大洗の鬼神   作:柱島低督

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長らくお待たせ致しました。

戦闘経過のイメージが掴めずに書き進まなかったのが遅れた原因なのは内緒。
あと時間が無いとかそんなんじゃないし(ツンデレ並感)


一回戦:ヨーグルト学園 -1-

新調したタンクジャケットを羽織り、車長用キューポラに腰掛ける上川。濃緑をベースに、スカートは明灰褐色。襟はスカートと同じく明灰褐色に黄色のラインが入っている。

 

「これってどう見ても太平洋戦争中後期の日本軍の航空機標準塗装だね……」

 

「新しく用意しようとしたらこの色が安かったんだって」

 

「塗料そのものは余ってたのかな……」

 

「でもイマイチ戦車の迷彩には溶け込まないかも」

 

うーん…と黙り込んでしまう上川。でもその視線は向かいから接近してくるIV号駆逐戦車1輌、III号突撃砲F型、III号突撃砲G型、そして7輌のIII号戦車B型に向けられている。

 

「それでも森林偵察にはもってこいの色味だし……結果オーライだね……それよりも、III突G型の方が私としては意外かな……情報に無かった…………しかもそっちの方がフラッグ車……」

 

古崎にそう告げると、最後の言葉とは裏腹に軽い足取りで戦車を飛び降り、滝沢を差し置いて一着で列に並ぶ。その向こうに一列横隊で並んでいる10輌の戦車には、ツィンメリット・コーティングが施されている。

話は逸れるが、磁気吸着式の対戦車地雷の開発を行っていたドイツ軍は、いずれ連合国軍も同様の兵器を開発してくるだろうと、戦車に消磁性を持つ塗料を塗りたくった。それがコーティングの正体だ。しかし、III号B型は当時既に旧式化し戦線から下がっていた事もあり、IV号駆逐戦車(L/70)は逆に戦線に送り込まれたのは磁気吸着式地雷のリスクが無いと判明した後であるから、共にツィンメリット・コーティングが施された車両は極少数又は存在しない。

強いていえば、IV号駆逐戦車(L/48)は殆どがツィンメリット・コーティングを施されているため、フラッグ車は元からの可能性が高い。

 

対してこちらの車両の中でツィンメリット・コーティングが施されたパンターは、A型がちょうど投入されていた時期と重なっているので、殆どが施されている。現在も車体表面に模様は残っている。

 

向こうのツィンメリット・コーティングは、恐らく導入したものに自分達でそれらしく仕上げたのだろう。上川はその様に予想した。

 

「これより、戦車道全国大会、第一回戦を行います。一同、礼!」

 

『よろしくお願いします!』

 

複数名の重なった少女の声が、初夏の空気を震わせる。戦いの火蓋が切られた。

 

◆◇◆◇◆◇◆

 

《こちらIII突。前方、崖下の荒野に砂塵。敵車両と思われます》

 

「了解しました。監視はT-34に一任します。他部隊を警戒してください。通路に突入します」

 

《了解!》

 

通信を終えると同時に、T-34から通信が入る。

 

《正面の車両群は全てIII号B型と思われます!数、6輌!》

 

「了解しました。今は泳がせておきましょう。それよりも、IV号駆逐戦車を発見する方が優先です」

 

《了解しました!》

 

森林の中をゆっくりと進む本隊との相対位置を頭の中に思い浮かべながら、キューポラから乗り出し、双眼鏡でおおよその距離を割り出す。こちらは高度を稼ぐ為に迂回して前進が遅れているため、本隊の方が前に出ているが、それでも十分な距離は離れている。

 

「まだ4900m……」

 

その呟きは頭上から響いて来た轟音に掻き消される。反射的にキューポラから車内に戻るが、その選択に間違いは無かった。直上に着弾した砲弾が、周囲の石を削り、車両の上に降り注ぐ。

 

「砲撃!?」

 

《嘘でしょっ!?》

《急にッ!?》

 

各車から入る通信が混乱を伝える。しかし、上川以外で、1人だけ冷静に対処した者がいた。

 

《方位左03、距離1100!ほぼ正面の崖上!IV号駆逐戦車L/48!M93装填して。仰角6.3!》

 

砲手と装填手に指示を出しながら、滝沢が砲撃元を見付け出す。ほぼ正面で、崖の上の森の中からの砲撃に気付いたのだ。

 

「HEAT装填してっ!この距離なら正面でも抜けます!T-34も応戦してッ!」

 

《了解!》

 

T-34からの応答と、装填機のガコンという硬質な金属音が同時に上川の耳へ飛び込む。既にM4A1は初撃を放っている。

 

【ヨーグルト学園、IV号駆逐戦車L/48。車体正面下部にM4A1(76)WのM93を被弾し、変速機大破、砲駐退機並びに砲座破損。射撃並びに移動不可。修理時間は主砲20秒、変速機30秒】

 

審判からの通信が全車に響く。的確な砲撃が脆弱な部位を直撃して貫き、暫しの戦闘不能判定を与える。

 

「この20秒で決めて!今からでも間に合います!」

 

上川が咽喉マイクに手を添え、通信機に叫ぶと同時に、IV号の主砲が火を噴く。III突も同時に砲撃しており、IV号駆逐戦車の60mmの装甲にHEATが突き刺さる。

 

大きな落角で突き刺さった砲撃は正面装甲に致命的なダメージを与える。最初の被弾で劣化していた均圧延鋼板を砕いた一撃が、内部に破壊的な被害を与える。直後に着弾したT-34/57の高速砲弾が車内へ飛び込み、HEATの高温ジェットと共に内部を完全破壊したと判定。車体から白旗が上がる。

 

その間、敵の発砲から僅かに18秒。試合開始から14分が経過した時点だった。1時間から、場合によっては3時間以上もざらな戦車道の全国大会としては異例の速さで試合が動く。

 

「今、砲撃をまともに受けると危険です。速度を上げて、向こうの道が広くなっている地点まで移動します。パンツァー・フォー!」

 

上川が叫んで指示を出すと、一瞬も遅れずに全車が速度を上げて前進する。土煙を巻き上げながら、周りに砂を撒き散らし進む。その間にも、側面から砲撃を受け、土煙の中を()()()()()が跳ね返り、踊る様に舞う。

 

「III号の砲撃ならT-34、M4A1、III突の正面装甲で防げます。IV号は残念ながら出来ないので、ハルダウンで応戦してください」

 

『はい!』

 

砲手を務める古崎と、窓から正面を覗いている操縦手から返事が帰ってくる。上川の指示に寸分遅れずに実行に移し、崖の淵手前で停止して砲撃を始める。

 

衝撃が車内を揺すり、炸薬に含まれる硝煙の臭いが鼻を突く。煙で霞む視界の中、装填手は速やかに次弾を装填している。次発の砲弾が、装填装置のガコンという金属音と共に薬室へ吸い込まれていく。

 

装填状態を示すランプが、赤から緑へ切り替わったのを確認した古崎は、遥か下を蠢くIII号B型へと的確に狙いを定める。大洗砲手第二位(第一位はM4A1)の腕が光り、彼女が指を引くと同時に放たれた砲弾は、一瞬の後に敵車両へ吸い込まれ、撃破判定を与える。

 

「敵集団は残り4輌。攻撃を続けます」

 

M4A1も1輌撃破したので、最初6輌だった敵集団は4輌まで数を減らしている。

 

 

 

お互いが相手を警戒し、腹の探り合いに徹している事もあり、小競り合いは数対数の様相を呈する事なく、少数奇襲の掛け合いとなった。前衛と思われる6輌相手に一方的な戦いで確実に戦力を削っていく。

 

しかし本隊はいずれとして手掛かりを掴めず、上川の不安は更に増していく。

未だ序盤のこの戦いは、一筋縄では行かないようだ。




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