わたしが笑っていればみんな笑ってくれる。
わたしが笑っていれば怒らない。
わたしが笑っていればみんな幸せ。
だから、笑っていれば幸せなんだ。
なんて言うと怒った?死ねばいいのに。
潮や古鷹、イムヤにゴーヤ。そして祥鳳。いまだにもう少ししたら帰る詐欺を繰り返す赤城や川内。そして新しい仲間になった島風。龍驤のおかげでメキメキと彼女たちは成長していた。北方海域の深海棲艦を殲滅した評価が認められ、幾ばくかの資材をもらいようやく玲司率いる横須賀鎮守府はなんとか運営の軌道に乗ったと言えよう。
入ったそばからすぐ大型建造をしようとする妖精さんとのするしないの攻防に時間を割いてしまった。なぜか妖精さんのボスに認定されている大淀がダメと言ったので、泣きながら妖精さんは我慢した。ただし、鎮守府維持の頑張りを評価されてもらった金平糖で大喜びの大歓声に変わったとか。
そうして、平和が訪れた横須賀鎮守府に静かに嵐がやって来ようとしていた…。
梅雨に入り、ジメジメと鬱陶しい季節。出撃では気にならないが休みの日は外で遊べない、ジメジメ蒸し暑いなど嫌なことが多い。とりあえず各部屋に扇風機を置くことで難を逃れているが、暑いものは暑いのだ。一騒動が起きた時も、そんな蒸し暑く、鬱陶しい日だった。
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「玲司君、軍関係の護送車がもうすぐ到着するって連絡があったけど…何かそんな話聞いてる?」
明石が工廠からやってきてそう告げる。玲司もその話を聞いて首を傾げる。おやっさんが来るとも、一宮提督や九重提督が来るなんて話も聞いていない。いや、ちょっと待て。
「知らない。それより護送車ってどう言うことだ?」
「うーん、なんて言ったらいいのかなぁ…言いにくいんだけど、本来なら、鎮守府で問題を起こして大本営に艦娘を輸送するときに使うんだよね。そこじゃ解体するのが難しいとか、再教育を施したり…どこか別の鎮守府に拾ってもらうためにとか…」
「なんだそりゃ…あんまりいい印象がないってことな」
「うん…まあ、よくはない…かな。でも、どうして大本営じゃなくて横須賀に来るんだろう…」
「わからん…もしかして…朝潮達みたいな子が送られてきたってことか…?」
「とりあえず、門を開けて入れるようにしておこっか。じゃあ工廠に戻るね」
「ってかなんで明石がその連絡を受けもっとんねん」
「ああ、直通じゃない電話は明石が受け持ってくれてるんだ。守衛とかそんなのいないし、妖精さんじゃ言葉通じないからな、普通の人は」
「ああ、玲司の負担減らしか…なんや、うちに内緒にしよって…」
「姉ちゃん電話したらうるせえんだもん。無駄話多そうだし」
「なんやとコラ!うちをおしゃべり好きな大阪のおばちゃんみたいに!!」
「ぐええええ!姉ちゃん首入ってる!」
緊張感のない執務室。龍驤と玲司の漫才で和やかな雰囲気であったが、それもここまで。
………
鳥海と共にやってきた艦娘。何というか対照的であった。
「はじめまして!漣と申します!紙はありますか?こう書いて漣と読みます!ご主人様、皆さん、よろしくお願いしまーす!」
「戦艦…山城…です。よろしくお願いします………はぁ…」
異常なまでに明るくテンションの高い駆逐艦「漣」と何かどん底にいる戦艦「山城」…山城はともかく漣は異常がないようにも見える。が、何かが引っかかる。わからないが引っかかる。それよりもまずは目に見えてヤバい山城が先決か。漣は今から手をつけるとおそらく壊れるか…殺されそうな気がした。荒潮のように怯えているが助けを求めていると言う感じでも、雪風のように壊れかかっている状況にも見えない。ただ、心の奥深くで今触れるとこちらの身の危険を告げているのだ。原因がわかってからでなくては触れられない。
「ああ、よろしくな、漣。山城。ところで、お前達はどこから?」
「え?連絡来てないんですか?さすがご主人様、いい加減ですねー。漣ちゃんと山城さんは鹿屋基地にいました!その前はタウイタウイです!」
鹿屋基地…?鹿屋基地と言えばあの刈谷提督のところか…。いい噂は聞かない。噂話だけを鵜呑みにしたくはないが。タウイタウイは今大府中将が仕切っていたはず。こちらはいわゆる「艦娘軽視派」だ。勝つためなら時に轟沈も厭わない。弱い艦娘は解体か改修に回される。人間の勝利のためなら艦娘の犠牲などやむなし、そんな勝利は勝利と認めない古井司令長官や虎瀬とは反発しているが、その争いは艦娘が顕現してから今までの間、多くの人間とで未だに言い争われている。
玲司はおやっさんや陸奥達姉妹のこともあるのでもちろん艦娘は使い捨てでも駒でもない。言えばそれだけでめんどくさいことになる。姉妹はおやっさんや虎瀬のおじさんがいるから心配していないし、世界を救う勇者のように全ての艦娘は救えないと悔しいがショートランドの一件や、横須賀の艦娘達のことで精一杯なので関われるのは横須賀の子達だけと決め込んでいる。救えるのなら手は差し伸べるが。
漣と山城。刈谷提督に話を聞いた方がいいかと2人を目の前にして腕を組んで考えていると、遠征から帰ってきたであろう名取が慌てた様子で帰ってきた。
「し、司令官さん!その!えっと、あのですね!」
「名取、お疲れ。ちょっと落ち着け。どうした?」
「は、はい!はれ!?新しい子がここにも!?」
「ここにもってどう言うことだ?」
「そ、それが、鎮守府近海でボロボロになった駆逐艦「不知火」さんを見つけて保護したんです!」
「しら…ぬい?ぬい!?まさか!!ねえ!ぬいは!?ぬいぬいはどこ!?どこにいるの!?」
名取の胸倉を思い切り掴み、すごい形相で迫る。漣が何を必死になっているかはわからないが、名取がまずい。
「漣、落ち着け!」
「どこにいるの!?放ってきたとか、雷撃処分したとかいったらぶっ殺してやる!!どこ!?早く教えろ!!」
「ここだよ。殺すだなんて穏やかじゃないね。あと、名取さんの手を離してもらえないかな」
時雨が本当にボロボロの不知火を連れてきた。肩を貸し、よろよろとしているが、意識はしっかりしているようだ。艤装を外すと、疲労困憊と、足の傷が痛々しい。随分と長い間、無理をして海をさまよっていたのか…?時雨は名取に掴みかかっている漣を睨みつけている。彼女の澄んだ青い目は、強い力がある。嘘を見破ったり、隠し事も見透かしてみたり。やましいことがあると逸らしてしまいたくなるほど、綺麗な青い瞳。じっと、見つめ続けると「チッ」と舌打ちしながら名取の襟を離す。
「あー、すいませーん!思わずカッとなっちゃいましてー…あははは…ごめんなさい…」
「ゴホッ…びっくりしましたぁ…えっと…」
「鹿屋基地所属、駆逐艦「不知火」、司令の命により横須賀鎮守府へ参りました。今後、司令を新たな司令と認識します。司令、司令のお名前をお伺いするご許可を」
「そんなもんに許可はいらない。俺は三条 玲司。ここの司令だ。して、不知火に何点か聞きたいことがある」
「三条 玲司様。今後は三条司令を私の司令とし、ご命令に従います。はい。何をお話しいたしましょうか」
その場にいた玲司、名取、時雨。大淀もソファーで寝そべっていた龍驤でさえ起き上がり、不知火の異常を感じ取った。陽炎型駆逐艦「不知火」。陽炎型の中でも「クソ真面目」と常々思うほどのお堅い性格と真面目さぶり。冗談は通じないし感情がなさすぎるのと、低く抑揚のない声から、冷たい印象を受けるが、意外とおっちょこちょいだったり、フッと笑って見せたりとかわいげがあるのが不知火である。
この不知火もご多分に洩れず堅いのだが、話し方がおかしい。堅いにしても堅すぎる。まるで…機械としゃべっているかのよう。
「司令。不知火に聞きたいことがあるのでは」
「あ、ああ…鹿屋基地から来たわけではなさそうだ。どこからやってきた?出撃の最中だったのか?」
「はい。西方海域、カレー洋海域において深海棲艦を発見。殲滅せよとの指令があり、旗艦軽巡「能代」以下不知火を含め6名で出撃。主力艦隊目前に重巡「リ級 flagship」の砲撃が命中。大破。能代艦隊は刈谷提督の命により撤退。その際、刈谷提督に不知火は鹿屋には不要と判断を下され、能代たちと共にここへ不知火を引き渡すため参りました。他に何か?」
「は?」
「繰り返します。西方海域、カレー洋海域において「オーケー、その話は理解した。名取、能代達はどうした?」
「は、はい。皆さん、お疲れだったのと損傷が見られた方もおられたので…入渠と明石さんに整備をお願いしたのですが…いけませんでしたか?」
「いや、名取の判断は正しい。ありがとう。ああ、すまん。能代がドックから出たら執務室に来てもらうよう頼めるか?あと、不知火をドックへ。このままでは辛いだろう」
「不知火はまだ戦えます。司令、出撃命令を。不知火は三条司令の名の下、この身が朽ちるまで司令の命に従います。司令、ご命令を。何なりとご命令ください」
「………不知火、今のお前は出撃すれば命に関わる。まずは傷を癒せ。今お前に出せる出撃命令はない」
「かしこまりました。では、司令のご命令に従い、入渠いたします」
「ぬ、ぬいぬい!」
漣の呼びかけに応えることなく、不知火は名取に連れられてドックへと向かっていった。玲司の言葉以外は耳に入ってないない様子である。鹿屋基地、何かある。それよりも不知火の報告を頭の中でもう一度一言一句違わず再生する。不知火は鹿屋には不要。不要。その言葉が傷が入って同じところを再生するレコードのように頭で何度も繰り返す。いらないから捨てる。そう捉えた。湧き上がる怒りを抑えつつ、つとめて冷静に大淀に指示を出す。
「大淀。潮と扶桑を呼んでくれるか。とりあえず、ゆっくりできる部屋を用意しよう。頼む」
「は、はい…」
山城が扶桑の名前を聞くや、ビクッと反応した。これまで名を名乗ってから一言も発さず、下を向いていた山城。山城は扶桑に依存する傾向がある。だからこそ扶桑を呼んだのだ。漣には同じ「第7駆逐隊」の潮を。その方がメリットが多いだろう。大淀が内線で伝えている。しばらくして、2人がやってきた。扶桑の顔を見るや、山城が顔を上げた。
「ねえさま…ねえ…さま?」
「山城?山城なのね?ああ、ようこそ。横須賀鎮守府へ。時雨や満潮、最上もいるわ。一緒に頑張りましょうね」
「ねえさま…ねえさまあああああ!!!」
「あらあら…どうしたの?よしよし。お姉ちゃんがいますからね」
突然泣き出した。何かをずっと我慢していたのだろう。ずっと辛い何かを我慢していたのだろう。そうして、初対面であるが、優しい扶桑の声に安心して泣き出したのか。では、一体山城鹿屋基地で何をされていたんだろうか?
「山城さんは鹿屋より前から役に立たないーとか暗いーって言われていたんですよー。で、刈谷提督にも陰気臭いからでてけって言われちゃったんです。あ、漣ちゃんはうるさいからって言うところですかねー」
宿毛湾の提督のように、鬱陶しいから、いらないから売ったと言うのと一緒のようだった。暗い、うるさい。大破したからいらない。冗談じゃない。艦娘はペットじゃないんだぞ。怒りがグツグツと沸き立ってきた。
「と、とりあえず扶桑、潮。山城と漣を寮へ。ゆっくりさせてやってくれ」
「わかりました。じゃあ、漣ちゃん、いこっか」
「さあ、山城。私のお部屋に行きましょうね。今日からは一緒よ」
山城と漣は退室。龍驤が心配そうな顔で見ている。それよりも聞きたかった。異動の話は聞いていないし、不知火に関しては常軌を逸している。怒りを抑えて鹿屋基地の連絡先を見て電話をかける。
「は〜い、鹿屋基地でーす」
真面目な話をしようと構えていたのに気が抜ける。今はそんな間の抜けた声でさえ苛立たしい。なんだこいつは。
「横須賀鎮守府の三条准将ですが…刈谷提督は今いらっしゃいますか?」
「うふふ、三条提督ですね〜。はぁい、お待ち下さいね〜」
相変わらず間延びした声。艦娘だろう。しかし…どこか冷たい印象の声だった。保留のメロディが切れる。
「はい?」
人の神経を逆撫でするかのような声だった。その一言に抑えていた怒りが一気に吹き出す。
「三条准将ですが、あなたのところの艦娘が3人、なんの通達もなしにきたのですが。一体どう言うことですか?特に不知火。あれは一体どういう事なのか説明してください」
「ああ、お前んとこ艦娘少ねえんだろ?うちは3人くらいそっちへやっても問題ねえから。ま、うまく使ってくれや」
「説明になっていません。確かにうちは艦娘が横須賀ではまずいくらい不足していますが、だからと言ってうるさいだの暗いからいらないって言うのは理由にはなりません」
「お堅いな。うちの艦隊の士気に関わんだよ。うるせえのはいいけど、山城みたいにあれだけどんよりされちゃあな。うちは困らねえからそっちで面倒見てくれ。お前そう言うケア得意なんだろ?」
「得意とかそんなんじゃないんじゃないですかね。飼えなくなったから誰か飼ってくださいみたいに!どうにも様子がおかしいし!特に不知火!あの子に一体何言ったんですか!」
「不知火?ああ、せっかくいいとこまで進撃してたのに大破しやがってムカついてさ。これで4度目だからもういらねえって。そっちでも大破連発するかもな。押し付けちまったけどまあこっちゃあいらねえから」
「ふざけんじゃねえええええ!!」
あまりの声量に大淀は積み上げた書類を崩し、龍驤が驚愕の表情を浮かべた。宿毛湾の提督に怒鳴りつけた時よりもさらに怒っていた。怒り方が半端ではない。安久野から翔鶴を守る時のように、激怒している。玲司が静かに怒る。激情に駆られるのは艦娘を侮辱した、蔑ろにしたとき。最近では宿毛湾の提督に対して朝潮達にしたこと。あの時もこんな感じで激怒していた。
さらには倒れた時。まずい。このままではまたおかしくなってしまう。
「艦娘をなんだと思ってるんだ!!明らかに不知火の様子がおかしいだろうが!!!そんなんで大破すんのは当然だ!!あんたほんとに提督かよ!!!」
「提督だよ。鹿屋基地の。じゃあテメエはどこの誰に電話してんだ。馬鹿か?様子がおかしいから大破するなんざこっちも把握してんだ。それでも命令命令うるせえ。出撃させねえと舌噛み切ろうとして面倒なんだよ。お前、宿毛湾のバカんとこから引き取ったやつ何とかしたんだろ?適任じゃねえか。その落ち度さんも何とかしてくれよ。何とかしたからって返さなくていいからよ」
「誰が返すか!!不知火はもううちの艦娘だ!あんたみたいな奴に返してたまるか!!」
「おーこわ。ま、それでいい。ま、よろしく頼むわ。じゃ」
「おい待て!話はまだ終わってねえぞ!」
「あー、緊急の連絡きたから切るわ。じゃあな」
一方的にそう言って電話を切られてしまった。
「おい待ちやがれ!おい!くそ!切りやがった!もう一回!」
「ストーップ、玲司ストップ。今日はそこまでや」
「ああ!?何言ってんだ!ふざけんじゃねえぞあいつ!!」
「待ち待ち。まず上官にそんな言葉遣いあかん。大淀も怖がっとる」
「そんなことより不知火達のこと!」
「わかったから黙れ言うとんねん!!」
「…………!」
「刈谷提督に何言うても無駄や。あの人のことをウダウダ言うよりここに来た艦娘のこと考えろ!それから大淀が怖がっとるって言うたのんをそんなこと言うたな。自分とこの艦娘のこと考えるよりよその司令官怒鳴りつけることのほうがそないに重要か!そんなんで艦娘は家族やなんて2度と語るな!」
「龍驤さん、お、落ち着いて…」
「
小さな体で玲司に掴みかかる龍驤。その気迫は怒り狂った玲司を黙らせるには十分だった。間違ったことを玲司がしたり言ったりしたときの龍驤の怒りは凄まじいものだった。極論だが、龍驤の怒りはもっともである。頭に血が上りすぎて暴走しそうな玲司を止める龍驤の怒り。玲司が間違ったことを正す。それもまた、龍驤が横須賀にやってきた理由の一つ。艦娘が人間に何かされた、何かあったとなると熱く、カッとなりやすい。ここの艦娘では止められない。陸奥か、龍驤かの仕事だ。
「横須賀の子らの面倒見れるんはお前しかおらんねん。その自覚あるんか?心を開いてくれた荒潮や朝潮達。解体しか道がなかったとこを救われた時雨、村雨。それに感謝してる夕立。お前に懐いとる雪風は?皐月に文月、雪風!お前を好いとる翔鶴!お前がこの子らのこと第一に考えんで誰が考えんねん!こんな問題ありありの艦娘ばっかおるとこ!お父ちゃんか!?虎瀬のおっさんか!?どうやねん!!!その蒼い目ん玉ひんむいてよう見てみろ!!ボケ!!」
「提督!また…!」
龍驤が投げつけてきた鏡を見ると、目が蒼くなっている。怒りで深海棲艦の血が濃くなってしまったようだ。めまいがする。大淀が顔を青くしている。まずった。
「今日は終いや。業務はお終い。お疲れさん。能代にはうちが説明しといたるさかい、お前は部屋で寝とれ。大淀、部屋連れてったら翔鶴呼んで看病させ。翔鶴やないとたぶん言うこと聞かへんでなこいつ。説教してもらうよう頼んどけや」
「は、はい…」
「姉…ちゃん…」
「うっさいわ。さっさと寝ろ。刈谷提督の言葉でカッとなっとるようじゃ、この先ここの子ら守るなんか無理や。その辺、よう考えてみい。お前が一番わかっとるやろ。いつまでもガキの気分でおるな。大淀。はよ連れてけ」
見たことのない龍驤の怒りっぷりに、大淀も心底怯えて退室した。部屋には龍驤1人。いや。
「あっちゃー姉さん、ブチギレちゃったか…」
「………うっさい」
「まあ、あのままだと兄さん、ますます頭に血が上ってたかな。追い出して正解じゃない。あれは兄さんが悪い」
「あいつはまっすぐすぎんねん。せやから、脆いねん。川内はわかるやろ」
「そりゃあね。あたしはそんなまっすぐな兄さんが好きだけど。でも、もうそれも無理かな。この先、刈谷提督よりさらに厄介な提督と揉めて、横須賀がピンチになったら終わりだよ。大和のことでどう兄さんを丸め込んで潰そうか躍起になってるよ、あちらさん」
「刈谷のおっさんはどっちかって言うと玲司を気に入っとる。まっすぐすぎて育てがいがある。そう言うとった。うちらの理想は玲司や一宮君のような、艦娘と共存してくれる司令官とやっていきたい。今みたいな艦娘を使い捨てみたいにする連中がトップなとこでやりたない」
「それはあたしも同じ。でも、兄さんも一宮提督もまっすぐだかんね」
「……強みであり、弱点であり。まっすぐなだけやと絡められてしまいや。玲司にはそう言うのも避けられる知識、やり方が必要や。うちらだけでは限界がある。自分と家族守るためには、自分が変わらなあかん。それをあのボケ、そんなことなんて言いおって…」
「まあまあ、実はあたしも辞令が出るんだって。横須賀に行かせるって。横須賀に注目が集まるよ。原初の艦娘が次々異動してるからね」
「お父ちゃん、動いたか。そうなると余計玲司は考えないかんようになる。うちら、ひいては大和。大きな武勲をあげた雪風や阿武隈。大淀…」
「ここの大淀をほしがってるとこがちらほらあるってさ。戦闘詳報見て抜群に頭がキレるってわかったみたい。狙われ出した。一宮提督のところの由良や日向、日進もだね」
「ケッ、苦労して育てた艦娘かっさらっていくいつもの手段かい。汚いのう、連中」
やだやだと悪態を吐く龍驤と川内。そんな中で妙な抑止力になっている刈谷提督。こちらとしては敵にも味方にもなる。軽視派のほうでは敵と見なされているらしく、うかつに情報を回せない、小細工が利かない油断ならない男と言う認識がされている。キス島の海図の細工をした犯人を捕まえていることは、瞬く間に軽視派に通達された。横須賀とも繋がりがあるのでは?と訝しんでいるため、横須賀に軽々しく手が出せないでいるのだ。
「あのおっさん、おもろいねんけどなぁ」
「えー、あたしは嫌味ったらしくて嫌い」
「まだまだやなぁ、川内。あのおっさんをおもしろいと思えたら、軽視派の連中が来てもうまいことかわせるで」
「姉さんの頭の回転、そういうとこヤバイからなぁ。高雄姉さんでも勝てないじゃん」
「高雄に悪知恵では負けへんて。ま、それよか…玲司にめっちゃ怒ってもうた…どないしよ…」
「まーたそうやっていじけるんだからなぁ…」
「うっさいねん!もう姉ちゃんなんか知らんわって言われたらどうしよ…うち死にそう…」
「はいはい。明日になったらケロッとしてるって」
「そんな軽う言える当事者やない人はええね…」
「うっわめんどくさ」
執務室での姉妹のそんなやりとりは能代が来るまで続いた。
/
「ここがお部屋だよ。たぶん不知火ちゃんもここになると思うな」
「へぇ、きれいな部屋だねー」
「うん。提督が艦娘がゆっくりできるようにって」
「ほえー、ご主人様っていい人なんだね」
「うん。とっても優しくていい人だよ。わたしここで建造してもらえてよかったなぁ」
「そっかぁ。じゃあちょっとぶっ殺すのやめるかぁ」
「えっ?」
その時の漣の濁った瞳に潮は腰を抜かしそうになった。ドロリとした瞳。背筋に氷でも突っ込まれた感覚。
「潮もさぁ、騙されてるんだよ。どうせ人間なんかみんなクソだからさぁ。あのクソ提督殺っちゃおうよ。捨てられる前にさぁ、あははは」
奥の見えない濁った瞳。そして、恐怖さえ感じる笑顔と声。潮はとうとう腰を抜かした。
それぞれがわけあり、やってきた3人。刈谷提督の思いを知らない玲司たち。龍驤とも険悪になってしまいました。そして、漣の危険な発想。横須賀鎮守府は刈谷提督と彼が送った艦娘たち。玲司は龍驤が言う成長できるのでしょうか?
次回をお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、また。