提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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おかげさまで拙作も無事に100話を迎えることができました。話数を数えて間違えてしまって、記念に翔鶴とのダダ甘話が101話目になってしまうと言う盛大なミスをやらかしましたけど…。

今後も三条玲司と艦娘たちをどうぞよろしくお願いします。


第百話

花見も終わり、いつもの日常に戻った横須賀鎮守府。変わらない日常が過ぎて平和な鎮守府。緊急の出撃命令もなく、鹿島と龍驤。そして島風が加わった演習の日々が繰り返される日々。島風が加わってより賑やかな駆逐艦たち。

 

「おっそーい!早く追いつかないとー!」

「朝潮、先に島風を捕まえた方が今日のカニクリームコロッケを1個もらうってのはどうだい?」

 

「……そんな誘いには乗りませんよ」

「じゃあ、デザートのアイスを半分追加」

 

「………朝潮、行きます!!」

 

結局朝潮も響も捕まえることはできず、たまたまその話を聞いた雪風が捕まえようと躍起になり、追いかけている最中にたまたま浮上したゴーヤに気づかなかった島風がぶつかり、あえなくタッチ。朝潮と響は雪風に2人の大好物のカニクリームコロッケを差し出すことになった。

 

「2個も食べられないので半分に切ってお返しします!」

「雪風、君が女神に思えるよ」

 

「雪風さんの優しさに、この朝潮、感服しました!!」

「みんなで食べるともっとおいしくなります!」

 

みんなで食べる晩ご飯。今日も平和に1日が終わる。

 

 

世間はゴールデンウィークに突入した。そんな時に、ある人物がようやく今か今かと待ちわびた横須賀鎮守府にやってきた。玲司を目の敵にし、大淀の頭を痛めた彼女。牛乳瓶の底のような分厚いレンズのメガネ。やや目が隠れるくらいの前髪。そして小さな身長に見合わないほどの豊満な胸部装甲…。新米女性提督「七原すみれ」がやってきたのだ。

 

タクシーの運転手にペコペコと頭を何度も下げ、タクシーが見えなくなるや否やキッとメガネ越しに横須賀鎮守府を睨む。

 

(やっと来れた…やっと来れたよ…!待っててね。今すぐ悪事を暴いてみんな助けてあげるからね!!)

 

大きな目標を胸に睨んでいると、艦娘が出迎えてくれた。2人の巡洋艦。

 

「初めまして、七原提督。遠いところお疲れ様です。今日は私大淀と」

「神通が提督のところへご案内致します」

 

大淀と神通だ。思った以上に身なりがきれいである。想像ではボロボロクタクタの服に、汚れが目立つと思っていたのに。心なしか、いい…これは薔薇の香り?までしているじゃないか。神通と目が合う。彼女の目はとても強い力を持っているのか、まるで射抜かれそうであった。思わず一歩引いた。

 

(この神通ちゃん…すごい目で何か訴えてくる…そうか、提督に聞かれたら困るから…目でわたしに助けて!って言ってるんだね!)

 

実際には単に彼女が自分の提督に危害を加えそうなのか、安全なのかを見極めようとしていただけなのだが。神通はどうにも敵意があるように思ったのだ。大淀と事前に話していたのだが、敵意がありそうと言うことであれば、自分は離れようと言っておいた。だが、何となく提督に危害を加えるかもしれないと思い、大淀と共に歩き出そうとしていた。

 

「ありがとう、2人とも。今日一日、よろしくお願いします」

「あたいは涼風さ。一応提督の秘書艦。よろしくな!」

 

神通の目力にやや押され気味の七原提督と、元気いっぱいに手を上に伸ばしてニカっと笑う駆逐艦涼風。対象的な2人だ。神通が去らないことで、2人への警戒心が増す。もともと電話で話を聞いていて警戒心が働いている大淀。仕方がないとは言え、視察に気が進まない…。

 

「では、参りましょうか」

 

妙な気迫に押されている大淀をフォローするように、神通が案内を始める。それと同時に、ようやく実態を確かめることができると強く強く一歩を踏み出した。

 

 

七原すみれ。学生時代のあだなは思い込んだら突っ走りっぱなし。「暴走特急」…この凄まじい思い込みによってどこまでも人の話も聞かず、暴走し続ける性格ゆえに数多の大失態をやらかしているのである。そして、それはこの横須賀鎮守府でもやらかしてしまうのだった。

 

 

(???あれ?何だかすごく鎮守府の中、きれいじゃない?)

 

あまりにもきれいな鎮守府の中。掃除も手入れも行き届いている。壁も、床も手入れがいきすぎているほどだ。妖精さんがあちこちを飛び回り、鼻歌を歌いながら床を張り直していたり、掃除をしている。

 

「へー!ピッカピカだなぁ!あたいたちの泊地よりきれいじゃねえか!あはは、妖精さんかわいいなー」

 

「ありがとう、なのです!」

「わたしたちにほれるとけがしますですよ」

 

「へへっ、いいなー!」

 

涼風がドヤ顔を決めている妖精さんと遊んでいる。注意しようかとも思ったけど、そこに大淀まで加わっているから迂闊に声がかけられない。

 

「よ、妖精さんは…あの、やらされているの?」

 

「わたしたちのおしごとです。ていとくさんはすきにやっていいといってくれました」

「だからすきほうだいやっているです。ていとくさんとのせいかつはたのしいですよ」

 

「いまおなかまがとしょかんをつくってるです。わたしたちはかんむすのみなさんのためのろてんぶろをつくったです」

 

「露天風呂!?いいなー!あたいたちのとこはせっまい風呂でさぁ!ゆっくり入れないんだ!ちきしょー!何だそれ!後で見せてくれよ!」

 

「とても良いお風呂です。ドックだけでなく、大浴場もあります。のんびり足を伸ばせてくつろげるお風呂です。提督が私たちの疲れを癒すために使えと」

 

「はえー!そりゃあ!?かぁーっ、提督ー!うちにも作ってもらうよう頼んでくれよー!」

「え、ええ?」

 

後で見てみますか?と言うとバンザイしてやったー!と大喜び。入る気だ…。いやいやそうじゃない!私たちはここの悪事を暴きにきたの!!そう涼風に胸の中で言っても通じるはずがない。

 

そんなやりとりをしつつ、七原提督はついに悪の根城にたどり着いた。それは執務室。そこに…この鎮守府の艦娘たちを虐げている…?提督に会える。やっとだ。やっと…この鎮守府の悪事を!

 

「提督、失礼します。七原提督をお連れしました」

 

大淀の言葉にどうぞ、と返事が来る。もう一度大淀は失礼しますと言って入室し、七原提督と涼風も続く。中にはここ数ヶ月会いたくて仕方なかった提督、三条玲司提督がにこやかな笑顔で歓迎してくれた。

 

「ようこそ、七原提督。横須賀鎮守府の三条です。今日はよろしくお願いします」

 

爽やかな青年だ。こんな提督が、卑劣な…ことを!

 

「三条提督はあなたが思うような大悪人ではありませんよ」

 

玲司を睨みつけようとした途端、誰かが声をかけてくる。スッとソファーから立ち上がり、眼鏡を掛け直し、笑みを浮かべている見覚えのある銀縁メガネの青年…。

 

「い、一宮提督!?」

「お久しぶりです。三条くんと同じ意見です。お手柔らかに。ふふ、冗談です」

 

な、なんで一宮提督がここに!?一宮提督は彼女の憧れ、と言うか密かに気になっている提督だ。ぶっちゃけて言えば、七原提督の王子様である。初めての大本営会議の際、緊張でガッチガチになっていた自分に優しくしてくれたのが一宮提督だった。優しい笑顔…そして低いけれど柔らかい声…。

 

「大丈夫ですか?初めてでは緊張するでしょう。私がそばに居ますから、落ち着いてくださいね」

 

あの時の笑顔が忘れられない。優しく私にいろいろと教えてくれてサポートもしてくれて…。ブルーリーフと言う人が時々発行している「提督特集」で一宮提督にスポットが当たった時なんて酒保にそれが届くと知った前日は興奮で眠れなかったくらいだ。きゃー!きゃー!なんでここに一宮提督がいるの!?ど、どどどどどうしよう!あー!あー!三条提督に何言おうかわかんなくなっちゃったよお!!!

 

「あー!一宮提督だ!うちの提督、一宮提督が大好きでさ、写真集とか持ってんだよ!サインしてあげてくんない?」

「す、すすす、涼風ちゃん!!!」

 

「私のですか?は、はあ。なぜか大本営でもねだられましたので、一応書けますが」

「ぶふっ」

 

三条提督が笑いをこらえている。三条提督がくれたノートの表紙にサラサラとサインを書いてくれた。こ、これは…家宝!家宝にします!

 

「横須賀鎮守府を俗に言うブラック鎮守府と言う話を聞き、大層激怒していたのを知っていましてね。そこに三条君が七原提督が何だかものすごく敵視していてどうしたものかと相談を受けたんですよ」

 

「はえ?」

 

変な声しか出なかった。どういうことなのかさっぱりわからない。まあ、一宮提督がいるおかげでもう何もかもがぶっ飛んでわからないんだけど。

 

「いい鎮守府ですね。艦娘の笑顔が素敵なところです。私も見習いたい」

「提督、なんか言ったらどうなんだよ?」

 

「ま、百聞は一見にしかず。鎮守府がどうなのか見てきてください。風呂に入るもよしですよ。大和!」

「はい、大和。こちらに」

 

大和!?一度だけ見たことがある。史上最強と名高い戦艦。その艦娘が目の前にまた!すごいすごい!背が高い!きれい!

 

「わあ!大和さんだぁ!すごーい!かわいい!きれい!強そう!」

「ちょいと、提督!」

 

ハッとなって小さくなる。し、しまった…一宮提督に戦艦大和…ついついはしゃいでしまった…。うう、は、恥ずかしい…。と、とりあえず、何かを隠しているかもしれないからしっかり視察して、正体を暴いてやる!

 

「案内は大和に任せてあります。ゆっくり回ってきてください。一泊されるんですよね?準備はできていますから、そちらも大和に案内してもらってください」

 

いってらっしゃーいとのんきに手を振って送り出してくれた三条提督。あーん、一宮提督も泊まるのかなぁ。ど、どうしよう、そのまま…そのまま一緒に…きゃー!きゃー!

 

「あ、あの、七原提督、行かれないんですか?」

「ほあっ!?」

 

また変な声を出してしまった。き、緊張する!一宮提督に加えて大和さんまで!!艦だった頃の大和の写真を曽祖父に見せられて、そして艦娘と言う私の英雄。そんな中で聞いた、艦娘大和が建造されたと!しかしその建造先が横須賀だった!変なことや無茶なことをされてないかとか。すごく気にしていたのに…。きれいな髪、優しそうな目。ああ、素敵…。

 

「は、はい。いきましゅ」

「提督、早く行こうよ。ボーッとしてんなよー」

 

「うふふ、では提督。行ってきますね」

「ああ、よろしく頼むよ」

 

私は廊下に出て大和さんの後ろをちょこちょことついていきます。大和さんはゆっくり、私の歩幅に合わせて歩いてくれる。優しいなぁ…。

 

「この鎮守府は…ひどいことや無茶な出撃なんてことは…」

「ありませんよ。夜警もたまに反応があったときは出たりしますけど、遠征も演習も夕方までです。3食ご飯もおいしいですし、お布団はふかふかで、なんと言ってもいつでも入っていいお風呂が素敵ですよ」

 

「お風呂!あたいお風呂が見たい!かぁーっ、露天風呂…たまんないねー!」

「もう、涼風ちゃん。お風呂は視察が終わった後よ?」

 

「ちぇ…」

 

くすくすと大和さんが笑っています。見てると余裕のない顔や追い詰められた顔もしていない…。あ、と大和さんが窓の外を指さすと…。

 

「ふふふ、摩耶ぁ、年貢の納め時だねぇ」

「ちぃ!囲まれたか…まだあたしは諦めねえぞ!!」

 

何してるんだろう。摩耶さんかな。最上さんが追い詰めて…。

 

「摩耶さんつかまえたぁ♪こちょこちょこちょ♪」

「うひっ!うひひひひ!しま、文月もいたか!あははひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

「摩耶!いつもくすぐられる恨みを思い知れー!こちょこちょ」

「うひーーーー!!!わ、わきだめ!ぎゃーーーーー!!」

 

「あ、あれは…?」

「横須賀流鬼ごっこです。鬼に捕まるとくすぐられるんです。文月ちゃんと摩耶さん、最上さんのくすぐりは地獄です…」

 

「お、楽しそう!あたいも五月雨やみんなとやろっかなー♪」

 

涼風ちゃんがわくわくと参加したそうにしてる。さ、五月雨ちゃん、大丈夫かなぁ。涼風ちゃん容赦ないし…。朝霜ちゃんも加わったらまずい気がする…。と言うか、ブラック鎮守府のかけらもない。

 

「確かに、ここはかつてはひどい提督が運営していました。私は存じませんが、聞いたときは涙が止まりませんでした。今もその時の傷痕がある子もいますし、別のひどい鎮守府から保護されてきた子もいます。今はみんな笑っています。三条提督のおかげです」

 

「どこをどう見たって、ブラックじゃねえよ、提督。だから言ったろ?会議で見たここの大淀さんの顔から違うってあたい言ったよ。ま、ここの艦娘に聞いた方が早いだろうけどさ」

 

「……話してくれるかわかりませんけど、聞いてみますか?ここが今、本当にひどい…いわゆるブラックなのかを」

 

頷くと鎮守府の中を探すのと同時に案内をしてくれる。きれいな薔薇や季節のお花を妖精さんが管理していると言う花壇。皐月ちゃんや文月ちゃん、摩耶さんたちがキャッキャ言いながら走り回る中庭。提督が植えたと言う小さな桜の木と大きな桜の木。お花見が楽しかったと大和さんが興奮していた。

人間を採用しないと言う提督の方針から、宿舎を一棟丸々大改造して作り上げたマンガや小説、図鑑なんかがずらりと並ぶ図書館。本は近所の商店街でもらったものや、提督の私費などで揃えられている。圧倒的にかんむすの娯楽施設ばかりだ。寮の談話室にはテレビやゲーム機なんかが置かれていたし…。

 

「すっげー!いいなー!あたいも横須賀に住もうかなー!」

「や、やめてよ…涼風ちゃんがいなくなったらわたし泣いちゃう…」

 

「いっ!?じょ、冗談だって、冗談!」

 

涼風ちゃんはわたしが初めて着任した時にとある事情で引き取った子で、ずっとわたしのお世話や秘書艦としてやってきた。うちの子は誰ひとりとして欠けさせまいと必死でやってきた。これで大丈夫かな。ごうちんしたりしないかな。いつも不安に囚われていると

 

「てやんでえ!うじうじしてねえであたいらを信じろってんだ!!」

 

こうやって背中を思い切り叩いて活を入れてくれる。わたしにはいなくてはならない存在。あ、いけない、泣いちゃう…。

 

「ちょちょちょ!提督泣くなよー!ちゃーんとあたいは提督のそばにいるからさ!」

「うん…グスッ」

 

わたしがメソメソしていると名取ちゃんだ。大丈夫ですか?とハンカチを差し出してくれた。優しいなぁ、なとちゃんは。

 

「ありがと…なとちゃん」

「なとちゃん?」

 

「あっ、ごめん…うちの名取ちゃんはなとちゃんって呼んでるんだ。いつもの癖でつい…」

「ふふ、かわいいですね。大和もなとちゃんって呼ぼうかしら?」

 

「ふぇえ!?い、いいですけど、なんだか恥ずかしい…」

 

大和さんもおちゃめだなぁ。なとちゃんがあわあわしてるのを見て笑ってるもの。そして、このなとちゃんこそが…かつてのブラック鎮守府を変えた子なんだとか。想像以上にひどかった。生まれてすぐに轟沈する艦娘。暴力。不衛生な寝床。たまたま本を読んでいた村雨ちゃんの顔の傷。なとちゃんが命懸けで大本営に訴えかけてようやく前の提督はいなくなった。そうして三条提督がやってきて、みるみると改善されていったんだそうだ。話し終えた時、わたしはボロボロに泣いてなとちゃんに抱きついた。

 

「う、ううう…などぢゃん…がんばっだね…」

「てやんでえちきしょうめ!んな、んなひでえやつがあるか!」

 

涼風ちゃんもボロボロ泣いていた。涙脆いんだ、この子。うんうんと聞いていたけど、途中からもうボロ泣き。わたしもだけど。全然ブラックじゃない。三条提督はむしろ…この鎮守府の艦娘を助けた人じゃないか…!なんて…こと!わたしはなとちゃんや村雨ちゃんにお礼を言って、大和さんに執務室に戻ると伝えて一緒に三条提督のもとへと戻った。

 

………

 

「すみませんでしたー!!!!」

 

七原提督は腰が90度になるほど深く頭を下げて部屋に入るなり謝りだした。なんだなんだと戸惑っていたが、一宮提督が言っていたように、自分がブラック鎮守府のブラック提督だと思われていたようで、全然違うかったと視察をしてわかったようで…。

 

「い、いや。自分はまったく気にしてません。疑いが晴れて何よりです」

「なとちゃん…いえ、名取ちゃんから事情は聞きました…三条提督が指示を出してあんなすごい図書館や花壇を…」

 

「ああ、図書館は指示を出したりしたけど、花壇は妖精さんが主に管理をしてるんですよ。摩耶や満潮が時々手入れしてますけどね」

「ええ!?妖精さんがあんな大改造を短期間でできるのもすごいですけど…」

 

「あたいんとこの妖精さんも見習ってほしいぜ」

 

それは一宮提督のところも同じらしい。ここまでやってくれる妖精さんはいないらしい。まあ小さい頃からずっといた妖精さんに呼応し、なぜかここまでたくさん集まって、好きにやらせているんだけど…まあ、大浴場は以前のくそったれ達が使っていたらしいものを壁を取っ払って補強し、艦娘が使えるようにしただけだし。図書館も部屋が狭くなるだろうからじゃあ作ろうと言ったらああなっただけで。と言うとあんぐりと七原提督は口を開けて聞いていたけども。

 

「はは、まあ一番頑張っているのは大和や大淀達艦娘なわけですから、ここは艦娘を優遇してもいいかなって。ああ、大浴場と露天風呂は人も入れますから、どうぞ七原提督と涼風も使ってください。よし、じゃあ一宮提督、飯食ってく?」

 

「それはありがたいですね。日向さんと食べて帰るとしましょう」

 

「やったー!風呂だ風呂ー!提督!早く行こうぜ!かぁーっ!熱いお風呂が待ってるぜー!」

「わあ!涼風ちゃん待って!」

 

小さな涼風ながら、パワーが漲っているのかずるずると涼風に引っ張られていく。女の子はお風呂が好きだなぁ。大淀も長いと2時間くらい入っていることもある。涼風もそんな感じなんだろうか。ううむ、また何か考えるか?ジャグジーでも考えてみるか。

 

「さって、じゃあ晩ご飯といきますかーっと。日向はいつまで風呂に入ってるんだ?」

「さ、さて…のぼせていなければいいですけど…」

 

………

 

「うおおおお!すっげー!すっげーーーー!!!」

 

ドックは自分の所と変わらないが、向かいにある大きな浴場。そして戸を開けると見える立派な檜の露天風呂。それを見た涼風ちゃんが大興奮。そのまま湯船に飛び込もうとしたが、ひょいっと誰かに抱え上げられてしまった。

 

「んなぁ!?だ、誰でい!」

「風呂に浸かるならまずは体を洗ってから。それが風呂に入るエチケットだぞ」

 

そう言ってゆっくり下ろされる。航空戦艦日向さんだ。あ、あれ?我が物顔でいるけど…?

 

「一宮提督のところの日向さんですよね?」

「そうだよ。風呂のルールは全国共通だ。体はちゃんときれいにしてから。そうでなければな」

 

「は、はあ…」

「ぽいぽいぽーい!鬼ごっこをした後のお風呂は気持ちいいっぽい!」

 

「夕立、声が大きいよ。あれ…涼風に…日向さん?日向さん、朝来てお風呂入ってたよね」

「ああ。一旦上がったんだが、また入りたくなってね。これで累計4時間は入っているな」

 

「あ、あはは…」

 

日向さんに苦笑いしていると後ろからむんずっと両胸を掴まれた。

 

「んにゃああああああ!?」

「て、提督!?」

 

「むむむ、時雨!この人のおっぱいすごいっぽい!手に収まりきらないっぽい!おおお、すっごい柔らかいっぽーい!潮ちゃんといい勝負?」

「ゆ、夕立ちゃん、私、そんなこと言われると恥ずかしいよぉ…」

 

「ひゃあああ!ひゃあああああああ!?」

「いつまで触ってるんだよ!」

 

夕立ちゃんは時雨ちゃんのゲンコツをもらってようやく離してくれました…。うちの夕立ちゃんとそっくり…。しかも私を提督と思ってなかったって言ってまた時雨ちゃんに怒られてる。夕立ちゃんいわく、すごいおっぱいっぽい。触らなきゃ損っぽい。とのこと…。ううう…そこに龍驤ちゃんが交じって、すっごいその…ガンを飛ばされて…。

 

「なんやこれ…何……これ?」

 

すっごい見られました。日向さんだっていいと思うんだけど、艦娘のとはちゃうねん、だそうです。日向さんと潮ちゃんと並んでいると龍驤ちゃん、白目剥きだしたんだけど大丈夫かなぁ。涼風ちゃんは気にもせず夕立ちゃんと泳いでたりしてるし…。う、うん。お風呂はすごい気持ちよかった。時雨ちゃんに頭を洗ってもらったり、夕立ちゃんに体を洗ってもらったり…。なんかセクハラ親父みたいなこと言われたけど。

 

お風呂から上がって食堂に案内されるとすごいいい匂い。駆逐艦の子たちや瑞鶴ちゃんまでハンバーグだー!って騒いでて、扶桑さんや五十鈴ちゃんも笑ってる。ああ、本当に平和な鎮守府なんだ。だからきっと、難しいキス島もチカラを合わせて頑張れるんだな。一宮提督もおいしそうに…。三条提督と仲良いんだなぁ。提督同士が仲がいいっていいなぁ。

 

「七原提督、機会があったらまた来てください。またごちそうしますよ」

「えっ、ほ、ほんと!?」

 

「ふふ。若者提督同士、仲良くやりましょう。ギスギスした人たちだらけでやっていくのも疲れるでしょう」

「そ、それは…そうですね」

 

「だから、俺や一宮提督、九重提督とで仲良くやろうってちょうど言ってたとこです。七原提督もよければ」

「よ、よろしくおねがいしまっ!いったたた…」

 

お辞儀したらテーブルに思い切り頭ぶつけたぁ…2人に笑われちゃったけど…失礼なことも何度もしちゃったのに…。で、でも…何かやる気出た!!よぉし、今度はうちにご招待しておいしいケーキを振る舞うぞー!

 

ベッドもすっごいふかふかでお日様の匂いがして…気持ち良くて涼風ちゃんとぐっすり寝ちゃった。横須賀鎮守府。ここを見習ってわたしももっともっと、艦娘のみんなの待遇をよくして行かなくちゃ!でも、今日はおやすみなさーい…。

 

………

 

こうして少しずつ、玲司が気づいていない中で、艦娘の待遇があちこちで変わっていくのであった。一宮提督は試しにお風呂を改善しようと思ったら温泉を掘り当てたとか。日向が入り浸るようになったとか。




話数を数え間違えると言うあるまじきガバをやらかし、九十九話と思ったらこれが100話でした(´・ω・`)
100話突破記念ということで、次回はここまでやきもきしていた玲司と翔鶴の続きを書いていきたいと思います。街へ出て2人きりのデート!お楽しみください。

それでは、また。

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