「朝か……」
空が白み始め、鳥達の鳴き声が聞こえる。
宿を探すのも面倒だったので適当な場所で野宿したのだが、何事もなく朝を迎える事ができた。
旅の道中では見た目に騙された馬鹿な野盗どもが夜襲を仕掛けてきた事もあったのだが、流石に治安はマシな様だ。
……まぁ、そういう奴等を返り討ちにして収入源にしていたんだけどな。
干し肉を口に放り込み朝食を済ませる。
取り敢えずあの若白髪野郎にあった場所まで行ってみたが流石に時間が早すぎたのか、誰もいない。
その場を離れて近くの集落にいた子供に話を聞いてみたが、どうやらあいつは昨日と同じ様に夕方にしか来ないらしい。
やる事もないし情報収集でもして時間を潰そうか。昨日は殆ど何も出来なかったしな。
………………
…………
……
その辺の住民の話では白の着物に藍の袴を着ているのは統学院? 真央霊術院? だかに所属している男の院生の格好の様だった。因みに女は袴が緋色らしい。
その学院は瀞霊廷内部にあり、基本的にその院生は寮住みらしい。ただし瀞霊廷の外に家のある貴族や、成績優秀で素行も良い院生等は例外として通行証が配布されている様だった。
つまりあの若白髪野郎は良い所の坊っちゃんか優等生、もしくはその両方ということか……。
更にその学院は年に一度院生を募集している様で、基本的には瀞霊廷の内部の者達が入学するようだ。だが、ごく稀に流魂街からも素養のある者を拾い上げるらしい。
そこを出た者は瀞霊挺を守る隊士になれる様で、エリートとして扱われ生活に困ることも無くなるらしい。
要は警官みたいなもんか? いざという時のために腕っぷしが必要になると考えるなら、あいつの強さも納得できる。
素養のある奴が入学出来るって話だが、これまでの事を考えれば俺みたいに腹が減ったりする強い奴らの事だろう。
それならば強い奴がその学院にはごろごろ居るってことか?
そこでならあの二人に近付くための喧嘩が山ほど出来そうだ。
……とは言っても要は学校、馬が合わない奴等と一緒に過ごすのはかなりのストレスになるだろう。
前世でも途中からは完全に行かなくなってたしな。
中に入るためにも、強くなるためにも、魅力的ではあるけどどうしたものかな……。
「おや、待っていてくれたのかい?」
「待ってねぇ!」
くそっ、考え事してたとはいえ全く気がつかなかった。自然体過ぎて気配を察知し辛いなコイツ。
「今日は何して遊ぼうか?」
いつの間にかガキ供がワラワラとあいつの周りに集まってやがるし……。
何なんだコイツ……。
じゃれつく子供の相手をする姿に、一気に力が抜けてしまった。
「鬼ごっこでいい、俺が鬼になる」
コイツを捉えられなきゃ喧嘩にもなりゃしない。取り敢えず鬼ごっこでもいいからコイツの動きに着いていけるようにならねーとな……。
「いけー! そこだー!」「負けるなにーちゃん!」「お前も頑張れよー!」
「お前言うなし!!」
ガキ供は早々に捕まえ、今は俺とコイツの一騎討ち状態だ。
こちらの手加減無しの殴る蹴るを涼しい顔してよけ続ける若白髪野郎。そして何とか一撃食らわせようと全力で追いすがる俺。
簡単に攻撃範囲外に逃げることが出来るはずなのに俺の手が届きそうな範囲で逃げ回っている。
気に入らねぇ……ッ!
「くそっ、待ちやがれっ!」
「そらっ! こっちだぞ!」
……結局、先にぶっ倒れたのは俺の方だった。
「にーちゃんすげー!」「お前もうちょい気張れよー」
「だからっ……お前言うなしっ……」
くそ、汗一つ流さずに涼しげな顔しやがって……!
地面に横たわり息を整えつつ奴を見る。
何やら思い出したかのような顔をして袖口をあさり始めた。
「そういえば忘れていたよ、今日は皆に良いものを持ってきていたんだ!」
「いーものー?」「なになにー?」
そう言いながら袖から小袋を取り出して手のひらに空けている。
色とりどりの小さな塊……金平糖か。
「なにそれー?」
ガキ供はそれが何なのかわかってない様子だ。
そしてそんなガキ供の口に金平糖を放り込んでいる。
「「甘い! 美味しい!」」
若白髪野郎もそんなガキ供を見てニコニコと嬉しそうに笑っていた。
そんな様子を横目で眺めていたのだが、そいつはあろうことか俺の方にも金平糖を差し出してきやがった。
睨む俺に期待するかのように笑うそいつ。
根負けしたのは俺の方だった。
正直甘味は嫌いじゃなかったし、こっちに来てからまともな甘味は一度も口にしていない。どうせ俺が拒否したところで生意気なガキ供に配られるだけだ。
それは少々腹立たしいし合理的な判断だろう。
「しょうがないから貰ってやるよ。勘違ぁあっ!?」
何考えてるんだコイツ! いきなり口のなかに金平糖を突っ込んできやがった……!
文句の一つ二つ言ってやろうかと思ったが、満足そうなそいつの顔を見ていたらそんな気も無くなってしまった。
今は甘味を味わっておいてやろう……。
「そういえば君にお話があるんだ」
「……なんだ?」
十年以上ぶりかもしれない甘味をあじわっていると、アイツが話しかけてきた。
「君、霊術院で俺と一緒に学ばないか? 君には素養がある。それに力の使い方を覚えないと友達と遊ぶ時に怪我をさせてしまうかもしれないよ?」
「遊ぶか!」
ニュアンス的にこのガキ供の事を言っているのだろう。遊ぶ予定は無いしそもそも何時の間に友達になったんだ……。
「それに君は強くなりたいみたいだし、霊術院で学べば確実に強くなれると思うよ?」
確かにそうかもしれない……でもなぁ……。
「確かに強くは成りたいけど集団生活は俺には無理そうだしさ……」
そう、あんなものは前世だけでこりごりなのだ。
「だから習ってることをお前が教――」
「うーん……取り敢えず先生に掛け合ってみるから一緒に行こう!」
「――は?」
いきなり小脇に抱えられ、門に向かって走り始めた。かなりの速度だ。
「おい! てめぇ降ろしやがれ!」
「そういえば自己紹介がまだだったね。俺は浮竹 十四郎だ!」
「話を聞けぇ!?
こっちに来てから始めて人に名乗った気がする。
「そうか! これからよろしくな!」
「離せっ! この誘拐犯がぁ――ッ!」
こうして拉致られた俺は、瀞霊廷に足を踏み入れるのだった。