それなりに満足して逝けたのだ。
正直に言えば今の生は蛇足にすら感じている。かといって出来ることも無く、自殺を選ぶ度胸もない。
このまま惰性で生きていくしかないのだろうか?
「…………くそ」
それにしても小さい。自分の手足をみてそう思う。
比較対象が無いので正確には分からないが、体格からして十とそこそこといったところだろう。
手足は泥にまみれ、素肌の色すら分からない。
気付けば服装も時代劇に出てくる貧しい農民の様な、みすぼらしい着物になっている。振り袖も無く、丈も短い。動きやすくはあるが冬には寒そうだ。
このまま突っ立っていても仕方ない。取り敢えず人里を探そうか……。
一歩踏み出す。
「――ッ、靴すら無いのか」
足の裏に刺さる小枝や石片、落ち葉の感触に自分が裸足なのだと気付く。
「どうでもいいか……」
俺は当てもなくさ迷い歩く。
そうしていると、いつの間にか明るく拓けた場所にたどり着いた。
「道か……」
道は南北に延びていた。
寒いのは好きじゃない。南に向かおうと思う。
そうしてたどり着いた人里は、十何軒かのあばら屋が集まって建っている小さな集落だった。
住人達はどいつもこいつも剣呑でギラついた、もしくは生気の無い虚ろな眼をしている。
奪う側と奪われる側……胸糞悪い村だ。
俺という見慣れない存在が入り込んだせいか少し空気がざわついている様に感じる。
肌を撫でられている様な嫌な感覚――よく知っている……喧嘩をする前の、値踏みされてる時に感じていたものだ。
……ということはそろそろお出ましか?
暫く待っていると俺を観察していた連中の中から一人が進み出てきた。汚ならしい格好をした男だ。
そいつは下卑た笑顔をしながら近付いてくる。嫌悪感から鳥肌が立ちそうだ。
「おい餓鬼、新入りかぁ?」
新入りへの洗礼か、それとも喝上げか……。
どちらにせよ俺は、売られた喧嘩は全部買うことにしてるんだ。
「見て分かんねぇのかよ?頭悪ぃおっさんだな」
「あぁん?」
こういう手合は少し挑発しただけで直ぐに乗ってきてくれるから楽だ。
そして一見、弱者に見える相手にも牙が有るという事を解っていない。
「理解できなかったのか?もう一度言ってやるよ。頭悪ぃおっさんだなぁっ!」
「てめぇ!!」
格下だと思い込んでる相手に少しつつかれただけでこれだ。直ぐに頭に血が上る。
相手の男が殴りかかってきた。
――やっぱこっちの方が話が早くて助かるな。
さぁ、やり合おうか……ッ!
結果だけ言うのであれば俺の圧勝だった。
小さくなった割には不思議なもので、あまり腕力等は落ちてはいなかった。そしてリーチは短くなったもののそれを補って余りある身軽さを手に入れていたのだ。
それに相手も相手だ。殴る事には慣れていても殴り合う事には慣れていない様だった。
本当に胸糞悪い村だな……。
――俺がこの村に住み着いてから随分と時間が経った。
幸い最初の喧嘩を見ていたせいかあの後すぐに絡まれることは無かった。しかしそれも最初の内だけで、何度か複数人に囲まれたり刃物を持ち出される事もあった。流石に分が悪いのもあり、その場では逃げたりしたが後にキッチリ報復していたらそれも無くなっていった。
そうしている内にその村で俺はまたもや狂犬などと呼ばれ始め、避けられてほとんど触られなくなっていた。
そうして過ごしている内に、この世界について色々知ることができた。
先ず1つ目は人によって老化の速度が異なる事だ。
時間の流れの通りに老化していくヤツもいれば著しく老化の遅いヤツもいた。
俺もどういうわけか、見た目ではほとんど歳をとってはいない。この世界に来た当初と同じガキの見た目のまま何年も過ごしている。よく分からないが考えるだけ無駄だろう。そういうものだと理解しておく。
2つ目は食べ物が必要なヤツと不必要なヤツがいるという事だ。
残念ながら俺は前者の様で面倒だが狩りをして生活を繋いでいた。
ただ、面白いのは食い物が必要なヤツは大抵強いというところだ。強いから消費する力を補うために腹が減るのか、食い物を食べているから強いのか、どちらなのかは分からない。だが強いヤツのところに行けばそこそこの確率で食い物にありつけるというのはありがたい。
そして最後は世界についてではなく俺についてだ。
どうやら俺は女だったらしい。返り血なんかを浴びて小川で水浴びをした時に分かった。どちらにせよ成長しないガキの身体だ。男でも女でも関係無い。今までと変わらずやっていくだけだ。
そして今日もまた、代わり映えの無い一日が始まる。