提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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初投稿です。どうぞよろしくお願いいたします。艦これにドハマりして、書こう書こうと思っていた艦これ小説をついに書くに至りました
基本的に暗い話、痛々しい艦娘の描写があります。それでも興味がありましたら読んでいただければ幸いです

2018/10/07 台本形式をやめ修正しました


第一話

ショートランド海戦。それはショートランド泊地の艦娘100人余りと深海棲艦1000隻とが三日三晩に渡る激しい戦闘の末見事に艦娘側が大勝利を収めた未曽有の艦娘と深海棲艦との激戦であった。両者ともに引かず、ここを越えられては本土が危機に瀕してしまう最悪の状況を見事打破し、深海棲艦の軍勢を壊滅。しかし、泊地及び艦娘にも甚大な被害が生じ、艦娘はわずか1名を残し轟沈。泊地は壊滅的な打撃を受け、二年経った今でも復旧のめどは立っていない

 

ショートランドで艦娘を率いた提督は国を一人で救った稀代の名将と呼ばれ、一時は話題に事欠かなかったが一度たりともメディアには姿を見せなかった為か、この名将と呼ばれた提督はすぐに人々の記憶から消えた。ショートランドの激戦も、国を守った艦娘のことでさえも…

 

 

………

 

 

2年後 日本国海軍大本営 食堂

 

 

ここの食堂は職員も、出張で訪れた各地の提督も。そして艦娘も分け隔てなく食事が可能だ。そして、いつも人があふれかえり今か今かと自分の料理が早く出てこないかを待つ。なぜならこの食堂の料理は一度食べたら病みつきになるほどのうまさの料理が出てくるからである。特に、大人気はふわとろ卵のオムライス。これを食べた者は皆、禁断症状が出るほどの病みつきぶりだという

 

 

「はいよー!オムライスお待ち!今日はシンプルにケチャップだよ!」

 

 

威勢よくオムライスを女性職員に差し出す男。名前は三条玲司(さんじょう れいじ)。性格は大雑把だが面倒見がよく、誰からも慕われる存在であり、この食堂の人気料理を出す第一人者だ。今日も元気よく職員に、提督に、艦娘に。多くのオムライスを振る舞う

 

 

「うわあ、おいしそう!玲司君のオムライスが食べられるなんて感激だわ!」

 

「ほんとほんと、三か月ぶりよ!もう、ずーっと食べたかったのよね!」

 

 

女性職員二人の歓声を笑顔で見送る玲司。今の彼はこの誰彼問わず、自分の料理を食べて笑顔になってくれることが最大の喜びであった

 

 

「おう、玲司!ご苦労さん!そういやあ古井司令長官が手が空き次第、長官室に来いと言っていたぞ。お前、何か悪いことでもやらかしたんじゃねえだろうな?」

 

 

「勘弁してくださいよチーフ。俺は料理一筋、まじめに働くただのコックですよ。そりゃあチーフにまかないで出したオムライスの卵はちっと古いやつを出したことはありますけどね」

 

 

「何い?この野郎!ハッハッハ!おもしろいことやってくれるじゃねえか!まあ、お説教はあとだ。司令長官様がお待ちかねだぞ?もう流れはだいぶ減ったから、行ってこい。せいぜい怒られないようにな!」

 

 

ふりふりを手を振って調理室から出て、とりあえず大本営職員用の制服に着替え、長官室へ向かうことにした。どうせ総理大臣が視察にでも来るから、なんかうまいものでも豪勢に振る舞えだとか、そんな話だろう。そんなことを呑気に考えながら、歩きなれた大本営を歩く。その考えが全てまったくの見当はずれであり、予想もしない話が降りかかるだろうとは考えもせずに

 

 

/大本営 司令長官室

 

初老の男が忙しそうに書類に手を伸ばしては、難しい顔でそこに書かれた文章を読み、判を押す。その横ではこれまた忙しそうに書類を整理し、丁寧にまとめていく美しい女性の姿。高雄型重巡洋艦1番艦「高雄」だ。彼女は司令長官の長年の秘書艦であり、阿吽の呼吸で数多くの書類や問題を処理するベテランの艦娘である。司令長官、古井総一郎(ふるい そういちろう)の娘のような存在である

 

 

コンコン

 

 

ドアがノックされる。やれやれ、また何か問題でも降りかかるのだろうか、と二人そろってため息をつく。一息おいて、古井司令長官が声をあげる

 

 

「どうぞ」

 

 

短い返事とともに来訪者を待つ。はてさて、それは一体何者か?幸運の女神か。それとも疫病神か。

 

 

「失礼します」と言う声と共に入ってきた者の正体は、古井が長年面倒を見てきたこれまた息子のような存在。かつて彼の父親とは、共に戦い海を守り抜いた戦友。その亡き後、子供のいない古井夫婦にとって本当の息子のように面倒をみてきた。その息子、玲司がやってきた。

 

 

「三条玲司、司令長官の出頭命令により参上致しました!ご用件は何でありましょうか?」

 

「玲司。今は見ての通り高雄しかおらん。楽にしなさい。お前にどうしても頼みたいことがあってな」

 

 

「頼み事ですか?まーた見合いの話じゃないっすよね?ありゃもうこりごりですよ、おやっさん」

 

「はっはっは!お前には見合いでの結婚なんぞで縛れるとは思っておらん!ありゃどうしても誰かをとあまりにもうるさかったからな。お前を当てておけばすぐに流れて破談になると思ったわい。そうすれば私の顔も立つし、見合いもできたと向こうも喜んでおったわ」

 

 

「まあ、長官…女性の一生を決める大事な話をそのように適当な…玲司君もです!もっとしっかり見てあげなきゃダメよ!馬鹿め!と言ってさしあげますわ!お二人とも」

 

 

「おいおい、勘弁してくれたまえ高雄君。仕方あるまいよ。1年もどうかと頭を下げられる私の身にもなっておくれよ…」

 

「まったく…女心をわかってないのだから…」

 

「ハハハ…。ところで、何の用ですか、総一郎のおやっさん。まさか俺に高雄さんに説教させるために呼んだんじゃないでしょ?」

 

 

「うむ。そうだったな。これを見なさい。横須賀鎮守府の資料だ」

 

「横須賀?四大鎮守府じゃないっすか。……」

 

 

パラパラと資料を読めば、恐ろしい事実がずらりと並んでいた。玲司は目を疑った。曰く

 

 

・提督を含め、憲兵、整備士、鎮守府に携わるすべての人間が艦娘に非道を行う

 

・日常的に暴力、精神的苦痛、性的暴行を行っていた。

 

・大破進撃、轟沈が日常的に行われ、その報告を虚偽の報告でやり過ごす

 

・中破、大破した艦娘は入渠もさせてもらえず放置

 

・食事は古く乾いた米など。現在はレーションを食している

 

・近隣の商店に対し、強請り、集りなどの脅迫行為を艦娘に強要

 

 

「なんだ、これ…これがあの華の横鎮の実態か…」

 

「日常的に…実に1年もの間行われていたことだ。彼女たちにとっては、地獄だ」

 

「ブラック…鎮守府。昔から変わらない。しかし、横須賀でこんなことが横行するほど、提督の質は落ちてるってことですか」

 

 

「情けないことに、あちこちで、な。艦娘は道具である。従って何をしても構わんと思う輩が増えてしまった。今もどこかで同じ目に遭っている艦娘がいるかもしれん。そこでだ、玲司。私の権限を用いて、かつて提督として執務を行っていたお前に横須賀鎮守府を任せたい。お前を提督に戻すのは私もしのびない。しかし、艦娘に好かれ、艦娘を誰よりも愛したお前だからこそ、もはや身も心もズタズタにされてしまった彼女たちを救うのは玲司、お前しかおらんと思っている。お前には酷な話やもしれん。だが、頼む。横須賀の残った艦娘たちを救ってほしい…頼む。『ショートランドの英雄』三条玲司提督」

 

 

………

 

彼の脳裏には、救いたくても救えなかった艦娘たちの姿があった。傷つき、誰も彼もが海に沈んでいく。差し出した手は泡沫を掴み、僅かな感触を残して拾い上げられず、皆死んだ。

 

 

何が英雄だ。俺は何一つ救ってなんかやれなかった。大切な奴らを守れないくらいなら提督なんざ願い下げだ!

(提督。生きてくだサイ。そしテ…また別の私たちを愛してあげてくださいネ…ワタシはいつでも、提督を見守ってるネ…)

 

 

無理だ。俺にはお前たちは守れない。救えない!

(ダイジョーブネ。提督はすごい人ヨ。きっと守れるよ。だって、私たちの提督なんだから)

 

………

 

 

「今度こそ、守れるだろうか…。この子たちを」

 

「……きっと大丈夫よ。貴方なら」

 

「………」

 

 

高雄がポンッと肩に手を置く。迷ってはいられない。

 

「無理にとは言わん。少し時間をや「いや、時間がない。おやっさん。やるよ。横須賀の提督。一刻を争うんだろ?」

 

「う、うむ。玲司、お前には酷なことを言ったかもしれん。だが、もはや信頼ができ、頼れるのがお前しかおらん。すまんな」

 

 

「なーに、おやっさんの頼みなら断れないっすよ。三条玲司、謹んでお受けいたします」

 

「うん。うん。三条玲司。貴官をこれより横須賀鎮守府の提督の着任を命ず。己が職務を全うせよ」

 

「はっ!」

 

 

美しい敬礼を以って応える。こうして玲司はすぐさま横須賀鎮守府への着任を急ぐことにした。

 

 

(急がないと、救えるもんも救えねえ!)

 

 

………

 

 

食堂のチーフや仲間たちにもすぐさま別れの挨拶をする。一瞬戸惑った彼らも、玲司がかつて提督をやっていたことも全て事情は知っている。それでも寂しさをこらえきれず、チーフも同僚も泣いた。餞別にと艦娘にお前の得意なオムライスを腹いっぱい食べさせてやれと米に卵に肉に…どっさりと食材をもらってしまった。またここに来たときは何かお礼をしないと…律儀な彼はそう思いながら別れを告げた

 

 

/横須賀鎮守府

 

 

「本日、新しい提督がここに着任されるそうです…」

 

 

軽巡大淀の一言に多くの艦娘のどよめく声があがる。無理もない。つい一か月ほど前まで人間に語りたくもないようなひどいことばかりをされてきたのだから…

 

 

「ハッ!またあたしたちを慰み者にしようってか?ふっざけるな!」

 

怒りを露わにし、ガァン!と性格のきつそうな艦娘。重巡洋艦摩耶が食堂の椅子を思いきり蹴飛ばす。怒りはわからなくもない。

 

 

「ううう、また…痛いことをされるのです…もう、嫌なのです…いっそ、暁ちゃんみたいにころs」

 

「待ちなさい電。それ以上は言わないで」

 

 

気の弱そうな小さな少女、電とツインテールの黒髪が美しい艦娘五十鈴が泣いたり窘めたりと忙しい。

 

 

「…私が出迎え、何かされそうなら私が身代わりになります…それが、最善でしょう」

 

「大淀、お前またそうやって…くそっ」

 

「いいんです…皆が無事ならそれで…それに、今回の提督が安久野提督のようにひどい人とは限らないでしょう?」

 

「その前の葛井だって本当にクズだったじゃねえか!今回だってクソみたいな奴に決まってる!」

 

 

「…ううう…うえええええん!!」

 

摩耶の怒鳴り声に驚いた電が泣き出す。

 

「い、電!わりい…大きな声出して…」

 

 

「ですが、大淀ちゃんの言うことにも一理あります。今度こそ、良い提督だったら良いのだけれど…」」

 

給糧艦間宮が大淀の言葉に賛同する。しかし、それは希望であるがために現実はどうなるか…わからない

 

彼女たちの精神はもう限界だった。藁にもすがる気持ちで、1300。提督を迎えに行く時間になった。大淀はひょこひょこと、あらぬ方向へ曲がっている左足を引きずり、玄関へと向かう

 

 

(お願いします…どうか、どうか優しい提督でありますように…)

 

 

かくして、彼と彼女たちの物語の扉は開かれた。この先、彼と彼女らが新たな伝説を作ることになろうとは、誰も思いなどしないままに…




今回艦娘はほぼ出てきませんが、次回から登場します

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