大洗の鬼神   作:柱島低督

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紅白戦 -2-

訓練場の森林をAチームの5両が進む。

 

「今回の試合形式は強襲戦となります。相手の陣地に侵入し、一定時間居座ることでの制圧又は殲滅をすることで勝利となります。陣地は0144地点のやや開けた窪地となります。0144地点は1方向が崖になっており、向こうは、此方が攻めてこられるルートを絞った上で、戦力の分散を防いでいるのではと予想されます。また、火力の低い車両を外縁に展開して迎撃線を築いている可能性もあります」

 

咽喉マイクから各車に無線が送られる。上川のIV号を中心に左にパンターと38(t)、右にルノーB1とIII号が楔形に並ぶ、所詮パンツァー・カイルと呼ばれる陣形を組み、大外を回り込んでいる。しかし未熟な乗員が多く、歪な形となっている。

 

「しかし、崖の上はここから森林が伸びており、崖の淵近くまで出れば好視界が開けます。そこで、警戒に出ているであろう敵戦車を崖の上から狙撃、撃破し、その隙に森林から突撃、一気に叩きます!」

 

各車から了解、と返ってくる。攻撃力が高く、砲手の命中精度が一番高いIV号が崖の上に、残りが攻撃隊として下に待機することとなった。

 

 

-1-

 

偽装してカムフラージュしたIV号から、上川と古崎が降りて双眼鏡で平原を睨む。T-34/57が森林の淵に沿って駆け抜けるが、ふと何か見つけたように停止し、後進をかける。はっと息を呑んだ上川が無線を構えるのと同時に、古崎があっ、と声をあげる。

 

「さなちゃん、あれっ!」

 

下の方を監視する役目を任せていた古崎が、下を指差す。少し身を乗り出して上川が下を覗くと、そこにいるBチームの残り4両が、M4A1(76)Wただ1両を残して一斉に動き出していた。向かう先は、T-34のもと。悟られた、そう寒川が無線に指示を出そうとした途端、森の中に一瞬赤い炎が瞬き、一拍遅れてドォーンという発砲音が上川の耳に届く。ほぼ同時にT-34も砲撃したらしく、森の中から煙が上がっている。T-34は土煙に隠されているが、黒煙が上がっておらず、中から機銃の曳光弾が飛んでゆく。

 

《こちらB1bis、すみません!撃破されました!》

 

「38(t)を先頭、パンターを殿(しんがり)にして一列縦隊で後退、離脱してください!パンターは砲撃を続けてッ!此方からも砲撃支援に入ります!」

 

上川の悲鳴にも似た声が無線を通じて各車に響く。Aチームに不利な方向で、戦況が傾きつつある。古崎が車内へと駆け込み、戻ってきた上川も横のハッチから車内へ飛び込み75mm砲弾を装填する。必要要員を出来るだけ減らすため、装填手は上川が兼任しているのだ。

 

「まずはパンター!最大脅威です!でも後方からエンジンルームを狙えば撃破できます!落ち着いて、一撃で仕留めて!」

 

「はい!」

 

パンターまでの距離は340m。風は微弱、風向は定まらず。上川は相対距離(つまりは砲弾の侵徹時の飛翔速度)如何に関わらず大貫通力を誇るHEAT(High-Explosive Anti-Tank 対戦車榴弾)を装填し、その時を待つ。

 

「動きが止まったッ、今ッ!!」

 

古崎が握っているグリップのトリガーを引くと、その瞬間轟音が轟き、HEATが撃ち出される。パンターのエンジン部に直撃したそれは、カーボンコーティングを撃ち抜くことはないが、戦闘処理上、エンジンを完全に破壊し尽くし、燃料タンクに引火、砲弾ラックの榴弾に誘爆したと判定され、車体から白旗が上がる。次もHEATを装填した上川は矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「脅威はIII突、撃ち続けて!」

 

「はい!」

 

IV号は向こうから見て車体が稜線の下側に隠れた、所詮ハル・ダウンと呼ばれる態勢で砲撃していた。M3の長砲身75mmや、T-34/57の長砲身57mm砲では砲塔部しか撃てないが、弾道の落下量が大きいIII突の短砲身75mm砲は車体を直接攻撃できる。しかも75mmの破壊力は脅威だ。上川の判断で次の目標はIII突に切り替えられた。

 

「撃てッ!」

 

再び爆音と共に鉄の暴力が砲口から吐き出される。落射量を計算して停止したままだったIII突の正面装甲をぶち抜き、白旗が上がる。その隣ではT-34とM3が此方を向いて砲撃を始める。しかし10秒ほど前にIV号がいた空間に突き刺さるのみである。発砲と同時に結果を確認せずに全速後退をかけていた。完全にIV号を補足し切れていないBチーム側は錯乱したかのように何も無い空間へ有限の砲弾を撃ち込むだけである。しかし、彼女たちは失念していた。()()()()()()()()()()I()V()()()()()()()()ことを。

 

T-34が3発目の砲弾を撃ち出した刹那、黒煙に包まれ、白旗が合間から立ち上がる。III号の砲撃が車体側面の、エンジン部を撃ち抜き、撃破する。さらに38(t)の砲撃がM3を捉え、続け様に撃破する。M3が撃破されている時点で、III号は次の獲物を狙っていた。パンター()エンジン音を響かせながら(唸り声をあげながら)飛びかかっていたM4A1である。70口径75mm砲が火を吹き、M4A1へ攻撃を浴びせる。M4A1は辛うじて初撃を躱し、続け様に砲撃を叩き込む。76mmの砲弾が、かまぼこ型の砲塔正面へ突き刺さるが、重装甲に阻まれ、跳弾を起こす。結果、76mmの徹甲榴弾が逸らされる。

 

砲塔正面真下の、()()()()()()()()()へ向けて。

 

ーショット・トラップー

砲塔正面装甲などで、跳弾を起こした砲弾が車体上面などの極端に装甲が薄い場所に着弾し、撃破される現象である。特に、砲塔正面に下向きの傾斜部を広く持つパンターなどで頻発し、後のG型で『アゴ』と呼ばれる出っ張りが作られるまで改善されなかった。

 

この大洗女子学園に譲渡されたパンターは、A型である。アゴが無かったためショットトラップを誘発し、一撃で撃破される。特に大きな煙が立ってもいないのに、車体から白旗が上がる。

 

《すみません!パンター撃破されました!》

 

「III号、38(t)は後退!森に隠れてください!今急行しています!」

 

紅白戦は、両チームの思惑を超えて、混沌を深めていった。




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