土下座聖杯戦争   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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 最も速く反応したのはキャスターだった。

 彼の固有スキル人間観察によって出現した五人の性質を一見して看破していた故に。いや、別にスキルがなくてもすぐに解っただろう。出現した五人とバーサーカーからクラスチェンジしたモンスター達は共に戦うことで最も力を発揮すると。

 だからキャスターは魔術を行使する。モンスターたちにではなく、元から張っていた結界を切り替えたのだ。召喚された女たちは単体では正規のサーヴァントには劣るだろうが、一方的に蹂躙できる相手ではない。このまま四対六では些か分が悪い。

 

 だから面子を分割した。

 

「――悪く思うなよ」

 

 パチンと指を鳴らす。選択した対象を複数の空間に送り込む結界術。それぞれの存在座標を僅かにズラして各英霊たちを別けたのだ。抵抗(レジスト)を許さない魔法染みた魔術で、誰もが抵抗することなく各個それぞれの結界ないに送られた。

 

「……いやぁ、こりゃ困ったな」

 

「……」

 

 ライダーが頬を掻きながら言葉を漏らす。ライダーの感覚からすればバーサーカーの周囲に英霊もどきの女性たちが現れたと思ったら味方が消えて向こうも数が減っていた。とりあえず周囲を軽く見るが建物の配置は変わっていない。隣には鎧を着こみ、巨大な長銃を持つランサーがいるが、アサシンやキャスターはいない。

 目の前にいたのは三人。

 アイスブルーの瞳に、赤紫の髪と装甲服に機械杖の女。水着のような露出の多く、身体に張り付く様なボディスーツの水色の髪の女。毛先が黒い白銀に紫と黒の騎士礼服を纏い、手には十字杖と紫の魔導書。年の頃はライダーとあまり変わらないくらい。

 とりあえず何者であるかを聞こうとして、

 

「――うおぉ!?」

 

 目の前に炎熱が迫った。咄嗟に背後に連装砲を召喚し砲撃することで相殺する。同時に真横で金属音とスパーク音。水色の女が同じ色で構成された光の剣をランサーへよ振りおろしている。長銃が半ばまで断ち切られている、と思った時にはスパークのみを残し消えている。

 

「――レギオン・オブ・ドゥームブリンガー」

 

 即座に次が来た。百本以上の闇色の剣弾だ。視界一杯に降り注ぎ退路を消されてしまう。反応は反射に近かった。ライダーの背後に大量の砲門が生じる。経口や種類は大小様々でありったけの砲火を吐きだした。

 剣弾を消し飛ばし、

 

 ――さらに炎熱と雷撃が迫った。

 

「いきなり過ぎるだろ!」

 

「ならばなにを、求めているのですか?」

 

 炎熱を放ち続けるシュテルが応える。

 

「今更会話に意味はありますか? 私たちは貴女達など知りませんし、興味もない。イストの前に立つのならば排除するだけとのことです。言ったでしょう、燃え散れ有象無象、と」

 

 感情を一切感じさせない冷徹な声だった。そもそも会話する気がない。シュテルの言葉通り、彼女からすればライダーもランサーも、そのマスターやそれ以外のサーヴァントたちもそこら辺に転がっている石ころと大して変わらない。立ちふさがったから燃やすだけ。連続して放たれるショートバスターは主砲で、砲撃の影に隠れるように迫る誘導弾は副砲で対処していく。

 

「……チィ!」

 

「――」

 

 双剣に持ち替えたランサーの周囲を水色の双剣と共にレヴィが疾走する。ランサーよりも僅かに速い上で剣筋を読むことができない。ランサーの意識の死角を縫うように剣を振るってくる。言葉にすれば簡単だが、技量が凄まじい。気配や言葉を一切発しないので、対人戦が不得手であるランサーでは捉えきるのは難しい。一閃一閃が軽く、鎧によって守られるから深手を負うことはないのが幸いだ。

 それでも単純な戦闘力ではライダーやランサーの方が上回っている。正規の超一流のサーヴァントである彼らに対し、シュテルたちは使い魔以上サーヴァント以下のような存在だ。それでも下級のサーヴァントならば一蹴できるのだから馬鹿げているが、ライダー達を前にするにはいささか物足りない。

 

「なればこそ――我がいるとも」

 

 ディアーチェの十字杖から生み出される剣弾や暗黒。それがライダーやランサーの動きを阻害し、シュテルやレヴィに繋げていく。ディアーチェは王だ。そしてシュテルとレヴィはその槍であり剣である。なればこそ主である彼女は二人を生かす術を心得ているし、信頼している。単純な戦闘力の差では劣るとしても、倒し切れない程の絶対差ではない。ならばこそ魔導の種類の幅が大きく、有効範囲が広いディアーチェがシュテルやレヴィを補佐する。

 

「まぁ、なに。私はシュテルやレヴィほど他者を排斥することはないぞ? 別に貴様らを有象無象とか石ころなど思っていない。ただそれでも――我らの男の方が重いというだけだ」

 

 馬鹿みたい遊びがない。 レヴィもシュテルもディアーチェも、一切の遊びや綻びがなかった。機械的と言っていいほどに無駄なく、さらに油断もなく最善の動きでライダーたちを追い詰めていく。

 

「……困ったなぁ」

 

 彼女たちの猛攻を受けながら、ライダーは呟く。彼女が人間の時にはこんなに人間を相手にしたことはなかった。戦ってきたのは意思疎通が碌にできない化物であり、そして彼女たちは悲しみの塊だった。結局死ぬまであれらの存在を理解しきれていたのかは自信はない。英雄と賞賛されたとしてもそんなものだ。

 砲撃を砲撃を消し飛ばしながら、苦笑しランサーに語り掛ける。

 

「君はどうだっけ? 怪獣の専門家だったよね、君」

 

「さぁな」

 

 レヴィの斬撃を捌きと同時の答えはそっけなかった。

 

「敵も味方も関係ない、俺が殺してきたのは野生だ。生きたい、死にたくない、そういう本能的なもの……そう思ってるけど意思疎通なんて碌にできないんだから弱い人間とか嘲笑ってたかもしれない」

 

「あはは、どうなんだろうねぇ実際。私も、結局彼女たちが何だったか解らなかったし。いやぁ、どこの世界も時代も大変だねぇ」

 

「笑っている場合か」

 

「ついでにお喋りとは余裕ですね」

 

「その余裕いつまで持つかな?」

 

「手を休めはせんぞ」

 

「あぁ、勿論思っていないさ」

 

 ライダーが砲撃の手を止めた。背後に展開していた砲門も消失する。当然シュテルの砲撃に対して無防備になった。それを不審に思うがシュテルが手を止めない。溜め無しの炎熱砲撃を四発。後追いで三秒間チャージした炎撃を叩き込む。防御力の低いライダーなら直撃すれば簡単に消滅するだろう。ランサーもレヴィのせいで彼女をカバーできない。勿論ライダー自身も対処はできない。単純な基礎スペックなら誰よりも低いのだから。

 

「だから――頼むよ皆」

 

「任せるがいい、ビック7の力見せてやろう」

 

「えぇ、推して参りましょう」

 

 ライダーよりもさらに背後から砲火が放たれ、シュテルの炎熱を消し飛ばした。

 

「んなっ……!?」

 

「なに――ッ!?」

 

 同時に異変は二か所。レヴィとディアーチェに。

 

「第一次攻撃隊、発艦してください!」

 

「鎧袖一触よ」

 

「行くわよ、全機突撃!」

 

 プロペラ音と共に真上から爆弾が(・・・・・・・)降って来た(・・・・・)

 ディアーチェの方が爆撃の量は多いが、レヴィの装甲の薄さでは当たれば危険である。即座に離脱し、ディアーチェは障壁を張ることで凌ぎきる。

 

「……ふむ、どうやら召喚系の宝具は我々だけではなかったという訳か」

 

「そういうことさ、紹介しよう。私の家族だ」

 

 長身の女に、赤い番傘を握る女性。赤と青の袴の二人とと丈の短い巫女服の一人。五人が五人とも体に艤装を纏い、装甲を身に着けている。見れば解る。使い魔の類ではない。シュテルたちとよく似た英霊未満使い魔以上の半英霊だ。軍艦を依代とし、人類の敵と戦う為に生み出された精霊たち。

 それだけではなく。

 軍帽の下の表情に不敵な笑みを宿させ、パチン(・・・)と指を高らかに鳴らし

 

「さぁ……戦争を始めよう」

 

 全てを海が包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「覇王――断空拳」

 

 必殺の拳が放たれる。

 魔導によって生み出された空間に歪めるほどの絶技。飛行魔法と併用しながらも卓越した武威が一切の劣化をさせずに拳撃を完成させ、正規のサーヴァントならばそれだけで宝具として認定されるであろうほどだ。

 

「――ふん」

 

 それをキャスターが受け止める。 掲げた血色の魔方陣が覇王の一撃を凌ぎ切る。衝撃は周囲にまき散らされるが、キャスターには一切の揺らぎはない。だが発生した威力そのものは莫大で、彼の意識のリソースは少なからず裂かれることになる。一緒にイングは大きく弾かれるが、

 

「エンシェント……!」

 

 そこをユーリは見逃さない。イングがいた空間に自分の身体を割り込ませるが、攻撃行動をとったわけではない。広げた手をキャスターへと掲げるだけ。しかしそれこそが彼女の決殺技だったのだ。 

 

「ぬ――っ」 

 

 掌の先、キャスターに虚空が生じそこから血色を引き抜いた。出現る巨大な赤い剣。ブラッドフレイムソード。二十メートル近く、剣というよりも杭に近い。リンカーコアないし、魔術回路から魔力を強引に引き抜いて形を作り、

 

「マトリクス――ッ!」

 

 ブラッドフレイムソードをぶち込んだ。

 

「――温いな」

 

 赤杭を形成しているのはキャスター自身の魔力故に障壁の類では効果が薄かった。だから別の術式を使う。呟きと共に生じたのは黒い炎を纏った鎖。それがブラッドフレイムソードに巻き付き、軌道を逸らしながら大半を腐り落とした。それだけではなく、広範囲に広がることで、

 

「くっ……!」

 

「あうっ」

 

 ユーリは咄嗟に展開した魄翼だったから一度消すことで凌いだが、イングは拳で触れてしまった。魔力を通しても、回復魔法をかけても腕が腐っていく。

 

 

「言っておくが、それは俺を斃さなければ消えないぞ?」

 

「……!」

 

 言葉は、ない。シュテルたちのように会話する気がないわけでも、意思疎通が必要ではないというレベルで二人の息が合っているというのも勿論ある。だが、純粋にそんな余裕がないのだ。ユーリとイングもシュテルたちと同じで本来よりも劣化しているし、その状態でも並のサーヴァントを凌駕する程。寧ろ単体の戦闘力に関してはシュテルたちやりもイングは高く、ユーリはさらに上の領域である。

 それでも――キャスターには届かない。

 生前、戦った覇王と同格かそれ以上。

 だから一切の遊びも油断もなく二人は決殺に行く。腐滅の炎を受けた時点で長期戦は圧倒的に振りであり、向こうが余力を残している間に殺し切るのが好機だ。共に後ろに下がったイングとユーリは一瞬だけ視線を交わし、

 

「フルドライブ……!」

 

 リンカーコアのリミッターを完全に解放しながら半ば腐っていたブラッドフレイムソードへと足を落とし、その上を疾走する。当然足から腐炎は伸び、腐滅は広がっていく。

 構わずに走った。

 キャスターが鎖を飛ばしたが、それはユーリが魄翼でガード。一瞬時間を稼げばそれで十分。一瞬あればイングはキャスターを攻撃範囲内に入れていた。

 

「断空拳……!」

 

 叩き込む。

 

「っち……!」

 

 障壁を張ったが、一瞬遅かった。拳そのものは止めたが衝撃は通り、キャスターを打撃。その上で、

 

「お願いします!」

 

「二手、目!」

 

 ユ―リがイングの背中に手を突っ込み――そのまま胸の前からブラッドフレイムソードが突きだされた。

 

「なに……!?」

 

 抜けた。キャスターの身体に赤い杭が突き刺さり、その上でイングもユーリも動きを止めなかった。

 

「っ……く、ぁ!」

 

 リンカーコアに干渉される不快感や疲労感は決して小さくない。通常ならばその時点で衰弱し、戦闘不能になってもおかしくなかった。それでも止まるわけにはいかない。家族を召喚して戦わせるという宝具。言うまでもなく気軽に使えるものではない。それでも使ったということは確かな理由があってのこと。

 だから彼への想い一つで何もかもねじ伏せ身体を動かした。

 

「蹂ッ躙……!」

 

 キャスターへと突き刺さった瞬間にその拳は放たれ、赤杭の尻を打撃。何もかもを消し飛ばす塵殺の一撃。それを意図的に効果を落とした一撃だった。本来ならば打撃したものを一瞬で微塵となるはずだったが、劣化した拳故に全体に亀裂を入れると共に押し出され、より深くキャスターに食い込んだ。中空から大地に落下、赤杭が地面に突き刺さり、

 

「塵殺――!」

  

 ブラッドフレイムソードが爆散した。細かく入っていた亀裂がそのまま手榴弾のようになってキャスターの身体を蹂躙、爆炎に包まれた。

 

「……っ、これで、決まりましたかね。魔力とかの反応はないですが。」

 

「っく……流石に。直撃しましたし、切れる手札全て切りましたからね。これで倒せない相手とか聖王超えて魔王か何かですよ」

 

「最終兵器とか呼ばれていた私としてはそれはないと言いたいです。……ふぅ、とりあえずこの結界壊してダーリンと合流しま――」

 

 台詞は続くことはなかった。続けられなかった。

 

 ――立ち上る土煙の中から圧倒的な存在感が生じていたから。

 

 汗がにじみ出ることを実感しながら、常人離れした二人の視力はその姿を認識した。確かにイングとユーリのコンビネーションは決まったし、手ごたえもあったはずだったのだ。 

 なのに。

 その真紅は傷一つなく、

 

 

「残 念 だ っ た な ぁ !」

 

 

 凄惨な笑みを浮かべていた。

 何が起きたのかを二人は同時に悟っていた。呻くように呟かれたのは、

 

「リレイズ……!」

 

 それも致死性、あるいは消滅から復活するという破格のレベル。如何に魔術の英霊だとしてもふざけている。しかしそれでもキャスターは笑みを浮かべながら、

 

「蹂躙塵殺結構。だが解っているだろうな、それはお前たちではなく、俺が行う側だということを」

 

 あぁそれともう一つ。

 

「知らなかったのか? ――大魔王からは逃げられない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その戦いは初めから勝敗が決定していた。

 

「うおおおおお!!」

 

「ハハハハハハ!!」

 

 そもそも前提として、アサシン/那須蒼一を徒手空拳における白兵技術に於いて上回る者は存在しない。彼は通常の英霊や反英霊と違い、『拳士最強』という字に対する畏怖によって生まれた概念英霊だ。故に拳で戦う限り事武威に関しては彼以上が存在しない。人の形によって発揮される限界値、それを超えているのがアサシンの武なのだから。それに関してはイストやイングすらにも決定的な差を作っている。

 故にその差を無視するのはイスト・バサラがモンスターである故だ。

 

「っ、オォ!!」

 

「どうした、そんなもんかぁ!?」

 

 ヒット数はアサシンの方が多い。イストの拳も避けるか捌いている。しかしそれでもイストは揺らがなかった。

 モンスター。

 化物。

 その称号は他人に理解されることのない精神によるものだった。それは人間ではない。かつてそうであったけれど、人としての部分は完全に壊れてしまっている。狂気にまで至った精神は肉体を凌駕し、存在の領域でモンスターとして作り替えている。

 だから例えアサシンの武威が己を上回っていたとしても、その鉄腕は砕けない。

 

「おら、一発」

 

「――!」

 

 無造作に放たれる塵殺の拳。魔導と体術の複合奥義。魔導に関しては自前の異能殺しで、体術に関してはそれを上回る体術で受け流し、捌き切る。

 

「続けて行くぜ」

 

 即座に次が来た。

 叩き込まれる連撃は全てが塵殺の性質を秘めている。回数制限があるような類の技ではない。無制限に連打可能であるからこそ、いや、例え回数制限があってもこの化物は躊躇うことはなってくるはずだ。

  幕引き、とキャスターが呼ぶ凶悪極まりないその一撃。完全に凌いでいるはずなのにも関わらず、魔力で構成された肉体が軋んでいく。元々、アサシンがワントップとなり、背後から他の三騎が集中砲火するつもりだったのだ。援護が消えた以上、それだけアサシンやマスターにも負担が大きくなっていく。一発直撃すればその時点で霊核が消し飛ぶ。防御に意味がない故に回避か受け流ししかできない。ユニゾンしたリインの魔導は異能殺しで無効化できるからいいとしても、その拳は剣呑すぎる。

 

「だとしても――」

 

「あぁ?」

 

「例えお前が馬鹿みたいに堅かろうが、一撃が必殺だろうがお前みたいなのにだけは、負けられないんだぜ――化物」

 

「はっ」

 

 噛みしめるようなアサシンの言葉に、イストは口端を歪めながら笑い飛ばし、

 

「だったら、見せてみろよ――人間」

 

 勝敗は決まっている。

 それは絶対に覆ることは、ない。




>「残 念 だ っ た な ぁ !」
これ私ではなく本人さんの意見です。いやぁ外道ですね(
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