土下座聖杯戦争   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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ついに断罪の時である




「随分と雑多な国ね」

 

 ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリが初めて訪れた日本の街並みに対する感想がそれだった。都市開発中の冬木の街といえばそれなりに近代的な街だ。それもソラウやケイネスたちが滞在しているホテルは街の中心部はかなりの発展を見せている。未だに中世ローマの風景を残しているヨーロッパとは大きな違いだった。

 

「私としては日本家屋や天守閣とかいうのがまだ残っているものだと思っていたけれど、そうでもないのね」

 

「かはは。そりゃそうだぜ」

 

 ソラウの背後、付き従うように歩くアサシンが応えた。スラックスにカッターシャツ姿。生前の彼が通っていた高校の制服だという。本来ならば臙脂色のネクタイやブレザーもあるらしいが趣味で着ないらしい。霊体化しているのではなく、実体だ。

 

「そりゃ行くところに行けばアンタの想像してるような場所もあるけど基本的にはこんな感じの街だろうさ。ま、俺の知識も十年二十年近く先の話だからあんまあてになんねーだろうけどよ」

 

「あぁ、そうね」

 

 アサシンの言葉にソラウはアサシンの出生を思い出す。

 

「貴方はこの国の、それも未来の英霊だったのね」

 

「あぁ。俺という英霊の最盛期(・・・)は二〇〇九年終わりから二〇一〇年にかけての事だったからな。そのくらいの肉体や精神年齢にキープされてる……だからまぁ、そんなに言うほど未来ってわけでもないかな。細かいとこ見れば確かに時代の差を感じるけど、大雑把に見れば違和感ない」

 

「そんなものなのかしら」

 

 アサシンの話を聞きながらソラウは新都の光景を見渡すが、あまり感慨というものが浮かんでくるわけでもない。そういう機微には疎い彼女からすれば違和感しか感じることはできないのが正直な所だ。

 

「周辺の偵察と地形確認ということだったけれど、私が来た意味があったんでしょうかしら」

 

 昨夜の戦闘で得た情報を纏め、策を練っているケイネスに新都周辺の散策に行くように言われたのはつい一時間ほど前だ。一人で静かに考え事をしたいと言ったので、ソラウは街に繰り出し、お供兼護衛としてアサシンが付けられている。

 

「おいおいそりゃあないぜ」

 

 何故かアサシンの顔には苦笑が浮かんでいた。

 

「どういうことかしら」

 

「だって主殿はアンタに日本の街並みとか見物してもらうために外に出させたんだぜ? そりゃたしかに考えをまとめる時間も必要だったていうのもあるだろうけど、俺はそっちのほうがメインだったと思うね」

 

「……まさか」

 

 そんなことがあるはずないとソラウは思う。

 そんな非効率的なことを魔術師である彼が考えるはずがない。

 

「かはは、そりゃ主殿は魔術師である以上は人でなしだがろくでなしじゃああるまい。アレはアレなりに婚約者であるアンタのことを大事にしてると思うぜ。というかそもそも大事にしてなきゃなんの触媒もなしに俺を呼べるかよ。愛されてると思うぜ?」

 

「……」

 

 思わず足が止まった。

 

「……そんなことないわよ」

 

「なんでさ」

 

「私と彼の婚約関係は所詮魔術師として優秀な跡継ぎを生み出すためのものよ。そんなものなんて」

 

「ないとか俺に言うなよ? 俺から言わせればないなんてことこそ在りえない」

 

「――」

 

 それはなるほど説得力のある言葉だった。

 彼はそういう(・・・・)英霊なのだから。魔力供給を行うにあたって、ソラウにもアサシンの記憶は夢として流れ込んできたので彼がどういう人生を歩いてきたかは知っている。なればこそ、言えるものだろう。笑みを浮かべながら、そんなにも自信満々に。

 それはソラウにはできない。

 

「だとしても……私みたいに笑顔の一つも浮かべられない女なんて一緒にいて面白いと思わないでしょう?」

 

「そんなわけないって。主殿はあれでアンタにいいとこ見せようと必死だし? それに感情が希薄なアンタだからこそ、こうやって異国の風景とか見せたいと思ったんじゃねぇかな。つーか無表情だから駄目とか言ったら俺嫁に殺されるわー」

 

「……」

 

 アサシンに言われたことを反芻してみるが、しかしどうしたってピンとこない。ソラウが知っているケイネスというのは超一流の魔術師であるということがほとんどだ。それ以外のこと、つまりはケイネス個人のことについて知っていることはあまりにも少ない。興味がなかったというのは確かだが、そもそもソラウ自身が興味を持つことの方が少ない。

 魔術の腕こそ磨いてきた彼女だが、それも家の跡継ぎのスペアと自発的に身に着けた物ではなく、親から仕込まれただけでそこに彼女の意思は存在していない。ケイネスとの婚約だって親同士が決めたものだ。

 だからアサシンの言うことには納得できない。

 けれど、その通りだといいなぁくらいには――思う。

 まぁ少しは。

 

「さて、もう少し見回ったら帰ろうぜ。昼飯でも買っていってやろう」

 

「私、彼が好きなものも知らないのよね」

 

「だったら色々数買って一緒に試せばいいだろう。一緒に好きなものを探すっていうのも悪くない、むしろすげぇいい時間だと思うぜ」

 

「そう……かしら」

 

 ならばどういうものを買って行けばいいのかなと思って周囲の街のを見回す。持ち帰ることを考えれば手軽に食べれるファーストフードやヨーロッパではあまりみないコンビニエンスストアで買うべきか、或はルームサービスを頼むべきか。幸い所持金はそれなりに余裕はあるのでどうしようかなと思ったところで――、

 

「え?」

 

「は?」

 

「――」

 

 ホビーショップらしき店から両手に紙袋を手にしたアーチャーと目が合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふ」

 

 少なくとも――客観的な事実を見るのならば。

 引きこもりなニートのマスターのあまりの怠惰っぷりに嫌気がさしたアーチャーことレキが、彼女を引っ張り出し冬木の街のホビーショップやゲームショップを巡りに巡って、彼女が生きていた頃には入手困難だったものを大量に手に入れて内心テンションが上がって店を出た時である。

 

「ふふ」

 

 彼女が最も知り、彼女を最も知られ、生涯を共に過ごした彼の恋人にして夫。彼が、また見たことの無い女と共に仲睦まじく――レキにはそう見えた――歩いていたのである。

 

「ふふふふふふふふふ」

 

「あ、あの……アーチャー、さん?」

 

「理子さん」

 

「へ?」

 

「喜美さん。シノンさん。カレンさん。恋さん。遙歌さん。エヴァさん。安心院さん――他にも他にも他にも」

 

「あ、あの……」

 

「そして今度はそのお方ですか」

 

 ぐらりと。レキの首が傾いた。琥珀の目は妖しく光り、瞳孔はカッ(・・)と開いて。

 

「好きですねぇ、セメントとか無口とか無表情とか……ほんとに。ほんとぉーに好きですよねぇ」

 

「あ、ちょ、あの……その……レキさん……?」

 

「ふふふ」

 

 ちなみに全て無表情。

 

「――浮・気・撲・滅」

 

 言葉と共に動いていた。

 いきなりの登場で硬直していたソラウや周囲の一般人、それにあまりの険悪さ、そしてその気質故に攻撃行動に移れなかったアサシン――蒼一もなにもかも置き去りにして。レキは動いていた。

 

「行きます」

 

 あまりも堂々とした構えと縮地だった。格闘を極めた蒼一や、理性があることを前提とした場合のバーサーカーが他から見れば思わず賞賛してしまうもの。

 しかし残念ながら今回蒼一は当事者だった。

 

「一号」

 

「ぐはっ!?」

 

 ハイキック。

 

「二号」

 

「がぼぉ!?」

 

 さらに回し蹴り。

 バック転――ゆらり(・・・)立ち上がって。

 助走。

 跳躍。

 捻転。

 炸裂。

 

「大・天・罰……!」

 

 ――それも蒼一の股間に。

 

「■■■■……!」

 

 意味不明の、それこそバーサーカーよりもさらに謎の絶叫を発して泡を吹きながら蒼一が崩れ落ち、

 

「これぞタマモさん直伝、一夫多妻去勢拳」

 

 ビシッ(・・・)とポーズを決めながらレキが着地する。

 そして残ったのは痙攣している蒼一、理解が追い付かないソラウ、無駄にいい顔しレキ、痴話喧嘩にしては凄くて驚く一般。

 それらによって時は止まって、

 

「あーもう、なにしてんすかアーチャーさん、先に行かない……ってうわ! なんすかこれ!? いったいなにがどうなってんすか!?」

 

 ぼさぼさの髪の女が先ほどのレキと同じようにゲーム等が大量に入った袋を手にしながらホビーショップから出てきて、全く空気も読まずに突っ込みを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アサシンが泡を吹いて崩れ落ち、アーチャーがポーズを決めて残身を取っている頃、ライダーこと火野江火火とそのマスターウェイバー・ベルベットは冬木郊外の森、つまりはアインツベルンの森へと足を踏み入れていた。言うまでもなく聖杯戦争において敵地以外のなにものでもないその空間に足を踏み入れたのは昨夜決心したアインツベルンのランサー陣営に同盟を申し込むつもりだった。

 まず前提として交戦の意思はなく、最初から交渉のつもりで、最後までその考えは変わることないだろうと思われていたが、

 

「……なぁ、今どこだ?」

 

「さぁ、どこだろうねぇ」

 

 普通に迷っていた。

 アインツベルンの森――それはつまり彼の家が作り出した一つの結界だ。道のループや方向の勘違い、疲労度の増加等は当然としてあちこちに雑多な効果を持つ魔術トラップが張り巡らされており、さらにはランサーや衛宮切嗣によって魔術的でないトラップもいくつもある。もしもこれがライダーを連れず、ウェイバー一人だったら一キロも歩かずに死ぬか死にかけることになっていただろう。幸い、ライダーには索敵技能もあるので危険なトラップは回避できるが、

 

「あんまやりすぎて索敵行為と認識されて攻撃されたら困る」

 

 なので広範囲の感知は控えていたわけだ。

 それゆえの迷子である。

 

「ライダァ……どうすんだよ。もう二時間くらい歩きっぱなしだ」

 

「はぁ……マスター君。君はもうちょっと鍛えた方がいいよ? 心身共にね。二時間ぶっ続けで険しい森の中を歩いたくらいで音を上げるなんて情けないと思わないかい?」

 

「いや、普通の人は多分それだけ動けば音を上げるって」

 

 そもそも火火は軍人だし英霊だ。男であろうとインドア派の極みだったウェイバーとは体力がけた違いだし、そもそも森の中を歩く技能を彼は持っていない。一般人だってそれほど保有率が多いスキルではないだろう。

 

「ふむ……そうだねぇ。そりゃたしかに主砲でも撃ちまくれば森に穴開けて結界も無理矢理ぶっ壊していけるけどそんなことしたら絶対同盟を組めないからなぁ」

 

「駄目に決まってるだろそんなの。何かいい方法がないのかなぁ」

 

「ないこともないけど……」

 

「あるのかよ! じゃあ早くやれよ!」

 

「いや、これは君にしかできないことなんだマスター君」

 

「へ?」

 

 火火が軍帽の抑えながらそんなことを言う。殊勝な様子を不審がったウェイバーが先を促せば、

 

「こういう場合はいかにしてこちらに戦意がないかを伝えるのかが肝要だ。こちらの非戦を相手に伝え、向こうの戦意を削ぐ。少なくとも即座の物理的な戦闘行為に発展しないレベルまでには互いに互いに攻撃しないという認識が必要なんだ」

 

「ふむふむ」

 

「私たちの場合今から仲間に入れてくださいと頼むほうだからね。最低条件としてこっちの非戦闘意識だけは伝えなければならない――この場合どうやるか解るかい?」

 

「……んん? やっぱ態度じゃないのか?」

 

「その通りだ。そしていいかい? 私はサーヴァント、つまりはマスター君の剣である盾だ。戦闘の主導権は私にあっても戦争の主導権は君にある。畢竟、君が令呪を使って戦えと言えばサーヴァントである私は拒否できない――どれだけ私がアインツベルン側と同盟を組みたくてもマスターがそう思わなければ成立しない。解るね」

 

「あぁ。つまり僕が明確に非戦意思を表明しろってことだろ? でもそんなのどうすんだよ。ギアススクロールでも書けってか?」

 

「いやいや、マスター君。君は人間なんだから魔術とかに頼らないで口とか体を使おうよ。何のためにその体はあるんだよ」

 

 というわけだ。

 

「――マスター君が逆立ちでもしながら僕は戦わないとか仲間に入れてくださいとか言えば向こうだって納得するって」

 

「…………できるかぁ!」

 

「えぇー? もしかして逆立ちもできない? まぁしょうがない。そこら辺にある木でも使えば、それくらい……」

 

「いやそういう問題じゃないだろ! なんで僕がそんなみっともない真似をしなきゃいけないんだよ!」

 

「おいおいみっともないとか言うなよ。ある程度の滑稽さは場合によっては武器になるんだから。それを君のような若者がやることによって意味を成すんだから! そう! 君以外に適任はいない!」

 

「そ、そんな馬鹿な……」

 

「ホントだよ! 私の家族たちもそう言っている! 君こそがこの滑稽の中に潜む平和の使徒であると!」

 

「……」

 

「さぁ、ウェイバー・ベルベット。私たちに、そしてアインツベルンたちに見せつけてやれ! 君の華麗なる平和への架け橋、いやさ平和への倒立を!」

 

「っ……っく……くそぉ! やってやるよ! やればいいんだろ!? 僕だって倒立くらいできるさ! とりゃあ!」

 

「おお! ホントにできるとは! てっきり倒立もできないもやしっ子ていうオチかと!」

 

「ば、ばば、馬鹿にするなあ……っ」

 

「よし、そのまま叫ぼう! 仲間に入れてくださぁーい!」

 

「な、仲間に入れてくださぁーい!」

 

「僕は戦いましぇーん!」

 

「ぼ、ぼ僕は戦いましぇーん!」

 

「がっでむ聖杯!」

 

「がっでむ聖杯!」

 

「電ちゃんぺろぺろ!」

 

「電ちゃんぺろぺろ!」

 

「……」

 

「……」

 

「――」

 

「――」

 

「――ぷ」

 

「――」

 

「――うわはははははははははははは! あはははっ、ひぃーひぃー! だめだ、くくっ、くははっ、あはは、死ぬ、死ぬ……腹筋が……ははっはははっはははは! あーははっはっははははははは!!」

 

「お前ええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

 しかしこの光景を見ていたアイリスフィールは思わず吹き出してしまい、横で見ていたランサーと切嗣でさえもが思わず同情してしまって涙目でライダーの首を揺するウェイバーと、揺すられたまま笑いつづけるライダーがアインツベルンの城に招待されるのだから世の中厳しいものである。

 

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