトラクションに乗り込みました』

 

 最寄りの位置で監視しているPGスタッフから連絡が全体に行き渡る。今は学友たちと観覧車に乗っているようだった。ふとアシュリーは、ライラは自分が狙われてると知っているかが気になった。

 パチル家の当主はかなりの愛娘家で、脅迫文が届いたこと自体を知らせていない可能性が考えられる。

 

「ひとまず、観覧車に乗っている今は安全か」

 

 アシュリーがそう呟いて肩の力を抜く。アストンと共にパークの中心にある噴水の縁石に腰掛けて周囲を見る。すると視界に入るうちのほとんどの客がその場で立ち止まり、または歩きながら回る観覧車を眺めていた。これでは「私はPGの構成員です」と自己紹介しているようなものだった。

 

「各員、あまり観覧車に気を取られないように。自然な動きを徹底してください」

 

 アストンが小型のインカムに向かってそう話すと、今度は一斉に不自然なまでに観覧車を見る人がいなくなった。側でアシュリーが溜息を吐く。しばらくして、ライラが乗っているボックスがようやく頂上の部分へ至った頃、アシュリーがわざとらしく咳払いをした。

 

「アストン、今のうちにお昼にしないか?」

「え、でもまだ任務中だから……」

「大丈夫だ、食べやすいようサンドイッチにしてある」

 

 そう言ってアシュリーは先程までぶら下げていたバスケットを開ける。中には保冷剤で熱から守られていた数切れのサンドイッチが入っており、アストンはそれならと周囲を観察しながらアシュリーが用意したサンドイッチを咀嚼し始める。それぞれ中身が違うらしく、同じものは何一つとして入っていない。アシュリーなりの努力が見て取れる。

 

「どう?」

「うん、美味しい。昔からアシュリーは料理が上手だよね」

 

 思えば、よく子供の頃からアシュリーがお昼ご飯と称してサンドイッチを持ってきてくれることがあった。アストンは物心ついた時から与えられたエアームドと共にPGになるための訓練を行っていたため、外にいることが多かった。屋敷で昼を食べる時間はあまりなかったように思う。そんなアストンにとってアシュリーが持ってくるサンドイッチは数少ない至福と言えた。

 

『あーいいなー! アストンさん私にも分けてくださいよ!』

『待てや……俺を置いてくなコールソン、おーい……』

 

 インカムからエイミーの声がしたかと思えば、遠くで親子ごっこに興じていたエイミーが息も絶え絶えのギリアムを放ってこっちに向かってきていた。周囲からすればいきなり見ず知らずのカップルの昼食に突っ込む女に見えてもおかしくないのだが、エイミーはそれに気づかない。アシュリーがこめかみを抑えて溜息を吐く。

 

「ん~美味しい! アシュリーさん料理上手なんですねー! おやっさんもどうです?」

「俺ぁいい……それより水……」

 

 暑さにやられて死にかけのギリアム、もう少し正気を失っていればこの後ろの噴水に頭から突っ込んでいたことだろう。サンドイッチを嚥下し終わったエイミーが「それにしても」と切り出した。

 

「本当に来るんですかね? 誘拐犯」

「誘拐とは限らないさ。例えば観覧車、ライラ嬢が乗ってるボックスに爆弾を仕掛けるなんて手段も考えられる」

「えー!? それ、大変じゃないですむぐぐ」

 

 大声で騒ぎかけたエイミーをアシュリーが口を塞いで黙らせる。犯人がパチル家に要求したのはPGへの金的支援をやめろということ、だがエイミーの言う通り身代金目当ての脅迫文になり得る。

 だが観覧車が危険ではないとは言い切れない。だから一般客を装いながらも注意することは必要である。

 

 ギリアムが自販機で手に入れた"おいしいみず"を一気に飲み干してペットボトルを潰した瞬間、周囲のざわめきが目立った。ギリアムがインカムに手を当てた。

 

「どうした?」

『観覧車が止まりました。故障でしょうか……?』

 

 通信機の言葉を受けて確認してみれば確かに観覧車の動きが止まっていた。パークのスタッフが救助班を呼ぼうと慌ただしく動き出した頃、何事も無かったかのように観覧車は動き出した。中の乗客はみんな一様にホッとした様子で降りてくる。そしてしばらくしてから、ライラの乗ったボックスが最下に現れた。

 

「急に止まったので、ビックリしましたね……」

 

 そんなことを言いながらライラが友達と談笑しながら観覧車を後にしようとする。その時、真夏の日差しを遮る"何か"がアストンたちの真上を通りがかった。それは無数の"ゴルバット"とそれを統率する"クロバット"の大群だった。いくらなんでもおかしい、洞窟などの暗がりを好むポケモンたちがこんなにも日の高いうちから遊園地の空を飛んでいるはずがない。

 

 噴水近くにいたギリアム以外の全員が腰のモンスターボールに手を伸ばしたのと、ゴルバットの群れが【くろいきり】を放ちパーク全体を黒い濃霧で覆ったのはほぼ同時だった。

 太陽の日差しすら覆ってしまうほどの暗黒がアストンたちを取り囲んだ。

 

「エアームド! 【エアカッター】!」

「エンペルト! 【こごえるかぜ】だ!」

「グラエナ! 【かぎわける】で索敵を始めろ!」

 

 瞬時に飛び出たエアームドと"エンペルト"が風圧を齎す技で周囲を攻撃する。ひとまずは黒い濃霧を吐き出すゴルバットの数を一体でも減らすことが重要だ。屋外であるゆえ、エアームドの【きんぞくおん】で反響音を聞き取るという芸当も出来ないため、今の視界が遮られている状況ではギリアムのグラエナが敵の位置と数を割り出すのを待つしか無い。

 

 ボトリ、ボトリ、と音を立ててゴルバットが地に落ちる音が耳に届く。着実に数は減らせている。エアームドが風を起こし、着実に視界を広げていく。その時だ、エイミーの耳がか細い少女の悲鳴のようなものを捉えた。さらには方角的に、観覧車の乗り場があるところだ。エイミーはまだ視界が完全に開けていないにも関わらず、その場から駆け出した。

 

「エイミー!」

「待てコールソン! 迂闊に飛び出るな!」

 

 アシュリーとギリアムの静止を聞かず、エイミーが濃霧の中を走っていく。アストンがもう一つボールを取り出してエイミーの後を追いかける。エイミーもプラスルとマイナンをリリースして周囲を探らせる。霧の効果が薄れてきたタイミングでエイミーが見たのは、灰色の装束を身に纏った集団がライラを連れ去る瞬間だった。

 

「プラスル! マイナン! 【エレキネット】!」

 

 この際なりふりに構っていられない。プラスルとマイナンが電気で編まれたネットを二つ撃ち出す。しかし視界は依然として悪いままで、エレキネットは灰色の装束の集団を掠めて明後日の方向へ飛んでいってしまう。だがここまでくれば後は突っ切るだけだ。

 

「待ちなさい! その子を離して!」

 

 エイミーが濃霧を抜け出した瞬間、目に入ってきたのは私服で客になりすましたPG構成員が軒並み倒され、周囲に打ちのめされている光景だった。ゴルバットたちが濃霧を発生させ、エイミーがここまで到達するのに要した時間は約二分ほど。だと言うのに、既にこれだけの数のPGの精鋭たちが伸されている事実がエイミーを震え上がらせた。

 

「ポケット・ガーディアンズです! 今すぐライラ・パチルを離しなさい。さもなくばラフエルの名の元、正義を執行します!」

 

 取り出したPG手帳を見せつけながら、エイミーが宣言した。しかし灰色の装束の集団はそれをせせら笑うのみでマトモに取り合おうとしない。警告はした、これ以上の猶予は与えられない。

 エイミーは駆け出しながら、プラスルとマイナンに指示を出す。

 

「もう一度【エレキネット】!」

 

 出来るだけ人は狙いたくないエイミーだが、そんなことを言ってる場合ではない。再びプラスルとマイナンから撃ち放たれた【エレキネット】が灰色の装束の男に襲いかかる。しかし灰色の装束の男もまた、ポケモンで応戦した。紫の体躯を持つポケモン、"グランブル"だ。そこまで大きなポケモンではないが、プラスルとマイナンの二匹に比べればほとんどのポケモンは巨躯だ。エレキネットはグランブルに絡みつくが、グランブルはまるで効果が無いようにエレキネットを引き剥がすとプラスルとマイナン目掛けて突進してきた。

 

「【しっぺがえし】が来るよ! 避けて!」

 

 グランブルが振り下ろした鉄槌がパークのレンガ敷の地面に直撃、大きくひび割れる。エイミーとグランブルの距離は10mほどだが、亀裂がエイミーの足場まで到達した。ただのポケモンにしては攻撃が強烈すぎる。

 しかしグランブルに構ってる暇はない、こうしている間にライラは連れ去られてしまうのだ。

 

「エイミー下がって! ロゼリア! 【はなびらのまい】!」

 

 その時だ、遅れてやってきたアストンがボールごとロゼリアをグランブルの目前にリリース、グランブルの鼻先で飛び出したロゼリアが花びらによる洗礼を叩きつける。しかしグランブルは全くダメージが通っていないようにロゼリアに対しても【しっぺがえし】を行う。吹き飛ばされたロゼリアがなんとか立ち上がる。エアームドほどではないが、ロゼリアも長いことアストンの元で研鑽を積んだポケモンだ。しかしたったの一撃で戦闘不能寸前へ追い込まれてしまった。

 

「ッ、ここはボクが引き受ける! エイミー、君は彼らを追うんだ!」

「わかりました! プラスル、マイナン掴まって! "ピジョン"お願い!」

 

 グランブルをアストンに任せるとエイミーはそのままもう一匹の手持ち"ピジョン"に飛び乗ると灰色の装束の集団が近場に用意していたであろうトラックに向かっていくのを発見、そこへ急降下する。

 トラックにライラを押し込めようとした瞬間、目の前にエイミーが現れ狼狽する男たち。

 

「もう逃しません! 大人しくしなさい!」

 

 エイミーの迫力に思わず先頭の男がたじろぎ、手持ちポケモンをリリースしようとしたが素早く察知したマイナンが【でんじは】でモンスターボールを持った手を麻痺させる。ボールの開閉さえ出来なければどうということはない。

 

「(みんな一様に同じ装束を纏ってる。組織ぐるみの犯罪なの……?)」

 

 男たちが纏う灰色の装束、というよりはよく見ると真っ黒のライダースーツの上に灰色のプロテクターのようなものを纏っていた。それらにN()()S()()()()()()()()()()()()()()が描かれている。さらにマフラーは七色に分かれ、エイミーが先程腕を麻痺させたのが紅いマフラー、グランブルを繰り出したのが紫色のマフラーの男だった。

 

「――――何やら、騒がしいですね。これだから現場は嫌です」

 

 背後から女性の声、エイミーが振り返った瞬間身体に走る電流。あまりの衝撃にエイミーが意識を手放す。ぐったりとした彼女の身体を乱雑にトラックに放り込むと、次いでライラの腕を縛り上げエイミーと同じようにトラックの荷台に放り込んだ。

 

「ひとまず対象は無事確保出来ました。おまけも付いてますが、このまま残しておくよりは連れて行く方が安全でしょう」

 

 エイミーを気絶させた女性が指示すると灰色の装束の男たちは姿勢を正して返事をすると後続の回収車に次々と乗り込んだ。

 昏倒させられたエイミーと、手足の自由を奪われたライラは、動く暗闇の中でただじっとその時を待つしか無かった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 戦闘開始から凡そ十分、アストンは明らかに疲弊していた。エイミーが離脱してから程なくしてロゼリアは戦闘不能、現在戦闘中のギャロップもだいぶ追い詰められている。エアームドは最後の切り札として、残りの手持ちは一体になってしまった。

 

「アストン、加勢する!」

「いや、待ってくれ! このグランブルは普通じゃない! ここで大勢の人間が足止めを食うわけには行かないんだ! エイミーの方を頼む!」

「頼んだぞアストン、お前ら付いてこい!」

 

 助成しようとしたアシュリーの肩を二度叩いたギリアムが現場の私服警官を束ねて遊園地を後にする。ゴルバットが吐いた濃霧もすっかり晴れ、変わらず照りつける夏の日差しがアストンに大量の汗をかかせていた。しかし気は抜けない。どれだけグランブルにダメージを与えても、戦闘不能になる兆しが見えないのだ。

 

「おかしい、並のポケモンなら既に倒れてるはずなのに……!」

 

 よほど良い個体なのか、よほど訓練されているのか、いずれにしろ既に並の域は超えた。たかが知れた犯罪集団の駆るポケモンと傲れば、一瞬で返り討ちだ。

 グランブルの放つ【しっぺがえし】がギャロップに直撃する。しかしギャロップの活躍が功を奏し、"やけど"状態に陥ったグランブルの放つ物理攻撃の威力は幾分か減退していた。

 

「ギャロップ! 【フレアドライブ】!」

 

 自身が燃え尽きようとも主命を全うすべく、全身に業火を纏ったギャロップがグランブルへと全力の体当たりを放つ。凄まじい炸裂音と共にグランブルが吹き飛ばされるが、戦意は健在。対してギャロップは膝を折り、戦闘続行が不可能な旨を示した。

 

「すまないギャロップ、あとは任せてくれ」

 

 ボールに戻ったギャロップにそう念じると、後続のポケモンをボールからリリースした。

 

「頼むリングマ!」

 

 アストンが放った三番手は"リングマ"、かつてはアシュリーが所持していた"ヒメグマ"だったがアストンの持っていた"ポッチャマ"とトレードを行いアストンの手持ちに加わった経緯を持つ。二匹とも今の主に忠実で助かっている。さらに、大一番でアストンが最も頼りに出来る力持ちだ。

 

「【おんがえし】!」

 

 リングマが地を揺るがすほどの勢いで突進、グランブルに組み付くとアストンの信頼、そしてリングマの挟持を拳に乗せた一撃を見舞う。これにはさすがのグランブルも堪えたようで、今まで以上に大きくよろける。

 

「生体の変化で、弱点が変わったとは聞いていたけど……それだけじゃなさそうだ」

 

 その時だ、真夏の陽炎が見せた幻覚かとも思った。しかし、微かにグランブルの身体から()()()()()()()()()()()が噴き出したのが見えた。そしてそのオーラを拳に纏わせたグランブルが地面目掛けて拳を振り下ろす。するとリングマがいる位置はおろか、その十数メートル先にいるアストンの元まで亀裂が走った。

 

「【げきりん】!? まずい!」

 

 アストンが真横にダイブして回避する。すると数瞬前までアストンがいた場所が競り上がり、数十メートル高く打ち上げられてから粉々に砕け散った。

 

「リングマ! 【うそなき】! エアームド! 【ラスターカノン】!」

 

 元来おくびょうなグランブルはリングマの【うそなき】で一瞬動揺し、次いでエアームドが放つ鋼タイプのエネルギー弾が直撃する。完全に防御力を削いだ状態で放った弱点の【ラスターカノン】が急所に当たったのだろう、グランブルは遂に吹き飛ばされ、立ち上がること無く昏倒した。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 戦闘状況終了、アストンはその場に膝を突くと激しく動き回った反動で肩を喘がせていた。なんとか動きを止めたものの、まさかここまで手こずらされるとは思っていなかったのだ。

 目を回しているグランブルの様子を確認する。アストンが鍛え上げてきたポケモンたちの内、二体をほぼ戦闘不能に追いやりリングマを苦戦させるほどのパワー。本来なら「番犬としては無能」と呼ばれるグランブルがここまで派手な大立ち回りをするとは思えない。

 

 アストンが訝しんでいたその時、視界の端にきらりと光る破片があることに気づいた。拾い上げてみればそれはモンスターボールの破片だ、恐らく破損してもう使い物にはならないだろう。

 

「……これ、グランブルが収められていたボールじゃないか。だとするなら、命令を受けていないのにグランブルがあそこまで暴れたのか……?」

 

 直接グランブルをリリースしたトレーナーを見たわけではないが、そのトレーナーはグランブルをリリースした後、ボールを破壊することでグランブルを野生に戻したのだ。

 つまり、トレーナーの命令に強制力は無い。グランブルは抵抗をやめたいタイミングでやめることが出来たはずなのだ。

 

 "希少が荒い珍しいグランブル"で済ませることも出来た。だが、アストンの中で何かが引っかかった。

 それは先程見た、グランブルを覆う黒いオーラのようなものが原因であると彼自身気づいていた。

 

 

 数分後、グランブルをボールで捕獲し現場に残った私服警官に処理を任せるとアストンはアシュリーとギリアムに合流した。

 しかし彼らがいた場所は既に何も無く、エイミーとライラは姿形なく消えてしまったのだった。

 

 




長くなったので分割です。

今作における明確な悪役がようやく登場しました。
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