提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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ご要望がありました荒潮。そして司令官に心を開いた朝潮達のお話を予定を変えてお送りします。

以前雪風や吹雪達がやった駆逐艦の恩返し第二弾と言うことでどうぞ。


第百三話

「司令官に何かご恩返しがしたく、何かいい方法はありませんでしょうか!」

 

厨房で今日の肉じゃがを作るためのじゃがいもの皮むきをしていた間宮は、前にも聞いたことのあるようなことを朝潮から聞かれていた。大潮と荒潮がついてきていた。なるほど、駆逐艦の恩返し再び、と言ったところか。

 

「雪風ちゃん達も朝潮ちゃん達が来る前にやったことがあるわねぇ。提督がすごく喜んでいたわ。うんうん、そう言うことでしたら私もお手伝いしますよ」

 

「うふふふ、間宮さん。ありがとう、好きよ」

 

荒潮にそう言われると何だかドキッとする。この子の甘え方なのかな。この子達は保護されて来た時は誰にも懐いたりせずに姉妹で固まって部屋からも出てこず、扶桑や名取が協力してくれなければどうなっていたことか…。今は響や電と遊んで(?)いたり、鍛錬や遠征も真面目にこなすいい子達だ。

 

特に間宮が心配していたのは荒潮で、必要以上に怯え…誰彼構わず襲いかかりそうな手負いの猛獣のようだった。扶桑が何とかしてくれたがとにかくキョロキョロと落ち着きなく周囲を気にして常に周りの目を気にしていた。鍛錬には加わるがそれだけ。誰の雑談や遊びにも加わらず、なぜか食堂で羨ましそうに窓の外を眺めていたりしていたものだ。

 

「で、私まで呼び出してあの人に何か料理をってこと?ふーん、まあ…別に…あの人にはお世話になってるし、作ってあげないこともないけど…」

 

最後はブツブツと呟くように言っていた、大潮に(無理やり)引っ張ってこられた満潮。この子が何とか朝潮達をここに馴染ませようと努力を絶やさなかった立役者と言ってもいいだろう。すごい不満そうに言ってるけど顔は嫌そうじゃない。素直じゃないわね…と笑いそうになった。

 

「何を作るんでしょう?サンマ漁ならお任せください!アゲアゲでいきますよー!」

「今の時期にサンマは取れないわよ」

 

「えー…」

 

謎のサンマ推しをする子は大潮だ。朝潮と同じでビクビクおどおど。そんな感じだったが今ではいつも元気いっぱい。時々何かを悟ったかのような…諦めているかのような目をしている時があるけど…朝潮と響のドタバタに巻き込まれては鹿島に怒られたり罰をもらったりとちょっとかわいそうである…。

 

「サンマはちょっと季節外れですね…では、大人数でいっぱい食べられるカレーはどうでしょうか?作りやすくてちょうどいいと思いますよ」

 

「はい!間宮さん!私たち第8駆逐隊!全身全霊を持って間宮さんに教えを乞い、司令官へのカレーを作らせていただきたいと思います!!」

 

ビシィ!と最高の敬礼をするけど…堅い…もっと気楽にいかなきゃ…。

 

「朝潮。いい話を聞かせてもらったよ。私も参加しよう。私も司令官のおかげでハラショーな毎日を過ごせているからね」

 

「ひ、響さん……」

 

なぜか構える朝潮。朝潮の天敵…いや、ライバルの響だ。前提督のせいで非業の最期を遂げたはずの響。この子が電と共に帰って来たときは目を疑ったものだ。沈んでしまった艦娘が帰ってきた。これだけでも信じられないが、電が深海棲艦になってしまった響を艦娘に戻したなどと前代未聞だ。大本営にそんな報告はできない。ドロップしたと言うことにしているらしいが…。

 

「今回は勝負も何もない。私もおいしいカレーが食べたいしね」

「それが本音なんじゃない」

 

「まあ、司令官には感謝もしているしね。間宮さん、よろしくお願いします」

「なのです!電もお手伝いするのです!」

 

「はい。これなら人数もいるから大丈夫ね。皐月ちゃん達がハンバーグを作ったときのように、今回もおいしいカレーを作りましょうね」

 

「「「はーい!!」」

 

第8駆逐隊と第6駆逐隊の2人でカレー作り。よーいスタート!!

 

………

 

お手伝いさんは五十鈴、名取、阿武隈、神通。

 

野菜切り担当…朝潮、大潮、満潮、荒潮。お手伝いは神通、五十鈴。

ご飯担当…響、電。お手伝いは阿武隈。

肉、トンカツ作り担当…なぜかいつの間にか加わったイムヤ、ゴーヤ。お手伝いは名取。

 

野菜はとにかく多い。ハンバーグを作った時よりはるかに人数が増えている。イムヤとゴーヤもなぜかお手伝いに加わった。てーとくにおいしいカレーを作って褒めてもらうでち!とやる気満々だ。

 

「あ、あれ…皮をむいていたらタマネギがなくなってしまいました…」

「神通さん、タマネギの皮は茶色いのだけですよ」

 

「ドーーン!!」

「大潮姉さん、静かに野菜置いてよ!!」

 

「あらあら…目が痛いわねぇ…」

「ジャガイモ…ぴーらーってので剥けばいいんだろうけど、怖いわね…」

 

それぞれが野菜を切ったり皮むきを担当したり、役割分担をして大量の野菜を処理していく。満潮は日頃間宮の手伝いをしたりしているのでサクサクとこなしていく。

 

「荒潮、手、危ないわ。こうやって、ネコの手を作ればいいのよ。そうすれば危なくない。玉ねぎは目が痛くなるから気をつけて」

「はぁい。ネコさんの手?こう?にゃ〜」

 

「何してるのよ…」

「かわいいでしょう〜?ねぇねぇ、かわいいって言って、満潮姉さん♪」

 

「はいはいかわいいわね。まだ玉ねぎはいっぱいあるんだから早く切るわよ」

「ぶぅ、いじわるねぇ」

 

一時は仲が怪しいかもと言っていた満潮と荒潮だったがそんなことはなく、よく満潮に甘えている。根は甘えん坊で笑顔がかわいらしい荒潮。何だかんだと世話を焼いている満潮。仲のいい姉妹だ。

 

「うふふふ、荒潮の愛情たぁ〜っぷりのカレー、司令官喜んでくれるかしらぁ」

「そうね」

 

「満潮姉さんも、たぁっぷり愛情を込めるんでしょ?お粥を作ったりした時も、すご〜く愛情いっぱいだったみたいだし〜」

「そ、そんなのないわよ。普通に食べてくれたら私は別に…」

 

「あれぇ?おいしいって言ってくれるかな?ってすっご〜く真剣にご飯作ってたわよねぇ」

 

タマネギが転がって手を切りそうになった。

 

「あらぁ、満潮姉さん、危ないわよぉ?」

「あんたが変なこと言うからでしょ!?」

 

「うふふふふ♪満潮姉さんも司令官だぁい好きなのね〜♪」

「う、うるちゃいうるちゃい!」

 

ダンダン!!と荒っぽくタマネギを切る。荒潮はサクサクともう慣れたのか素早く切っていく。

 

「司令官じゃなかったら荒潮達はどうなってたかしらねぇ」

「まずここに来る以前に全員霞みたいにされてたかもね」

 

「そうねぇ…」

「そうよ」

 

そう言うと2人は無言だった。騒がしい声が聞こえる。

 

「神通さん!そんな包丁とにんじんの持ち方で、人の首でも掻っ切るんですか!?」

「神通さん、間宮さん、こうと仰っていましたよ!!」

 

人の首でも掻っ切るような格好でにんじんと包丁を持って、出撃の時と同じような顔をしている神通と、それを慌てて止める間宮と、お手本を見せる朝潮。神通は料理なんかやったことないし、戦いのこと以外はからっきしである。この間もなぜか八極拳の極意みたいな本をじっと読んでたり、その前は太極拳の本を読んでいたり。動きを実戦で使えないかと言うことばかりだ。でも甘いものは大好きで、たまにスイーツ図鑑のような本を読んでいたり、よくわからない。

雪風と折り鶴を作ったら途中でギブアップ。お花見の時のてるてる坊主でさえ、首が折れたような…。とにかく不器用である。見本を見せている朝潮も手を切りそうで心配だ。間宮がネコの手を教えても、集中しだすと手が開きだす。ああ、見ていて怖い!

 

「大潮、あなた皮むきうまいわね…」

「大潮にお任せください!」

 

一方で大潮は器用だ。第8駆逐隊で荒潮に次いで器用と言うか、荒潮と大潮は見たものをすぐに真似ることができる。大潮は朝潮のペースに巻き込まれると目立たないが、単独でだと自分のペースでやれるため、何事もうまい。ランニングも響と朝潮に邪魔されなければ…実は結構体力もあるし、神通の動きも真似ることができる。荒潮共々、鶴の折り方を一度見ただけで折った時は正直驚いた。

 

皮むきをピーラーを使ってするするとむいていく。五十鈴も駆逐艦の口のサイズに合わせてじゃがいもを切っていく。器用なコンビ。これは見ていてホッとする2人だ。

 

満潮は荒潮がこんなに陽気になり、まさか司令官に愛情たっぷりだなんて言うと思っていなかった。誰よりも人を憎んでいたはずだが…。

 

「あんた、もう司令官に愛情を込めるくらいにはなったのね」

「だってぇ、あんな真剣に裏切らないって言ってくれたらねぇ。あいつらとは目が違うもの。あの人に撫でてもらうとね、イライラがぜーんぶ飛んでいっちゃうのよ〜」

 

ニコニコと司令官のことを語る。荒潮の言うことは確かにある。どんなに不安でも、彼が寝込んでいて不安だった時も。撫でられて大丈夫と言えば大丈夫なんだと思う。電や雪風が言うし、荒潮も自分もすっかり撫でて欲しくてたまらなくなる体になってしまっている。

 

「水が冷たいな。手が痛い」

「妖精さんが井戸から水を引いてきてくれてるのよ。謎の技術でそのまま飲み水としても使えるって。でも、ここのお水を使うと本当にご飯がふっくらおいしく炊けるのよ」

「へ〜、妖精さんってほんとに何でもするんですねぇ」

 

「毎日おいしいご飯が食べられる妖精さんと間宮さんと司令官さんに感謝!なのです!」

「さあ、これでご飯を炊けばいいんだね。では、秘密兵器を用意。ウラー!!」

 

「響ちゃん!高速建造材は使わないからぁ!お鍋はかぶるものじゃありません!!!んんー!阿武隈の話を聞いてくださぁい!!」

 

なぜか鍋を被り、バーナーをかまどに向けているところを間宮と電に止められている響。相変わらず、フリーダムである。マッチを擦るがうまくいかず、またウラー!と言いながらバーナーに手をかけようとし、また間宮と阿武隈に怒られている。

 

「あらあら、お米班も楽しそうねぇ」

 

ケラケラ笑いながらタマネギを処理していく。間宮さんは気が気でないだろうけど…。裏切らない、見捨てないと頭を撫でてもらってから荒潮はよく笑い、よく話し、駆逐艦ともお風呂で背中の流し合いっこをしたりと明るくなった。積極的になった。司令官に「今日もがんばったわぁ」とよく褒めてもらいにもいくらしい。

 

「あははは!お肉を叩くの楽しいでち!」

「ちょっと!叩きすぎよ!」

 

「あの、もうちょっと優しく叩こうね」

 

ダンダン!と豚肉を叩いているゴーヤ。テンションが上がりすぎてバンバン叩いて潰れるんじゃないかと言うくらいである。イムヤが止めにかかる。満潮にはあの一枚の豚肉をどうするのかはわからない。たぶん、五十鈴や名取は知っているだろうけど。名取は白い粉や卵などを用意している。またきっとおいしいのを作るんだろうな。こっちも早く終わらせなきゃ。

 

もりもりとザルに入れられていく野菜の山。タマネギ。きれいに整っている。にんじん…ガタガタの大小様々なにんじんが盛られている。神通が包丁を持ったまますごい形相で「こんなはずでは…」とブツブツ言っている。じゃがいも。これまた大小様々だが、にんじんよりマシである。にんじんは玲司でさえ一口でいけなさそうな大きさのがある…。

 

「間宮さん、お肉も切れたでち!とんかつも準備オッケーでち!」

「皆さん、お疲れ様。さあ、これからカレーを煮込んでいきましょう!ゴーヤちゃんとイムヤちゃんはもうちょっと後で揚げていきましょうね」

 

はーい!と元気がいい。カレー鍋を2つ用意して、いつも通り辛口と甘口を準備。満潮と荒潮が切ったタマネギを色が変わるまで炒めていく。満潮と荒潮、朝潮と大潮でペアを組んで次々と野菜を入れ、次に肉も炒めていく。火が通ったところで水を入れる。

 

「まだ煮えませんか!?」

「大潮姉さん、まだ今水入れたとこでしょ…」

 

むむむ…と言いながらじーっと泡立ちもしていない鍋を睨んでいる。何がおかしいのか荒潮が笑い出した。

 

「荒潮?どうしたの?」

「うふふふふ!大潮姉さんったら、かわいいわねぇ」

 

「んふ…ふふふ、大潮ったら相変わらずせっかちなんだから」

「響さんみたいにバーナーを用意すれば」

 

「やめなさい!」

「あははは!大潮っておもしろい子ね」

 

五十鈴や名取に笑われても、なお大潮はじーーーっと鍋を見つめている。

 

「あー、おねえちゃんたちなにしてるのー?」

 

大和に抱かれて霞がやってきた。朝潮たち姉妹が集まっているのでなにをしているのか興味があるようだ。ててて、と寄ってくる。満潮と荒潮が優しく撫でる。

 

「んゆー」

「霞、今お姉ちゃんたちはぁ、霞たちのご飯を作っているのよぉ。今日はカレーよ〜」

 

「かれー!おねえちゃんたちがつくったカレーだぁ!やったぁ!」

「ふふ、火を使っていて危ないから、気をつけなさいよ」

 

「あい!」

 

元気いっぱい。朝潮も寄ってきて頭を撫でている。しばらく休憩しましょう、と間宮が言い、大和がそれじゃあと冷蔵庫から大和ラムネをくれた。シュワっとおいしい。

 

「うきゅー!ベロがぴりぴりしゅる…」

「ゆっくり飲むの。うん、いいわ」

 

「霞はどうしてここに来たの?」

「あのね…こわいゆめをみたの…かすみにね、いたいことしたり、いなくなっちゃえとか、わるいこだってこわいひとがいうの」

 

「霞、あんた…」

「そしたらね。あらしおおねえちゃんやあさしおおねえちゃんとね、やまとおねえちゃんやしれーかんがたすけてくれたの!だから、おねえちゃんたちにあいたいなぁって」

 

荒潮が霞を抱きしめた。霞は壊れた心ながらも自分を守るため、どうやら研究所での記憶は一切忘れているようである。しかし、蓋をしているだけであるため、何かの弾みで蓋が開き、顔を覗かせてしまう。しかし心で記憶を改竄し、朝潮たち姉と、大和や玲司が助けてくれたと記憶を改竄し、己を守っているようである。

大和や妙高にいつも霞はどうだと聞くと、夜泣きもなくなった。フラッシュバックと言って突如思い出してパニックになることもなくなったと言うが、やはり夢では思い出してしまうようでひどくうなされていることもあると言う。不思議と起きても泣かない。パニックにもならない。最初の頃はずいぶん酷かったのだが…記憶を大きく改竄しているようである。

 

「えへへ。あらしおおねえちゃん、つかれたの?かすみがよしよししてあげるね!」

 

震えながらも荒潮は泣くのを必死で我慢した。霞は壊れた心を直そうと必死なんだ、と思った。壊れた心は直らない。そう聞いている。これ以上傷つかないように。これ以上壊れないように。霞は戦っているのに、それなのに泣いてしまうのは霞に失礼だ。そう思った。それでもなお、この子は自分の心配をしてくれる。健気な子。優しい子…。

 

「ふふふ、お姉ちゃんは大丈夫よぉ〜!おいしいカレー、待っててね」

「あい!」

 

「霞はいい子ね。この朝潮もがんばります!」

「大潮もアゲアゲでいきますよー!」

 

「そうね。第8駆逐隊カレー、がんばらなきゃね!」

「私たち第6駆逐隊も忘れては困るな」

 

「なのです!」

「響ちゃん!?前髪はどうしたの!?顔も真っ黒…まさか!」

 

「妖精さんが思い切り吹けばいいみたいにやってたから真似したんだ。そしたらこれだよ」

「響ちゃんを止めれませんでしたぁ…」

 

「夕立の悪夢再来ね…」

「どうして駆逐艦の子は夕立ちゃんと言い加減ができないのでしょう…」

 

響の顔を拭きながら間宮はボヤく。夕立の時のように顔を真っ黒にした響。前髪も一部がチリチリになっているし…。ご飯の様子は…うん、大丈夫。ちゃんと炊けている。霞がドン引きしていた。

 

「ラムネか…ウォッカが…」

「………」

 

「ラムネも悪くないね、電」

「なのです…」

 

大和がにっこり怖い笑みを向けると響はおとなしくラムネをぐびぐびと飲む。迂闊なことは言えない。万が一鹿島にバレたら洒落にならない。いや、まあその時は朝潮を巻き込んで…。

 

「朝潮はそんな気はありません!」

 

心を読まれてしまった。最近挑発に乗ってくれない。もう少し捻りを…いや、自分だけ鹿島の罰を受けるのはコリゴリだ…。

 

「じゅわー!ひえっ、油がパチパチ跳ねるでち!」

「ほら、イムヤがやるわよ。あっつ!」

 

「ああ、イムヤ!大丈夫?」

「う、うん…いったぁ…」

 

油断した。跳ねた油が腕について…赤くなってしまった。

 

「水ぶくれにならなきゃいいけど…」

「平気よ、それにこうしてできた傷は、なんでかな。ドックで治るって思うんだけど、治したくないっていうか…」

 

「どうして?」

 

「だって、イムヤ達はこうして今を生きてるのよ?日常生活でついた傷ややけどって、うまく言えないけど、こうしたからつけちゃった。イムヤはドジねとか笑っていられるでしょ?よその潜水艦がこうして笑えない生活をしてるかもしれない。今ここにいるイムヤは楽しく生きてる。その今生きてるって瞬間を大事にしたい」

 

「イムヤは難しく考えすぎでち。確かにそうかもしれないけど、てーとくは優しいし、外れの慰霊碑でお休みしてる潜水艦みたいな扱いはしないって言ってるでち。楽しいことは傷がなくても思い出せるでちよ。ゴーヤは瞬間じゃなくて、これからも楽しくイムヤや、これから来てくれるかもしれない潜水艦や他の子とどうやって楽しむかを考えたいでち。うーんと、今じゃなくて未来まで楽しいことを考えることが生きるってことと思ってるでち!」

 

間宮は思い出す。潜水艦は本当に最後の最後、命の最後の一滴まで絞り取られ、無理な建造のために資材を取りに行かされた。ここにいるイムヤやゴーヤは、その子達が乗り移っているのではないかと言うほど、「命」を大切にしている。今一瞬を眩く生きる。未来をしっかり見据えて生きる。どちらも大事なことだ。イムヤの「今」。ゴーヤの「未来」。2人が合わされば、もっと眩しいものになる。この子達は素敵な輝くものを持っている。みんな、輝いている。その輝きを保つため、おいしい料理も大事なことだ。頑張ろう…間宮はそう思った。

 

「ふふ、イムヤちゃん、えらいえらい」

「な、何よ間宮さん、もう…」

 

「えへへ、間宮さん。くすぐったいでち」

 

いい子達。提督は彼女達の生活もしっかり守ってくれている。誰一人としてないがしろにしない。思わず涙が出そうになる。イムヤ、ゴーヤ、伊19ことイク。伊8ことハチ。疲れと絶望と。そんな顔でまるで幽霊のようだった。そして、人知れず帰ってこなくなり沈んでしまったのだと知る。今はまだイムヤとゴーヤだけだが、イムヤとゴーヤのただいまがとても嬉しい。いや、みんなのただいまは嬉しいが。

 

「さあ、そろそろいい頃合いね。ルーを混ぜていきましょうね」

 

明るく振る舞う。カレーのルーはいつもは玲司や間宮が作るのだが今回は市販のものだ。

 

「うふふふ、楽しみねぇ」

 

荒潮が嬉しそうに辛口の鍋にルーを投入。少しずつ溶かしていく。自分の心の氷を司令官が溶かしてくれたように。司令官は喜んでくれるだろうか?一生懸命作った。おいしいって言ってほしいな。隠し味などは一切入れない。シンプルなカレー。大潮が甘口のほうの鍋をルーを入れて混ぜようとしたが、勢いがすごすぎて鍋をひっくり返しそうだったので満潮がする。満潮は甘口が好きだ。荒潮はせっかくだし、司令官と一緒の味が食べてみたかったのだ。そして…。

 

「とんかつ揚がったでち!」

「ふふん、うまくいったわ」

 

「こちらも終わりました。と、言うことは…駆逐艦と潜水艦のカツカレー、完成ね!」

 

間宮がそう言うと大潮や朝潮、イムヤとゴーヤが大はしゃぎ。満潮はふう、と一息ついた。荒潮は満潮が今まで見たことのないくらいの笑顔をしていた。

 

「司令官を呼んでくるわねぇ」

 

1人で司令官を呼びにいくほど、荒潮は心を寄せているのか。司令官、そして満潮達、霞。それぞれに依存することで自分を保っている。絶対の信頼を置き、そうすることで心の平静を保っているんだ。裏切りや轟沈がひとたび起きればその時点で荒潮の心は瓦解する。そんな危険な綱渡りは…いい。また今度聞こう。どうしてそんな危なっかしいことをするのか。世話の焼ける妹だ…。満潮はもう1つため息をついた。

 

しばらくしてうふふふ!と、とても嬉しそうな荒潮となんだなんだと訳がわからなさそうな玲司がやってきた。

 

「はい、座ってねぇ。すぐ用意するからぁ♪」

 

響がハラショー。電がなのです!と言いながらご飯を盛る。富士山と思わせるほどご飯を盛り、間宮からストップが入る。満潮がルーをかけ、ゴーヤが切ったとんかつを乗せる。

 

「完成よ!味わって食べてよね!」

「司令官さん、みんな一生懸命作ったんです。召し上がってください」

 

「はひぃ…響ちゃんが自由すぎて疲れましたぁ…えへへ、おいしいと思いますよ」

 

五十鈴、名取、阿武隈もにっこり。みんな、玲司がカレーを口にするのを待っている。作ったみんなの視線を集めて玲司はゆっくりと口に運ぶ。ゆっくり噛み締める。ご飯を飲み込み、ルーをかけたとんかつをさらに口にする。サクッといい音…。

 

「うまい」

 

その言葉で朝潮達は一気にわぁっと大きな歓声をあげた。玲司の笑顔を見て一瞬ホッとした顔をして、玲司の腕にしがみつく荒潮。

 

「うふふふ、よかったわぁ!司令官、荒潮、辛口が食べてみたいの。だからぁ、あーん」

「結構辛いぞ、大丈夫か?ん、あー」

 

「ふふ…んむっ!」

「あーあ、そら見なさいな!はい、お茶!」

 

「司令官さん、電も食べてみたいのです!あ、あーんなのです!」

「ええ…」

 

そうしてなぜか、電、響、大潮とたて続けに食べさせて、いっせいにお茶を取りに行く。朝潮とイムヤは恥ずかしいから辞退。ゴーヤはわざわざ甘口をよそってきてちゃっかりスプーンを渡してきて食べさせてもらった。

満潮はと言うと…。

 

「い、いらないわよ!自分で食べれるったら!!ふん!ばっかじゃないの!?」

 

と毒舌が炸裂。荒潮に本当は食べさせてもらいたいくせにと言われると。

 

「うるさーーーーーい!!!」

 

いつもより子供っぽい満潮が見れて玲司も大笑い。やがてみんなが集まりだし、いつもの賑やかな夕食が始まった。賑やかな夕食。作ってもらった喜び。いろんなものを噛み締めて、玲司は夕食を楽しんだ。




駆逐艦と潜水艦の恩返しでした。心を開き、司令官に依存する荒潮は今はまだそうすることでしか心を落ち着かせられない、と言ったところです。誰かがいないと怖い。それをわかって受け入れる玲司。いずれは自立を促し、荒潮も一歩前へ出てくれれば。今はそんな感じです。

さて、次回は新艦娘が登場し、新たな問題が降りかかります。一難さってまた一難。玲司はどう立ち向かうのか。

それでは、また。

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