赤竜山の黄金伝説   作:雷神宮燦

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祭壇の奥へ

「なっ、なんで何の相談もなく勝手に仕掛け動かしてるんだ!? 兄さんのバカ!」

「いやー……絶対あれで行けると思ったんだ。まさかあんなことになるとは」

「竜に腕を喰われるって書いてあったの、自分で読んだだろ!? それなのになんで竜の口に腕を突っ込んでるんだ! バカ!」

 むう……言われてみれば確かにそうだが、終わってみれば、それも含めて勇気を試されていたんだよな、多分。

 仕掛けの鍵は奥にあった。

 竜の口に手を突っ込むと、まず、腕をすり潰すための仕掛けが動き出す。動き出しても慌てずに、さらにもう少しだけ突っ込めば、奥にある取っ手に手が届く。これを掴んで引っ張れば、罠は止まるってわけだ。

 それだけじゃない。祭壇がゴリゴリと音を立てて動き、その下に隠されていた縦穴があらわになった。これが竜の黄金に続く通路の入口だ。

「ま、まあまあ、ソフィー。ケネスがやったの、正解だったんだから」

「腕をすり潰されるところだったんだぞ!?」

 改めて考えると怖いが、済んだことだ。忘れよう。

「悪かったよ。次からは相談する。……で、ここから中に入れるみたいだが……」

「やめておいた方がいいと思う。マリオンも怖がってるし、それに、この先にもさっきの罠みたいなのがたくさんあるなら、ちょっとした不注意で本当に死にかねない」

 ソフィーが反対した。そして、それに異を唱える人間もいなかった。

 やっぱりみんな、危険が現実に自分の身に迫ってきたからか、どうにも威勢がなくなってる。

 それが一番顕著なのはマリオンだが……何も言わないでいるものの、アメリアも不安に思っているらしいのは、その顔を見ただけでわかる。

 無理もないけどな。この先にも同じような罠があるのかと考えると、俺も、怖くないとは言えない。

 でも、俺の中ではまだ……この先にある物に対する好奇心や期待感の方が、恐怖心を上回ってる。

 せっかく開いたんだ。もう少し調べたくなっても不思議じゃないだろ?

「……ここで待っててくれ。俺が中を見てくる」

 俺がそう言うと、他の三人……特にソフィーが、驚いて口を開けた。

「なっ! 話、聞いてなかったのか!?」

「聞いてたから、一緒に行こうとは言わないんだよ。そう心配しなくても大丈夫。俺だって、本当に危険だと思えば引き返してくるさ」

「兄さん、さっき危険な罠にバカみたいに手を突っ込んでただろ!?」

 なんかソフィーの口調が乱暴になってる気がするな……これが素か。それだけ打ち解けてきたってことだろう。うん。

「や、やめた方がいいんじゃない?」

「そっ、そうだにゃ。奥にはきっと、まだドラゴンが住んでいるに違いないにゃ……」

 アメリアとマリオンがそう言うのを背中で聞きながら、俺は現れた縦穴を覗き込む。外の明かりが差し込んで、下に足場が見える。そう深くはなさそうだ。

「少し行ったら報告に戻る。そこで待っててくれ」

 俺はもう反対の声を聞かずに、ランプを手に、祭壇の下に潜り込んだ。

 

 とはいえ、一人はやはり心細くもある。もちろん、ああまで言って一人で入ってきたからには、ここで怖じ気づいて引き返すつもりはないが……。

 ランプで照らしてみると、中は意外と広かった。自然の洞窟じゃなさそうだ。昔の人が掘ったトンネルだろう。床は踏みしめられていてほぼ平らで、立ったまま進むことが出来る程度の高さがある。

 ふと、どこからか風が吹いているのに気付いた。俺が入った入口の他にも、空気が出入りする場所があるんだろう。奥から吹いてくる風は生ぬるかった。

 ぐぉう……。

 奥からそんな音が聞こえてきて、俺はびくっと震えた。

 今のは何だ? いびきみたいな音だった。奥に、何かいるのか?

 俺は慎重に奥へ進む。……まず地図をよく読んでからにすればよかったかな。少し後悔しながら、ただ、まだ今のところは仕掛けらしい物もないから、そのまま進んだ。

 ぐおおぉう……。

 さっきの音が、また聞こえてきた。やっぱり、奥の方だ。

 分かれ道があったが、俺は音のする方へ進んだ。そっちの方には、何か赤く輝く物も見えていたからだ。もしかしたら竜の黄金がもうすぐそこにあるのかもしれない……。

 俺のその予想が外れているのは、すぐにわかった。

 赤く輝いていたのは、岩だった。近付いてみればすぐ傍は崖で、そのはるか下にはマグマ……岩石の溶けたものが流れていた。岩の赤はそれの照り返しだ。俺はこんな光景を見るのは初めてで、驚きはしたが、同時に納得もした。もう数十年も火を噴いていないとはいえ、赤竜山は火山だ。風はさっきよりもじりじりとした熱さを増している。

 ぐおおおぉう……。

 また、さっきの音だ。これはマグマの音じゃなさそうだ。まだ道は続いている。音はその奥からだ。俺は、今まで以上に足元に注意して進んだ。あの真っ赤なマグマに落ちたらどうなるかなんて、考えたくもない。

 奥は白く光っていた。何かと思ったら、それは空だった。別の出入口――と言えるのかどうか。それは随分高いところにあった。岩壁を伝って登れなくもないだろうが……

 ぐおおおおぉう……。

 またあの音だ。視線を下げると、そこにその音の源があった。……というか、いた。

「ド、ドラゴン……ッ!」

 俺は、思わずその生き物の名前を口にしていた。

 ドラゴンだ! 間違いなかった。丸くなって眠るその姿勢は猫のそれに似ているが、全身はトカゲのような姿、硬そうなウロコ、コウモリのような羽、鋭い爪や牙……間違いなく、完全に、疑いようもなく、ドラゴンだ。

 ただ……大きさは、大型犬くらいだった。本来なら、もっと大きいはずだ。俺が読んだ文献には確か、人間を丸飲みするくらいの大きさがあると書かれていた。

 だとしたらあれは、ドラゴンの子ども……ドラゴンパピーか。よく見れば、その周囲にタマゴの殻の残骸らしきものが散らばっていた。生まれたてってことか?

 俺はそれに近付いてみるべきかどうか、悩んだ。

 俺を丸飲みするようなドラゴンに立ち向かっていく勇気はないが、ここにいるのは生まれたてのドラゴンパピーが一頭だけで、しかも眠っている。好奇心はある。近くで観察するなら、またとないチャンスだ。

 それに例えば……あの散らばってるタマゴの欠片。あれを拾って持ち帰るだけでも、学院や好事家がそれなりの金を積んでくれるはずだ。借金を全額返済とまでは期待できないが、いくらかの足しにはなる……。

 ……俺は自分の好奇心にいろんな言い訳を付けて、じり、じり、とそれに近付いた。

 

 突風が吹いたのは、まさにその時だった。

 俺ははっと足を止め、そして、それを見た。

 視界を覆う、赤。

 俺の目の前に現れたのは、全身を赤いウロコで覆った巨獣――

 

 レッド、ドラゴン……ッッ!!

 

 こいつは……ああ、紛れもなくヘヴィだぜ。

 俺に空を見せていた穴にその巨体を滑り込ませ、竜は俺のすぐ近くに降り立った。と同時に、ズン、と足元が揺れた。

 目と鼻の先……というには少し距離があるが、何しろ相手がでかい。

 相手がその首をこちらに向ければ、俺に咬み付くことが出来る。

 ――即死圏内。

 その口にはびっしりと牙が並び、その隙間から血が滴っていた。そこから、ドサッ、と音を立てて、何か大きなものが落ちた。鹿だった。すでに絶命している。弱肉強食。目を覚ましたドラゴンパピーは、大喜びでそれにかぶりついた。親子……なのか? ドラゴンの子育てなんて、実際に見る機会はほとんどないだろう。興味はある。

 だが――

 

 ギィャアアァアァァァァ――――ス!

 

 少し前に聞いたのと同じ、あの咆吼! とてつもない圧力!!

 俺はその咆吼ひとつで動きを完全に封じられ、抵抗する心を折られた。

 魔術の腕には多少自信があった。けど、これは無理だ。

 絶対に勝てるはずがない。近づけない。

 それどころか、引き返すことさえ、怖くてできない。

 とにかく動いたら見付かる! という絶望感……。

 だがその絶望感さえも、ギロリ、と睨まれたのを感じたら吹き飛んだ。

 動いたら死ぬという絶望感より、このままここにいたら死ぬという絶望感が勝った。

 俺は無我夢中で来た道を駆け戻るしかなかった――。

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