過去話も少し改変していますので暇なら見返していただけると嬉しいです。
書いていた分、投稿し終わった後に続きを書いていけるかは未定。
「ふっ――!」
真っ直ぐ放たれた相手の拳を手の甲を滑らせて後ろに流し、相手の懐へと大きく踏み込む。攻撃も防御もままならない密着の間合い――そのまま全身のバネを連動させ地面から突き上げる様な背撃を、相手の胸部へと叩き込む。
「おらぁ!鉄山靠(モドキ)ッ!!」
跳ね返された相手は呼吸困難に陥っているのか床に倒れたまま立ち上がれずにもがいている。
地面に固定されている棒に自ら全力で突っ込んでいった様なものだ。こうなってしまうのも無理はない。
更に相手の上に跨って押さえつけ、その顔面目掛けて拳を振り下ろす。
「そこまで!」
教官が終了の宣言をした事で寸止めされた拳を引きつつ立ち上がる。
「ふぅ……」
こうして試合は終わり、俺は猛っていた気持ちを落ち着かせ、胴着を整えたのだった。
なんというか浮竹に拉致られてから色々あったのだが、最終的にはこの霊術院で院生生活を送ることになっていた。
ちなみに俺の袴は青、男用の物だ。多分浮竹のヤツが勘違いして話を通したのだろう。だが俺としてはそっちの方が都合が良かったので訂正していない。
それにしても集団生活は苦手だ……他人を怯えさせてしまう事はしょっちゅうだし、喧嘩をすれば罰則だ。
それでも俺は、この場所にあいつらとやり合える力を身に付けるためにきたのだ。嫌だからといって早々に諦めてしまうつもりはない。
そして学んでいく中で1つ気付いた事がある。
――ここ、漫画の世界じゃねーか……ッ!
まったくわけがわからない。
こればかりはこの世界に来てから世界について調べたりせず、他人とも最低限の関わりしか持ってこなかった自分自身が原因だ。
それにしたってこの世界が死後の世界で自分たちは魂だけの存在であることだとか、現世は自分の生きていた時代よりも何百年も前だとかは普通は想像出来ないだろう。
更に死神についてや虚という化け物がいるだとか、正直情報過多で頭が痛くなりそうだ。自分の無能さにもな。
肝心の漫画の内容だが俺自身はよく知らないのだ。アイツが楽しそうに語っていた漫画だという事だけは分かったのだが、流石にそれだけでは情報不足だ。
確か死神になった男子高校生が虚を倒す、みたいな話だったはずだ。……後はヨン様? よくわからんな。
……で、今何時代よ?
多分近代にすらなっていない。コレじゃあ気にするだけ無駄だな……。
俺は漫画の世界だと気が付いた後も、変わらずに生きていくのだった。
霊術院での集団生活は気に入らないが、死神や霊圧等の基礎知識、そして斬魄刀や鬼道を始めとした戦闘法、斬拳走鬼について知れたのはこの上ない程の幸運だろう。
あの時の二人、般若みたいな女と悪鬼の様な少年の強さの秘密、そして追い付くための足がかりをやっと見つける事ができたのだ。後はそれ等について理解を深めて修行あるのみだ。
院生になってから渡されたこの浅打ちという刀も奴等と渡り合うには必要不可欠な存在だ。
正直言えば俺は無手の方が得意だ。しかし流石に刀の様に間合いが広く、殺傷力も高い獲物相手に素手で向かう気にはならない。基本的には相手の武器をこちらの斬魄刀で防御しつつ徒手空拳の間合いまで詰めてこちらのペースに持ち込む感じになるだろう。
「くそっ! ちょこまかと!」
「だめだよ! そんな汚い言葉を使っては!」
霊術院が終わった後、浮竹を修行に付き合わせるのが日課である。
俺の糧となるがいい。
「おらぁっ! はっ! 喰らえっ!」
浮竹のことは気に食わないが、強いという事は確かなのだ。今も俺の連撃を軽々といなしてやがる。
フック……一歩下がることで身体を半身にすることで避けられる。そのまま真横に回り込み突き上げるエルボー……片手で止められる。止めた腕に組み付いて引き下げ、体勢を崩す様に体落とし……気付けば何故か肩車されていた。わー、景色がいいなー。
「ふんっ!」
「痛い!」
反射的に浮竹の脳天に肘を落としてしまった。
「何するんだ、酷いじゃないか」
「何するんだはこちらのセリフだ! 死ね!」
浮竹の背中を蹴り飛ばして大きく離れる。ホント何考えてるんだこいつは!
「お前っ! ガキ扱いするのも大概にしろよっ!」
「イテテテ……」
いつもいつもふざけんなよ!? 手合わせの終わり際に毎回こうやって茶々入れてきやがって!
「いやー、一生懸命なのを見てたらご褒美をあげたくなっちゃってつい、ね」
確かに高いところは眺めも良いし視界が広がって気持ちが良いがそれとこれとは話が別だ。
「そういえば行きつけの茶屋で旨い饅頭を貰ってきたんだった。一緒に食べないか?」
「チッ…………もらってやるよ」
勘違いするなよ!? 今の俺は何故か甘味が大好物になってしまっただけで別にお前に絆されてしまったとかそういうんじゃないからな!?
甘い……。
浮竹と並んで腰掛け饅頭を頬張る。前世も含めて甘味をあまり食べてこなかったがこれはなかなか良いものだ。こういう物を好物と言うのだろうか?
浮竹のヤツは隣でにこやかに笑い饅頭を頬張っている。
それにしても何でこんな抜けた顔してるヤツに勝てないんだ。
……いや、勝てない理由は解ってる。俺がこいつに勝っているところは何もないのだ……身体能力はもちろん体捌き等の技術全般、それに経験すらも。
これでも俺は組手を始めとした戦闘訓練の講義で一度として負けたことはない。
ここでは他の奴等も霊力を持ちそれ相応に身体能力も高い。特に貴族連中は平均以上の霊力に加えて幼少の頃より武術を習っているためか結構手強い。それでも同じ学年のヤツに負けたことはないのだ。
武術における型の強さはよく解っている。前世でも何度這いつくばる原因になったかわからない。型の汎用性、有用性は理解しているつもりだ。だからこそ武術を真似しつつもそれを崩す戦い方を身に付けた。
相手の意表を突き呼吸を乱しペースを掴む。そうやって俺に地力で勝る相手を倒してきた。もちろんその地力でも勝てる様に努力もしている。
にも関わらず浮竹に勝つ道筋が全く見えてこないのだ。
実技で基礎を学び己の技量を見つめ直した事で俺の実力は飛躍的に上昇した。
だがそれだけでは全く足りなかったらしい。
今度こそはと挑むのだが、毎回課題が見えてくる。というか多分ダメなところが解るように戦闘を誘導しているのだろう。
……本当にいけ好かない野郎だ。
饅頭も食いきったし課題も見えた。次回までに修正して目に物みせてやろう。
……そうと決まればもうここに用はない。寮に戻るか。
「もう行ってしまうのかい?」
立ち上がり歩き始めた俺に声がかかる。
ああ、忘れてた。
「次は何時だ?」
「そうだな、三日後なら課外実習も無いし都合がいいかな」
少し前までは予定を決めずに修行に付き合わせていたのだが、浮竹に予定があり来なかった日があったのだ。
今度こそ叩き潰すと思っていたのに、何時まで経っても来ないのだ。あのときは酷い肩透かしをくらった気分だった。
毎回かけられた声も無視して立ち去っていた俺が悪いのも解ってはいるが、憤死しそうになったのでそれからは一応予定を合わせる様にしている。
振り返った先で浮竹はにこやかに手を振っている。
完全に俺を舐めてやがる。
「いいか!てめぇは俺が近い内に叩き潰す!毎日その首洗って待っていや――びゃあぃっ!」
ななな、なんっだ!?
いきなり後ろから両脇に何かが突っ込まれた。
これは、手か!?
「うひぃっ!」
その大きな手のひらが脇から胸全体をを包み込むように閉じられる。そしてそのまま持ち上げられたのだ。
「うわっ誰だてめぇ!? 離せこの野郎!!」
「うーん? ふむふむ、なるほど」
指先がもぞもぞと動いてくすぐったい。
後ろにいるせいで顔や姿は見えないが手の大きさと持ち上げられている高さからしてかなり背の高い人物だとわかる。
「このっ! 俺は猫じゃねーぞ!」
身体を揺らし相手の顔面があるとおぼしき場所を踵で蹴りあげる。
「痛いっ!」
拘束が緩んだタイミングで身体をひねり相手の胸部を蹴って飛び退く。
「何のつもりだてめぇっ!?」
相手は顎を押さえて大袈裟に痛がってはいるが、多分演技だ。踵が当たる直前にこちらの身体を下げてインパクトをずらしやがった。それに脱出時の蹴りも身体を反らして衝撃を受け流していた、そもそも体重差からいって大したダメージにはならないだろう。
相対して解ったがこいつもかなりやる、浮竹クラスだろう。
自分達と同じ制服を着ているから霊術院の院生だと解るが……全く嫌になるな、こんな奴等が次々と出てくるんだから。
「京楽じゃないか!」
「やあ、浮竹さっきぶりだね。女の子達に浮竹が後輩と遊んでるって聞いてね、様子を見に来たんだよ」
コイツら知り合いかよ。丁度いい、こいつも越えるべき壁、俺の糧となってもらおうじゃねぇか。
「で、見に来たはいいんだけど……後輩ちゃん何か凄い獰猛そうな顔して嗤ってて怖いんだけど」
「はっはっは! 京楽も遊び相手に選ばれたみたいだね! 俺だけだと偏りも出てしまうだろうし、たまに見に来てくれよ?」
「あちゃ~、藪蛇だったかなぁ?」
これからも相手してくれるっていうならありがてぇ。取り敢えずさっきの礼に一発かましとくか。
老け顔の死角へと移動する。
いくぞ!
「死ねオラァ!」
ヤツの側頭部へとローリングソバットを叩き込む!
が、此方を見ることもなく避けられた。しかも攻撃を避けたというより日常のふとした動作をとったらたまたま当たらなかったといった感じだ。
本人は気付いているはずなのにそのまま浮竹と会話を続けていやがる。
「……ふっふっふ!」
完全にキレちまったよ……ッ!
いいぜそっちがその気なら否が応でもこちらを見させてやろうじゃねぇか……そのこちらをおちょくってるその態度、絶対に改めさせてやらぁ!
うおぉぉぉっ!
………………
…………
……
「おっ、いいぞ! そこだっ! 頑張れ!」
それから暫くたったが、浮竹は少し離れたところで腰を降ろし、俺の応援している。
バカにしてんのか? 割りとアドバイスが的確だから頭にくる。
「ぜぇ……ぜぇ……っ!」
「おやぁ? だいぶキツそうだねぇ……。息上もがってるみたいだしそろそろお暇しても良いかい?」
何言ってもやがる、お情けだろうとやっとこちらに顔を向けさせてやったのだ……これからだろう?
「……良いわけ……はぁ……ねぇだろ……この、老け顔!」
「老け顔……」
「もうちっとばかし……付き合えよっ!」
一歩踏み出す脚がとても遅く感じる……遠いな……あと何歩必要なんだ?
これじゃアイツを殴る事なんかできない……全然ダメだ……もっと必要だ、強さが、速さが。
もっと強く! もっと速く! 一歩を踏み込め!!
―――ッ!
極稀に踏み入れることがあった時間の圧縮された世界。この領域にいてなお、景色が背後へと速く過ぎ去っていく。
あん? 何だこれは?
いつの間にかヤツが目の前にいた。驚いた様に少し眼を見開いている。
ふふっ、やっとだ! やっとこっちを、この俺を見たな!
だがこの近過ぎる間合いでは攻撃も何も出来ない、間に合いそうにない。
ならまぁ……体当たりでいいか。
一緒に地面を転がろうぜ? 無様になぁ!
「おっらぁ!!」
「――くっ!」
―――?
どうなってんだ?
もう指先一つ動かせる気がしねぇ……。
アイツは? アイツはどうなった?
視線だけで辺りを伺う。
直ぐに見つけることが出来た。俺の横に立ってこちらを見下ろしていた。
ああ、クソ……今のでも足りなかったのかよ。
空が、広いな……。
「……どうだ?」
「大丈夫そうだね、疲労で気絶しただけで特に怪我も無さそうだ」
怪我の有無を確認していると浮竹から声がかかった。
最初はこんなつもりじゃなかったんだけどな。浮竹が珍しく一人の後輩に入れ込んでいると聞いて少し様子を見に来ただけだったのだ。
「それにしても何で浮竹がこの後輩ちゃんに入れ込むのか解ったよ。面白いねこの子」
「だろう?」
「なんでキミが自慢気なのさ」
才は無いとは言わないが僕達よりはだいぶ下だろう。
だけどこの子は強くなる。才を補って余り有る強い向上心を持っている。それにその強固な精神とは裏腹に戦い方は柔軟だ。この短い遊びの時間でも段々と強くなっていくのがわかった。そして最後のアレは……。
「凄いねこの子、瞬歩まで飛び出してくるとは思わなかったよ……まだ一年だろう?」
「ああ――初めてが京楽で良かったよ。俺だったらもしかしたら怪我をさせてしまっていたかもしれない」
瞬歩した時は本人も驚いていたし意図したものではなさそうだった。多分初めてだったのだろう。
確かに相手が僕でよかった……まぁ浮竹でも大丈夫だったと思うけど。
もし衝突の衝撃を吸収し切れなかったり避けたりしていたら骨の一、二本は折れていただろう。
「そういえばこの子の名前は?」
「ん? あぁ、坂治真くんだよ。今は本人も気を失ってるからしょうがないけど、次に会ったときはちゃんと自己紹介してあげろよ!」
「わかってるよ。ふむ……坂治真ちゃん、ね……まぁたまに顔を出すくらいならいいかな」
さっきまでの獰猛な顔とは打って変わって、こうして寝ている顔は可愛らしいものだ。
「おっ、有り難いな。俺だけじゃどうしても体調がダメな時があるし、代わりに遊んでくれるなら助かるよ」
「僕としてはあと十年分くらい成長してくれたら、遊びがいがあるんだけどなぁ」
「十年もあったら俺達でもわからなくなってるかもしれないぞ!」
「うーん、そういう意味じゃないんだけどね」
今も中々見れる容姿をしているし、将来は美人さんになるだろう。
「じゃあそろそろ門限だし俺は坂治を寮へと運んでおくよ」
「そうかい?なら後は任せるよ」
「またね、真ちゃん?」