赤竜山の黄金伝説   作:雷神宮燦

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竜の黄金

 踏み込んだ洞窟の中は暗く、もう一度ランプに頼らざるを得なかった。でないと、でこぼこした地面に足を取られそうだった。それでも幸いなのは、人の手がほとんど入っていない様子だということで、つまり、俺たちを散々苦しめてきた罠みたいなのはもうないだろうということだ。

「竜の黄金はどこにあるんだ?」

 ソフィーが呟きながら奥へと進んでいく。

「だだっぴろいな……いくら伝説の竜でも狭くは感じなかっただろうな、これなら」

 その広さといったら、ランプの明かりが端まで届かないほどだ。この山にこんな空洞があるなんて、外からじゃわからなかった。……まあ、すぐに見えるような場所だったら、もう竜の黄金は残ってはいないだろうから、悪い話じゃない。

「みんな、足元に気を付けて。ここにも水が溜まってる」

「また水?」

 ソフィーの忠告にアメリアがうんざりした調子で返した。気持ちはわかる。

「りゅ、竜の黄金……竜の黄金が、も、もうすぐ見付かるんですだな……」

 レイチェルの声は震えている。それも無理もない。俺たちはもちろん、アメリアやその父である伯爵でさえも見たことがないような、とてつもない量の財宝が、もうすぐ俺たちの目の前に現れるんだ。気持ちが高ぶらないはずがない。

 そんなとき、奥に光が見えたような気がした。目の錯覚かと思ったが――

「……奥で何か光ってない?」

 アメリアもそう言ったので、俺の見間違いではないだろう。

「竜の黄金が、光ってるのか?」

「行ってみよう!」

 俺たちは竜の黄金を目指して進んだ。初めは足元に気を付けてじりじりと進んだが、誰かの足が少し速まり、それに追いつこうと他の誰かが早足になり、そうして最後にはみんな走るようにして奥の光を目指した。

 その時。俺の視界で、ふわっ、と蛍のような光が舞った。

「――待てっ! 止まれ!! この先は危険だぞ!!」

 俺が叫ぶと、みんな驚いて足を止めて振り返った。中でも先頭をほとんど転がるように走っていたソフィーは俺に怒ったような視線を向けてきた。

「何で止めるんだ兄さん! 竜の黄金がもうすぐそこに――!!」

「違う! 待て! この光はマグマだ! 見ろ、火の粉が舞ってる!! このまま進んでたら火口に突っ込んでたところだぞ!!」

「……まさか?」

「間違いない。浮かれずに慎重に進もう。竜の黄金はきっとあるはずだから」

 そこから少し進むと、俺の予想は正しかったことが証明された。マグマだ。明々と輝くマグマが眼下を川のように流れている。そういえば、山に入ってすぐの場所でも同じようなものを見た。ここは火山だ。そして、だからこそ火竜が巣を作る。

「竜の黄金はまだなのか……?」

 マグマの輝きにぬか喜びさせられて、ソフィーが不満を漏らした。

「も、もしかして……竜の黄金は、も、もう持ち出されてしまってるんじゃ……」

「もしそうだったら、私らの苦労は全部無駄だったってことになるな。伯爵家の借金返済も無しだ。伯爵家はランズベリー商会のものになる」

「みんな、不吉なこと言わないでよ!」

 レイチェルとソフィーの言葉に、アメリアが堪らず抗議した。だが……俺としても、不安がないと言えば嘘になる。確かに地図の通りに進んできたし、数々の罠を乗り越えてきたが、もしも、レイチェルの言うように、竜の黄金自体が、もうなかったら……

 ……いや、ここまで来てそれを気にしても仕方がない。不安だが、仕方がない。

「とにかく進もう。見ろ。壁に沿ってもう少し上まで行ける。全部調べ尽くすまでは、あるものと信じよう」

「本当にあるのか? 調べ尽くすまでったって、追っ手もいるんだぞ」

「諦めたら本当にこれまでの苦労が無駄になる。まだ諦めるな」

 ――参ったな。これまで協力的だったソフィーまでこんなことを言い出すなんて。それだけ不安を感じてるってことだろうが、それにしても……ああ、こいつはヘヴィだぜ。

 と……誰かが、ぎゅっと俺の服を掴んだのを感じた。この手は、多分……

「……大丈夫。竜の黄金はこの先にあるさ」

 俺は、俺の服を掴んでいたアメリアにそう言って励ました。

 

 だが、そうやって進んだ壁際の道もすぐに人が通れる幅ではなくなってしまった。焦燥感や絶望感が、みんなから伝わってきた。そして、それは俺の中にもあった。

 見付からない。何も見付からない。なぜだ? 俺たちは何かを間違えているのか?

 ここに竜の黄金があるんじゃなかったのか……?

「……もう、疲れた。ここまで来たけど……もう無理だ。疲れがどっと来た」

 ソフィーが、岩の壁を背に座り込んだ。それを見ているレイチェルも、疲れた顔をしていた。……俺も、そんな顔をしているかもしれない。アメリアだけは、まだ気持ちを保っているみたいだが、それでも、何も言わない。

「あーあ……でもこれで追っ手が来ても安心だな。竜の黄金なんかないんだから」

 ソフィーが完全に諦めた様子でそう言うと、レイチェルも、大叔父さんが持っていたぼろぼろの剣を抱えたまま、がっくりとうなだれた。

「ここまで……く、苦労して来たのに、な、何もないですだか……」

「ま、まだ諦めるのは早いよ! きっと竜の黄金はあるよ! もう少し頑張ろう!!」

 アメリアがそうやって二人を説得しようとするが、難しそうだ。二人はもう緊張の糸が切れてしまったみたいに座り込んでいる。

 俺自身、いつの間にか背中を壁に預けていた。まだ座り込んではいないものの、いつまで保つかわからない。力が抜ける。これは、もうだめかもしれない。俺は大きくため息をついて、洞窟の天井を仰ぎ見た。

 ――――ん?

「おい……みんな。まだ上がある。この背中の岩、これの頭は天井まで届いてないぞ!」

 その俺の声で、アメリアに笑顔が戻った。

 

「見上げたらダメだよ。絶対にダメだからね!!」

 アメリアがそう念を押すのは、岩の上に登るにあたり、身体の軽いアメリアの足場として、俺の両肩を貸しているからだ。アメリアはスカートで、だから、見上げると……いろいろといろいろなことになるわけだ。うん。まあ、見上げるつもりはない。見上げたいけど。俺はそれを実行に移すほどにまで汚い男じゃないはずだ。

「んっ、もう、ちょっと……ん、よしっ、届いたっ!」

 その言葉と同時に、俺の肩がすっと軽くなった。アメリアが上に掴まったんだろう。見上げると――あ。まだだった。俺は慌てて視線を下げた。

「ど、どうだ、上の方は」

 失敗を誤魔化そうと俺は、下を向いたまま、アメリアに声を掛けた。

 それに対してアメリアは……

「う、うん…………ねえ、ロープを投げ上げて。そこの岩に結ぶから」

 上からそう返事をした。俺は「わかった」と応じて、荷物からロープを取りだして投げ上げた。これでもう、背負い袋は空だ。もしも竜の黄金が本当にあるなら、帰りはこれに目一杯詰め込んで持って帰ろう。

 ……と、そこにアメリアが上からロープを垂らしてきた。俺たちは一人ずつ順番に、そのロープで上段に登った。俺は追っ手のことを考えて最後にした。……しかし不安だ。先に登ったみんなが、何故か何も言わない。登ってくればわかるよ、という表情を見せてくれるだけだ。

 期待すべきなのか、警戒すべきなのか……

 ソフィーに続いてレイチェルも登り終え、その後で俺も登った。上からアメリアが手を伸ばして、俺を引っ張り上げてくれた。

 どこからか、月明かりが差し込んでいた。その月明かりに照らされて……

 

 山のような財宝が積まれていた。

 

 話に聞いた通り……

 金貨、銀貨はもちろん! 宝石や装飾品、王冠のようなものまで!!

 目も眩むようなとてつもない量の財宝が、俺たちの目の前に積み上げられていた。

 全部運び出そうと思えば、俺たちが乗ってきた馬車一台では足りないだろう。俺が住んでいた部屋を床から天井まで財宝で埋め尽くしても――いや、伯爵家の宝物庫にだって入りきらないだろう。この財宝の山と比べれば、城ふたつ分という莫大な借金も、大した額じゃない。この山の一部でだって、伯爵家の借金は全額返済できる!

 だが……それを目の前にしながらも、俺たちはそれに近寄れないでいた。

 

 いる。……俺たちの行動を見つめているモノがいる。

 

「――――ドラゴン」

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