大洗の鬼神   作:柱島低督

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序幕
はじめに~戦車道全国高校生大会の黎明について~


ー茨城県立大洗女子学園ー

戦車道に興味が有れば、知らぬ人は居らず、そうでなくとも多くの人々の記憶に鮮明に焼き付けられた、小さな公立の高等学校である。公立でありながら女子校という特徴的な体制を採り、それが故に一定の範囲の志願者を集めるが、女子に限られる為に現在は生徒数が減少しつつある。

その為、一度は廃校さえ取り沙汰されたが、戦車道の全国大会に於いて優勝して撤回。後に再び廃校の危機に晒されたが、今度は島田流家元の娘、島田愛里寿率いる大学選抜チームとの死闘を制し再度文科省に廃校撤回を認めさせた。

しかも強豪校でさえ困難なそれを、戦車道復活直後の、たった8両の、しかも一つ一つの性能では遥かに劣る車輌で、おまけにメンバーは素人同然の状況からで成功させたことは特筆に値する。

そこには、1人の「大洗の軍神」と呼ばれた少女、「西住みほ」という存在があったという事実は言うまでもないだろう。

 

しかし今回は割愛させて欲しい。今やテレビ・新聞・インターネットと、数多くのメディアで多角的に描かれ、検証され尽くした事を掘り返す気は更々無い。多くの事に関して、此方の知り得る情報は、出回っている事実の足元にも及ばないだろう。

 

これから語る事は、全容を掴んでいる人はこの国全体に視野を広げても極僅かな、それこそ一部の人々しか知り得ない事である。

それは、大洗のもう一人の軍神、別名「大洗の()()」こと、上川(かみかわ) 早苗(さなえ)という、少女の物語である。

 

 

1950年から開催された戦車道全国大会。未だアメリカの占領下におかれていた日本で、戦車道の大会が行われたのには、とある思惑が絡んでいた。

 

その時点でおよそ30年の歴史があった戦車道だが、初期のものは米のM2軽戦車、英のMk.I戦車、この二大勢力の一騎打ちという感が強かった。しかし次第に日の八九式中(軽)戦車、独のI号・II号戦車や、米のM3リー、日の九五式軽戦車・九七式中戦車、英のマチルダII歩兵戦車などのより大型の、重装甲の中戦車が登場。

独のIII号・IV号・V号パンター、米のM4シャーマン、英のチャーチル・クルセイダー、ソのT-34(76/85)、日の一式中戦車〜三式中戦車などの大型の中戦車から、独VI号ティーガーI・II、VIII号マウス、米M26パーシング、ソKV-2・IS-2、英シャーマンVCことファイアフライ・センチュリオン等の重戦車や、第一世代MBTと呼ばれる走・攻・守の三拍子が揃った戦車が登場しつつある状況だった。

 

ということは、米が主力とし、緊張が当時高まっていた、地形に起伏の大きい朝鮮半島へ投入可能なM4シャーマンの能力で、どこまでソ連重戦車・MBTなどに対抗できるのかの確認が必要だった。しかし時は冷戦。マトモにソ連が戦車を輸出することは有り得ない(それは愚か、通常時でさえ最新技術の塊である戦車を輸出するのは例外中の例外である)。

しかし、当時ソ連の影響を受けたプラウダ高校が新設され、ソ連中戦車T-34(76/85)や、KV-2、IS-2などを有する戦車道部が練習中となると話は変わってくる。戦車道大会の名目でM4(無印か、A1、A2、A3など)を中心とした戦車道チームで挑ませれば、どこまで対抗可能かも判断できる。

アメリカの最終的な計画としては、一大資本を持つ私立大学、サンダース大学を日本へ誘致、サンダース大学付属高等学校を設立させ、前線で新型への更新で余りつつある(戦時中の大量生産でただでさえ過剰だった)M4、M4A1、M4A2を譲渡して、戦車道部を新設。戦車道全国大会を開催することでソ連戦車群と戦わせる。

簡潔に述べれば以上のようになる。GHQはそれだけでなく、各高校に戦車道部設立を要請。結果として現在のそれを大きく上回る42高校が戦車道部を設立する事となった。その中に、大洗女子学園も含まれていた。

しかし、その内の多くは戦車を保有していないか、又は高速・軽装甲・軽量・安価な軽戦車(当時はII号(中でも特にL型ルクス)や、M2A4などが人気だったらしいが)もしくは機銃を積んだ軽装甲車を1,2両揃えるのがやっとという状況で、とてもではないがプラウダ・サンダース大学付属に対抗できるような高校は無かった。案の定第1回戦車道全国大会は、正面から大火力で押し潰すプラウダが、地形を活かして抵抗するサンダース大学付属を時間は掛かったものの、撃破。

この結果を受けた米軍は後の朝鮮戦争において正面からの機甲戦力同士の衝突を避け、遊撃戦を主体に戦う事になるのだが、それも別の話だ。

 

そして、第4回大会までは、サンダース大学付属とプラウダの優勝争いが繰り返され、プラウダの優勝が連続したこともまた事実である。しかし第5回大会、番狂わせのような一大センセーションが発生した。無名の公立校、大洗女子学園の総合優勝である。

この後、第8回大会まで連続優勝するも、後の聖グロリアーナ女学園、黒森峰女学園の台頭に呑み込まれ、戦車道部自体も一時廃部。再びの優勝は第63回大会まで待つことになる。

 

これから語られる内容は、今まで一度も語られることは無く、ここで語らなければこれからに関しても二度と語られることはない、そんな話でもある。

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