赤竜山の黄金伝説   作:雷神宮燦

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レッドドラゴン

「――ってわけだ。かなり、まあ……ヘヴィな体験だった……」

「ばっ……まず最初の! ドラゴンパピーに近寄ろうとするのがバカだっ!」

 ソフィーがそう言って俺を責めた。……後からならもっともな意見だと思うが、あのときは知的好奇心の方が強かったんだよ。

「……それは置いとくとして」

「置くな!」

「文句は全部終わったら聞く! いいか? いいな? よし。……ドラゴンの巣の方には外に通じる穴があったが、ドラゴンの出入りする穴だ。危険すぎるだろう。それより、巣に入る手前に横道があったんだ。造りからして、むしろそっちが本道じゃないかと思う」

「あー、もう! 兄さんっ!? まだ調べるつもりなのかっ!? 罠だけでも危険なのに、ドラゴンまでいるんだぞ!? それなのに!?」

 他の二人がもう言葉もない感じなので、その分をソフィーが代弁してる。

 もちろん、彼女たちの気持ちはわかる。わかるさ。けど何だか……

「……ここでやめたら中途半端だって、俺は思う。みんなのことじゃないぞ。俺自身の話だ。やれるだけやったって気になれない……そんな感じで、とにかく、自分で納得できないんだ」

「そんなの、自分の命と天秤に掛けるようなことじゃないだろ!」

「ドラゴンがいたら勝てるわけないにゃ……危なすぎるにゃ……もう帰りたいにゃ……」

 ソフィーとマリオン、言い方は違うが、二人ともこれ以上進むのには反対みたいだ。

「……アメリアは、どう思う?」

「えっ、ボ、ボク? ……そ、その……」

 俺から意見を求められて、アメリアは肩を震わせた。その顔を見れば、アメリアも反対だろうなというのは想像できるが……もしも賛成なら、二対二になる。

「ボク、やっぱり、怖いよ……。せっかくここまで来たけど、これ以上は無理かもって思う。……足がね、ふらふらするんだ。手も、何だか震えてる感じがする……」

 俺はため息をつく。やっぱりそうか。だったら一対三。俺も諦めるしか――

「でも」

 ……ん? アメリアが、言葉を続けた。

「家に帰るって言っても……あの家はもうすぐなくなっちゃう。ボクは王都に行って、あの家はホテルになっちゃう。そしたらもう、みんなとは……会えなくなっちゃうかもしれない。少なくとも、こうやって、みんなで出かけることはできなくなっちゃう……」

 ゆっくりと語るアメリアを、俺たちは黙って見つめる。

「……ボクも、やだな。まだできることがあるのに、ここで諦めちゃうのは」

 ソフィーとマリオンは、お互いに顔を見合わせていた。俺より付き合いが長い分、何か感じるところがあるんだろう。

 それにしても、よく言ってくれた。これで二対二だ。

「――見ろ。レッドドラゴンだ。また狩りに行くのか? 飛び立っていく……」

 その姿は遠目にも巨大で、とても人間が太刀打ちできるものじゃないのは、ここからでもはっきりとわかった。さっきまでの俺なら、その姿に恐れをなしただろう。

 けど、これはチャンスだ。

「いま、中に入ってもあいつはいない。探索するなら今のうちだぞ!」

 空を舞うドラゴンを見送った俺は、振り返って他の四人に言った。――……四人?

 

「――お嬢様の冒険はここで終わりですだ!」

 

 そこには、赤い髪をポニーテールにした女の子が……肩で息をしながら、立っていた。

「レ、レイチェル!? どうしてこんなところにっ!?」

 彼女に気付いたアメリアがぱっと飛び退いたかと思うと俺にしがみついて、訊ねた。

「どうしてって、追いかけてきたからに決まってますだ! 散々な目に遭いながら、ようやく追いついたんですだ! さあお嬢様、一緒に帰りますだよ!!」

 そう言って近付いてくるレイチェルから逃れるように、アメリアは俺の背中に隠れた。

「ま、まだダメ! ボク、竜の黄金を見付けるまで、うちには帰らないよ!!」

「だーめーでーすーだーっ!! お嬢様! お嬢様がいなくなったから、いまお屋敷は大騒ぎなんですだよ!! それに、ひどい誤解が広まっていて……」

「……誤解って?」

「お嬢様が……ケネっさんと駆け落ちしたっていう誤解ですだ!!」

「えっ……えぇぇえぇえぇぇえぇぇぇぇぇえぇぇぇぇえぇええぇっ!?」

 

 ……ここで俺たちは、俺たちが屋敷を出発してからの顛末をレイチェルから聞いた。

 俺を引きずり出すように伯爵が命じたあたりとか、聞いてるだけで心臓が凍るかと思った。サイラスの野郎め、後で覚えてろ。

「しかも、え? 魔王と戦ったこともあるような魔術士が、追っ手に?」

 ……なんてこった。こいつはヘヴィだぜ。

「……だったら、急がないと! その人達が追いついてくる前に!」

 アメリアが拳を握る。……俺はちょっと怖気づいてるけどな。いや、追っ手だけならまだいいんだ。それより問題は、伯爵が大層ご立腹らしいという、その点で……

 けど、ああ。いま戻っても、延々釈明させられるだけだ。アメリアと駆け落ち? これだけ可愛い子なのに、絶対にないなんて言えるはずないだろ!? だったら……出かけた理由が宝探しだったことをきちんと証明するには、もう、宝を見付けるしかない!

「レイチェル! 少しだけここで待っていてくれ! もう少しだけ時間をくれ!! 竜の黄金はもう、すぐそこなんだ。確認したらすぐに戻ってくる!!」

 俺はそう言って、アメリアの腕を引っ張って、一緒に祭壇の方へと近付く。

「そうだよ! ケネスは地図を解読したんだ。そんなに時間かからないから!! ね!?」

 それを聞いたレイチェルはいかにも「そんなのは許さない」という顔だったが、しかし何かを言う前にマリオンに割り込まれた。

「あ、あたしはここで待ってるにゃあ……ドラゴン怖いしぃ……」

 マリオンの間の悪さには俺も何度か困らされたが、ここはナイスだ。

「……はぁ。そういうことなら、レイチェル。マリオンのことは任せるよ。私は兄さんたちと一緒に行ってくる。……二人だけじゃ危なっかしいし」

「よくわかってる。さっすがソフィー!!」

「だから、褒めてないって」

 ソフィーがそんな感じに渋々ながらも俺たちの側につくと、これで三対二だ。

「そっ、そんな! いけませんだよ! もう日も暮れるし、帰りますだよ!!」

「ほっとけにゃあ。すぐ済むって言ってんだから、終わるの待った方が早いにゃ。アメリアー、あたしも早く帰りたいから急げにゃあー」

 マリオンの微妙な応援を背中に聞きながら、まずはアメリアが地下に潜り込んだ。

「ああっ! まっ、待ってくださいだ! 待ってくださいだー!!」

「まあまあ、レイチェル。干し肉でも食べて落ち着けにゃあ」

 マリオンが、無意識なのかわざとなのか、ともかくレイチェルを足止めしてる。こういうのには役に立つな、マリオン。ソフィーがその間に、慎重に穴の中に入った。

 最後は俺だ。アメリアとソフィーが無事に降りたのを確認してから、俺は穴に足を入れた。そして一応、改めて「すぐ戻る」と言っておこうと、俺は二人を振り返って――

 ――フッと辺りが暗くなったのを感じた。

 

 ギィャアアァァァアァァ――――ス!

 

「ギャ――――ス!」

 マリオンの絶叫が響いた。そして――――ズン、と地面が揺れた。

 何が起きたかはわかるだろ?

 ドラゴンだ! ドラゴンが、俺たちのすぐ近くにやってきたんだ!

 まるで落雷のように轟いた恐怖の咆吼は、その先触れだ!!

「ちょーっ! どけにゃあー!! あたしもその穴に隠れるにゃあーっ!!」

 マリオンがこっちに駆け寄ってきた。無理もない。

 ドラゴンが目の前にいる!!

 それなのに、祭壇のあたりはさほど太くない柱の他には遮蔽物もない。

 敵がもしも炎を吐いてきたら……ひとたまりもない!

 唯一隠れられそうな場所と言ったら、この地下だけだ!!

「ちょっ、わっ、わたしもそこに入れて欲しいですだーっ!!」

 レイチェルも大慌てで、必死に走ってきた。

 俺は二人のために身体を動かし、隙間を空けてやった。

 そんな俺たちを、ドラゴンは睨みつけている――と思った次の瞬間だ。

 全身を赤いウロコに覆われた、巨大なレッドドラゴンが……

 

 ……大きく息を吸い込んだ。

 

 そうしたら、こいつが次に何をするのか、想像するのは簡単。

 ――息を吸い込んだら、次は、息を吐くに決まってる!

「急げーっ! 炎を吐いてくるぞ――っ!!」

 マリオンに続いて、レイチェルが頭から穴に入った。それを見届けた俺もすぐに――

 

 ぞわっと嫌な気配がした。

 

 ゴフッ! と、ドラゴンの口の中に、種火が灯った。

 そしてそれが、いかなる作用でかみるみる大きくなり、やがて地獄の炎となって――

 ――なんて、じっと見てる場合じゃないっ!

 俺は慌てて穴の中へと頭を引っ込めた。

 轟音――いや、爆音と言うべきか?

 ものすごい音と、ものすごい風と、ものすごい熱が、俺の頭上を駆け抜けていった。

 ……間一髪、だ。

 けどまだ終わらない。こっちに近付いてくる重い足音がする!!

「ケ、ケネス! いますごい音がしたけど、大丈夫っ!?」

「止まるな! もっと奥まで行け! 中まで炎を吐いてくるかもしれないぞっ!」

 俺の声に、四人の顔がさっと青ざめるのが見えた。俺だって考えたくないが、ドラゴンが近付いてきている以上、その可能性は無視できないだろ。明かりを持つアメリアが先導するように奥に走り、ソフィーとマリオンがそれに続いた。そしてレイチェルが……

「レイチェル!? 早くしろ!」

「ケ、ケネっさん! あ、足が……足に力が入らなくて……」

 その言葉を俺は最後までは聞かなかった。

 レイチェルの腕を掴み、肩を貸すような格好にして、俺は彼女を運んだ。

 鍛えてる身体なせいか、まあ、軽いとは言えない……が、彼女の名誉のために補足するなら、俺がどうこうできる程度なんだから、決して重いってわけじゃないぞ?

「大丈夫。奥まで行けばさすがに竜の吐息も届かないはずだ。すぐに諦めるさ」

 そう励ますと、レイチェルはこくりと頷いた。

 背後からドラゴンの咆吼が聞こえてくる。それはこの地下道の壁に反響して、わんわんと俺たちを揺さぶった。

 だが……それだけだ。

 警戒したような炎の攻撃はない。少し待ってもその状況は変わらなかった。まだ足音は聞こえるから、俺たちを捕って食うことを完全に諦めたわけじゃないだろうが……

 まあ、あの巨体じゃ、この中までは追ってこられないだろう。

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