赤竜山の黄金伝説   作:雷神宮燦

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赤竜山の王

 岩の上から俺たちを見下ろす、ドラゴン。石像だ。もともとそこにあった岩に彫刻されたものだろう。大きさだけで言うなら、庭園にあった黄金の像の方が大きい。だが、こちらの像はあれよりももっと精巧で、それに、何だか……

「……ちょっと、優しい顔をしてる、よね」

 アメリアがぽつりと呟いた。そうだ。これまでにいくつかあった竜の像や、あるいは本物の竜のような荒々しい雰囲気がない。俺たちのことを静かに見つめている。

 それは、俺たちを監視するようでもあり――

 あるいは、俺たちを見守るようでもあった。

「王様だ。刃義の赤竜山の、古い古い王様だよ」

 そんな風にアメリアが呟くと、ソフィーが皮肉な感じで笑った。

「挨拶、した方がいいのか?」

 アメリアはそれに真剣な顔で「そうだね」と頷き、その石像に近付いて、そして、その前にスッと跪いた。伯爵の娘に相応しい、優雅な振る舞いだった。

「……お初にお目に掛かります。赤竜山の古き王、伝説の竜〈灼き尽くすもの(インシネレータ)〉よ。私は赤竜山の麓、狼宴を治める伯爵マーカスの娘、アメリア・クルサード。まずは突然の訪問をお詫びいたします。……此度はお願いがあって参りました。現在、我が伯爵家には多額の借金があり、このままでは長らく住んだこの土地を離れざるを得ない、非常に厳しい状況となっております。身内の不始末ではございますが、恥を忍んでお願い申し上げます。どうか……どうかこの宝物の一部を我々にお与えください――」

 ……アメリアがそう言っても、石像は石像だ。何の反応もない。

 けど、立ち上がって俺たちを振り返ったアメリアは、笑っていた。

「必要な分だけなら、持っていってもいいって」

 ……本当かね。いや、けどまあ、いいか。そういうことにしておこう。俺だって、他人の財宝を盗むと思うより、財宝を分けてもらうと思う方が気が楽だ。

「ね、みんなも挨拶して」

 アメリアがそう言うので、俺たちもそれぞれ一言ずつ、その竜の像に挨拶をした。俺には、石像からの返事は聞こえなかったが……ま、構わないさ。

 その挨拶も終わって……

「……大叔父様。見えてますだか? これが、竜の黄金ですだ……」

 レイチェルが、手元の剣にそう語りかけた。

「本当にすごい量の財宝だ……想像していたよりも、まだずっと多い……」

 ソフィーが、黄金の山を目の前にして、呆然とした声で呟いた。

「これは、伝説の時代からずっとここにあったんだな。古王国時代の物もあるし、もしかしたらもっと古い物も……歴史的にも、かなりの価値があるものばかりだぞ」

 こんなことなら学院でもっと真面目に古代史を学んでおくんだった。価値があるはずだとは思うが、具体的な価値がわからない。もっとはっきりわかれば、価値のある物から順に運び出すんだが……

 けど、ああ――

 どれを手にとってみても、とてつもない価値のある財宝だ。そんな財宝ばかりだ!

「いいか、みんな。まず宝石を優先しよう。透明度が高くて、粒が大きいのがいい。重さや大きさのわりに価値が高い。金貨や銀貨は後回しだ」

 ソフィーがみんなにそう指示した。続けて俺も、背負い袋を持ち上げて見せる。

「財宝はこの背負い袋にと、それから、服にポケットがあればそこにも突っ込め。身につけられるものは身につけてもいい」

 みんなで持てるだけ持ったら、下の洞窟の広さを活用して追っ手をかわして洞窟の外に出よう。外は崖みたいな山道だが、少し緩やかなところもあった……ような気がする。そこからきっと麓まで行ける。そうでなくても、またトロッコに乗っていけば、庭園までは戻れる。出口を塞いでいる岩を、今度こそ俺の魔術で破壊しよう。そうしたらみんな外に出られる。その向こうは急流だが、誰か一人くらい、泳ぎの得意な奴もいるはずだ……

「さあ、追っ手がいつ来るかわからない。急ごう!」

 俺たちは大慌てで、竜の黄金――人々からそう呼ばれる財宝の山に近付き、そして……

「――待って! ケネス、その宝石はダメだよ」

 アメリアが、宝石に手を伸ばした俺を止めた。俺の指の先には、竜の石像……その台座に埋め込まれた、特大のブルーダイヤモンドがあった。

「どうしてダメなんだ? これが一番、価値がありそうに見えたんだが」

「だからだよ、ケネス。……それは王様のもの。ボクたちがもらっちゃダメだよ」

 ――なるほど。俺たちは竜の黄金を盗んだり奪ったりするわけじゃない。赤竜山の王様から賜るんだった。それなのに王様のものを勝手に持ち出しちゃいけないな。

 馬鹿げてるとは思わない。……アメリアらしい話だ。

「わかった。無理にこれを持ち帰らなくても、他ので充分だからな」

「そうだよ! よーし。みんな、詰め込めーっ!」

 アメリアの号令で、俺たちは財宝集めを再開した。何の価値もない石ころみたいに、大粒の宝石がごろごろ落ちている。竜には明らかに不要であろう装飾品……首飾りや、指輪もある。箱ごと持ってきたら入ってたんだろうか。それとも、竜を崇めた人たちが捧げたんだろうか。……時間があればそのあたりも詳しく調べたかったが、いまは無理だ。

「も、もし……追っ手が来てしまったら、ど、どうするんですだか?」

 レイチェルが当然の疑問を発した。

「こ、これだけあるなら、あ、あの人たちにも分けてあげたら、満足して……わたしたちをこ、殺そうとまではしないんじゃないですだか……?」

「……可能性はあるが、どうだろうな。そう持ちかけても、財宝の在処を知ってる俺たちを皆殺しにしようと考えるかもしれない。竜の黄金のことを知ってセレストを裏切ったって言ってたから、信用はできないさ」

「じゃ、じゃあ、ど、どうすればいいんですだか……」

 その不安のせいか、レイチェルの手が止まっていた。俺はなんとか少しでも彼女を安心させようと、考えていた脱出方法について口に出す。

「下が広いだろ。あそこを利用してかわせば、うまく外に――」

「ハッハァーン!? まだワタシタチから逃げ切れるつもりでいるんデスカァー!?」

 げ。どピンクのローブの、パール・ブルームだ。後ろには部下の二人もいる!

「あっ……お、追いつかれちゃった……」

 アメリアが呆然と呟いた。ああ、くそ。竜の黄金に目が眩んで、ロープを引っ張りあげるのを忘れてたんだ! ここまで来て、重大なミスをしてしまった!

 慌てる俺たちを見てニヤリと笑ったパールが、杖を振り上げて叫ぶ。

「サーァ、オマエタチ! ワタシの言うことをよく聞くのデス!! いいデスカ!? 今すぐ降参して、集めたお宝を全部足元に置くのデス!! さもなくば、今すぐワタシの魔術でミナゴロシデスヨ!!」

「……どうやら、仲良く財宝を山分けするつもりはないみたいだな」

 だとしたらまずいことになった。

 相手は魔術士、しかも三人だ。

 こっちで戦えそうなのは俺とレイチェルの二人だけ。

 そして、俺以外は魔法戦の経験がない。

 俺はというと、まだ体調が万全じゃない。

 直接ぶつかり合えば、こっちが不利に思える。どうする……?

「こうなったら……実力で勝ち取るしかない、ですだ!!」

 ――って、待て! なに考えてんだレイチェル!!

 ああくそ、こいつはヘヴィだぜ!!

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