提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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久しぶりに登場する提督がいます。妙に強烈なインパクトを残した彼。敵か、味方か…。とんでもないことことをやらかしそうな予感…。


第百四話

西方海域。潜水艦に強力な戦艦、空母。さらに重巡や軽巡でさえeliteやflagship級が溢れかえる。奥に進めば対地戦力が必要になったりするなど、熟練提督でも手を焼く海域。ここを任された男がいる。最近、深海棲艦の活動が北方海域に次いで活発になってきたからである。

 

「提督。敵は殲滅したみたいだけど〜…大破が続出、どうする?進撃するぅ?」

「テメエ、大破が出たら退かせろって何度も言ってんだろうが。俺を試してイライラさせんじゃねえ」

 

「あら〜、こわぁい。眉間のシワ、増えちゃうわよぉ?」

「それを加速させてんのはテメエだ」

 

何がおかしいのかクスクス笑い、頭のわっかもクルクル回している。こう言う時のこいつは死ぬほど鬱陶しい。

 

「テメエら、撤退だ。さっさと帰ってこい。ったく、また落ち度さんか」

『………はいはーい!申し訳ございませんご主人様!ぬいぬいもですけど漣ちゃんも大破しちゃいましたー!』

 

「明るく言ってんじゃねえバカが。さっさと退け。沈んでも知らねえぞ」

『あれあれー?ご主人様はそれがお望みなんじゃないんですかぁ?』

 

駆逐艦「漣」の無線からこ、こら!とかやめなさい!と言う声が一緒に混ざる。あははは!と漣の笑い声がひどく不愉快だった。

 

「うるせえ。沈めると代わりを育てんのがめんどくせえんだ。俺は面倒が嫌いなんだ。とっとと帰ってこい。いいな。通信、終わる」

 

反論させまいと無線を無理やり終了させる。チッと舌打ちをしてドッカと自分の椅子に座る。机に足を放り出して。お行儀が悪いわぁと軽巡「龍田」に注意されてもうるせえとしか返さない。

 

鹿屋基地。刈谷克巳提督。その素行の悪さから、多くの軍関係者から敬遠されている。艦娘はすぐ轟沈させる。気に入らない提督や人間に暴力を振るう。命令無視。大本営の営倉に入れられたことも。そんな噂がどこから発生するのか、とにかく刈谷提督は凶悪で粗暴で危険であると言われており避けられている。

 

「不知火ちゃん、これで3回目ねぇ」

「命令を無視して突っ込みすぎなんだよ。旗艦の言うこときっちり聞いて動いてりゃやられねえんだ。それ無視して1匹でも多くの深海棲艦を潰そうとするからそうなる」

 

「命令無視は軍規に関わるわよ〜?そろそろ処罰が必要ね。私がやってあげましょうか〜?」

「テメエがやると後がめんどくせえ。俺がやる」

 

「そろそろ例の件、やっちゃうのかしら〜?」

「チッ、めんどくせえけどそれしかねえな。俺じゃ手に負えねえ。あいつんとこへ行かせる」

 

「そう〜」

「なんだ?何が言いてえんだ女狐」

 

「素直じゃないわね〜って」

「うるせえ。そんなもん、何年俺の秘書務めながら言ってやがる」

 

「はいはい。じゃあ、その書類を作ってくるわね〜」

 

刈谷提督に手を振って執務室を出る。廊下を歩く龍田を見るなり、ヒッと怯える声や影に隠れてしまう艦娘たち。刈谷提督と同様に龍田も鹿屋基地では恐怖の対象である。態度が悪い者、反抗的な者は龍田の教育的指導が入る。その指導の時の龍田の目を見た駆逐艦は、恐怖のあまりに泣き叫び、おもらしまでしてしまうくらいだった。故に孤独。仲のいい艦娘は1人もいない。

 

彼女は別の場所からここにやってきた。時を同じく、別の泊地で大本営の命令を無視し、問題を起こした刈谷提督と共に。彼は徹底的に艦娘に冷たい。だから彼に逆らうと解体される。大破したまま出撃させられ、轟沈させられて帰って来れなくなる。そんな噂が1人歩きしていた。

 

「龍田」

「あらぁ、何かご用?球磨ちゃん」

 

「珍しく提督から離れて何を企んでいるクマ?」

「企んでいるなんて…何も企んでないわ〜?ただ、ちょっと書類のお仕事ができただけよ〜」

 

「自室でやる書類なんて聞いたことねえクマ。そう言うことをするから龍田が部屋で書類仕事をするって言ったら駆逐艦がしょんべんチビるくらい怖がって近寄らないクマよ」

 

「あらあら、書類を書くだけじゃない?」

「解体処分リストに載せられて夜な夜な誰にもバレないように解体されるリスト。そんな噂が立ってるクマ。もちろん、球磨ちゃんがそんなわけないクマって言ってるクマ。お前の悪い噂の火消しも疲れるクマ」

 

「私の?そんなの放っておけばいいじゃない。そう言うことしてると球磨ちゃんもみんなが寄り付かなくなるわよ〜」

 

「そんなの言わせとけばいいクマ。球磨はお前の優しいところを見てきたクマ。前の場所で…捨て艦出撃させられてあと一歩で沈むところだったのを刈谷提督と龍田が助けてくれて、ここに連れてきてくれた。球磨が提督の命令に逆らってここに逃げたって言う謎の連帯罰で多摩が解体されそうになったのも、お前と提督が手を回して助けてくれたことも」

 

「そうだったかしらねぇ。もう忘れちゃったわ〜」

「お前は忘れても、球磨は生きている限り忘れない。多摩も。龍田が言ってくれた『もう大丈夫』って言葉。あれにどれだけ救われたか。少なくとも、球磨と多摩は…提督と龍田の優しさは、みんなにわかってほしいと思ってる」

 

「クマが抜けてるわよ〜」

「うるせえクマ」

 

以前の泊地から一緒にやってきている軽巡「球磨」と「多摩」の姉妹。まず龍田が命令を無視、さらに提督に薙刀のような艤装を向けたことで恐怖のあまり解体もできず、追放。大本営に引き渡され、大本営自体も手をこまねいていたところに刈谷提督が龍田を名指しして秘書艦に任命させた。

 

「こいつがいい。いい目してやがる。こいつを鹿屋に連れて行く。目上に逆らったもん同士、うまくやってけんだろ」

 

そう言って鹿屋基地にやってきた。彼の指揮ははちゃめちゃで、よく「俺の命令に従わねえなら即解体な」と言って聞かせていたため、ああ、こいつも同じかと寝込みを襲って海に捨ててやろうかとも思ったが…。無理やり急遽危険な海域に出撃させられ、帰ったら絶対殺してやろうと思っていたら、ボロボロの球磨。それもよく聞けば自分が追放されたところの球磨だった。

 

「どういうことかしら?あの球磨ちゃんが以前私がいたところの球磨ちゃんだって知ってて行かせたの?」

「へえ、そうだったのか。良かったじゃねえか、お友達助けられて。おい、これ大本営に送っとけ」

 

「質問に答えてくれるかしら〜?」

「ああ?知らねえよテメエの前の仲間のことなんざ。目障りだ。さっさと送れつってんだよ」

 

投げ捨てられた紙を拾いながら、絶対に殺してやると思ったが…。

 

建造報告書

建造 一隻成功 軽巡洋艦「球磨」

 

「ねえ、あの球磨ちゃんは…」

「ああ?俺がさっき建造してできた球磨だ。それ以上でもそれ以下でもねえ」

 

………さっきお友達のって言ってたくせに。それから、球磨が泣きながら妹の多摩を抱きしめているところも見た。

 

「あああああ!多摩…多摩ぁ…よかったクマ……」

「姉ちゃん痛いニャ…生きてたんだ…よかったニャ…」

 

それに対して提督は。

 

「ああ?いらねえつったからお話してこっちに回してもらったんだよ。軽巡、うちは不足してるからな」

「そう言うことよ〜」

 

嘘ばっかり。その提督が悪いことしているのを餌に脅して多摩をこっちに回すように強要したのに。彼は交渉だよと言っていたけど。そのことも後から徹底的に提督がその提督の悪事を調べ尽くして言い逃れできない証拠を押さえていたから多摩は解体を免れたとわかった。まあ、側でそれは見ていたし。そこから彼への見方が変わった。龍田もそれに付き合うことにした。

 

ここは提督の気まぐれでいろいろな所から艦娘を引っ張ってきている。あの横須賀の最悪の提督のもとからやってきた子もいる。その子はすっかり、提督のカウンセリングで横須賀にいたことすら、もう記憶にない。思い出させてはいけない。そう言ってゆっくり、時間をかけて…。提督が調べて、解体寸前だったり、捨て艦をさせられた艦娘を連れてくる。

 

自分はそのお手伝いだ。少しでもここでゆっくりできれば。心の傷を癒すことができれば。でも、あの人は天邪鬼だからすぐ嫌われることばかり言って。自分に近寄らせないようにして。なら自分だってそれを真似よう。なるべく姿を見せず、用件は簡潔に。怖がられてもいい。自分たちがいない間はみんな楽しそうにしてるから。

 

「損な生き方してるクマ。報われねえクマ」

「提督がいいなら私もそれでいいのよ」

 

「そんな風に龍田がなるなんて思ってもなかったクマ。不器用だなぁ、お前も提督も。優秀な球磨ちゃんはまあ…そんな提督と龍田を静かに見守ることにするクマ。ま、球磨ちゃんは人気者だから、あんまり龍田に関われないけど」

 

「うふふふ。このことは私と球磨ちゃんの秘密ね〜。じゃあ、はい。口止め料♪」

「わーい♪ってドーナツ1個でこんな大事なこと口止めさせるクマか!?」

 

「ごめんねぇ、お部屋にそれしかなかったの〜」

「ちぃ…今度多摩の分もよこすクマ。それで手打ちクマ」

 

「は〜い。じゃ、また機会があればお茶でもしましょうね〜」

 

にっこり笑って部屋に入っていった。

 

「なんだ、あんな笑う顔もできるんじゃねえかクマ」

 

頭をボリボリかいてとりあえずもらったドーナツ、多摩と半分こするか…と自分も部屋に戻った。ったく、どっちも不器用なやつ…。多摩とドーナツを食べながら話すことにした。

 

………

 

「あいつにばっかりそう言うの回すのはよくねえって思ってる。けどあれだろ?心のぶっ壊れた駆逐艦とうまくやってんだろ。だったら、それに賭ける。あいつならきっとうまくやる。そうだろ?」

 

刈谷提督は1人になった執務室で誰かに電話をしていた。龍田がいない時にいつもこうして自分を庇ってくれるある提督に電話をしている。電話の相手は佐世保の三好提督とが多いが、それは向こうからかかってくるだけ。反対に今の電話はいつもこちらからかける側。人を信用しない彼が最も信頼している男。

 

「ああ、悪いな。いつもこんな電話ばっかりで。あんたにそう言ってもらえたなら、俺も安心してあいつらを任せられる。けど、これは絶対に言うなよ。そうやったほうが都合がいいんだ」

 

『そうして奴にも敵意を向けられるぞ。不器用なことはせず、任せると言った方がいいんじゃないか?』

 

「いいのさ。その方が艦娘共も信頼感が増すだろ」

『………お前がそう言うなら俺は何も言わん。だが、お前を心配する俺の身にもなれ』

 

「へへ、心配してくれんのか。優しいなアンタ。じゃあそう言うことだから。龍田が帰ってくるとめんどくせえから切るな」

『ああ。またな』

 

「ああ。じゃあな、虎瀬の親父」

 

いつもは受話器を投げ捨てるように置くのだが、舞鶴の虎瀬龍司提督との電話だけはソッと静かに受話器を置く。信頼している虎瀬提督に、話し方はいつものような話し方だが、やや丁寧である。彼と古井司令長官にだけは丁寧である。信頼できる2人。むしろそれ以外は信頼していない。ああ、もう1人できたな。あとはその取り巻きも、いずれは信頼できるいい提督になってくれるだろう。

 

異動

以下の者。横須賀鎮守府への異動を命ず。

 

戦艦「山城」

駆逐艦「漣」

 

以上

 

丁寧な字で手書きだ。手書きの方が威圧感も増す。パソコンで打った文字も無機質で不気味に思うだろうが、手書きの方がまるで死刑宣告のように思えていいだろう。この場合はむしろ歓喜しそうなものであるが。それでいい。クソッタレみたいな提督のもとで閉じこもって生活するより、優しい提督のもとでのびのび過ごした方が成長もするし、強くなれる。

 

異動命令を出した山城は「金剛達のような高速戦艦でもなければ長門型のような高火力でもない中途半端なガラクタ」と言われ、満足な装備も与えられず、そのせいで出撃の度に大破し、罵られ、普段でもやや捻くれて暗い性格の山城がさらに幽鬼のようになっている。口を開けば「不幸だわ」はいつものことだが「死にたい」と言うようにまでなっていたらしい。山城の提督が大本営会議で山城を連れてきた時に…

 

「誰かこの死にたいってうるさい根暗を引き取ってくんないっすかねぇ」

 

と先輩提督にボヤいていたところをたまたま聞いていた刈谷提督が快諾した。顔面に本気の拳一発のおまけつきで。

 

駆逐艦「漣」は「不知火」と同じところにいた。何度も大破するもいつも不知火の側にいた。大破して冷たく罵られていると笑ってすいませーん!漣がポカしたせいでーす!とヘラヘラした態度が気に入らないのと、漣のせいで不知火も大破が多いことから2人揃って追い出され、大本営で指示を待っているところを刈谷提督が拾い上げた。漣と不知火を捨てた提督を散々罵ってやろうと思ったが、頭がキレるやつで、しかも奴と繋がっている。よく同期のライバル同士なんて言われているがヘドが出る。人間とすら思っていない。上官共々人の皮を被った悪魔だと思っている。

 

「申し訳ねえけど、三条、お前に託す。憎まれごと言われんのは慣れた。ま、うまくやるさ」

 

 

幸せにしてくれよ。

 

 

ふん、と自嘲気味に笑っていると。

 

「何かいいことでもあった〜?」

 

龍田だ。仕事が早い。嫌なところを見られた。

 

「何もねえ。できたのか」

「は〜い。できましたよ〜」

 

「そうかよ。これ、明日の朝に掲示板に貼っとけ」

「了解しました〜。漣ちゃん、怒るわよ〜」

 

「知るか。命令は絶対だ。それくらい艦娘ならわかんだろ。人間様の命令は絶対なんだよ、艦娘はよ」

「もう…」

 

バカねぇ…でもそんなあなたが好きになっちゃったから最後まで付き合うわ。そういつも心に誓っているのだ。あなたのその不器用な優しさを知ってるのは私だけよ。それが嬉しいのよ。そう思う。

 

「なんだ気色わりいな。またいつものこと考えてんのか」

「さあ?ふふ、今日はかわいそうだから一緒に寝てあげるわね〜」

 

「……好きにしろ」

 

いつものように拒否はしない。そういうところが好きなのよ。また熱い視線を刈谷提督に送ってしまった。今夜は盛り上がれるかしら?なんて思ってしまう。そんなことより、明日ここが大荒れになる時どうしようか、なんてこともすでに計算を始めていた。

 

 

「どういうことですか、説明してください」

 

牙を剥く、という言葉が正しいだろう。いつも朗らかに笑い、おどけ、みんなを明るい笑顔にさせる、おおよそ怒ったところが想像できない漣が、怒気を隠すことなく提督に噛み付いていた。

 

「どうもこうもねえ。お前と山城は横須賀へ異動。紙に書いた通りだ」

「納得できる事情がないならぬいぬいを置いて異動する気はないです。ぬいぬい…不知火と漣の関係はご存知じゃないんですか?」

 

「知ってるよ。だから何なんだよ。お前がいつも不知火を庇い立てするからあいつも好き放題するんだよ。だから、お前がいると不知火の成長の妨げになる。お前と引き離した方がいいんじゃねえかってな。それに今日もあいつ出撃だろ」

 

「しゅ、出撃させたんですか!?わたしがいないとどうなるかわからないんですか!?」

「思いあがんな馬鹿。テメエがいようがいまいが、あいつは必ず暴走する。わかんだろ?あいつはあのクソ野郎に破壊し尽くすまで止まらないロボットにされてんだ。お前がいようがいまいがそれは変わらねえんだ」

 

「…………ッ!!」

 

「山城はそんだけドンヨリされてちゃな。士気に関わんだよ。いつ何しても不幸だわの沈めてほしいだの言われりゃ鬱陶しいことこの上ねえ。邪魔になるから漣1人移すわけにいかねえからお前も行け。邪魔」

 

「………わかりました」

「あー…執務室が陰気くさくてたまんねえ。荷物そんなねえだろ?まとめてさっさと行け。出発は1500だ。余裕だろ今午前中だし。オラ、さっさと行け」

 

「………はい」

「…死ねばいいのに」

 

「あらぁ?提督にずいぶんなお言葉ねぇ……死にたい?」

「っ!」

 

2人とも出て行って5分。無言だったで漣が出て行った後を絶対零度のような目で見ていた龍田がようやく口を開く。

 

「お疲れ様〜。大変だったわねぇ」

「んなわけあるか。陰気くせえのとうるせえのがいなくなって清々するぜ」

「もう…またそういうこと言う」

 

「ま、あとは三条の奴に丸投げだ。俺はもう知らねえ」

「きっとうまくやってくれるわよ〜」

 

「何の話だ?」

「さあ?なんの話かしらね〜」

 

「ケッ、食えねえ女だ」

「食べたら猛毒よ〜」

 

「へっ、違いねえ」

 

そう笑いながら言う。龍田は静かに刈谷提督を抱きしめる。優しく、壊れ物を扱うように。

 

「お疲れ様…」

「ああ…お前もな」

 

ゆっくりと龍田の手を握る。こういう時の龍田はいい女だ。言わずともしてくる。よくわかってるというか、素直じゃない刈谷提督は腹が立つほど見透かされているな、と思う。憎まれ役も楽じゃない。それでも、次の異動先で楽しくやってくれりゃそれでいい。

 

「艦娘を想う気持ちはわかるが、暴力はいけないよ。君は本当に損な役回りを演じてからに…」

「こういう形でしか伝えられないんスよ。俺は」

 

「ふむ…提督にも避けられ、艦娘に怖がられ…それでは大変だろう」

「提督に避けられてなんざ知ったこっちゃねえッス。馬鹿が偉くなった気で艦娘こき使って正義の味方気取りなクソッタレばっかりなんで」

 

「では、艦娘は…」

「俺みたいな奴のあとに、優しい提督のもとへ行ったら安心感も増すんじゃないッスかね」

 

「損な生き方だね…道化を演じて、疲れてはいないかい?」

「ああ、優秀な秘書艦がいるんで」

 

「……ははは、君は本当に食えない男だ」

「どうも」

 

司令長官に損な生き方だと言われてもこう言うことしか思いつかない。それでいい。艦娘が向こうでいい待遇で喜んでくれるならさ。嫌われ役。必要悪はいるんだ。妥協してはいけない。徹底的に嫌われ者になっていれば、俺も好き放題できるから。

 

「提督〜、ご飯だクマ。今日は優秀な球磨ちゃんが作ってきてやったクマ。多摩も乾燥ワカメを水に戻すくらいは手伝ったクマ。食うがいいクマ。あら、お取り込み中だったクマ?」

 

「球磨、テメエいつもノックしろって言ってんだろうが。解体すんぞ」

「あら〜、お取り込み中っていうか、落ち込み中?」

 

「あー、なるほどクマ。じゃあ飯でも食って元気出すクマ!」

「お前ら出てけ」

 

ぷぷぷ、と笑っている球磨とニコニコと食べているところを見ている龍田。味方はいてくれる。なら、俺はまだ全然大丈夫だ。

 

 

午後になり、出撃していた艦隊から通信が入った。声が震えている。ああ、どうせあれだろと思った。

 

『て、てい、提督…最深部へたどり着く前に…その、不知火が…大破しました』

「そうかよ」

 

『いかが…いたしましょう…進撃しても構わないと不知火は言っています』

「………撤退しろ。あと不知火聞こえてんだろ」

 

『はい。不知火はまだ航行できますが。進撃でも構いません』

「航行できんのか。そうか」

 

『はい。ご命令を。必ずや勝利を掴み取ります』

「ああ。じゃあ命令だ」

 

 

お前、もううちにいらねえから。どっか行け。

 

 

能代の無線からなっ…と言う驚愕の声があがった。それは無視する。

 

「大破ばっかりして全然成果あげてねえじゃねえか。そんな奴が勝利を掴み取るって言って笑わせんな。テメエのせいでこの頃撤退続きってこと、わかって言ってんのか?戦果の邪魔になる。テメエはうちには不要だ」

 

『提督!それはあまりにも!』

「うるせえぞ能代。その命令無視ばっかりして大破する奴を横須賀へ連れてけ。んでそいつ引き渡したら帰ってこい。嫌ならまとめて横須賀の艦娘になるか?」

 

『………了解…しました……』

「じゃあな不知火。元気でやれや」

 

『了解しました』

 

通信を切ってふぅ、と溜め息をつく。

 

「お疲れ様」

「ああ」

 

「ほんと、嫌われることを言わせたら世界一ね〜」

「はっ、お褒めいただき光栄だぜ」

 

「ふふふ。横須賀でみんな、幸せになってくれればいいわね〜」

「さあ?俺はそのために横須賀へ行かせるわけじゃねえよ。いらねえから行かせたんだ。三条んとこは艦娘がまだ少ねえらしいからな」

 

「はいはい。そう言うことにしておくわね〜」

「ケッ。そうしろそうしろ」

 

こうして刈谷提督は3人の艦娘を横須賀へ行かせるのだった。不知火の件は瞬く間に鹿屋の艦娘たちに広がり、怒る者、恐怖する者など様々であった。中には提督に対して抗議しようと言い出した艦娘もいたが、この基地で年長者である球磨、多摩の説得で丸め込まれたり、龍田の存在を思い出して怯えてやめようと言い出したりして収まった。

 

(ったく世話が焼けるクマ。ま、大きな借り、まだ返しきれてないからがんばるクマ。でもこれ、ほんとのこと話したら超おもしろそうクマ)

 

いつかやってやろう。多摩と一緒に全部話してやろう。きっと提督の見る目が変わるだろう。まあ、この嫌われ方じゃ無理かもしれないけど、と密かに笑う球磨であった。

 

………

 

翌日、執務室に直接電話が。またうるせえのだろうな、と誰かは予想していた。

 

「提督〜、三条提督からお電話よ〜」

 

ほらきた。やっぱりそうだ。あいつのことだから絶対くると思った。

 

「はい?」

 

ぶっきらぼうというか、三条提督の怒りを加速させるような出方。たぶん、電話をかけてくる前から怒り心頭で電話をかけてきてるだろう。そこにさらに油を注ぐ。

 

「ああ、お前んとこ艦娘少ねえんだろ?うちは3人くらいそっちへやっても問題ねえから。ま、うまく使ってやってくれや」

 

龍田の耳にも怒った様子の三条提督の声が聞こえてくる。刈谷提督が喋れば喋るほど三条提督の声量も上がっていく。

 

「不知火?ああ、せっかくいいとこまで進撃してたのに大破しやがってムカついてさ。これで4度目だからもういらねえって。そっちでも大破連発するかもな。押し付けちまったけどまあこっちゃあいらねえから」

 

そう言った瞬間龍田にも聞こえるくらいの声で「ふざけんじゃねえ!!」という声が聞こえた。

 

「あー、緊急の連絡きたから切るわ。じゃあな」

 

そう言ってゆっくりと受話器を置いた。ははは、と置いてから笑っていた。

 

「怒られちまった」

「当たり前でしょ〜?」

 

ゆっくり受話器を置くときは信頼している人という証拠。あー、めんどくせえと呟いているが全然そんな顔はしていない。むしろ、これから横須賀へ行った漣、山城、そして不知火の未来を案じているような顔に思えた。ほんと、素直じゃない人。私がいなきゃダメね…と龍田はにっこり笑っていた。

 




鹿屋基地、刈谷提督再び。
1番の問題提督のもとから送り出された漣、山城、そして不知火は横須賀鎮守府へ行くことになりました。横須賀鎮守府、玲司視点で次回はお送りします。

問題があるのか、ないのか…漣、山城、不知火は横須賀で何が待っているんでしょうか。次回をお待ち下さい。

それでは、また。

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