タイトルは抽選会ですが、後半(文字数的には後ろ2/3)は作戦説明です。
《大洗女子学園、22番!》
滝沢が思い切ったように、箱に手を突っ込み、引き抜く。その札には22の文字が書き込まれている。それをアナウンスが読み上げると、会場内にどよめきが走った。
トーナメント表の各校名が入る場所の、22と書かれた場所に『大洗』の札が入る。役目を終えた滝沢は、緊張が切れたようにヨロヨロと端へ移動し、用意された椅子へ崩れ落ちる。その内に次の隊長が中央へ移動し、箱の前に立っている。
《ヨーグルト学園、21番!》
大洗のすぐ隣、早くも一回戦の相手として決まったのはヨーグルト学園だった。青い襟の付いたセーラー服を着る隊長が滝沢の隣へ座る。
後は早かった。何とは言え、あとは各校がくじ引きで決めるだけだったからだ。
結局、大洗のいる側のブロックはサンダース、もう一方のブロックにはプラウダが入り、大洗とサンダースが順当に勝ち進んだ場合、ぶつかるのは準決勝。一回戦はヨーグルト学園で確定、二回戦はチハタン学園が最有力、三回戦ではBC学園又は自由学園が有力という、なかなかに酷な組み合わせとなった。(もっとも、後に奇跡と称される一翼を担うことになるのもこの酷な組み合わせなのだが)
そして、後に合併(同時に内部抗争も背負うことになるのだが)するBC学園並びに自由学園という何かを感じるような組み合わせを生み出した抽選会は、サンダースとプラウダが依然としていがみ合ったまま、閉会となった。
「まさかこれ程の組み合わせになるなんてね……」
顔に苦笑いを貼り付けた上川の隣に古崎が並ぶ。しかし古崎の顔は心配げな表情に染まっている。
「作戦立案で無茶したらダメだよ?体壊しちゃったら元も子もないんだから……」
「あはは……」
「そうだかんね、上川」
滝沢も反対隣へ並び、目の前の海を眺めている。艶やかな黒髪が海風に靡き、足元の海面に連絡船が描く三角波が、無限遠へと続いているような水平線へ吸い込まれていく。時刻は夕方で、沖合に停泊中の学園艦に向けて進む連絡船は、橙色の平面にポツリと浮かんでいる。
その夕焼けの光も弱まり、3人の周りも影に包まれていく。暫く続いていた雑談も、途切れて沈黙が続く。
「月齢15……満月ですね」
「初夏とはいえ、夜はやっぱり気温が下がりますね……」
東の水平線から顔を覗かせた満月を見つけた上川が呟く。初夏ではあるが、夜はまだ冷える。古崎もそう言い、3人揃って賑やかな声と光が漏れてくる船室に戻って行った。
そこに残ったのは、甲板を駆け抜ける潮風と、月の僅かな光。そして、それを大幅に上回る強さの船室の窓からあふれる光だった。
「ヨーグルト学園は、IV号駆逐戦車・48口径を1輌、III突のF型を1輌、それとIII号B型複数を保有する私立校ですね。恐らくIV号駆逐戦車をフラッグ車として投入するでしょうから、我々はその正面装甲を撃ち破る必要があります。カタログスペック上の装甲厚は80mm前後と、7.5-cm-KwK 37 L/24の貫徹力100mmのGr.Hl/Cでも十分ですが、傾斜がかかっているため実質の見かけ上装甲厚は100mmを超え、撃破は困難を極めます。これを突破可能なのはM4A1の76.2mmM1でなおかつ、500mで135mmの貫徹力を持つHVAP、高速徹甲弾であるM93弾と、パンターの7.5-cm-KwK 42 L/70のPzgr.39・APCBCのみ。我々が撃破可能なのは700m圏で2門、500m以内で3門です」
ホワイトボードに、上川がIV号駆逐戦車の側面断面図を描いた紙を貼り付けながらスラスラと話す。滝沢はよくもこれだけスラスラと話せるもんだと舌を巻く。
「しかし、7.5-cm-KwK 40 L/48の貫徹力は、パンター以外の正面装甲を1,000mで確実に貫通可能です。III突の正面装甲は垂直な面が多いのでIV号D型とIII突A型でも相手ができます。また、IV号駆逐戦車に対しても長距離であれば山なりの弾道を描くIV号、III突のHEATで垂直に着弾させることで撃破可能です。ですが、理想的な距離はおよそ1,200mです。この距離での狙撃は困難です。しかし勝機もあります。1回戦の会場は山岳と荒地ステージです。起伏に富み、足回りの弱いドイツ戦車の行動は大きく制限される筈です」
今度はどこからか地図を取り出した上川は、一頻り説明を終えたIV号駆逐戦車の図面の上に貼り付ける。局所的に幅の狭い等高線が模様を作り、大きな起伏があるのはパッと見でも想像に難くない。既にお互いのスタート地点も書き込まれている。
「この通り、開始時点で130mの高度差があり、この差があれば600mの距離から垂直に着弾させることが出来ます。ドイツ以外の車両を含むこちらは、より迅速に標高を稼ぐことができます。傾斜装甲の場合高度優位を取った方が絶対的有利です。従って、勝算は大きいです」
『おぉ!』
部室に集まっていた部員から、感嘆の声が漏れる。一拍置いてから、驚愕の色を見せていた滝沢がふと気づいたように質問する。
「部隊の編成はどうする?攻撃隊と本隊とでバランスは必要だと思うんだけど?」
「そうですね。……攻撃隊は火力に秀でた車両。本隊は防御力に秀でた車両が必要ですから、思い切ってパンターは2輌とも本隊へ回して、フラッグ車にしましょう。高度差がなくとも正面同士で向き合えば一方的に撃破できる火力もありますし。後の攻撃隊には、M4A1(76)W、IV号D型、III突A型、T-34/57を投入します。残りのM3、III号J1型、ルノーB1bis、38(t)は本隊に編入して護衛としましょう」
打てば響くように隙も無く話すと、その通りにホワイトボードに貼り付けた各車を表すマグネットを2つに分ける。それと同時にどよめきが部室中を駆け巡った。
6輌のうち、B1bisを中心に左右やや斜め後ろにM3、III号J1型が展開し、その後ろにフラッグ車でない方のパンター、フラッグ車のパンター、殿に38(t)が続く、所詮(海戦における)警戒陣と呼ばれる隊形をマグネットで作っていたからだ。後列部隊を含むものとしては最小規模のパンツァー・カイルとも呼べるが、最大火力が後列に下がった、防御を大前提とした陣形である(対するパンツァー・カイルは進軍を前提とした攻撃的布陣)。
もう一方の攻撃隊は、崖を切ったような細い(片方は崖がそそり立ち、もう一方はギリギリまで崖が切り立っている)道を通るので、一列に並び、先頭はIII突。T-34/57、M4A1(76)W、IV号が続くという陣形で、崖の
「こんな感じでいきましょう。恐らく、敵はこちらがパンターを攻撃隊に投入すると予想してくる筈です。最大火力がフラッグ車から離れていると予想して、フラッグ車を襲いにくる。又は、攻撃隊の撃破に主力勢ぞろいで来ると思います。その裏をかいて、罠を仕掛けます」
砲に優れたドイツ駆逐戦車の強固な正面装甲を撃ち破るにはこれしか無い。
物量作戦とも言える戦いは、策略を巡らし合うという知能戦から始まった。
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