しかし戦車の登場も、戦うのも、もうちょっと先です。ご了承下さい。
前回のあらすじ
滝沢車の砲手マジ有能。あと性能がマッハで無視される。(誤解を招きかねない発言)
トーナメント抽選会 -1-
滝沢、上川を筆頭に、古崎他のメンバーが抽選会会場に着く。
名古屋市鶴舞区 名古屋市公会堂
1930年に完成し、戦時中には陸軍高射第二師団に司令部として徴用された事があり、後にGHQにも接収され、連合軍兵士専用劇場として利用されている(1954年現在)
少し暗くなったホールの、正面壇上にはトーナメント表が掲げられているが、各校の校名が書かれるべき一番下の列には、1から32までの数字が振ってある。
そして真下の机の上には、ほぼ立方体の箱が置いてあり、複数の垂れ幕が壁の、脇の方に掛けられている。スポットライトで照らされ、文字がはっきりする。
『主催:日本戦車道連盟』
『日本高校戦車道連盟』
『連合国軍最高司令官総司令部公認』
『後援:日本国政府』
入場する時に、他校の生徒も合わせてどっと雪崩れ込む。ほとんど先頭に居た大洗の生徒達は、後ろから押される形で押し込まれる。
「私たちってどの席な「ねぇ聞こえてる~?ヨーグルト学園の「BC学園はこっち来て!」
あちらこちらから賑やかな声が聞こえてくる。掻き消されそうになるが、直後に入ってきた一団によって水を打ったように静まり返る。サンダース大付属戦車道チームだ。
恍惚の表情を浮かべて見やる者、去年敗北の悔しさをにじませた顔をする者、羨ましさを顔に浮かべた者、妬みを隠さずに睨みつける者、対応は各々違っていたが、その場に居る全員が彼女たちを意識しているのは確かだ。
何処からか寄せられる冷ややかな視線を、我関せずといった風体で歩いてゆく一団だが、ホール後方の扉が開く音に一斉に振り返る。連続優勝校、プラウダ高校のお出ましだ。
「あらあら、こんなに早く着いていらっしゃるだなんて、随分とご苦労な事で!」
「これはこれは、プラウダの
双方の隊長と思われる背の高い生徒が群の中から表に現れ、舌戦を始める。何時の間にか中央にいる2集団の周りには、何者をも寄せ付けないオーラに押し出されたのか、無人地帯が広がっている。ピリピリとした、正に一触即発の空気が漂っている。
初体験の上川達1年生は困惑するが、2・3年生はこれだからな、という表情で指定された席へ進んでゆく。途中、通路が狭い場所を通ったが、他校の生徒は脇に寄って道を譲る。これでも大洗女子学園は昨年度準決勝進出の成績を残している。2・3年生は堂々と進んでゆくが、1年生らはペコペコと会釈をしながら隙間を分け入って通って行く。
その間にもサンダースとプラウダの間の空気は冷え込んでゆく。
「チェブラーシカよ。いい加減覚えたらどぉ?そのなけなしの鳥頭で」
「そうそう、その口だけは達者な
サンダースの隊長はギラギラした目つきで煽ってゆく。『副』の一語を強調して吐く。
「あぁ、鳥頭だから分かってないようね。私が隊長なの。悲しいわねぇ、対戦相手がこんな鳥頭に率いられた烏合の衆だなんて。今年も優勝は頂きね」
プラウダの隊長がサンダースの隊長を睨みつけながら話す。顔には嘲笑の表情が浮かぶ。サンダース側はここまで言われてどう言い返すのだろう。隊長は未だ毅然とした表情で、背をピンと伸ばして相対している。後ろに控える生徒達には不安の表情が浮かんでいるが、それとは対照的だ。
「あら、言わなかったかしら?
「大丈夫ですか?」
一触即発の緊迫した空気が限界に達したように思った上川は、滝沢へ尋ねる。周りを見渡せば、他の1年生たちも不安げな表情を浮かべ、中央を見つめている。
「あれが平常運転と言うか……なんというかねぇ……サンダースもプラウダも毎年こうやってやりあってるのよ」
滝沢の回答に唖然とする上川と他の1年生たち。しかしサンダースとプラウダの罵倒合戦は過度に加熱し、お互いの言葉が油となって、お互いの憎悪という炎に注がれていく。
「でもあれはちょっと度を越してるわね…………ちょっとあれヤバイ!止めに入るわよ!」
プラウダとサンダースのお互いがにじり寄って、腕が上がり、喧嘩沙汰になりかける。滝沢たち大洗3年生が止めに入ろうとした瞬間、後方のドアが再び開け放たれる。
「これより、第五回 戦車道全国高校生大会、トーナメント抽選会を行います!席に着いて!」
戦車道一般普及委員会から派遣される教導員が、数名で列を作って、暴徒になりかけた生徒らを一喝して諌めながらぞろぞろと入ってくる。先頭の、長い黒髪を結わえた、人が監督員だ。切れ長の目の奥から発せられる鋭い眼光が生徒たちを射抜き、負の感情を抑え込ませる。そんなオーラが漂い、場は沈黙に包まれる。
ほとんど全部の席が生徒で埋まる。暫く経つと、壇上が照らされる。
『これより抽選会を行います。各校の代表生徒は裏手に回り、第二控室へ。担当者が誘導します』
アナウンスが流れ、あちらこちらで生徒が立ち、移動してゆく。ぞろぞろと近くの扉から外へ出てゆく。少しざわつくが、正面の壇上に監督員らが現れると、ピタリと収まる。
硬質な空気が場を支配するが、舞台袖から色とりどりの、それでも緑や青、紺色や白などまとまりのある服を身に纏った女子がわらわらと出てくると、再び空気は和む。
「あれが各校の隊長ね。深緑のタンクジャケットを着てるのがプラウダ高校のチェブラーシカさん、その隣で苦い顔していがみ合ってる、ジャージっぽいタンクジャケットのがサンダースの
滝沢から託されたメモを参照しながら古崎がスラスラと説明してゆく。そこにはびっしりと手書きの文字で各隊長の情報が書き込まれている。壇上では、珍しくメガネをかけた滝沢がぎこちない動きで立ち位置を左右に動かしている。
滝沢のメガネは
全国大会は、まだ始まったばかりだ。
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