赤竜山の黄金伝説   作:雷神宮燦

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対決

 振り下ろされた杖から電光が走り、パールは悲鳴を上げる間もなく舞台の外へ吹き飛んでいった。落ちた先で水音がした。

 ころ、ころ、とブルーダイヤが転がった。

「ああ、貴重な宝石に傷が付いたら大変です。わたくしの宝石……わたくしの宝石ですからね……うふふふふふふふふ」

 ……か、金の魔力はこうも人を狂わせるものなのか……?

「セ、セレスト……ほ、本当に病気になってしまったにゃあ……」

 マリオンが、セレストの魔術の威力を目の当たりにしたからか、自分で自分の両肩を抱いてぷるぷると震えていた。

「マリオン! どうなってるのか説明しろ!!」

「そ、そうだよマリオン!!」

 俺とアメリアがマリオンに向かって叫んだ。マリオンは呆然とした顔でセレストを見つめたまま、ぼそぼそと喋った。

「竜の黄金に目が眩んだブルーム団に裏切られて、セレストは怒っていたにゃ。あいつらを追いかけるって言うから、あたしもみんなが心配だし一緒に来たのにゃ。でも、セレストは……大量のお金を見ると独り占めしたくなる病気だったのにゃあ!!」

 ……マリオンの言うことだから、そんな病気あるわけねえだろ!! と言いたいところなんだが……今のセレストの様子を見ると、冗談ではないかもしれない。

 まいったな。こいつはヘヴィだぜ……。

「ね、ねえ、ケネス……」

 アメリアが心配そうな顔で俺に話しかけてきた。

「ああ。セレストがまさか竜の黄金を独り占めしようとするとはな。どうにかして彼女を正気に戻して、それから俺たちの取り分を――」

「ち、違うよケネス! ねえ、気が付かない? 地面が揺れてる!」

 必死な声で、アメリアは俺にそう伝えた。

 地面は……確かに。確かに揺れてる! それに、かすかに聞こえるのは地鳴りと……

 ……水の流れる音だ! 嫌な予感がする……!!

「さっきからだよ! パールが青いダイヤを外したときに、変な音が聞こえたんだ! そのときからだよ!! ねぇ、ケネス! これもきっと罠だ! どうしよう!?」

 どうしよう、ったって……どうできるっていうんだ!? 逃げるのか? この竜の黄金を置いて? それにしたって、財宝に心を奪われているセレストを、どうやって連れ出せばいいんだ!?

「ケネス!!」

 ……ああ、くそ!! もたもたしてる暇はない!! 全部力ずくでやるしかない!!

「俺がセレストと戦う。大丈夫、気絶させるだけだ。そしてその後、少しでも財宝を運び出そう。マリオン、アメリアと一緒にいてくれ。くれぐれも、変な手出しはするなよ。いいな? ……よし。二人は端に行っててくれ……」

 財宝のまわりを恍惚とした表情でくるくると舞うセレストを警戒しながら、俺は地面に落ちていた杖を拾い上げた。やっぱり、これがあるのと無いのとでは、随分違う。

 俺は心を落ち着けるために、大きく深呼吸をした。

 仕掛けはまだ動いている。

 水音に混じって、鎖が擦れる音も聞こえ始めた。

 何かが動いている。うごめいている。

 それでも、その音を意識から追い出して、俺は精神を集中させる。

 ……セレストが、俺に気付いた。

「ケネス・リドルさん。どうしたのですか? そんなに怖い顔をして」

「セレスト。耳を澄ましてくれ。……聞こえるだろ。この洞窟全体が震えてる。青いダイヤを台座から外したから、罠が動き始めたんだ。ここは危ない。急いで離れるんだ」

「そんなことを言って、わたくしをここから追いだした後で竜の黄金をかすめとろうという魂胆なのでしょう? 騙されませんよ」

 どうやら、言葉は通じているらしい。らしいが……

 だめだ。俺の話をまともに聞いてくれる状態じゃない。

「俺たちが竜の黄金を必要としてるのは、確かだ。……伯爵家の借金を全部返済するためにな。けど、セレスト。いま大規模な仕掛けが動いてるのも本当だ。このままここにいると、何が起きるかわからないぞ」

「わたくしは動きませんわ! この財宝はわたくしのもの! 全てです! 誰にも触れさせはしません!!」

「そこまで言うなら、仕方ない」

 ため息をついて、俺は杖を構える。

「……力ずくでやらせてもらうぞ。もう時間がない」

 セレストが、きっ、と俺を睨んだ。

「渡しません! この竜の黄金は渡しません!!」

 俺はもうセレストが叫ぶのに構わず、術法を準備した。

 ここまで来て、出し惜しみしたって仕方がない。一気に、決める。

霊気(マナ)は我が言葉にて変質する。――〈増幅+増幅+覚醒+覚醒(エンライトメント)〉ッ!」

 身体強化の術法を四つ、ほんの少しの時間差でほぼ同時に展開。

 セレストが、そんな俺を見て目を見開いた。

「……ケネスさん。貴方……」

 そのうちに、俺の術は完成する。それを感じると、俺の意識はよりクリアになっていく。当然だな。これだけ重ねれば、全身のだるさは一気に吹き飛んだ。まるで生まれ変わったみたいだ。

 一気にやると精神的な負担が大きいから、滅多にやらないが……

 左手に握った石を、俺は適当に放り投げた。

 財宝の中にあった魔晶石だ。中に込められていた霊気(マナ)は全部吸い上げたから、もうただの石ころだけどな。袖の中に隠しておいてよかった。

「その構え、その詠唱。……まさか……以前どこかでお会いしたのではと、思っていましたけれど……まさか……!」

「……ああ、俺もどこかで会ったことがあるような気がしてたんだ。そうか。あんたもあの場にいたのかな」

 

 ――俺は王都にいたとき、魔法を教える学院に通っていた。

 伯爵からの援助を受けた俺は、魔法を必死に勉強して……

 魔術を深く知り、知れば知るほどに、それが破壊のための技術であることも学び、そして……

 ……ある時それを、思いっきり試してみたくなった。

 勉学が疎かになることを危惧してか、学院は学徒の就労を禁止していたが、俺は偽名を使ってその目を逃れ、目的に添う、それでいて割のいい仕事を見付けた。

 王都の金持ちに過激な娯楽を提供する、闘技場の仕事。

 そこでの俺は、敵対者を震え上がらせる悪役。仮面で顔を隠した、その時の俺の名は――

 

「――〈仮面の魔人(マスクドデーモン)〉エルダー・ヘネック……!?」

 セレストが呻いた。

 ……ああ、それで合ってる。

 その偽名、本名のケネス・リドルを逆にしただけだったから、それが決め手になって師匠に火遊びがバレちまったんだけどな。

「ばっ、万物の根元たる霊気(マナ)! 我が内より出でよ! 出でては――」

 慌てて詠唱を始めるセレストに一拍遅れて、俺も次の術法を準備する。それでも、十分だ。

 セレストがひとつの魔術を完成させるのに、こんなにも時間をかけているようなら、な。

 こいつはせいぜい、専門とする属性でだけ中位魔術を扱えるって程度だろう。ま、それでも学院の教授レベルではあるけどな。

 その程度じゃ、俺の――〈仮面の魔人(マスクドデーモン)〉の敵じゃない。

 顔を隠して試合に出るようになってから、師匠にバレてその舞台を降りるまで、およそ三年。

 その間、俺は百を超える試合に臨み――

 

 ただのひとつも負けはない。

 

 それだけの経験をしてきた。

 だから、ドラゴンに対しては通じるかどうかわからない俺の魔術でも……

 人間が相手で、しかも、一対一の魔法戦という状況に限れば、自信がある。

 身体の不調さえなけりゃ、もっと早く使ってたんだけどな。

 今もまだ万全ってわけじゃない。けど、ここで使わないでいつ使うってんだ?

霊気(マナ)は変質して敵を貫く――」

 攻撃魔術の初歩の初歩、何の変哲もない〈魔弾(マジックミサイル)〉だが、同時に十。負担も相応にヘヴィだが、その威力は上位魔術〈暴魔(エナジーブレイク)〉をも上回る。

 ここまでやるのは久しぶりだが、大丈夫。制御はできてる。

「――魔曲〈轟魔弾(エナジーロア)〉」

 魔術はもう発動した。俺の周囲には十の魔弾が浮いている。互いにバチバチと不吉な音を立てて干渉し合いながら、解き放たれる時を待っている。

「あ、あああ……わたくしの……わたくしの財宝……」

 まだ完成していなかった詠唱を破棄して、セレストがまた、呻いた。

「俺たちが先に見付けたんだ。悪いな」

 杖を振り下ろすと、俺の魔術は一斉にセレストを捉えた。

 セレストは、先ほどのパールがそうだったように……

 悲鳴を上げる間もなく舞台から弾き出された。

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