「暇だ……」
俺は真央霊術院でもう六回生、最終学年になってしまっていた。
浮竹や京楽と行っていた修行だが、最近はできていない。
二人共席官になっていたらしく、死神としての執務が忙しいみたいなのだ。そのため月に一度でも出来れば良い方である。
二人が卒業した後も夜一とは学年が近いこともありちょくちょく会えていたのだが、それもヤツが一足先に死神になった事と、家業の引き継ぎがどうたらで時間を取れなくなってしまった。
「はぁ……」
正直、講義は退屈だ。
知識が力になると知ってからは座学もちゃんと受けるようにしてきたが、やはり座っているだけなのは性に合わない。
最近では実技であっても院生、というか講師含めて俺とやり合うのには力不足になってきている。
たまに外部講師として席官の死神が来ることもあるが、頻度が少な過ぎてとてもじゃないがフラストレーションを発散しきれない。
かといって放課後に相手してくれるという奇特なヤツもいないのだ。
「………………」
ぼーっとしていても仕方がないか……。
俺は斬魄刀を抜き、ゆっくりと型を確認していく。
この六年間で積み上げてきた俺の技の集大成だ。
一年目の後半、浮竹と京楽が卒業する直前からは鬼事+組み手だけではなく、斬魄刀も使った修行になっていた。
まぁ夜一とやる時は白打オンリーだけどな……アイツの斬術は色んな意味で怖すぎる。
俺の戦闘術は何度も闘ってきた三人の強みを自分なりにアレンジして取り入れたものだ。
俺の好みもあって攻撃の基本は白打だ。そこに浮竹から学んだ斬術による防御、そして京楽から学んだ戦局の誘導術を取り入れてみた。
今の俺の戦闘力ならばそこらの席官にも劣らないだろう。
だが、未だにアイツらに一本取れた事がない。
夜一の白打はそもそも俺を上回っているので正面から叩き潰される。
浮竹の斬術は見事なもので、どうやってもその防御を崩す事は出来なかった。
京楽は何と言うか……そもそも本気を出し切れない、というか出させてくれない。正面からぶつかりに行ってもいなされ気付けばクモの巣に捕まった蝶の様に身動きが取れなくなっていてる。闘いの組み立て方というか相手を誘導する技術が凄まじいのだ。
だが、いつか全員叩き潰してやる……!
心は今まで通り熱く苛烈に、頭は冷たく冷徹に勝利への道筋を組み立てる。
「ふぅ……」
一通りの型とそこからの変化の流れを確認し終えたが、集中してやれば実戦でなくとも疲れるものだ。
霊圧を身体の隅々、指先一本一本に至るまで巡らせて維持し続け、動きに合わせて霊圧の配分を変動させる。動きと霊圧を寸分の狂いも無く調律し、その動きを段々と速くしていく。
これの繰り返しだ。
心地好い疲労感を感じながら地面に身体を投げ出す。
もう少しで卒業か……。
目標を定めてからは短かく感じたな。あっという間の六年だった。
それにしても……
「どこにすっかなぁ……」
そろそろ配属先希望調査表を提出する期限が近付いてきているのだ。
家柄やスカウト等の特別な理由が無い限り、基本的には霊術院の成績と本人の適正を見て人数の偏りが無いように振り分けられるのだが、同じ様な能力の人物が複数人いた場合は今回の希望調査に基づいて配属してくれるらしい。
「うーん……」
特徴のある隊は一番隊、四番隊、十一番隊くらいだろうか?
一番隊は総隊長を近くで見られるというのは魅力的だが規律が厳しそうだから却下。
四番隊は回復専門らしいが後方支援とか有り得ないし隊長もどうせ弱いだろう、論外。
十一番隊は自称最強の戦闘集団らしい。一番好き勝手できそうだが、どちらかと言えば斬術至上主義者が多いらしいので白打主体の俺が十分楽しめるかは分からない、要検討。
他の隊は無難だったりで特徴が薄いのか、外にあまり情報が漏れてこないので決め手に欠ける。
そんでもって八番隊と十三番隊はアイツらがいるから却下だ。院生としてなら兎も角、部下としてアイツらの下とか我慢できそうにない。
後は隠密機動と鬼道衆だ。
隠密機動の刑軍は白打のスペシャリストが集うという事で惹かれるが、一番隊以上に規律が厳しそうだしノーセンキューだ。鬼道衆も鬼道苦手だし論外だな。
「……となると、やはり十一番隊か」
まぁ斬術至上主義者でも喧嘩できれば文句は無いさ。こちらも防御のために斬魄刀は抜くしな。
斬撃と違って白打ならそこまで気にしなくても早々死なねぇし、やっぱり直接打ち込める方が楽しいだろ。それに長く楽しめる。
調査表を出してきたのだが、教員はやはり十一番隊かって顔をしていた。まぁそこ以外無いし別の隊を希望していても多分十一番隊になるだろう。
やることもやってスッキリした気分で廊下を歩く。
さて、メシはどこにしようかね……。
「―――? ―――!」
「―――!?」
……あん? なんか騒がしい奴等がいるな。
「でねでね! 浮竹三席がね! 君の入隊を待ってるよって!」
「「キャーー!」」
「いいなー私も浮竹三席に声かけられたいなー」
「浮竹三席イイよね! 怖そうな人が多い席官の中で凄く優しくて人当たりが良いし長身で格好いい!」
「うんうん! それに病弱で少し影がある感じがたまらない!」
ほー、アイツいつの間にか三席までいってたのか。こんな短期間でやるもんだな。
……って、なんか煩いやつの一人がこちらを見てるな。面倒臭ぇ予感しかしねぇ……。
「あれ? 君どこの子? 何回生? 大丈夫? ちっちゃくて可愛いねー」
「あっズルい私にも触らせて! うわっ髪の毛サラサラ!」
「―――! ―――!」
「―――!?」
「…………六回生、だが?」
「「ひっ、失礼しましたー!」」
職員室へと逃げていく後輩達。
「はぁ……」
稀にこういう事があるのだ。
俺の体格は一回生の時から殆ど成長力しておらず、小さなままだ。周りの人や建物等からの推測だが、もしかしたら140cmを越えていないかもしれない。
自分の見た目については不承不承ながらも理解はしているつもりだ。いつもであればこうなる前に場を離れているのだが今回は浮竹の話題が出ていたせいで遅れてしまった。
相手が男ならガキ扱いされた時点で地面に転がしているのだが、勘違いして世話を焼きに来た女に手を出すのは流石に気が引ける。
……この誰にもぶつける事のできないイライラを、俺はどうすればいいのだろうか?
「飯、行くか……」