大洗の鬼神   作:柱島低督

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今回から本編が始まります(予定)。


紅白戦 -1-

上川早苗

大洗女子学園 普通I科 1年B組の生徒。窓際から左へ流れてゆく海を見つめる、読書好きの一面も持ち合わせている。本人は深く考えてはいないが、入学初日から友人ができるくらいには社交性もある。しかし、多くのクラスメイトは何を考えているのかわからない、との印象を抱き、遠巻きに見つめるのみである。

そのとっつきにくいと感じさせるオーラは、彼女の好みに原因があった。軍事オタクである。

軍事オタクである。(大事なことなので2(ry

 

終戦から間もない、今よりも戦争といったものへの嫌悪感が強い時代に、興味を抱くのは、不自然といえば不自然である。しかし1954年で16歳であれば、ギリギリ戦中世代である。しかしそれだけで軍事にのめり込むのも異質といえば異質である。

 

つまり、はっきり言って変な、浮いた生徒であるというのが、全体で共通した、かつ本人も意識している認識である。

 

 

 

ー1ー

 

さな(早苗)ちゃーん。ご飯食べ行こぉ」

 

そしてその上川に、昼になったということで食堂へ昼食を食べに行こうと声をかけるのが先程いった友人、古崎(ふるさき) 恵子(けいこ)である。2人とも戦車道部に所属し、1年生でありながら戦力の中核を担うIV号中戦車D型の乗員を務める。上川が車長、古崎が砲手であり、他のメンバーは本来他車の担当の先輩が臨時で入っている。

 

大洗女子学園は、戦車道部を設立することで日本戦車道連盟の戦車道一般普及委員会から、義援金を受け取り、ギリギリの資金運営を保っている。また、戦車の物的支援が行われ、IV号D型、III突A型、パンターA型x2、ルノーB1bis、M3リー、M4A1(76)Wの7両が譲渡され、それと、自前の38(t)A/B型、T-34/57に、III号J型の合計10両を保有する、公立校では1位、全体でもサンダースと対等に戦い得る戦力があった。

しかし、例えティーガーがあったとしても乗員無ければただの鉄箱。実情としては戦車の乗員が大幅に不足し、実際に稼働状態にあるのはIV号、III突、パンター1両、T-34、III号の計5両のみで、新1年生や、2,3年から参加して増えたメンバーを含めて漸く10両の稼働へ漕ぎ着けた状況。そしてその殆どが素人同然の練度で、元々の部員との差は何ともし難いものであったのは言うまでもない。

 

そしてこの上川、戦車への知識と戦車道への情熱は並々ならぬ物が有り、1年生でありながらその知識を買われ、作戦立案・指揮を任される中隊長(事実上の隊長)として抜擢されている。はっきり言って、サンダース相手であれば、5両でも十分勝利は狙えるのだが、罠に嵌るなどで中々思うような戦果が発揮できずにいた。作戦立案に関わるメンバーが、凡才ばかりであったのが、原因である。

初練習時に、この上川の率いるIV号は性能で大幅に上回るパンター、III突、III号、T-34の4両を一方的に撃破するという大立ち回りを演じ、低迷に悩む現3年生の、名目上の隊長である、滝沢(たきざわ) 幸江(ゆきえ)が白羽の矢を立てた。

滝沢は、生徒会広報で、情報という物に触れる機会も多く、各校の戦術には明るい。そんな2人が手を取り合ったのである。正に恐ろしいデストロイが展開されるのはある意味必然とも言えた。

 

「もう!だらしない声出さないの!」

 

間の抜けた様な緩い声を上げた古崎を、上川が注意する。しかし一方で端から見れば、穏やかな表情をしており、上川自身もこのやり取りを楽しんでいる様でもある。クラスメイトからすれば、「いつもこんなだからな」といった評価の具合に落ち着くのが当然ではある。

 

「キャー。コワイー!」

 

「あんまり五月蠅い(うるさい)と怒るよ……」

 

調子に乗ってはしゃぎだす古崎を、上川の死神の様に冷たい視線が貫く。事実上の隊長という立場がそうさせるのだろうか。修羅の様な目で()め付けられた古崎も流石にビビり、しょんぼりするが、上川は上々の機嫌で「判ればいいの♪さぁ、一緒に行こッ!」と席を立つ。クラスメイトが上川への評価をほんのちょっぴりだが改めた瞬間であった。

 

 

 

ー2ー

 

時と場所もうって変わって、終業後 戦車道練習場。連携行動の練習として、紅白戦を行うこととなった。

 

「それでは、Aチームの皆さん。準備はいいですか?」

 

《こちらV号、問題ありません!》

《B1bis、異常なし!》

《III号、いつでもどうぞ!》

《こちら38(t)、すぐにでも!》

 

チームの振り分けは、以下の通りになった。

A(上川)チーム

・IV号D型

・V号A型

・B1bis

・III号J型

・38(t)A/B型

 

B(滝沢)チーム

・M4A1(76)W

・V号A型

・M3リー

・III突A型

・T-34/57

 

総戦力としては、全体的に口径と練度の高い部員の数で上回るBチームと、高い指揮能力を持つ上川に率いられるAチームである。

 

《それではこれより、A,Bチーム間の通信を封鎖します。開始まで、あと1分です!》

 

通信中継装置の操作を行う滝沢の声が通信機から漏れ出す。上川を含む全員が、滝沢が通信の盗聴といった姑息な手段を使ってまでも勝とうとする人間で無いことを知っている。本来ならば直接各車間で通信するのが基本だが、今回は中継局を介する仕様にされている。中継器を操作するだけで各チーム間の無線封鎖が可能だ。

 

《紅白戦、開始ッ!》

 

滝沢の声が再び通信機から車内へ響く。(現在は持ち回りで決まっている)通信手が、上川へ振り向き、首を縦に振る。上川も頷き返し、首に付けた咽喉マイクに手を添えてON状態にし、全員に音声で指示を送る。

 

「目的地はA地点!パンツァー、フォー!」

 

戦いが始まる。




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